第33話 証人喚問3

『なんなんだ……いきなり押し掛けて来て人の腕を折るなんて!』


【回復したからいいでしょ。むしろ人の胸触ってんじゃねぇよ、タコ】


 何やらインタビューの女とスカシタ男が論争をしている。先程、腕を外した件でもめているようだ。というか、証人喚問って法廷に来るはずではなかろうか。これでは喚問というよりも訪問に近い。押し売り商人訪問。


『この大杉聖哉が怪我するとCMや音楽番組への影響を考えても、事務所から億を超える多額の賠償請求が行くぞ!』


【そうなれば出るとこ出るまでです。胸を触った動画を元に痴漢裁判でもしましょうか? アイドルの痴漢裁判とかワイドショーと文春が見逃すはずもない】


『櫻井と同じようなことを!? アイツに関わると碌なことにならない!!』


 スーパースターと自称する男は頭を抱えて苦悩している。


 なにやらヤツの方が追い詰められている。女が腕を折った傷害より男の痴漢の方が裁かれた時に重いのだろうか。仮にもしヤツが芸能人であればゴシップだな。おまけにストーリとしても胸を触られたのが先だからそれへの報復行為として傷害には……ならんか。正当防衛だな!


『そもそもお前の要件はなんなんだ!? 櫻井からの刺客か!!』


【……櫻井の刺客ではなく、櫻井を裁判をするための準備です】

 

『裁判……?』


【櫻井の悪事を明るみに出すためです】


 謎のスーパースターの眉が動いた。櫻井の裁判は現在系で進行中である。


『アイツが何かしたのか……いや、むしろとうとうこの日が来たというべきか』


【とうとう?】


『ヤツの脅迫等による悪事に対しての裁判だろ?』


【……もしや脅迫されているのですか?】


『……ちょっとカメラを止めてくれ。話はそれからだ』


【わかりました】


 急に動画がお花畑の画像に切り替わった。テレビの放送事故とかでよく見る奴だ。クラッシックとお花畑で怒りが湧かないようにしている。確かにこの風景を見ていると怒るというより呆気に取られている。


『ちゃんとモザイクはかけてくれよ』


【わかりました】


『ボイスチェンジャーも頼む』 


【つけました】


 ヤツの指示に従うように動画が加工されていく。というか、モザイクというよりも黒い線だ。おまけにボイスチェンジャーが良い味を出して騙された詐欺被害者感が強い。というか、その処理を後付けして意味があるのだろうか?


【それでは質問をさせていただきます。櫻井に何をされているのですか?】


『動画を取られ脅されている……おまけにヤツの能力によって色々とマズイことになって追い詰められている』


【揺すられているのですか?】


『金銭の要求まではない、だが……命令に逆らうならと脅してくる節が多々ある。人の秘密を暴く能力の最低な使い方だ……気づかぬうちに秘密をアイツは抜き取っている』


【えっ……】


『アイツに触られた記憶がある奴は気を付けたほうがいい。アイツはあらゆる人物を脅迫できるように秘密を日々更新している……』



 えっ……驚愕の内容である。触れて人の心を読むだけじゃないの?



【待ってください! そんなことをしでかしているのですか!?】


『アイツは狂人だ。やることに躊躇いも無いしなんとも思っていない……デスゲーム出身ということもあって駆け引きのレベルが違う。アイツを常人が逆手に取ることなど不可能だ』


【みんな、触れて秘密が盗まれるって!!】


『誰しも人に言いたくない秘密の一つや二つあって然りだ。それをアイツは盗める。気づかぬうちにな。ちょっとぶつかるだけでいい、ちょっと触れるぐらいでいい』


【盗まれたら、ど、どうすれば!!】


『どうしようもない……ヤツからは逃げられない。ヤツのバカげた知能指数の頭に記憶されているし、おまけにメモ帳に几帳面に纏めている。万が一メモを取り上げようとも櫻井の事だ。バックアップも入念に用意しているに違いない!』


【なんで……櫻井はそんなことを……】


『不都合があった時に脅すためだよ。狂ってるとしかいいようがない……デスゲーム出身ピエロ。ヤツに触れたら終わりなんだ!』


 教室から悲鳴が上がった。皆が震えている――IT 触れられた終わり。あの野郎全米を震撼させる器のピエロだよ! 全米がいつも通り号泣するよぉおお!! 俺とか何回も触ってるとかのレベルじぇねぇぞッ!!


 俺だけではなくクラス全体を包み込む恐怖が蔓延していく。


「やばい……アタシ二日前にプリント渡した時に触っちゃった……」「私もこの前廊下でぶつかった……」「俺もだよ!」「っていうか、櫻井と良くぶつかる!!」「それって……」「俺たちの弱みをずっと……」「ヒドイ……そんなの酷いよ……別に信じてたわけじゃないけど、ヒドイよ!!」


 一人のピエロが教室を恐怖に落としていく。誰もが秘密を持っている。その秘密が知らぬうちに脅迫材料になっているなど想像もしていなかった。おまけにスターの演技は迫真過ぎるの相まっている。


 一人のピエロに視線が集まっている中、ヤツは口を開いた。


「大杉……覚えてろよ、必ず……テメェは殺す」


 その眼は人を殺したことがあるピエロの狂気の憤慨。それに誰もが寒気を覚えた。コイツは普通じゃないと。狂っていると。



《つづく》


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