第6話 あの櫻井氏ですか?
俺と櫻井の付き合いは入学当初からだ。
入学式の日、
俺たちは運命の出会いを果たしたのだ。
俺は親に無理やり進学を進められ、マカダミアキャッツ高校に合格することになる。受験も何もしていない。
なぜか入学が決まっていた。
超エリート校と称されるところに入学できた理由は不明だが、なんとなく両親が鈴木家の首相パワーをお借りしたのかもしれないと思ってる。
簡単に言えば裏口入学疑惑である。
『高校か……』
2015年4月、桜が咲く頃、
ピカピカの一年生の俺が高校につくと視界が眩さで歪む。
周りはピカピカ装備を携たずさえたやつばかり。
武器と防具持ち込みOK。それが校風だ。
空を飛んでるやつもいた。人造人間もいた。
『高校って……こんな魔境だったのか……』
校門の前で俺は一人ぼやいた。異世界にいったやつが集まるこの学校で俺は……能力がないひとりぼっちだ。平たく言えば異物のような存在。アイツ等と俺は決定的に違う。
『お前はどんな異世界だったん?』『俺はゴブリンを狩りまくるやつだったよ』『ゴブリンスレイヤーだな』『そういえば、アッチでゴブリンスレイヤーさんって呼ばれたわ!』『ギャハハ』
皆が楽しそうに話す話題についていけなかった。
異世界の冒険譚、ゴブリン
机に突っ伏して眠ってやり過ごそうとするが、
『お前らのゴブリンは普通のゴブリンか……』
周りの会話が眠りを
『俺のところのゴブリンちょー強かったんですけど~』
女子高生みたいに話すどこかの勇者。
『あら、やだ。うちのゴブリンなんてね――』
それに反応して奥様みたいに話すどこかの勇者が楽しそうに談笑。
――あの手の子招きはなんなの?
――大阪のおばちゃんは飴ちゃんくれるの?
なんて想いながら、
ひとりその楽しそうな風景を
机に伏して教室を眺める。
『だりぃ……』
うるさくて眠れないので欠伸をしながら過ごす。
昔からボッチであることには慣れているので平常運転。
けして、羨ましいとかではなかった。
五月蠅いと嫌悪するぐらいだ。
まぁ気分が沈んでいるのはどちらかというと入学式という希望に満ち溢れた若人の晴れ舞台なのに、無言を貫くことで孤独に苛まれていたのだろう。家に帰っても話し相手がいない。
誰も俺と喋ってくれない。
『死にたい――』
入学式にそぐわない声が聞こえてくる。死にたいって……。
ぼっちの俺が出したわけではない。
『消えたい――』
――なんだ、このダークサイドに堕ちたような
ボソボソいうラップ音的なつぶやきが俺の鼓膜を刺激してくる。
『今すぐ
――クソみたいなラップは……?
俺が音のする方に顔を向けると、
――やべっっ!?
ソレの目がギョロっと動き視線が
得体のしれない音を出す汚物。
教室の隅で体育座りしている
『君には僕が見えているのかい?』
教室の隅にあるオブジェかなんかだと思っていた、
俺は、動いたことに
『――なッ!』
驚く。
俺は無能力なはず!? まさか霊能力者だったというオチなのか!!
俺は慌ててきょろきょろと周りを見る。
それでも他のヤツらは楽しそうに笑って談笑を続けている。
――こんな気持ち悪いのがいるのにみんなガン無視!?
『こっちを見てよ、僕はここにいるよ』
――変なものにターゲッティングされた!?
『ねぇ、君の目には、君の瞳には、僕が見えてるんでしょ?』
驚いている俺を前にまるで連れ去られた宇宙人のように
純真無垢な声を出す地縛霊。しかも、しつこく問い詰めてくる始末。
『お前は地縛霊のくせに……』
何よりも驚いたのは、
『
ピンク色のカーテンが揺れ窓の空いた隙間から桜の花びらが咲き乱れ舞い散り、
『生きとるわボケッ!! それにテレビとかで出てくる霊はメチャクチャ喋っとるだろうがッ!!』
――なんという返しのキレ味……
春が迷い込む新しい教室で見事なツッコミを受け心地よかった。
――鋭い!!
そんな運命的な出会い――。
普通だったらヒロインと出会うはずの場面のはず……
だが、出会ったのは不幸なピエロ。
しかし、それは、
今世紀最高のエンターティナー櫻井と俺が出会った瞬間だった。
その後、櫻井氏の異世界体験談を聞き身震いし尊敬することになる。体験談は想像を超えてはるかにおもしろく、幼馴染と妹を異世界に持ってかれ
櫻井ピエロの体験談は後日だ。
絶望のゲームに参加した櫻井氏の
戦いの記録は原稿用紙数千枚に及ぶ、
一代エンターテェイメントだから。
それと櫻井には俺が親友として認める――恐ろしい能力が隠されている。
「
俺は櫻井ピエロとの
「ぐにゃぐにゃって、うねうねするんだ」
――なにをニヤニヤしているの?
「そうなんだね~。強ちゃんはさすがだね~♪」
――人を小馬鹿にしているの、この
「…………」
「天才だよ! 強ちゃん!! さすが、強ちゃん!!」
にやついている玉藻の顔を無視し俺は思い起こしてみる。去年一年間コイツは異世界に旅立っていたのだからしょうがない。
勉強が追いつかなくても。
ただ、玉藻は勉学に関しては、
恐ろしいほど――デキるのだ!
中学も同じ学校だったが、全教科オール100点を取ったのはコイツ以外いない。官僚一族のIQ遺伝子はちゃんと娘に引き継がれていた。但し勉学だけに使われる無用のIQは邪魔もの以外の何物でもない。
コイツに質問してもまともな答えが返ってきた試しがない。
なぜ神はこの馬鹿巨乳に無用の長物となる能力を与えているのか……俺を異世界に飛ばさない神だから、頭が相当悪いのは確かだ。
その
「はぁ~」
溜息が口から漏れて出る。
「強ちゃん、寿命が一年縮むよ♪」
「そしたら、もう死んでる……」
お前のせいでな。俺がお前に何度ため息をつかされたことか。もう鶴の年齢を通り越して、亀の年齢ぐらいいっているだろう。人生百回ぐらい過ごせるわ。
「おい、オイ! やべぇぞ!!」「あれは!?」「先生を呼んでこいー!!」
俺の寿命が減ったことを悲しむようにガヤガヤと教室が騒がしくなった。まぁ俺は世界にとって唯一無二の存在なので、尊重されるべき存在である。だからお亡くなりになったら世界中が大騒ぎになるだろう。
だが、まだ死んでない。どういうことだ?
「君は僕が守るでふ!」「あぁ~ん、ナイト様❤」「かっこいい!!」
イラッとするよ。おい、デブオタ竜騎士。貴様はもう一度ひどい目にあわさなきゃならんらしいな。ハートマークに色が付くところも最悪にイラっとするわ!
「大変だ!」
――こっちも大変だ!! デブオタのせいで!!
キモオタにイラついてる俺の耳に大変なフレーズが舞い込む。
「サクライがッ!」
――誰だよ、サクライって!! どうでもいいわ!!
俺の学校生活を一変してしまうようなフレーズが。
「サクライがぁああ!! サクライが……っっ」
――しつこいし、うるせぇし……さくらい迷惑だよ。ん? ん?
「サクライがぁああ!! あのサクライが……っっ」
――あれ? まぁ、いいか。なんかひっかかるけど。
「魔物に殺されそうだぁあああ!」
――あっ、さくらいってやつが死んじゃうのね。
――短い人生だったな櫻井。
――かわいそうに南無阿弥陀仏、さよなら。
デブオタのノイズにより俺の思考が邪魔され、
――……ん? さくら……い?
玉藻の無邪気攻撃により一時的にマヒさせられていた脳みそが、
――
櫻井という単語によりとある人物を俺に想起させた。
思考が追いつくと動揺が走る。
――それって、まさか、あの! 櫻井氏ですか!?
間違いない。この学園で休み時間に魔物に襲われること事態がめずらしいのだが、それで死にかけるやつなんて相当に運が悪い。世界に嫌われているどころではなく、世界から虐めを受けるぐらいに生理的にこの世から嫌われている人間。
そんな、不運な奴は櫻井以外にありえない。
――な、な、な、あんだってぇええええええ!?
開始六話にして俺の学園唯一の友達であり、
親友の櫻井がデットエンドしかけとる!?
《つづく》
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