第6話ファレノプシス・セレベンシス

【天然石ショップlapis前】


「ここのお店?」


「うん。じゃあね」


って、離してよ。


「一緒に行って」


「えっ?だって、別れた彼だから」


いやよ、離せーーっ。


「わかってるけど、彼、素子のお店にも来るんでしょう?」


「まあ、平気な顔して来るけどね」


「だったら良いじゃない。お願い」


ん、もう、どうしてこうなるのよ。


「予約してないから、どうなるかわかんないよ。天空路が居て、セッションが入ってなかったら頼んであげる」


【天然石ショップlapis】


「いらっしゃいませ」


「オーナー居ますか?」


「はい、おります。少々お待ちください」


ああ、何やってるんだろう私…


「いらっしゃいませ」


「あ、遊ちゃん。友達がタロットやってもらいたいんだって。今出来る?」


「大丈夫だよ。こちらへどうぞ」


【セッションルーム】


素子ちゃんのお友達の、雅古都さん。


部屋に入るなり、機関銃の如く喋り始めだぞ。


「申し訳ありません。色々お聞きしてからでは、雑念が入るといけませんので、まずカードを引いて頂きたいのですが」


「あ、そうなの?ごめんなさい。いつも占い師さんの所へ行くと、悩みを喋りまくるから、ついね」


お名前と、呉服屋さんのお嬢さんで、ご主人は婿養子だという話し迄で、なんとかカードを引いて頂くところ迄辿り着けたぞ。


「占い師さんて、勿論素晴らしい人も居ると思うけど、色々話しを聞き出して、適当な事言ってる人も居るわよねー」


「私、いつも喋りまくるからダメなのかな?」


カードを切って、裏向きに横に広げた。


「それでは、直感で3枚引いて下さい」


1枚目のカードは、カップの4。


次は…


「嫌だ、吊られた男…」


最後のカードは、ワンドのクイーン。


「これって、現在過去未来ですよね?」


「スリーカードですから、そうですね。でも、3枚のカードを繋げて考えてみましょうか」


今迄は、欲しい物が手に入らないとか、身動きが取れないような感じかな?


ワンドのクイーンが出てるから、諦めなければ願いが叶う。


誰か助けてくれる人も居そうだな。


「結婚して2年になるんだけど、子供が出来なくて…うちの呉服屋、代々女の子が婿養子をもらって継ぐから、周りから「女の子を産め」って、プレッシャーかけられてるんです」


「女の子産まれると良いですね。でもまあ、どっちと言うより、元気な子供を産むのが一番ですよね」


「そうなのよ!それなのに「女の子を産め」って言われるから、もし男の子だったらどうしよう?って考えちゃって」



「雅、それで今妊娠してるの?」


「中々出来ないのよ。男の人の前で言いにくいんだけど…生理不順で…」


「そっか…ねえ、遊ちゃん。子宝に恵まれる石って無いの?」


「有るよ」


「え?そんなの有るんですか?」


「マザーオブパールとか…女性特有の悩みや不妊には、ムーンストーンが良いかな?内分泌腺やリンパの流れを改善して、生理や出産の痛みを和らげて安産に導くと言われているんです」


「そっちの石は何?」


「子宮などの有る第1、第2チャクラに働きかける石は、この辺り。カーネリアン、レッドジャスパー、ガーネット」


「どれが良いのかな?」


「ガーネットは、お産の出血を軽減すると言われます」


デザインボードに並べてお見せする。


ムーンストーン×10


ガーネット×10


水晶(ボタン)×5


「地味な色だけど、よく見ると、キラキラしてるのね」


「ムーンストーンは、永遠の愛の象徴、ガーネットは、貞節と言う石の暗示が有ります」


「何か、ロマンチックなブレスね」


「ガーネットは、焼きもち妬きな石でも有ります。一途な人の願いは聞いてくれますが、八方美人の人の願いは、聞いてくれません。自らエネルギーを無くし、死んでしまう事が有るんです」


「石が死ぬの?」


「気にしない、気にしない。この人石を生き物みたいに言うから」


「どうしよう?」


「こちらは、マザーオブパールとカーネリアンです」


「やっぱりこっちの方が好き」


「では、こちらでお作りしましょう」


雅古都様が選ばれたのは、ムーンストーンとガーネットのブレスだ。


「明日の夕方にはお渡し出来ると思いますよ」


ああ、この笑顔よ。


遊ちゃんのこの笑顔で癒されるのよねー。


ほら、雅も来た時と表情が違って柔らかくなった。


遊ちゃんの癒しの魔法よね。


癒しの魔法使い、って名前でブログ書いてるし。


殆ど石と猫の記事ばっかりだけどねー。


石オタクで親バカな内容のブログになってるわよ。


別れた今でも毎日それを見てる私って…



【天空路家】


ああ、お留守番嫌だな。


パパちゃん早く帰って来て。


お腹空いた。


でもパパちゃん居ないと嫌。


食べたくないの。


【ベッドルーム】


もう…寝て待ってよう。


〈ベッドの上に飛び乗って寝るlapis〉


【ドラッグストア】


最近大きい缶詰を食べなくなってきたな。


そろそろ小ちゃいのにするか。


それでも初めて買う時は、大量に買えないんだよな。


1個ずつ買ってみよう。


【駅前】


「こんばんは」


「こんばんは」


お花屋さん、今閉めたんだね。


「今日も、猫ちゃんが待ってるから真っ直ぐ?」


「うん、お腹空かせて待ってるからね」


「じゃあ、駅まで一緒に」


「そうだね」


素敵な人だと思う人が居るって言ってたけど…


誰かしら?


「あ、そうだ。ねえ、天空路さんの好きなお花って何?」


「あんまり咲き誇ってないのが好きかな。原種の蘭とかって興味有るね」


「私の実家花農家で、近所には蘭園が有るんですよ」


「へー花農家か。花に囲まれて育ったんだね」


「そうなの」


ああ、この笑顔よ。


ステキ。


咲き誇ってない方が好きか。


らしいわね。


「ローズマリーは、気まぐれに花を咲かせたりするんだって?」


「そうなのよ。季節はずれに咲いたりするの」


「何だか可愛いね」


【駅】


あ、もう駅に来ちゃったわ。


「じゃあね」


「またね」


うーん、もっと駅が遠ければ良いのに…


でも、お店は駅前の方が良いのよね。


仕方ないか。


【夜の町】


さて、lapis待ってるだろうな。


缶詰、食べてくれると良いけど。


【天空路家】


あ、パパちゃんだ。


早く早く!


「ニャー、ニャー(パパちゃんお帰りなさい)」


「ただいまlapis。良い子にちてた?」


「ニャー(良い子よ。今日は散らかさなかったんだから)」


「お腹空いたか?」


「ニャー(早くご飯ちょうだい)」


【天然石ショップlapis】


〈翌日〉


雅古都様が、出来上がったブレスを取りにいらした。


「ムーンストーンて可愛いね。ガーネットもキラキラしてる」


「私も何か作ってもらおうかな?」


「素子は、どんな願い?」


「うーん、何だろ?」


私も子供は欲しいわよねー。


遊ちゃんの事はさっさと忘れて、誰か見つける?



【bar】


「それで、素子も作ってもらったの?」


「雅に何の願い?って聞かれて、思いつかなかったんです」


「別れた彼の作ったパワーストーンで、恋愛祈願ていうのも変か」


「そうですよねー。美都先輩は、効果実感してます?」


「そう言われてみれば…何か眠れてる…あんまり気にしてなかったけど、眠れてるわよ」


「へー、効果出てるんですね」


「雅、子供出来ると良いわね」


私もお店順調だし、今度は恋愛祈願?


彼に作ってもらって?


原種の蘭の何か良いのでも探してみようかしら?


「ねえ、素子。天空路さんの好きな色ってわかる?」


「白ですよ」


そうなんだ。


じゃあ、白い花が良いかな?


【天然石ショップlapis】


「いらっしゃいませ」


「オーナーいらっしゃいます?」


「はい、少々お待ちください」


麻友さんに呼ばれて行ってみると、宴さんが来ていた。


「原種の蘭、プレゼントするわ」


「うわー、ありがとう。可愛いな」


「ファレノプシス・セレベンシス」


「胡蝶蘭?」


「良く知ってるわね」


「いやあ、花は良くわからないんだけど、父の好きな馬がファレノプシスと言う名前で「胡蝶蘭だよ」って言ってたからね」


「なるほどね」


lapisが齧るよな…きっと…


店に飾らせてもらおうかな?


でも、夜は誰も居なくなるから可哀想だね。


母の家に持って行こう。


「お礼に、ランチご馳走するよ」


「わあ嬉しい」


【レストランla mer】


電話したら席が空いていると言うので、la merに来た。


天気が良いので、テラス。


「初めて来たわ。ここ美味しいって美都が言ってた」


「食べられない物とか有る?」


「何でも大丈夫よ」


「良かった」


電話でシェフのお任せって、言っちゃったからな。



食事をしながら彼女は、蘭の育て方など、色々な話しを聞かせてくれた。


「インドネシア?」


「セレベス島が名前の由来ね。今のスラウェシ島」


「そうなんだね」


「咲き誇る花じゃない方が好き、って言ってたから、小さな花がたくさん咲くのにしたの」


「うん、そういうのが好き」


ここ、天空路さんのお父様のお店だって聞いたけど…


あ…


あの人がイケメンgarconの羊里さん?


美都の好きそうなタイプよね。


私は、天空路さんとこうやって2人で美味しい物を食べられるのが幸せだわ。


「デートみたいだね」(ニコニコ)


「みたい?」


もう「みたい」って何よ。


私は、そのつもりなのに。


ただのお花のお礼?


【天空路家】


「ニャーニャー(早く抱っこ)」


「良い子たんちてまちたか~?」


「ニャー(オヤツちょうだい)」


「よちよち~待ってね~」


今日は、オヤツをあげたら直ぐ行かないと。


ゴメンね、lapis。


【bar】


「la merに行ったの?」


「うん」


「イケメンgarcon居た?」


「たぶんあの人」


「ご飯食べて、それからどうしたのよ」


「それだけ」


「やっぱりですか。猫が待ってるから真っ直ぐご帰宅」


「そうなのよ。またお店に戻るみたいだったし」


「猫飼ってから、家とお店の往復だけですからね。何が楽しいんだか」


「でも、原種の蘭は喜んでくれたから良いわ」


【天空路家】


トイレ、トイレ。


「ミャー、ンニヤー(パパちゃん。寂しいよー、早く)」


「待ってね~」


「ニャー(1人にしないで)」


隣りのシーズー犬のココちゃんは、母がトイレに行くと抱っこだよな。


僕は小の時は抱っこ出来ないけどね。


鳴いてるなら来れば良いのに、何で遠くからニャーニャー言ってるんだ?


「ニャー、ニャー(早く来てー)」


「よちよち~」


そんな悲しそうな声で鳴くなよ。


そう言えば羊里君は、犬が苦手だったっけな。


フッ。


初めてうちに来た日の事、思い出しちゃった。


羊は犬に追われるから?


ブルーちゃんは、シープドッグだし。


まあ、テツが怖いのはわかるけどね。


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