第126話 長崎のダブルパワー

「不死川所長、マウスヘッダーの解析結果、お持たせ致しました!」

「………ふーん、コレはコレは」


 解析結果を自分のパソコンに写し、データを読み込んでいく。


 不死川の専門分野生物学である。彼は元素から生物としての構造を解き明かしていく。人体であれば、水35リットル炭素20kg、アンモニア4ℓ、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素で構成されているように。


 

無尽蔵の口だけ頭部マウスヘッダー……」



 データーを見ている不死川の眉が僅かに歪む。元よりこの地球上の生物とは違った進化を遂げたことは明白。そのフォルムからも異形としかいいようがない。全ての構造を解析できるかと言えばそうではない。


 観測できる元素は限られている。それは地球上で解明されている元素のみ。


「このデータではまるで……アレは」


 未知の部分を残しても判明する部分もある。黒服たちの戦闘を映すモニターをみあげるように不死川が席を立ちあがって固まる。目の前で黒い灰となって消える魔物。


「何体目だ……っ、アレで、」


 黒い灰が霧散して空気に流されていく。画面の解像度が追いつくわけもない。その灰がどこへ消えているかなど知る由もなかった。だからこそ、不死川は声を大きく上げた。


「マウスヘッダーが死んだ数は何体目だァアアア!」

 

 不死川の突如の咆哮に誰もが驚きで震えた。慌てて計測値を確認する職員が一人。不死川の血走った眼がその一人に向いている。画面通信をしている田島にもその異様な声が届いた。


 ——なんだ……急に


 不死川らしくない慌て様に横にいる阿部も目を細めて田島の画面を横から盗み見る。第八研究所が騒いでいることが何かなど知る由もない。


 だが、これは別におかしいことでもなかった。


 第六研究所がゲートを専門とするなら、


 第八研究所はを主とする国立研究所。


 第六はゲートが開いた時点で役目を終えているが、いま現在が第八研究所の役割の最中なのである。あらゆる生物の形態をデータベース化して蓄積する。それは後の対策を立てる為でもあり、異界からの侵略に対抗するための防衛戦略の知識として利用されるものだ。


「三十五体目です、所長!」

「三十五……40ktケーティ……」


——また……お得意の英語まじり。


 盗み聞きをする阿部にはその意味など理解できるはずもない。


 だが、田島は僅かに首を捻って訝し気に不死川の表情を伺う。


『おい、不死川……ktケーティはキロトンか?』 

「そうだ、MICHIRU……TNTティーエヌティー換算だ」


 不死川の答えを聞いて田島の顔も同様に歪んだ。


 それだけで田島には何を意味しているかがハッキリ分かってしまった。


『少なくとも単純計算で四キロ程度はぶっとぶな』

「………長崎の二倍の威力ダブルパワー


 ——長崎……のダブル、TNT換算?


 二人の会話を聞きながら阿部は静かに首を横に傾げた。僅かに二人におくれながらも彼女の頭が動き出す。拾った単語だけで容易に想像がついた。


 ——えっ?


「爆発するんですか!?」


 阿部の驚きの声に田島も不死川も画面で黒服を取り囲んで嗤う異形を見る。動いて呼吸をしている生物。口は表情豊かに彼らの感情を教えてるようだった。人類を馬鹿にするように嗤っている。


 だからこそ、最悪なのだ。



『「歩く爆弾そのものだ……」』


 

 不死川の計算では既に長崎原爆の二倍の威力に匹敵する。



《つづく》

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