第7話 あっち向いて死ねッ!
「櫻井が魔物に弄ばれてるぞ!」「櫻井の体に敵の腕がまとわりついて」「首とか穴とか大変なことに!!」「あれじゃ……もう持てないぞ!!」「首が完全に締め上げられてる!!」
――俺の親友ピエロ(心の友)が瀕死のピンチだとぉおお!!
「ダメだ……櫻井じゃ、勝てない!!」「櫻井だから生きてるものを!!」「アイツのタフさがどこまで持つか……」「いい気味だぜ、櫻井」
――ピエロ……
《
討伐は通常であれば
教職員や一部の生徒で対応する。
ちなみに俺はいつも見逃していた。
無益な殺生を好まないから。
俺って、超優しいから!
「櫻井なら見過ごしてもいいか」「あの櫻井だからな」
だが今回だけは見逃すわけにはいかん!
――どこにいる……頼む、櫻井。まだ無事でいてくれ!!
俺の学校生活を一変させる可能性を秘めた事件だから。あいつは今世紀最高のエンターティナーになるはずなのに、ここで死なせるわけにはいかない。
俺は素早く顔を動かして櫻井を探す。
「強ちゃんはあたしが守るからね!」
――お前はどうでもいい! 櫻井ちゃうやろっ!!
鼻息を荒くしているバカ巨乳が視界に入り、
いつもの天然プリっで、
俺をイラつかせる。
――くそ、こうして玉藻に邪魔されてる間にも櫻井が!! どこだ!?
俺は顔を再度動かし教室を隅々まで見渡し確認する。
――教室にはいないのか!? いずこにいるんだ櫻井!?
「くっ……っっ」
――まさか……もう……っっ
唇を軽く噛み締めた。最悪な予感が俺を包み込む。
この世界では魔物に殺されるやつもいる。
「櫻井の……大事なところに」「あぁ……櫻井っぽい」「櫻井、死んだわ」「櫻井なら致しかたない」「櫻井、アーメン」「終わったわ、櫻井」「櫻井らしい、最期だ」「櫻井、安らかに眠れ」
――もう……手遅れなのかもしれない。ガッデム。
櫻井の命の灯は簡単に吹き消さられる寸前か、クラスメート達の言葉が辛辣だ。
――
櫻井がいない人生はつまらない。櫻井だけがオレをなごませてくれる。
櫻井が不幸な目に合うのは楽しい。
櫻井の人生に幸せなことなんてない。
――櫻井もついに終わる時が来たのか……いままでお疲れ様、櫻井。
だが、ものの数秒で
――あれは……!?
その『最悪の想像』はいともたやすく
――櫻井じゃないか……んん??
ななめ上に更新されることとなった。
最悪なイメージを振り切り、
「なに……っ、なん!?」
――最悪だ……手遅れだった……っっ。
俺は窓の外に目を向けた。雨雲で光が遮られて茶色の土が黒く染まっている。
ところどころ泥濘の様に水たまりが出来ている校庭。
「あっ……あ、あっ」
――アレは……
校庭にひと際目立つ者。人型をした赤いタコみたいな怪物。
なんとなく、お目にしてはいけない感じだ。
こんなアンニュイな曇り空の下で学校という、青春の学び舎の昼休み。
ありえてはいけない、あってはいけない光景。
タコの怪物に誰かが、触手で
「あっ――いや~ん……」
数本の触手が体に艶めかしく
宙に持ち上げられている。文字どおり弄ばれている。
――ものの数分だぞ……たった数分。目を離しただけなのに……っ。
卑猥に絡みつく触手が
――どうして、どうやった、不幸?
体を、
弄び、絡みつく。
「あっ……あぁん!?」
悲鳴にも喘ぎにもとれる声を校庭から響かせる。
昼休みの終わりを告げるチャイムより何か心に訴えかける、音色。
――どうしたら、あんな姿に……
「ヤメっ、ヤメテ――!! そ、しょこは!?」
見まごうはずもない。
あの細やかな息遣いは朝の低音芸とは違う、全然違う。
――こんなことになっているなんて……
どれほどの音域を持っているのか、
なんオクターブ操れるのか、多才過ぎる。
触手プレイに汚されていく男が
「ら……らっ――」
――ほんの少し目を離しただけなのに……っっ。
高音を使ったあの官能な響きの芸は、
――ほんの少し目を離しただけなのに……こんなのってッッ!!
「ちっくしょ……っっ」
――エンターテイナーが
「ラメェエええええなのォオオオオオ!! オホォオオオオオオオオ!!」
「くっぉそ!!」
――俺を笑かしに来ている!!
多才な芸をもって俺を笑かしてくれる唯一無二の絶望ピエロ発見。
「な、なんで……っっ」
――なんで、アイツはこんなにピンポイントで!!
櫻井がもはや悲壮なヒロイン的なポジションに見えてきた。
「
――オレのツボを押してくるッッ!!
いつもアイツは俺の想像をたやすく超えてくる。
――ある意味アイツの人生はデットエンドしたのかもしれないが……
腹を抱え震える、俺を
「ぷっ……くぅしょうう……っ」
――予想の斜め上過ぎて俺は笑い転げたいッ!!
「強ちゃんは私の
「んん? お……う」
タコの怪物に怯えていると勘違いしたのか、声を強めた幼馴染。
言葉通り俺を守るつもりらしい。
――櫻井を助けるのに
だが、言っても聞かないだろうし。玉藻はいつもそうだ。
思い込んだら聞き分けがなく無邪気で無鉄砲でアホな女。
こいつとの付き合いは腐れ縁だ、小さいころからの。
嫌になるくらいコイツのことを知っている、俺は。
――仕方がない……
幸い俺の席が窓際だったのが功を
――
あの手を使うためには、
玉藻の注意をそらす必要がある。
――ここから秒で終わらせる。
「なぁ、玉藻」
簡単だ。俺は知っている、コイツを。
「ひさびさにあっちむいてホイしないか?」
唐突に俺は場違いな提案をする。友達が殺される時にあっち向いてほい出来るこの精神力。やはり、俺は普通じゃない。友達が怪物に残虐レイプされてても冷静な俺って、クールかっこいい!!
「えっ!?」
玉藻はビックリしながらも小首を傾げた。
「いいけど……いま、あっち向いてホイするの?」
「じゃあ、いくぞ!!」
「あっ……うん! あっち向いてホイね!!」
常人の反応ならそうだろう。怪物がいるのに遊べる者などなかなかいない。俺の目の前にもう一人いるようだが。とりあえず、間髪入れずに開始の合図を告げる。
「最初は!」
「あっえっ、さ、さいしょは!?」
焦る玉藻。俺は親友櫻井を助けるために早口で急ぎじゃんけんの動作に入ったのだ。俺は知っている。これは対玉藻戦においてはとても有効な手段であると。
この焦らせが抜群の効果を発揮することを。
「「ポイ!!」」
このアホ巨乳は焦ると――グーしか出せなくなる。
なので、俺はパーを出した。
「負けっちゃった……」
「俺の勝ちだ」
じゃんけんで先手を勝ち取り、
「負けないもん!」
悔しがる玉藻に見えるよう、
「アッチ…………」
ゆっくり、ゆっくりと窓側に人さし指を動かし始める。
見えるようにというのが重要なのだ。
「向いて…………」
「むむ!」
玉藻がソレを感じ取り窓側と反対に顔を動かしだす。
「むむむ」
――しかし、遅せぇ! もっと、早くキビキビ動け!
俺が大分遅く動いているというのに、ゆっくりしている玉藻にイラつきが増す。
「む~う~」
――だから朝に
時は一刻を争うのだ。あと数秒したら櫻井が尻穴から引き裂かれ
――この女は櫻井の命を弄ぶようにトロトロと!?
断腸をぶちまけるかもしれない。そんな未来が待っているというのに、
——やっとかッ!
玉藻の顔が動き視線が見えない位置に入るのを確認すると同時に俺は動作に入る。
――イマしかねぇ!!
指を急速に加速して動かす。玉藻の顔はほぼ横を向いてるので視線は外れている。なにより俺の指の動きから目を離して動いてる。ここから、俺は筋肉に指令を出す。早く動けと。
指の腹で空間を叩きつける。
――この感触……このスピード……で
だが空間といってもそこには俺の武器がある。
――叩きつける……
持ち歩く必要もなく、空間のどこでも存在する。
——クッウォラァアアアアア!
その場にあった空気を圧縮していき塊をつくり出して行く。
指先には圧縮され固くなっていく空気の抵抗を感じる。
その反発に負けずに力づくで押し返す。
反発力に逆らうように指を
「死ねぇぇエエエエエエエエエエエエ!!」
超速で振りぬく。
力強い掛け声とともに窓の外のタコに向けてぶっ放す。透明で超高速な攻撃が描くアーチの軌跡。俺が軽く投げた指サイズほどの空気の玉は外の雨粒を蹴散らし弾かれた雨水が弾け飛び3メートルぐらいのリングをいくつも作りあげる。
行方を告げていた。目標へ真っすぐ進んでいく。
「ぷぎゅ――っ!?」
タコが僅かな悲鳴を上げると共に空気がヤツの肉体を貫通。俺の攻撃を防げるほどの魔物ではない。所詮、海洋生物ごとき。人間相手では取るに足らない弱小生物。
狙ったのは敵の頭部。
――ふぅ、狙撃完了。
脳髄の裏側まで突き抜ける穴をぶち開けた。
体液が漏れ出ることも無くやつの眼球が白く変わっていく。
脳天に風穴をあけ謎の液体を垂れ流すタコは、
活動をやめ力なくその場に崩れ落ちていく。
――ミッションコンプリート。
俺が使った手は
ある奴を遊びに見せかけて殺すことを目的としたものだ。
「キョウちゃん、じゃんけん♪」
「もう終わった。それは……」
「ええ~、1回で終わり?」
残念そうにするな。
コイツは俺を守ることより遊びに夢中になってるじゃねぇか。
「ねぇ、もう1回やろうよ、強ちゃん♪」
何がもう一回だ、バカ。
「しょうがねぇなー」
仕方ないと俺はため息交じりに言葉を返す。
玉藻が意外と負けず嫌いなのを俺はよく知ってるので付き合ってやる他ない。
「やったー!」
――俺も
校庭にはタコの死骸とレイプ後みたいなピエロが転がっている。
「いくよ、強ちゃん! どっちにしようかな。アッチかなコッチかな。神様の言う通り。よし、あっち向いてぇ~♪」
「早うしろ」
「ほい♪」
「ふん」
「あ、ずるい! いまちょっと動くの遅かった!! もう一回!!」
「何度でもいいよ。かかってこいや」
俺は玉藻とあっち向いてホイの続きをし遊びに興じる。
余談だが後日、
校庭には数センチの
日本国で銃が出回るなど物騒な話だ、まったく。
数分後、
「しくしく……もう……もう……いやぁ……しくしく」
目に生気が無く服が引きちぎられたかのようにはだけところどころ何か粘液が付いた人物が皆が注目するなかで帰還した。要はタコが死んでレイプ被害者ピエロが無事に俺の元に戻ってきたということだ。
「よく無事に戻ってきたな」
俺は傷ついたピエロを優しく迎えた。
目がキラキラ光っており若干涙目のようにも見える。怖かったんだろうな。
「強……
その通りだ。
高二の春に公衆の面前で尻穴の貞操を奪われたのだからな。おまけに盛大に喘ぎまくりながら。忘れていた震えがこみ上げる。笑える。俺は笑っているのがばれない様に顔を隠す様に下に向け、櫻井に無理やり重たい雰囲気を取り繕って答えを返す。
「そう……だな、っ」
無理をしていたせいか多くの言葉は語れなかった。
「俺はもう……元には戻れない……っ」
――ぷっ! くそ……耐えろ。笑ってはいけない!
プルプルする体を無理やり強靭な力で抑え込み、
俺はやつの両肩を掴み目に力を込めて言葉を贈る。
「ただお前は生きてる……」
心配してたんだぞと、
「それだけでいいじゃないか」
俺の生活がつまらなくなることをな。
「強、お前しかいないんだッ!」
――おっと、ピエロが力強く抱き着いてきた??
「――体の
「なんか……変な言葉聞こえなかった?」「いま確かにいったよね……?」「ちょっと抱きつきすぎじゃない……体が密着しちゃってるよ」「いやにきつく抱きしめ合ってるよね……体を求めあうように」
――ちょっと、なんて言いました? コイツ?
ざわつく教室。驚く俺。抱き合ってることに反応している女子。
――ハッ、まさか!?
俺が傷ついたピエロを優しく抱擁している姿に教室はざわついている。
「あの……二人って」「
――落ち着いてとかいうお前が一番おちつけ!!
「一年生からずっと一緒にいるよね、何をするにも一緒、どこでも一緒だし……」「そうそう、男二人で一緒に昼食食べたりして……一緒に下校して」「片時も離れない感じがしたけど……フラグなの……」「特大のフラグ回収きたーー」
——昼食とか下校とかは友達なら普通じゃないッ!?
この空気はやばいと感じ取り俺は危機的状況を回避するために目と歯に力をこめる。
「ガルルッッ――!」
睨み付けて黙らそうと気付いた時には遅かった。ざわざわと感染していく見えない空気。独り身でのけ者の俺たちを見る好奇なニヤニヤとした目線。事実をねじまげて会話のオカズにするようなボッチイジメ炸裂の瞬間。
「「「やっぱり!?」」」
――やっぱり、ちゃいますッ!
痛い疑惑の視線が俺たち二人に降り注ぐ。
「友よ……俺の愛したかけがえのない……友よッッ!!」
感動の
――オイ、ピエロ!
俺達ならホモ疑惑も若干しょうがないところはある。
――気が動転しているのはわかるが誤解を招く発言はやめてくれ!
なぜなら学園の殆どがカップリングされている中で、
俺達にはヒロインがいない。
――だから、早く離れてくれぇえええ、誤解が加速する! それとヌルヌルして気持ちわりぃし、民衆の視線が刺って痛いんだよぉおおおお!!
――心が痛烈に痛いぃいいいいいい!
「超怖かったよー! 体の友達!!」
――コワイよ! お前が!!
親友の何の気なしの発言がコワイ。
だが、俺はすぐに気づいた。
――二回目、まさか、コイツ狙ってやってる!?
――尻穴貞操を失った自分と同じように俺の青春も一緒に
――デットエンドさせる気かッ!!
「お前と俺は体の友だぁあああちぃいいいいいい!!」
――アァアアアア、今すぐコイツを殺したいッ!
――絶対狙ってやってる!!
――三度も繰り返すあたり意識的に間違えてやがるッ!!
一刻も早く離れようとする俺を逃がさんと言わんばかりにピエロがきつく抱きしめてくる。ついにピエロは客まで巻き込んで楽しませようとしている。俺を巻き込んでホモ疑惑で……
「熱い抱擁!」「始まったね!」「よかったね、二人とも!!」「末永くお幸せに!!」
観客を喜ばせるとは危険だ。大変危険だ。
俺もいち観客だ。なんならVIPだ。
――客イジリはダメだってことを今度調教しなければ……っっ。
俺の悲しみを表すように天から雨は降り続く。
――タコと一緒に殺しとけばよかった……っっ。
心の雨にさす傘はない。あぁ、無常なり。
視界の隅で天から悲しみの雨が降る中、
校庭ではタコの死骸が黒服の自警団によって掃除されていた。魔物死体が回収されていく。魔物の死体を使って対魔物兵器とかの研究をしているらしい。
掃除業者もといい、
黒服の自警団の名は『対魔物用組織ブラックユーモラス』。
転生者のエリート中のエリートをかき集めた自警団。そこに入れば日夜魔物との戦いを強いられる、最悪のブラック企業。企業名からしてもうヤバイ。ブラックと
無理という言葉をこの世から無くそうとしている悪しき集団である。
ただ学生達には大層人気な職業だ。小学生の間では成りたい職業No.1になるほどの。マカダミアキャッツでも不動の一番人気の職業。
俺からしてみたら勘違い職業No.1なのに……。
俺は絶対にやらない。そもそも転生者じゃねぇし。街の平和とかどうでもいい。俺さえ平和なら。だが、ホモ疑惑で俺の平和は死んだ。まぁ、どうでもいいけど。もとから普通じゃねぇし、平和とは程遠いし。
もう青春も失ったんだから……。
「強ちゃん、一緒にかえろう~」
酷い目に合わされた1日がやっと終わり下校時間を迎えた。
俺が帰り支度をして席を立ちあがると後ろから呼ぶ声。
「強ちゃん♪」
振り向くと満面の笑みで鞄を両手で持って右に左に揺れている。そのたびに胸元の制服が窮屈そうにビンタされているように見える。この女の胸はブラック企業にいる社員に近いものがある。圧迫面接してやがる。
「どうしたの? 早く行こうよ」
「おぉ……いくか」
それにしても玉藻はいつも急だ……こうやって勝手に俺を巻き込んでくる。
こいつがいる世界で俺は一人になる機会が激減する。
去年とは大違い。
というか、こいつは彼氏と帰らなくていいのだろうか?
「美咲ちゃん、迎えに行かないとね♪」
「わぁってるよ」
まぁ俺とはご近所さんで帰り道が一緒だし手越とは方向が違うのかもしれないし。しょうがない帰ってやるか。渋々玉藻と並んで歩いて教室から出ようとする際に、ふと櫻井を見たら、
「なぜ、俺だけ……っ」
ブツブツ呟き目を血走らせ一心不乱に手書きで手紙を作成しているのが目に映った。その男の体からどす黒いオーラが見えるのは目の錯覚だろうか。それとも復讐心に燃えている男の野心が形になったものだろうか。
真偽は分からない。分かるのは、
「いつも俺だけ、こんな目に――」
白い封筒が不気味に机の上に一列に積み上げられている。
もうすでに手紙は大量に仕上がっているようだ。
あのピエロ頑張り屋さんだ。おもしろいことを見つけたら一直線。
――ぜったい何かやらかすな、
――みんなを楽しませるために、今日も頑張れ絶望ピエロ!
ピエロの次なる行動に胸をトキめかせつつ、
自分の教室を出て階段を上がり、
「お~い、美咲ちゃん。愛するお兄ちゃんが迎えに来たよ!!」
美咲ちゃんがいる一年生の教室に玉藻と一緒にお迎えに上がった。
「あれって……」「静かにしてろって……殺されるぞオマエ……」「息を殺してろ……下手に関わると死亡遊戯されちまうぞ……」「視線合わせたらダメらしいよ」「死んだふりしないと喰われるって」「隠密スキル発動」「ワタシにも隠密かけて!!」
またざわつく教室。けど、ココは俺のクラスではない。
美咲ちゃんの教室で、やたらざわついている。
――うるせぇな……毎度。
俺が迎えにいくといつもこうだ。
このクラスは
これぞ、我が妹の後光よ。
目線は俺と玉藻に向いているけども。
「おねぇちゃん、いま行くね」
美咲ちゃんが鞄を持って俺の元に走ってきた。頭の飾りが揺れる。
揺れるサクランボは乙女の証。あー癒される。まじでエンジェル!
「さぁ、おねいちゃん帰りましょう♪」
――エンジェル……。
「お兄ちゃんもいるよ……」
「そうだね、美咲ちゃん。帰ろう~」
「無視かいッ!?」
仲良く整列する二人は帰ろうと歩き始める。
二人の後ろで俺は
――どこだ……どこにいる。
一瞬足を止めて、
「…………」
――どの野郎だ?
いったん教室を振り返る。
「どうしたの、強ちゃん立ち止まって?」
「いや、ちょっと美咲ちゃんが生活をしている教室をよく見ておこうと思って」
「お兄ちゃんはいつも迎えに来た時に見てるでしょ……いいから早く帰ろうよ」
「わかったよ……美咲ちゃん」
――ちっ……うまく逃げられた。次こそは必ず見つけ出す。
美咲ちゃんに促されクラスを後にする。
さっき俺がしていたのは、
美咲ちゃんと同じ教室にいる男子チェック。
俺は4月から『ある人物』を探しているが特定できずにいた。
美咲ちゃんと異世界に行った相方である。どこかにいるはずなんだ、美咲ちゃんの主人公が。俺が家に招待していいと言っても美咲ちゃんは連れて来てくれないので、自ら出向くしかないのが現状だ。
灯台下暗しと言うし意外と近くに隠れていると思っている。
この学園の中、さらに言えば一番疑わしいのはこのクラス。
なぜならマカダミアではクラス決定の際、主人公と嫁は同じクラスに選ばれる。どういう仕組みなのかはよく分からんがクラス内がカップルだらけなので間違いない。
視覚に捉えた容疑者たちの顔を俺の脳内ブラックリストで最新版に更新していく。
髪型を変えても無駄だ。
うちの妹に手を出す奴は見つけ次第――オレが抹殺してやるからな。
「玉藻ちゃん、学校は慣れた?」
「うん、クラスの子たちと話したよ。今度の日曜日にお出かけしようって」
殺意を胸に抱きながら傘をさし住宅街の帰り道でエセ姉妹のBGM会話を聞く。それがこれからの日課だろう。中学時代もそんな感じだったし。
「そういえば、お昼に校庭で魔物がでたけど……誰が倒したんでしょうね?」
――美咲ちゃん、俺だ!
声に出さずに心で答える。出来ればちょっと褒めて欲しいとかもある。
「誰だろうね?」
――おう……この女、話を遮る達人か?
「強ちゃんは私がしっかり守ってるから安心して、美咲ちゃん!」
――玉藻……お前は俺と遊んでただけだ。守っていたかは疑問だ。美咲ちゃんは答えを返さずに黙りこんでいる。朝と同じようにまた遠いところを見てる……洗濯物が大変なことになっているのか!?
「美咲ちゃん、洗濯物か!?」
「干してないよ……今日は雨の予報だったから」
――うちの妹は兄より優れている。間違いない!
「さすが美咲ちゃん!」
≪つづく≫
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