第132話 強さとは何だ

【強さとは何だ……】


 たったの存在が世界を変えることは可能なのか。たったの存在が世界を揺るがすことが可能なのか。たったで何が出来るというのだろうか。


「アイツは何だ、何者ダァアアア!?」


 不死川の声は怒声に近かった。


【強さとは恐怖か……】


 たった一人だ。


 それも一介の高校生に過ぎないただ一人の人間に世界が動かされている。涼宮強がいま立つ場所は異世界と現実の狭間。その黒くそびえ立つゲートを前に獣の眼光を光らせる。


「キョウです……」


【強さとは悪か……】


「涼宮強です!」


 第八の研究員が驚きながらも伝える、その存在を。不死川は急ぎパソコンのキーボードを叩きつける。涼宮強とブツブツと零しながらも、その存在を忘れないように。


【強さとは憧れか……】


 不死川は政府のデータベースで検索をかける。膨大なデータが流れていく、検索結果を弾きだすモニターを食い入るように見つめて、口を開けた。


UNKNOWNアンノーン……だ、と?」


 いなかったのだ、そんな都合のいい人間は存在などしなかったのだ。


 得体のしれない者でしかないのだと結果が答える。


【強さとは異常さか……】


 杉崎莉緒も戦いを忘れて止まって眺めていた。その黒髪を風になびかせ戦場のど真ん中に立つ姿を。ただの高校生ではない。自分が連撃に連撃を重ねた消滅させた魔物をたった一撃で葬り去る。


 ――なんなの……あの子……


 戦争の中心に訳のわからない高校生が立っている。


「どうした……かかってこいよ」


 圧倒的な迄の存在感を見せる。魔物たちを挑発するようにゆっくりと敵陣へと歩き無防備に近づいていく。相手が固まっているところ目掛けて闊歩していく。


「こちとらな……」

 

 だが、いつになくやる気がある感じだった。


 涼宮強の目的はマカダミアキャッツの応援要請をなくすこと。鈴木玉藻への危害が及ばないようにすること。この二つだった。


「色々と溜まってんだよ……」


 だが、そんな純然たる理由を全うする主人公ではない。


 もはや目的に不純物が沢山たされていた。防衛は防衛でありながらもここまでの道中に行く当てが幾度か外れたこと。奥多摩の山に一時到着し、福島まで移動した。おまけに何かに見張られている気配に不快を感じ、学校では今日はとことんまでツイていない事件ばかり。


【強さとは――】


「テメェらのせいでなッ!!」


 それら全てが魔物の軍勢に向けられている。


 魔物からすればほぼ身に覚えがないことばかりだが、如何せん数が多いのがよくなかった。いくらでも遊ばれてしまう個体の群れに過ぎない。圧倒的強者による搾取が始まる。


「死亡遊戯、ハンガチ堕とし――!!」


 大地を砕くと同時に姿を消す、涼宮強。


【自由だ】


 その暴風はあまりに強く自由だった。



《つづく》

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