第127話 勝機と爆発の産声

『不死川……倒した数と関係あるということは、そういうことなのか?』


 マウスヘッダーは爆発を引き起こす。それがどういう理屈かと田島みちるは問いかける。会話の中で不死川が語ったことは多くは無い。だが、推測できることがある。


 倒した数の確認から爆発の威力を算出する意味を――。


「あぁ……あの散り際の黒い灰……アレが火薬の元になる」


 なぜ、マウスヘッダーが黒い灰となって散っているかなど知る由もなかった。その死亡エフェクトに何の意味があるかなど想像だにしない。ソレが仲間達に託された武器なのだと考慮することなど神の芸当に近い。


「無数の口は……仲間の黒い灰を吸い込むための吸入口」

 

 不死川の発見に田島の顔がため息で歪む。


 想像する中でも最悪の状態に近い。


「唾液による超融解要素ちょうゆうかいようそによる化合物の体内生成」


 倒せば倒すほどに奴らが体内で火薬をため込んでいる状態。


 消えたと思った残滓ざんしが招く最悪の事態。


「倒せば倒すほどに強力な爆弾と化していくぞ……マウスヘッダーは」

 

 得体の知れない不気味な魔物の正体は動く爆弾。


『それだと……おかくしくないですか? まだ爆発してませんよ……』


 二人の会話に入り込む阿部の声。だが、阿部の言う通りだった。もし、アレが爆弾であるならば衝撃を与えたら終わりだ。それなのに黒服たちの容赦ない攻撃は魔物の体を切り裂き粉砕している。


時間差タイムラグだ……爆弾を作り上げるまでのな……」


 現状まだ完成していないだけだ、体内に貯蔵できる火薬が。


 大地を溶かすほどの消化液による物質の変換。それを終えるための時間が経過していないだけだと。だが不死川の表情や言葉が物語っていた。それは完成されたのだと。


「全部の個体がそうというわけでもない……特有の個体だけが生成している」


 職員から貰ったデータから分かっている。遺伝子の構造が他と違う個体がある。それは十体に一つ程度の確率だった。その体内元素が明らかに爆薬と同じ数値を示しているだけだった。


 おまけに……


「外見上見分けはつかない……」


 解析をしてようやく分かる。同じような球体で無数の口を持つ魔物。


『要は……運試しに近いということか……』


 二人の結論に阿部の顔がモニターに急ぎ向く。大鎌を手に周囲を取り囲まれたブラックユーモラス。彼が攻撃を仕掛ければ爆発する可能性が高い。そこには十を超える個体がひしめき合っている。


 ——じゃあ……あの人は……


 いま、牽制しているだけだった。逃げ道は無く、四方八方行く手は魔物に遮られている。活路を見出すために相手の動きに警戒を強めている。それが、何かを知らないが故に。


 ——助からな……


 もし、爆弾である個体を叩いたとすれば爆発に巻き込まれることは免れない。おまけにソレが一体だけと限らない。三十五体の魔物が討伐されて、残った個体に爆弾がないとは言い切れない。


 ——い……。


「逃げて……」


 阿部が願うように声を出した。


 ジリジリと彼を嗤うようにマウスヘッダーたちが距離を詰めていく。唾液を口から垂れ流し相手の窮地を楽しむようにゲラゲラと嗤っている。それは魔物たちの野性的な本能に近いのかもしれない。


 弱った敵をいたぶる様に楽しむ習性――。


 自分の死という概念が薄く敵を倒すことに傾向している。爆発に巻き込み相手を殺すことに愉悦を感じているように感情を表す口が物語る。それは自然の摂理なのかもしれない。


 他種族と相容れないが故にもたらされる生存戦略。


 弱さを見せた者から狩り、殺し、数を減らしていく。


桐ケ谷きりがや殿ォオオオ———クッ!?」


 九条豪鬼が仲間のピンチに気づいたが動きを見計らうように敵の魔物が止めに入る。敵だけが持ち合わせていないわけではない。こちらが最初に戦略を立てて迎え撃つように異世界側もそれなりに修羅場をくぐってきている。


 ——コヤツら……ッッ!


 邪魔しにきた魔物へと刀が放たれる。一刻も早く助けなければと九条豪鬼の刃が敵の体に斬り込まれる。ソレは刹那の時をかける剣技、横振りの右薙ぎ。あまりの速さに彼の手元が見えなくなる。


「ソコを、退ケェエエエエエ!!」


 仲間の死を阻止するべく、


 瞬く間に相手の胴体を二つに分断しながらも進んでいく。


 ——なんだ……この


 二体、三体と斬りつけてきた剣豪の顔が四体目にして歪む。


 ——感覚は……なんだ……


 刀が相手の胴に入っている最中に感じた。あと半分で斬り飛ばす手前。斬られながらも僅かに敵の感情が漏れ出ていた。その肉を刃が通り抜けようというのに口が変形している。


 ソレは死を受け入れているのでもなく、諦めているようなものでもなかった。


 幾重にも斬り伏せてきたが故に感じた違和感――。


 ——なぜ……嗤って……


 本来ならば振り切り胴体を分断する所で、危険を察知したが故に豪鬼が刀をすんでのところで引き戻す。緊急のキャンセルに近かった。


 相手の懐半分を切り裂いた刀が血を引き連れて鞘に戻る。


 ——ナニを……狙って


 豪鬼の姿を無いはずの視界で捉えているかのように、


 まだ無数の口が嗤っている。何か待っていたかのように。


 ——いる?


 刹那、豪鬼の視界が敵の体の凹凸に気づく。丸かったはずの体がボコボコと音を鳴らしている。ホンの一瞬。その間に相手の思惑と豪鬼の思考が重なっていく。異常と判断したが故に豪鬼は何が起きても動ける様に身構えた。


 待っていたと言わんばかりだった――。


 衝撃を与えてくれることを。


「ゲェエエエエエエエエエエ————!!」


 魔物がココが我らの勝機だとの産声を上げる。



《つづく》

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