第32話 証人喚問2

 動画が途切れて取り乱していたメガネは落ち着いて椅子に座っていた。人気のない背景から見るに視聴覚室だろう。俺たち美咲ファンクラブの最重要拠点であり、ホームである。


『そういうことですか。櫻井について疑いを持つ同志が我々の他にもいたのですか。アイツの悪事を暴きたいということですね』


【物分かりが良くてアナタいいですね】


『そういうことであればなんなりとお申し付けください!』


【では、さっそくですが……涼宮を騙しているという件で何か情報はお持ちですか?】


『そこまでお知りなんですか!?』


 ん……どういうことだ? メガネの驚きっぷりはまるで質問を肯定するような雰囲気がある。あれ、オレ騙されている?


『純真無垢であの天使のようなをたぶらかして騙しているのが奴です!』


【ほう、ほう】


「その通りだよ! 純真無垢な強ちゃんをだまくらかして、チクビをうぐッ――」

「玉藻さんは少し黙ろうか……」


 俺はチクビに異様な執着を見せる幼馴染の口を封じて画面に注視する。さすがに玉藻だけでなくメガネまでもが言い出すと何か俺は騙されているのかもしれないという気がしてきたからだ。


も呆けて全然お気づきにならない! 諸悪の根源が間近にいるというのに!! 一刻も早くヤツを殺さねば大変なことになる!!』


【総統閣下……?】


『!? 相当……怒ってカッカとしてしまうということです!』


 いや、メガネ……それは無理があるだろう。どう考えても俺の事を言っていた。総統閣下と呼ばれる地位は俺ぐらいしかいない。俺の腕で暴れる幼馴染を片腕で抑えつつ俺は考えた。


 俺が気づいていない……?


『コホン……どちらにしろ櫻井という男はペテン野郎ということです。絶対に信用してはなりません!! アイツはあの有名なヒロインごろ――』


 ここで動画が途切れ。また廊下を歩きだしている映像が流れている。まぁ、あまりいいフレーズではないから編集されたのだろう。意外と犯人にも気を使っているのが分かる。


「証人の人選に問題がありすぎだ! こんなのでっちあげに近い!!」


 おっと、犯人が死んでいなかったようだ……。血だらけの死体だったはずの櫻井が顔面血だらけで起き上がっている。本当に殺しても殺しても死なない。アイツだけ心臓が八つぐらいあるのではなかろうか。


「私達が一年生からランダムに抽出したまでです」

「どこがランダムだ! 明らかに意図的な人選にしか見えんわ!!」

「彼ら三人と知り合いのようですね……櫻井被告は」


 あの三人と櫻井って知り合いなのか? というか意外と僧侶らしく振る舞っているな、あの性別不詳。しかし右腕で物騒な形のメイスをひゅんひゅんと回しているのが気になる、音がうるせぇ。


「知り合いではない……」

「じゃあ、彼らは貴方のなんですか?」

「それは……っ」


 ん? 櫻井の勢いが死んでいっている。何かあるような気配を感じる。口を噤んで汗をかいている。俺の方を助けを求めたのかチラッと見て汗を大量に流している。顔面が真っ青だ……櫻井らしくもない。出血多量の影響だろうか?


「というか、動画の続きはどうなっている!」

「あなたが止めたさせたのです……」

「早く全部見せてみろ! まるっと論破してやる!!」


 それは楽しみですねとヤツはまた携帯の動画を流し始めた。そこにはすかした男が映っている。たまにテレビでCMに出ていた気がする顔?


『ちょっと待て、取材なら事務所を通してくれ!! 勝手にカメラを回されちゃ困るよ! 俺を誰だと思っている!?』


 何が事務所だ……イケ好かねぇ野郎だ。男はカメラに気づくと芸能人でもあるかのように取材を拒否してカメラを下に下げさせる。そのせいで廊下のタイルしかみえん。


【スーパースターの大杉聖哉さんですよね?】


『そうだ、俺があの10代で抱かれたい男一位の大杉聖哉だ!』


【珍妙なポーズを取って頂いて抱かれたいかは分かりませんが……同学年の櫻井についてお話を聞きたいのです】


『な、ななな! ちょっと君! 櫻井関係なら、なおさらカメラを止めろ!!』


【あっ、ちょっと! テメェ、変なところ触んな!!】


『あっうッ!』


 ゴキとすごい音が流れ映像が途切れた。何か鳴ってはいけない音。あれ関節外した時の音に似てる。マムによく脱臼拷問されたから聞き覚えがある音。人体の関節は260近くあるらしい。マムに拘束されてどこまで外せるかされた時には自分がマリオネットになった気分で絶望したのは小さい頃の記憶。


 100箇所近く人間は脱臼できる(オレ実験結果)。



《つづく》

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