第2話お留守番嫌い

【都内のレストラン】


〈同窓会会場〉


「ああ、宴、久しぶり」


「うーん、何年ぶり?」


「雅の結婚式以来じゃない?」


皆んな結婚したのね…


結婚してないのは、私と美都ぐらいか。


美都は、バツイチだけど…


「宴はしないの?結婚」


「相手が居ないもん」


30までにしたかったんだけどな…


子供好きだし。


「宴先輩、美都先輩」


ここにも居た未婚の子。


「宴先輩、そのパワーストーン」


「あ、これ?うちのお店の近くで作ってもらったの」


「へー、良い事有った?」


「そこのオーナー、ちょっとステキだったわ」


「何てお店ですか?」


「lapis」


「え?もしかして、天空路?」


「そう。何で知ってるの?」


「私、付き合ってたんです」


「えー?」


「素子は、何で別れたのよ?」


「猫が懐かなくて…」


「猫飼ってるんだ…私好きだから大丈夫」


「手強いですよ」


「ねえ、その人いくつ?」


「30です」


「年下なのね」


「宴。どこがステキなのよ?」


「パワーストーンの説明がねー」


「ただの石オタクですよ」


「花オタクと石オタクか、お似合いかもよ」


私は、お花に夢中になってて、気がついたら32よね。


付き合った人は居たわよ。


プロポーズされた事も有ったけど、タイミングって有るじゃない。


あの時はまだ、お花の勉強がしたかったから…


彼…何の花が好きなのかしら?


この前は、スイートピーを買って行ってくれたけど…


また来てくれるかな?


「2人とも、たまには私の店に来なさいよね」


「行きます、行きます」


美都のお店…


ご馳走してもらうの悪くて、何と無く行かなくなっちゃったのよね。



【天空路家】


〈窓の外を見るlapis〉


お留守番嫌だな。


寂しいよ。


あ、ママだ。


〈隣の建物の窓に母猫と父猫が居る〉


あ、パパちゃん。


ママのお家に居る。


早く帰って来て。


〈しばらくすると…〉


あ、帰って来た!


〈玄関に走るlapis〉


早く早く!


〈扉の鍵が開く。ドアが開き遊が入って来る〉


「ニャーニャー」


〈遊の肩に乗るlapis〉


「良い子にちてまちたかー?」


「ンニャー(寂しかった)」


「お腹空いたか?」


「ニャー」


「あ、また食べてない。何でパパちゃんが居ないと食べられないんだよ?」


「ニャー、ニャー(早くご飯)」


カリカリ、時間が経つと美味しくないんだろうな。


ニコロなんて、開けた時しか喜ばないもんな。


缶詰めが欲しいんだろ。


ああ、そのうちこれも食べなくなって、パウチになるんだよな。


ワガママ猫ニコロの娘は、ワガママ姫か?


アクセのデザインしたいんだけど、lapisが寝てくれないと無理だよな。


ビーズみんな転がしちゃう。


ずっと抱っこしてぐずるし、起きてると何も出来ないよ。


可愛いけどね。


「可愛い可愛い赤ちゃん。大事な大事な大事なlapis」


チュッ、チュッ。


「パパちゃんの大事大事」


「ゴロゴロ(パパちゃん大好き)」


「lapisが1番大事だからね」


〈そして…遊の膝の上で眠るlapis〉


あー、やっと寝た。


イヤリングのデザインしよう。


〈lapisを抱いたまま棚に手を伸ばすと…〉


「ニヤッ(びっくりした)」


「あ、ごめんごめん。ねんねちて」


【ベッドルーム】


〈朝、遊の顔を舐めて起こすlapis〉


「おはようラピス」


チュッ。


「ニャー(早く起きて)」


【アクセサリーショップlapis】


「じゃあ、後お願いしますね」


「お疲れ様でした」


【駅前】


lapisが待ってるから、早く帰ろう。


あ、オヤツ買って帰るか。


【ドラッグストア】


クリスピーキッス。


ドリーミーズ。


ニコロこれ好きなんだよな。


うーん、lapisにはまだ早いな。


こんなの食べさせたら、普通のカリカリ食べなくなるもんな。


煮干しと鰹節は、今から食べさせておいた方が長生きするからな。


ゴロちゃんが長生きしたのは、煮干しが好きだったからだと思うんだ。



【フラワーショップ】


〈店の外に置いて有る重そうな鉢植えを中に運ぶ宴〉


「フー…後もう少し」


これが重いのよ。


〈しゃがんでその大きな鉢植えを持とうとした時、誰かの手が重なる。見上げると…〉


「大丈夫?」


「天空路さん」


「中に運べば良いの?」


「そうなのよ」


「了解」


【店の中】


入り口近くの方が良いかな?


また出す時大変だもんな。


「ここで良い?」


「うん。ありがとう」


「じゃあ」


「あっ」


「うん?」


「良かったらお茶、ううん、ご飯でも…手伝ってくれたお礼に」


「そんな、このぐらいで…」


「とっても助かりました」


「嬉しいんだけど、猫が待ってるから、帰ってご飯あげないと」


「あ、そうよね…じゃ、じゃあまた今度」


「それじゃあ」


帰っちゃった…


あーあ、チャンスだったのに。


うーん、もう、呑みに行こう。


【bar】


「いらっしゃいませ、ああ、宴いらっしゃい」


「あら、素子も来てたのね」


「宴先輩、何だか嬉しそう」


「そう?」


「何か良い事有ったな」


「天空路さんが通りかかってね、鉢植えしまうの手伝ってくれたのよ」


「ああ、そういう事はする人だわ」


「素子。あなた、天空路さんとどこまで行ったのよ?」


「どこまでって?」


「つまり、そういう事よ」


「美都、何聞くのよ」


「猫が待ってるからって、すぐ帰っちゃうし、家に行けば猫に威嚇されるし」


「家に行ったの?」


「何度か行ったんだけど、そんな雰囲気になんかなりませんよ」


「猫がね…」


「私は、仲良くなってみせるわ」


「宴、付き合うつもり?」


「そうなったら良いな」


「素子のお古よ」


「だって、何も無かったんでしょう?」


「キスぐらいしたでしょう」


「彼、猫にしてました」


「え?キスも無し?」


「はあい、無しです」


良かった。


お古じゃなくて。



【天空路家】


「こんにちはー」


「はい、お願いします」


「ニャー(嫌、来ないで)」


「lapisちゃーん、掃除機かけるからねー」


「ニャ(掃除機さん嫌い)」


「あ、逃げた」


本当掃除機嫌いだよな。


「滝本さんには、ウーって言わないよね」


「皆んな言われるのよね?」


「うん」


「私、掃除機持ってるから?」


「そうかも」


「はーい、こっち終わったから、今度そっちに行くよー」


「ニヤッ(また来た)」


「どこに居る?」


「向こうの部屋」


居た。


「抱っこ抱っこちて。よちよち」


週に1回掃除に来てもらっているんだけど、最近やっと少し慣れたみたいだね。


相変わらず掃除機は嫌いで逃げ回るけど、他は大丈夫だ。


「早く帰って、って言われなくなったわよね」


「そうだね」


最初の頃は、滝本さんの顔を見て「早く帰って」みたいに「ニャ」って言ってたよな。


今でも帰るまでリラックスして寝る事は出来ないけど、嫌な時の耳しなくなったもんな。


「終わりました」


「ありがとうございました」


「ありがとうございました。また伺いますね」


滝本さんと入れ違いに、春陽ちゃんが来た。


「お掃除の人頼まなくても、私がするのに」


春陽ちゃんはそう言ってくれるけど…


猫じゃらしで遊んでるな。


他の人だと、おもちゃでもダメだよな。


「お兄ちゃん、お店行くんでしょう?私お留守番してようか?」


「せっかくの休みに何言ってるんだよ」


「だって、lapis寂しいわよね?」


「ニャー」


lapisが小さい頃は、1人に出来なくて、お店は店長の石垣さんに任せて時々顔を出してたんだよな。


ついでに買い物に行ったりして、急いで用事を済ませて帰ってたんだ。


その間春陽ちゃんに頼んだりしてたから、春陽ちゃんだけには懐いてるんだよな。


でも猫って、家族でもしばらく会わなかったら、よそよそしくするんだ。


忘れているわけじゃないんだけどね。


親父がしばらく帰らなかった時は「ウー!」って言われてたな。


春陽ちゃんもしばらく来れない時が有って、ラピスは少し警戒したりしたけど、今は懐いてる。



他の人だと、僕とその人の間に入って、睨んでる感じだよな。


すぐ「ウー、シャー!」って言うし。


「ほら、鍵。帰る時は、母に渡しといてくれれば良いから」


「行ってらっしゃい」


lapis寝ちゃったのね。


いつもお留守番の時は、どうしてるのかしら?


【駅前】


「こんばんは」


「こんばんは」


「今帰りですか?」


「はい」


「今日は、早いんですね」


やっぱり、猫ちゃんが居るから、まっすぐ帰るんだ。


どうやって誘おうかしら?


お昼?


【天空路家】


〈遊が玄関の鍵を開けて中に入ると〉


「ニャニャニャー(パパちゃんパパちゃん)」


「良い子にちてまちたか?」


「ニャー、ニャー(抱っこ)」


〈遊はlapisを抱っこして、いつものように肩に乗せる〉


あれ?


良い匂いがするぞ。


「お帰りなさい」


「春陽ちゃん、ずっと居たの?」


「ご飯作ってたの」


それは有り難いけど…


「うわ~美味しそうだ」


「食べよう」


時々こうやって食事を作ってくれるんだよな。


いや、最近はしょっちゅう。


助かるんだけど…


でも、いつまでもこんな事させてて良いのかな?


「どうしたの?美味しくない?」


「凄く美味しい」


「冷めちゃうよ」


本当に美味しい。


始めの頃は、練習台にさせられて、かなり面白い味のも有ったよな。


焦げ焦げなのに、結構美味しかったり…


初めて料理を作ってくれたのは、春陽ちゃんが中学生の頃だもんね。


腕も上がったし、練習台は卒業かな?


「そろそろ恋人の為に作ってあげたら?」


「そんなの居ないもん」


「ボーイフレンドたくさん居るんだろ?」


「居るわよ」


「その中に良さそうな人居ないのか?」


「皆んなお友達だもん」


お友達止まりですか。


「lapisは、ご飯の時は、テーブルに上がらなくて良い子ね」


「ニャー」


人間の物は食べさせないから、自分の食べる物じゃないと思ってるんだよな。


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