第15話石酔いのお客様

〈麻友の携帯が鳴る〉


麻友「羊里君だわ」


遊「出れば?」


麻友「もしもし」


羊里「風邪で、熱が有るんだよー。ゴホンゴホン」


麻友「それで?」


羊里「来てくれないか?」


麻友「どうして私が行かなくちゃいけないの?」


羊里「夏風邪は辛いんだよー、ゴホンゴホン。何にも食べられないよー」


麻友「しょうがないわね」


行くんだろうな。


放っとけない人だから…


【Lapisの売り場】


男性客「このブレスレット、他の店で買ったんだけど、何だかこれつけてから体の調子が悪い気がするんだよ。この近くのbarのママが「Lapisで聞いてみたら?」って言うから来たんだけど」


「少々お待ちください。オーナー、お願いします」


「はい」


春陽ちゃんから大体話しは聞いたぞ。


「お待たせ致しました。ちょっと見せて頂けますか?」


これはまた大きなラピスラズリだな。


「ヒーラーがパワースポットで気入れしたから凄く高かったんだ。それなのに石酔いしてさ、全くどうすりゃ良いんだよ」


石酔いって良く言うけど、本当に石がたくさん有る所に行って、エネルギーが強くて気分が悪くなる人も居るんだけど、体調不良の時とか、そんなふうに感じる事も有るんだよね。


「この店でも気入れとかするんだろ?」


「特にしませんよ」


「え?何でだ?この店にヒーラーは居ないのか?」


「私はヒーラーです。これは私の考えですが、ニュートラルな状態でお渡しした方が良いと思っているんです。他人のエネルギー、気を入れるのはできるだけ避けたいと思います」


「神様だぞ、神様の気を入れてもらったんだ」


神様ねえ…


これは、何て説明しようかな?


「私が思う神は、創造主、それは宇宙だと思うんです。キリストも釈迦も元は人間でした。空想の神もたくさん居ます。でも、全ては宇宙から生まれた。そして、私達は誰でも平等に宇宙のエネルギーを受け取れるのだと思います」


「ま、まあ、そう言われりゃ、神ってそんなもんかもな。いやな、これ買った店行って「気分が悪くなった」って言ったら「好転反応です」って言うんだよ。それで我慢してたんだけど、辛くてさ」


好転反応ね…


何だか怪しい健康器具みたいな言い方だな。


元々東洋医学の用語だけど、最近は健康食品や健康器具の副作用をごまかすセールストークでも有るらしいね。


石は、自然治癒力を高めるサポートをするんだ。


要するにあるべき姿に戻そうとする。


だから好転反応って言うのはどうなのかな?


僕は少し違う気がするけどね。


「エネルギーが合っていないようなら外して、少しずつ慣れた方が良いと思います」


「そうか?買った時からずっと、寝る時もつけっぱなしなんだけど、寝ると少し楽になるんだよな」


「眠ると人は波動が調整されるからでしょう」


「あれ?ここのラピスラズリ、ちょっと違うな。何か金みたいのが入ってるぞ」


「はい。ラピスラズリは「天空の破片」と言います。青い空に星が煌めいているような石ですね」


「綺麗だな…俺のはただ青いだけだ」


このお客様のラピス、高価なのは見てわかる。


僕なら仕入れないけどね。


「何か俺、このブレス嫌になって来た」


「せっかく縁が有って手に入れた石ですから、少しずつ仲良くなってみてはいかがでしょうか?」


「仲良く?相手は石だぜ」


「鉱物も植物と同じで、可愛がれば応えてくれます」


「植物と同じか、何と無くわかるよ。じゃあどうしたら良いんだ?まあ、ちょっと外すか」


「まずは浄化する事をお勧めします。ラピスラズリは水に溶けやすいので流水の浄化は避けてください。塩もいけません」


「じゃあ、汗もダメだな。買った店の人は何も教えてくれなかったぞ」


「日光浴も、あまり有効とは言えません」


「じゃあ、どうすりゃ良いんだよ?」


「水晶、月光浴、セージなどの煙、音叉による浄化は大丈夫です」


「じゃあ、それ、今そいつ乗せてるそれ買って行く」


お客様がブレスを外して置かれたので、クラスターの上に置いておいたんだ。


「あれ?何かさっきより光ってないか?」


「浄化するとピカピカになるんですよ」


「どのぐらいの時間すれば良いんだ?」


「普通1日~3日ぐらいです」


「わかったよ、そいつは3日浄化する」


まあ、その方が良いだろうね。


しっかり浄化して、ニュートラルな状態に戻した方が良いね。


お客様は、先程より良い表情になって帰られた。


ラピスラズリは、総合的に素晴らしい石だから、仲良く出来ると良いね。


仲良く出来れば+のエネルギーを与えてくれるけど、そうでなければ-に作用する事が有るらしいからね。


「こんな事言ったらあれですけどぉ、持ち主を選ぶ石って有りますよねぇ」


「ガーネットみたいに、良い意味で気難しい石も有るわね」


「石の暗示と持ち主の気持ちが合わなければ、割れてしまったり、エネルギーを無くしたりする場合も有るのよね」


「うん。私利私欲や、他人に攻撃的だったり、不貞や不誠実を嫌う石は多いよね。だからそういう人のサポートはしてくれない」


「何か、神頼み的に考えてる人居るけどぉ、神様だって自分勝手な願い事は聞いてくれませんからぁ」


「石は、願い事を叶えてくれる魔法使いじゃないのよ。いつもオーナーが言ってるわよね?」


「はいーっ、そうですぅ」


「願い事を叶えるのは自分自身。石はそのサポートをしてくれるの」


「健康になったり、やる気になったり、閃いたり、ですよね?」


「そうね」


春陽ちゃん先輩らしくなって来たな。


【羊里の部屋】


「お魚に餌あげた?」


「やってないよ。やれるわけないだろ」


「可哀想に。今あげますからね」


「俺の餌作りに来てくれたんじゃないのかよぉ」


「すぐにお粥を作ってあげるから、待って」


「麻友ぅ。一緒に暮らそう」


「何言ってるの。私達はもうとっくに別れてるのよ」


「じゃあ何で来たんだよ?」


「風邪ひいたって、死にそうな声出したのは誰?」


「俺だけどさ」


〈キッチンでお粥を作る麻友〉


「玉子入れるわよ」


「ああ」


【Lapisの工房】


麻友さん、羊里君の家に行ったのかな?


「お兄ちゃん、新しいホームページ出来た?」


「うん、昨日ね」


「あら、一番アクセスの多いページがお兄ちゃんのプロフィール」


「みたい…何でだぁ?」


オンラインショップのページより僕のプロフのアクセスが多いって…(汗)


出来れば実際に石達を見て、エネルギーを感じて買って頂きたいから、オンラインショップはやっていなかったんだ。


僕はのんびりな性格だから、ホームページもゆっくり作ってる。


ショップの商品も、まだ誰にでも扱いやすい石のアクセしか商品登録してないんだ。


【羊里の部屋】


「お粥出来たわよ」


「食べさせてくれるんだろ?」


「何言ってるの、自分で食べなさい」


そう言えば…


遊ちゃんが高校生の時、熱を出して、奥様が作ったお粥を私が食べさせた事が有ったわ。


「フフフ」


「何笑ってるんだよ?また昔みたいにこうして俺の世話をするのが嬉しいのか?」


「羊里君も、もういい加減に良い人見つけなさいね」


「ああ美味かった」


〈食器を下げようとする麻友の腕を掴む羊里〉


「麻友ぅ、そばに居てくれよ」


「もう帰るわ」


「寒気がするんだよ。温めてくれよ」


「離して」


〈麻友の腕を引っ張る羊里。ベッドの上の羊里に重なる麻友〉


「ちょっと、やめて。病人が何してるの?」


「お前を抱けば風邪なんか治るさ」


【駅前】


「(あら、天空路さん今帰りなのね。今日はドラッグストアに寄らないのかしら?)」


【駅】


〈ふと足を止める遊。少し考えて進路を変える。地下道を通って北口に向かう遊。公園通りを進む〉


【マンション前】


まだ居るのかな?


心配だから来ちゃったけど…


〈しばらくすると、麻友が出て来る〉


「あ…」


〈遊に気づき乱れた髪を気にする麻友〉


「どうして?」


「心配で…」


「心配って、羊里君の風邪?」


「……」


「もしかして、私の事?」


「……」


「あ…羊里君は、意外と元気よ。私はお粥を作っただけ」


「それだけ?」


「え?」


「……」


「なあに?その顔は。彼が強引に私をベッドに押し倒すから、逃げて来たの」


「本当に…大丈夫?」


「今更彼とどうにかなるわけないわ」


「……」


「……」


「送って行くよ」


【帰り道】


「(la merに居た頃、遅くなるといつも送ってくれたわね「送る」とも言わずに黙ってただついて来てた)」


「……」


「Lapisちゃんが待ってるでしょう?良いの?」


「うん」


「(羊里君と何も無かったって、信じてくれたかしら?余計な事は言わない聞かないって人なのよね、遊ちゃんは。昔からそう)」


【麻友のマンション前】


「じゃあね」


〈くるっと向きを変えて行こうとする遊〉


「あ…ありがとう」


〈背中を向けたまま手を挙げて答える遊〉


「(行っちゃったわ…誤解…されてるのかしら?羊里君との事…ううん。遊ちゃんは素直な子だから、私の言葉を信じてくれてるわね、きっと)」


【天空路家】


「ニャ、ニャー(パパちゃんお帰りなさい。早く抱っこ)」


〈いつものように遊の肩に飛び乗るLapis〉


「(お腹空いたわ。早く早く)」


「良い子にしてたか?Lapisが一番大事だよ」


「(好き好き。パパちゃんだーい好き)」


【リビング】


〈窓の外を見るLapis〉


「ニャ、ニャ」


「ミュー、ミュー」


「あ、チビちゃん来たな」


〈窓の外にカリカリを置く〉


この頃逃げなくなったけど、警戒心が強くて中々捕まらない。


野良猫として生きて行くなら、そのぐらいの方が良いんだけどね。


出来れは小さいうちに保護して、里親を探してやりたいんだよな。


「ニャー(美味しい?)」


「ウニャ、ウニャ(美味ちい)」


さて、僕も夕食にしようか。


【キッチン】


〈冷蔵庫を開ける〉


「あれ…?」


〈冷蔵庫から料理を出してテーブルに並べる遊。メモを見つける〉


「温めて食べてね」だって…春陽ちゃんだな。


冷たくても美味しそうだぞ。


そのまま食べよう。


こんな暑い日は、熱いのは食べたくないもんな。


美味しい。

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