第7話イケメン羊里の意外な過去

「lapisおいで~抱っこちて寝んねちて~ちゃみちーから」


「(まだ寝ないもーん)」


「ラピちゃ~ん、お・い・で~」


「(まだ眠くないわ)」


「寝んねしゅるよ~おいで~パパちゃんちゃみちーでしゅ」


「(もう、しょうがないわね。行ってあげるわよ)」


〈ベッドに飛び乗り、遊の上を縦断するlapis。布団の中に入り、人間みたいに枕して寝る〉


「良い子だね」


僕は寝ないと病気になっちゃうから、遅くても11時半には寝るんだ。


お休みlapis。


チュッ。


【la merの厨房】


〈羊里猛利が賄いを食べている〉


ああ、ここの賄いは本当に旨い。


ここに勤めて、もう10年になる。


あの日オーナーの家に行かなければ…


遊ちゃんが居なかったら、俺は今頃どうなってたんだろう…?


あれは、俺が田舎から出て来て3年目の秋の事だった…


【町】


〈10年前〉


勤めていた会社が倒産した。


僅かな貯金で食い繋ぎ、仕事を探していたけど、遂にライフラインも止められた。


「田舎…帰ろうかな…」


あ…腹減った。


〈フラフラと町を歩く羊里〉


【住宅街】


旨そうな柿がなってるな。


田舎の家の柿の木を思い出すな。


あれ、食べたいな…


気がつくと、俺は塀の上に登っていた。


一個ぐらい貰っても良いよな。


〈柿の実に手を伸ばす羊里〉


もう少しだ…もう少しで届くぞ。


「ワウ!ワウ!」


「うわっ」


ドスーーーン!


「ワウ!ワウ!ウウゥー」


「わっ、わっ、わっ」


デッカい犬だ。


秋田犬か。


「テツ、どうしたの?」


やばい、家の人が出て来た。


「ウゥー、ウゥー」


〈柿の実を1つ握り締めて、秋田犬のテツに追い詰められている羊里〉


「誰か居るの?」


「ワウ!ワウ!ウゥー」


「す、すみません!」


「ウゥー、ウゥー」



「すみません、柿の実を1つ貰いたくて、それで塀に登ったら犬に吠えられて」


もうダメだ。


警察に通報される…


「大丈夫?」


「へ?」


「塀から落ちたの?怪我は無い?」


「いや…え?…」


通報しないのか?


「遊、どうした?」


「テツが吠えてたけど…」


も、もうダメだ、今度こそダメだ。


家の人達が出て来た。


グ~~~


あ、お腹が…


「ご飯食べる?」


「えっ?」


「柿は、後であげるから。ねっ」(ニコニコ)


何言ってるんだ…この子…?


「お母さん、ご飯有るよね?」


「有るわよ」


「この人と夜食食べるから」


え?


【和室】


「怪我はしてないみたいだね」


警察に通報したのかな?


「たくさん有るから、いくらでも食べなさい」


「食べよう」


グ~~~


ま、まあ、警察が来る迄食べるか。


ガツガツ。


旨い。


ガツガツガツ。


くー、何だか泣けて来るな。


「遊ちゃん、パパが柿の実取ってくれたわよ」


「はい、柿」


「え?こんなにたくさん?」


「今年はたくさんなったね。鳥が食べに来るんだよ」(ニコニコ)


「そうね、今年多ければ、来年は少ないでしょうね。柿は2年続けて豊作にはならないからね」


〈微笑む遊の母比呂〉


「すみません、俺…」


「はーい、お茶どうぞ」


何だごれ?


紅茶か?良い臭いがするけど…


「随分薄い色だな」


「ダージリンだから色は薄いね。ゴールドやバラ色のも有るよね」(ニコニコ)


しっかし、何でこの親子はニコニコしてるんだろう?


俺、柿ドロボーだよ。


いつまでたっても警察は来ないし。



「もう遅いから、家の人心配するんじゃない?」


「え?いや…実は…」


そして、俺は全てを話した。


明日アパートを追い出される事も。


「パパ。la merのスタッフまだ募集してた?」


「ああ、あと1人な」


「レストランで働いてみない?賄い付きだよ」


「賄い付き?」


「うん。美味しいよ」


賄い付きか…


「って、俺柿ドロボーだからっ」


「柿は持って帰って食べてよ。あ、明日アパート出ないといけないのか。お母さん!」


「なあに?」


「この人、部屋が見つかるまでうちに泊めてあげて」


え?


何言ってるんだ?


わっ、犬が来た。


外の秋田犬ほど怖くないけど…


コリーみたいな犬だけど、銀色の毛だ。


何だ?


小ちゃい方の犬が膝の上に来たぞ。


俺、犬はあんまり…


何懐いてるんだよ。


これ、シーズー犬だよな。


そのぐら俺だって知ってるぞ。


「明日面接するって。どうする?」


「え?あ、面接?受けます受けます」


何だかわかんないけど、賄い付きだろ?


【la merの厨房】


〈現在〉


そして、面接を受けて雇ってもらったんだ。


遊ちゃん、俺が柿ドロボーした事、一言も咎めなかった。


オーナーと奥様にも黙っていてくれて…


いや…知ってたのかな?


お2人も…


しっかし、あの家の人は皆んなおかしいだろ?


見ず知らずの俺にご飯を食べさせて、家に泊めて…


誰にでもあれじゃあ、危なくて仕方ない。


まあ、もしもの時は、俺が命懸けでお守りしましょう。


前の会社では、ガードマンしてたからな。


麻友が遊ちゃんの店に行っちゃったのは寂しいけど、仕方ないよな。


【天空路家の寝室】


もう、パパちゃん起きて。


お腹空いた。


〈遊の顔をペロペロ舐めるlapis〉


「ニャー(早く早く)」


「lapisおはよう」


チュッ、チュッ。


「もう、lapis、可愛い可愛いlapis。ちゅきちゅきは?」


「(しょうがないな。好き好きしてあげるわ)」


〈遊の鼻に自分の鼻を擦り擦りするlapis〉



【天然石ショップlapis】


〈麻友の携帯の通知音が鳴る〉


メール…


また羊里君だわ。


メール「今度の休みデートしよう(^O^☆♪」


ですって…もう、何言ってるのよ。


ですって…もう、何言ってるのよ。


返信「今度の定休日は、オーナーと一緒に仕入れに行くからダメよ」


メール「何だよ、せっかく麻友と同じ日に休み入れてるのに(´・ ・`)」


【電車の中】


遊ちゃんて、電車の一番前に乗るのが好きなのよね。


昔から変わってないわね。


1つ年下なだけなのに、本当に子供みたいなの。


キラキラした瞳で、運転士さんを見てる。


前に「どうして一番前に乗るの?」って聞いたら「自分で運転してるみたいだから」って。


ここから、正面の景色を見るのが好きなのよね。


「麻友さん、何嬉しそうな顔してるの?」


「だって、夢中で運転席を見てるんだもの。可愛いな、って思って」


可愛いって…(汗)


相変わらず子供扱いされてるよな、僕。


【問屋街】


さて、今日も回るぞ。


同じ石でも産地によって違うし、同じ店でも、その時によって違ったりするんだ。


この石はこの店、っていうのも有るしね。


買うつもりでリストアップして来ても、良いのが見つからなかったり、予定外でリストに無い石と巡り会ったりする。


石の精霊に呼ばれるんだよね。


「連れて帰って」って。


僕は石の精霊って言うけど、エネルギーね。


エネルギーが同調するんだ。


有れば必ず買うのは、mixタイガーアイだな。


買う店は決まってる。


他の店では見た事無いしね。


イエロータイガーアイと、ブルータイガーアイがmixになっていて、微妙にブルーグリーンの所が有るんだ。


だから、普通のイエロータイガーアイのエネルギーは、第2、第3、第7チャクラ対応。


ブルータイガーアイは、第2、第5、第6チャクラ対応。


mixだと、その両方で、第2、第3、第5、第6、第7チャクラ。


グリーンの部分も有るから、第4チャクラも有ると思う。



需要が多いのは、水晶、ローズクオーツ、アメジスト、アベンチュリンなど、誰にでも使える石だね。


トルマリンとアマゾナイトも買ったし、ラピスラズリの良いのも有って良かったな。


【la mer】


「lapisちゃんどうしてるかしら?」


「春陽ちゃんが見ててくれてるよ」


「春陽ちゃんだけには懐いてるのよね。悔しいわ。早く私にも懐いてほしいな」


「お待たせしました」


「ありがとう」


「麻友、俺の誘い断って遊ちゃんとデート?」


「違うよ。石の仕入れに一緒に行ってもらっただけだよ」


「その後はデートね、フフフ」


あんな事言ってるけど、からかってるだけなんだよな。


僕は麻友さんみたいな人タイプなんだけど、いつも子供扱いされてるんだ。


「遊ちゃん、復縁の石ってある?」


「有るよ。オブシディアンは、再燃もするし悪縁も断つね。慣れない人には扱いにくい石だけどね」


「悪縁を断つのに必要なのは私ね」


「悪縁て俺の事?そりゃ無いだろ」


「羊里君、早く仕事に戻りなさい」


「へいへい」


【天空路家】


「lapis。お兄ちゃん遅いね」


「ニャー(春陽ちゃん遊ぼう)」


〈lapisは、猫じゃらしを持って来て春陽の前に置く〉


「これで遊びたいの?」


「(遊ぼう、遊ぼう)」


「lapisちゃんの名前はね、ラテン語で石なのよ。お兄ちゃんがそう言ってたの」


〈猫じゃらしに飛びつくlapis〉


「lapis lazuliは、和名は瑠璃よ。だからlapisは瑠璃ちゃんね」


お兄ちゃん早く帰って来ないかしら?


今度は、私も仕入れについて行きたいな。


「ねえlapis。お兄ちゃん…麻友さんの事好きなのかな?」


「ニャー(春陽ちゃんどうしたの?)」


「lapis、私ね…私…」


「(あ、パパちゃん帰って来た)」


〈玄関に走るlapis〉


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