第11話 それが現実です
兄さんらしき人の余興がおわり、
「さっきの凄かったな!」「あれって、番長的なもんか!」「やべぇなマカダミア!」「神輿とか熱いわ!!」「最初ビックリしたもん!」「入学式のサプライズってやつだよな!!」「なんか良く分からんが凄かったな!!」
無事に入学式を終えました。
一年生は体育館からの帰り道で先程の兄さんみたいな人の話題で持ちきりです。みな何故か楽しそうな、気分が高揚しているうような感じです。みんなバカです。
「このエリート学園であそこまでできるんだ。間違いなく相当な実力者だよ!!」
何がそんなに楽しいのか。
あんなものはバカによるバカの所業でしかない。
「お前ら、あの人に迂闊に近づかない方が…」
私は一人世界から取り残された気分です。
「あれが……噂のデットエン――」
「どれがお兄さんだったの、美咲?」
隣を歩いている昴ちゃんが他人の会話を私の耳から、
私には何も関係ない。
「今日は風邪ひいてお休みみたいだよ、すばるちゃん!」
私は満面の笑顔で返しました。
「そっか。ざんねんだな~」
「ざんねん、ざんねん♪」
歌を口ずさむ様にリズムよく言葉を続けます。あの時、
兄さんっぽい人は見たけども兄の姿を見ていなかった。見ていません。
あれはきっと他人の空似。知らん奴の戯言と陳腐な演技を見せられただけ。
この時の私は
「ざんねん、ざんねん♪」
――お兄ちゃんさぼったな。あとでお説教しなきゃ☆
「ざんねん、ざんねん♪」
葛藤に葛藤の末、
思考回路がショートしていたのです。
人は受け入れられぬ現実を見たときショートします。
現実逃避します。全速力で逃避します。脳が限界を恐れて記憶を書き換えます。事実、私の脳は受け入れられぬ現実からフルパワーで先程見た人物を消去したのです。
「これから一年間みんなよろしくね」
クラスに戻ると担任の先生の挨拶が始まりました。
担任の先生は髪を綺麗に束ねどこか初々しさもある女性の先生です。そのあとは委員決めが行われました。担任の先生が黒板の前に各委員会を書き上げていき、皆が挙手をしたり推薦していきます。
「ハイ!」
「えーと……」
「涼宮美咲です! 立候補致します!」
現実逃避した私は真面目に生きるべく学級委員に立候補しました。
「先生!」
「あら、どうしたの? 涼宮さん」
行事が午前中で概ね終わると、放課後に担任の先生を呼び止めて廊下でお話をします。学級委員のアドバイスを貰うためです。
私は真っ当に生きるべく、
優等生になると決めたのです。
まぁ中学校でも何かと最前列に配置されていたためか、先生方に色々と頼まれることも多々あったので優等生をやるのは慣れっこな私です。
「先生、学級委員の仕事が何か知りたいのですが!」
「やる気満々ね……涼宮さん」
おかげさまで内申点もうなぎ登りでした。
「去年の学級日誌は図書館にあるから参考に見ておいてね。涼宮さん」
「ありがとうございます! 拝見させていただきます!!」
先生からの話を聞き終えると
「う~ん、かわいい♪」
頭を
そう、私はかわいい。
「涼宮さんは頑張り屋さんなのね♪」
「はい!」
小柄なせいか大人の方に頭を良く撫でられます。私は頭を撫でられるのが嫌いじゃありません。身長が伸びないのはこのせいではないかと、
ふと疑念にかられこともありますが、
嫌いじゃありません。
なでなでは意外と心地よいものなのです。
愛されてる感じが直に伝わってくる感じが
いいのです。
先生と別れたあと指示された通り、
私は一人図書館に向かいました。
「ここが学校の図書室……大きい」
去年の一年生の学級日誌を探すためです。
別棟にある二階建ての図書館。いっぱいにある本棚。中学校では一つの教室ぐらいだったのが高校になると全然スケールが違う。歩き回るだけでも時間がかかる。
天井近くまである本棚を見上げて歩いていく。
「どこだろう……」
広い図書館を学級日誌の棚を順番にかに歩きして探しました。歩けども歩けども人がいない。どうやら入学式の直後ということもあり図書委員以外の人はいないみたいです。
「あった」
様々な蔵書の背表紙を見つめつつ、
「えっと、去年のはっと」
去年の学級日誌を手に取る。
「なんだろう、これ……?」
目を奪われました。
去年の学級日誌を引き抜く後ろにまだ本が隠されている。黒い蔵書が本の後ろのスペースで横にして置いてある。
何かいかがわしい雰囲気がぷんぷん匂います。
私はそれを丁寧に取って背表紙を確認する。
「題名がない……?」
何も書かれていない無記載の状態。
まさか伝説の魔導書的なものを見つけてしまったかもしれない。グリモア的なものかもしれない。私は能力系なので魔法とは関係ないので読んでも仕方ないのかもしれない。
それに、ここは異世界転生エリートの為の学校。
そういうものがあっても、
なんら不思議ではないのです。
ただ隠す必要があったのだろうか。
私は右左と人がいないのを確認する。誰もいない。
「もしかしたら……ちょっと……」
本を持ったまま私はこほんと一つ咳をいれる。高校生ですしね。まさかということもあるでしょうね。そういうこともあるかもですね。ありえなくはないですね。確率的に捨てがたいところもありますね。
「エッチなものかもしれないですね」
いかがわしい本かもしれないですね。
二回目のコホンを入れて、
「右ヨシ、左ヨシ」
私はもう一度左右に誰もいないことを確認する。
「いけませんね……これはいけません」
図書委員のいる受付からは、
「由々しき事態です、困りました」
ここは死角になっているようですね。
「どうしたものかですね……どうしたものか」
私はしゃがみこんで本を膝の上に乗せた。
「先生に報告するにしても……」
誰もいないのに誰かに言い訳するように、
「中身のチェックも必要かもしれないですね」
私は独り言を小さく呟いた。
「報告が上手くできませんし、勘違いかもしれません」
まさかとは思うのですよ。
「誰もいないようですし、私以外ね。ん、ん、そうですね」
マカダミア高校に置いてそんな不純な生徒がいるのかわかりませんが、もしかしたら男子がふざけて隠している恐れもありますし、私は優等生ですし……あれですよ……別に興味があるとかじゃないですよ!
もしかしたらということです、
万が一ということです!
「ここは私がですよね」
私は優等生で学級委員長ですから、
こういうものには厳しくチェックを入れなきゃいけない立場です。別に公私混同とかではありません。お年頃の私がちょっとエッチなことに興味があるとか覗いてみたいなーとかそういうやましいキモチではなく、これは純然たる公務!!
まさかですよ……まさか、みんなが使う学び屋の図書室にエロ本などという、卑猥なものがあったらいけないですよね! ですよね!
学校の風紀に関わる由々しき大問題になります!!
「すぅー……ふぅー」
私は考えをまとめて結論を出し一呼吸入れる。
再三にわたり右左を入念に確認する。他に誰もいない。まぁ今日に限っては来ることも無いでしょう。見られると勘違いされたりしてしまうかもしれないですからね。私が新しい学校でエロロリ扱いされてしまうかもしれないので、念には念のための確認です。
あくまで学級員の仕事を全うする為にですからねッ!!
うふんっと強めの咳をしてから、
それではまず一ページ目を拝見です。
『マカダミアキャッツ
私は首を捻る。
変わったタイトルです。
まぁカモフラージュの恐れもありますから一ページだけで判断するのは危険です。
エッチなパロディ要素かもしれないです、中身が重要なのです。男子高校生であればそれぐらいの悪さを働く可能性は十二分にありますから。いかがわしいかどうかを確かめないといけないのです!
だが、私の推察と本の内容は
別の方向へと進んでいく――。
邪な私の心が神に見透かされて天罰が下ったのかもしれない。そこから、私は兄の
逃げても消えない。
目を
それが現実です。
《つづく》
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