3.デットエンドからのおごりだ。食っとけ。

第8話 魔王程度を倒せないとでも

「あぁ最高だ……」


 布団にまどろみ芋虫の様に体をうねうねさせ、堕落した生の快活かいかつに身を預けていた。生まれたての芋虫が自分よりも大きい葉っぱの中で身をくねらせるように。


「あぁ最高だ!」


 今日は休日で天気もいい。毎日休日でも俺は構わない。むしろ、それを熱望する。365日が年中完休ねんじゅうかんきゅうという最高の状況を。


 二度と普通の日がこなくても大歓迎する。


 陽気もちょうどよくて、最高過ぎて、天にも昇っちまいそうな感じだ。


「お兄ちゃん休日だからって、ゴロゴロしてちゃダメだよ!」


 そこへ天使が舞い降りた!


「おぉ、ラッパを持ってる!」


 美咲ちゃんがラッパを片手に持った姿が布団被りながらでも見える。


 まさにマイエンジェル!


 それにしても天使のラッパ好きは度を越している。


 飛ぶときも肌身離さずラッパを持っていく。ただ全員どいつもこいつもラッパしか持っていない。多分出会った瞬間にお互い顔を見合わせて「お前もラッパなの?」とか「俺、ラッパしか持ってない……」みたいな会話をしていることだろう。


 吹奏楽はできない無能な天パー集団――それが天使。


 ただウチの天使は違う。


 家事全般出来ちゃうんだからねッ!


 そんなことを布団でゴロゴロしながら考えていたら





「起きろっぉおおおおおおお――っっ」




 ブッボォオオオオオオオ!!と勢いよく天使のラッパが炸裂した。


 天使のラッパとはヨハネ黙示録に記されている世界を終わらせる楽器。七種類あるようだが、未記載の第八のラッパがあったようだ。終末ではなく週末のラッパ。第八のラッパが俺のお布団という理想郷アヴァロンを崩壊させたから間違いない。


 理想郷を失った俺は朝食をすませた。


「まったく、お兄ちゃんはいつもいつもダラダラしすぎ~」


 後片づけも美咲ちゃんがしてくれているので俺はソファーでゴロゴロ。


「もー、美咲がいなかった1年間どうやって過ごしてたの?」


 食器洗いをしながらソファーで堕落する兄に美咲ちゃんのありがたい説法が説かれ始めた。若干不機嫌そうだがお兄ちゃんを想っての事に違いない。


 なんて愛らしい妹なのだろう……。


「コンビニ弁当とか食べてたよ」


 俺は過去を思い出し暗い気持ちになった。


「っ……美咲ちゃんの手料理に比べれば残飯みたいなゴミめしを……」


 本当に大変だった。


「ホント大変だったよ……何もできなくて……っ」


 何も誰もしてくれなくて一人で全部やんなきゃいけなかったから。


「お兄ちゃん、いっぱいしてたでしょ……」


 家政婦いもうとがいない生活なんてもう二度と味わいたくない!


「家を廃墟はいきょにして、学校で暴れて……」

「暴れて? 遊んでただけだよ、みんなと仲良く♪」


 にこやかに返すと台所から美咲ちゃんのため息が聞こえた。妹の寿命を減らした罪悪感に少しかられながらも、俺は美咲ちゃんとの感動の再会を思い出しながらゴロゴロする。


 美咲ちゃんが異世界から帰って来たのは


 2016年4月――


 あの時の感動を俺は忘れない。荒廃した廃墟に天使が舞い降りた。俺は涙ながらそれを迎え異世界からから戻った来た天使もひどく感激していたことは覚えている。


『お、おぉ、お兄ちゃん、みみぃ、美咲のおおうちがぁ……ぁぁ』

『ん? どうしたの?』

『おおうちがぁ……ぁぁ』

『そうか……くすん』

『おおうちがぁ……ぁぁああああ!』


 懐かしの我が家を前に激しくぶるぶる震え、


『は、はぃ、廃墟はいきょになっちゃったの……っ?』


 素っ頓狂なかわいい声を上げた天使の美咲ちゃんを忘れるわけもない。


『ちょっとゴミが扉付近まであって壁に穴があいて……』


 俺は状況を軽くさらっと説明し始める。


『床が変色して雨漏りして窓ガラスが全て割れてるだけだけど』


 一年で結構変わるものだ。美咲ちゃんがいなかったから家もげんなりしているのだ。仕方ないことだ。何よりも美咲ちゃんも久々のお家で感動のあまりに何度もお家がと繰り返している。


『ここが美咲ちゃんのお家だよ♪』


 俺は笑顔で妹を向かい入れる。おかえりと。


『老朽化って怖いよね♪』


 一年ぶりである兄と妹の感動の再会に俺は酔いしれる。


『それより、おかえり! 美咲ちゃん!』


 泣きながらガシッと妹の腰にタックルするように抱き着いたが、


『愛してるよぉおおお!!』


 美咲ちゃんは感動のあまり立ち尽くしていた。地面に鞄をボトンと落とし、


『そう……』


 懐かしの我が家を生気を抜かれたようなまなこで見ている。


 ただ茫然ぼうぜんと我が家を眺めていた。


 無理もない。


 異世界で精魂尽き果てる程に疲れて帰って来たのだろう。


『へぇ……ぇぇ』


 一年ぶりの兄との再会が安心をもたらしたに違いない。この世のものとは思えない綺麗な一滴の水滴が美咲ちゃんの生気を失くした瞳から、溢れ出ているのが何よりの証拠。


『美咲ちゃん!!』

『…………』


 まさしく感動の兄妹の再会。


 ただ、異世界に行って確かな収穫はあったようだ。美咲ちゃんはハッピーな能力を身に着けて帰ってきている。それは俺に与えられた特権ともいえる。家政婦様の御業は兄にとっても有益に他ならない。


 美咲ちゃんの能力は≪復元ふくげん≫。


 壊れたものを元に戻せる永久機関である。


 一家に一人は美咲ちゃんが必要であるがこれは俺だけのハッピーレアシスター。取りにくるやつがいたら、強奪者スナッチャー抹殺ジェノサイドをするのは目に見えている。


 兄の愛は地獄の底より深いことをその身に刻んでやろうと思ってる。


 ――ブッ殺してやるよッ!


 爪が伸びた手を野望に満ちて握っていると、


「今日は卵の特売日……お一人様三つまでか。キュウリも特売で安い」


 妹の何気ないつぶやきが聞こえる。


 ゴロゴロして堕落しているとあっという間にお昼頃になっていたようだ。


 美咲ちゃんが買い物にいこうとテーブルの上にチラシを広げ、


「ここで野菜を買って、次に卵を二パック」


 赤ペンでチェックし始めている。


「あとドレッシングが切れたから新しいのを買いたさなきゃ」


 リズムよく赤ペンで購入するものに丸を付けていく姿は感慨深い。


 一回だけ、美咲ちゃんのその姿を褒めたけどスゴイ怒られったっけ。


 安いものを見つけてくる天才という意味合いで「美咲ちゃんって、ほんとドケチだよね♪」と笑顔で言った言葉がスゴイ眼つきで返答が返ってきたのを覚えている。


 あんな妹の眼をみたのはその時が初めてだった……。


 それ以来、二度と俺はという言葉を使わない。


 アレは言ってはいけない言葉だ。


 それにしても、


「豚肉が100gで98円……コレはいいかも。こっちのブラジル産の鶏肉も安い♪」


 いつ嫁に出しても恥ずかしくない妹。


 けど、お兄ちゃんは美咲ちゃんを守るよ。悪しき野獣たちの手に落ちないよう。この家という城から危険がいっぱいな外に出さない様に騎士ナイトのように姫を守り続けるからね。


 箱入り娘を守る段ボール警備員になるのが俺の夢です!

 

 あとは男という害虫のハンターになるのが兄の使命か。


「美咲ちゃんは」


 世の男を全滅ぜんめつさせるか……


「『ぜ』と」


 殲滅せんめつするか……


「『せ』と」


 姿かたちも残らないよう、滅殺めっさつするか……


「『め』だと、どれが一番好み?」

「どれも好みじゃない」


 こちらに顔向けずに即答された。


 そうか、しょうがない。どれも好みではないようだ。違うものを考えるか。


 削除デリートというのはあるな、ふむふむ。


 時計の音が会話の無い静かなリビングに響く。


 美咲ちゃんを眺めながら俺もチクタクする。


「うぅーん、こっちのスーパーの方が20円くらい安いかな……」


 チラシを熱心に見ている妹。次第にソファーに寝転んでいるだけの怠惰な心が感化されていく。夕飯の買い出しってこんなに大変なものなのか。


 ――いつもお兄ちゃんの為にありがとう、愛してる美咲ちゃん。


「美咲ちゃん、お昼は」


 愛する妹のけなげな姿に兄として心を打たれ始めた。


 ――よーし、兄らしいことをしよう!


「お外に食べに行こうか!」

「ん?」


 ――ソファーから起き上がり、兄の誇りを見せよう!


「お兄ちゃんのおごりだ!」

「えっ!! お兄ちゃん、お小遣い残ってるの?」

「あるよ……まだ」

「ホント! やった!! やった!!」


 外食ごときで小っちゃい体をいっぱい使って喜びを表す様に両手を振り上げ飛び跳ねる妹をみて、兄は……兄は……うれしゅうございます。


 ほろっと涙が出そうです。


「すぐに着替えてくるね!」


 うちの妹は世界一かわいい。


「今月のお小遣いはもう使って無いけど、」


 その妹の為なら多少の犯罪に手を染めることも兄はいといません。


「どうにかせねば……妹の為に」


 去年一年間の必死の活動で得た隠し財産。


「たしか、まだ残ってるはずだ……」


 カツアゲ貯金というのが兄の誇りです。


「あった。豚の貯金箱」


 必死で汗水たらさせて脅して貯めたお金です。


「破壊するか」


 健気な妹の為に使います。いいよね。


「数万は入ってるからな」


 愛する妹の為に犯罪に手を染めてしまう兄。なんてお兄ちゃんらしい。


「俺って立派に兄貴をやっている!! お兄さまの鏡!!」


 カツアゲ貯金を元手に愛する妹と街へ繰り出す。ここ世田谷区駒沢では大抵のものが高い値段で手に入る。広い綺麗な公園もあり街の治安もいい。金持ちというステータスの塊がいるのが、この街。


 街中にはいろんな人種が溢れている。


 中国系からアメリカ系の黒人さらにはエルフや猫耳を付けた亜人。みんなが洋服を着用して歩いている。たまに鎧を来てランニングする輩もいないことも無い。それより問題だと俺が感じるのは帯刀して歩く輩である。銃刀法違反という法律があったはずなのだが、いつの間にかなくなったらしい。


 どうにも、異世界と現実が混合されて形が定まっていない感じ。


 街並みは地球でビルや商店街などがあるのに歩く人の中に異世界人種が混じっていると云ったアベコベ感。時折魔物も混じるので、もはや闇鍋に近い世界観。


 ――もしかして、異世界より異世界じゃねぇのか?


 けど、それも仕方がないこと。


 まだ、あのミレニアムバグから十数年しかたっていないのだから。


 それでも何とかしてしまうのが人間の適応能力の高さ。違和感を違和感として感じなくすることにたけては人間の右に出る種族はいない。


 何事も見て見ぬふりをするのは


 我ら日本人が、


 もっとも得意とするところなのだから!


 わずか十数年でみな当たり前の様に過ごしているのが証拠だ。


「美咲ちゃん、なに食べたい?」


 唐突に聞いてみる。


 俺が食べたいのは美咲ちゃんの手料理。それ以外はこの世に欲しいものなどないが、今日は妹様感謝祭。美咲ちゃんの欲しいものを与える日。


 要望を確認しなければと思った次第だ。


 俺って、出来る男だから!


「どうしよかな~?」


 我が妹は目を輝かせながら、あっちこっちのお店に視線をめぐらせていく。


「あっちかな、こっちかな♪」


 小さい体で口に指を可愛く当て腰を屈めゆらゆらと迷っている。


「それとも、そっちかな♪」


 そんな、美咲ちゃんきゃわいい!


割烹かっぽう料理とかもいいね。それにあっちの料亭も捨てがたい!」


 ちょっと……我が家の経理担当……??


「迷っちゃうね、お兄ちゃん♪」


 お兄ちゃんの響きは可愛らしいくて微笑ましいのですが、


 あきらかに渡されているお小遣いより、


 目に見えてオーバーな案件では!?


 でもギリギリ大丈夫か。カツアゲの副業実績がなかったら破綻しておりますぞ、


 箱入り娘。カツアゲには税金がかからなくてよかった。


 これがタックスヘイブンってやつか。いや脱税か?


 どこかへ確定申告ってやつに行くモノなのだろうか、カツアゲ?


【カツアゲで二千万稼ぎました!】


 オレオレ詐欺とかの確定申告って、


 どうなってるんだろう……確定申告は不要なのか……するわけねぇか。


 カツア――カツアゲ!? はぅッ!!


 唐突に稲妻が落ちたような感覚が俺を襲う。


「美咲ちゃん……」


 ある食べ物が脳裏に浮かび上がった。


「トンカツとかはどうだい!?」

「え? 脂っこいの嫌だよ……もっと上品なものがいい」


 あっさり却下された。稲妻的閃きはあてにならん。


「さいですか」

「さいです」


 人生地道が一番ということだ。去年地道に働いたから、イマがある。


「あっ、さっぱりでお寿司とかいいかもね! 決定♪」


 こうして、総務部により決定が下されので社員は方針に従うのみ。


「了解、寿司だね!!」


 しょうがない。今日のお昼ご飯はお寿司です。


 寿司屋平八に向かいます。


 寿司屋平八へいはちは、創業600年で現三十五代目がまかないをつくり、三十四代目が寿司を握る超老舗しにせ店。味もネタも一級品と見せかけているが実はどうなのか知らん。


 そこそこ美味いことは確か。


「おい、そこの女!」


 寿司屋を目指す仲のいい兄妹に向かって声をかけてくる奴。


「俺の奴隷にしてやる……」


 なんと失礼な物言い。カチンと殺意が湧きました。


 俺と妹は、すし屋に行くのを邪魔する声を出した主に眼をやる。


「この魔王ディアブロの異世界初の奴隷になることを光栄に思うがいい! ハハハ!!」


 美咲ちゃんに向かって指をさし、へんてこな外套マントをした角が生えたおっさんが暴言を吐きまくっている。殺されたいようだ。変質者ではあるがコスプレではないようだ。


「おい、ちょっとコッチこいや……」

「なんだ、キサマ!」


 角がちゃんと頭に突き刺さっているのだから。


「キサマ、何をッ!?」


 なぜ分かるかと言うとだ。


「離せ、不敬だぞ!!」

「こっちは不快ふけぇだ……」


 俺が角を引っ張って路地裏に誘導しているからである。


 この野郎、うちのエンジェルを奴隷にするとか、


 ふざけたことを抜かしよってからに。うちの貧乳の断崖絶壁だぞ、コラ。


 おまけにソレが妹を


「人間風情が気安く触れるでないッ! 即刻離せ!」


 世界一愛する兄の前だと言うのにッ!


「俺が世界全土を恐怖に震わせた魔王ディアブロと知っての狼藉か!?」

「知らねぇよ……そんなヤツ。俺は恐怖など感じない」


 人気のないビルに連れ込んで角を乱暴に振り払うと


「く……っ」

「殺す」


 ヤツはよろけながらも体勢を整える。俺はそのふざけた野郎の前に立つ。


「テメェこそ、俺を誰だと思ってやがる……」


 殺意を抑えぬ俺を前にしてヤツはクックックと嗤いだした。


「たかだか人間如き分際でこの魔王ディアブロを殺すだと。よもや、どうにか出来ると思っているのか、このディアブロを……ニンゲン如きが?」

 

 どうにかできる、出来ないの次元ではない。


「笑わせてくれる」

「笑えねぇよ……コッチは」


 ヤツは悲しいことに理解していない。


「妹に向かって奴隷宣告された怒り心頭のお兄ちゃんが……」


 自分から魔王と名乗ったことの意味を。


「そこらへんの魔王程度を、どこぞの魔王程度、魔王様如き存在を、よもや」


 そして、俺に対して行ったの意味を。





「倒せないとでも思ってんのか、キサマ?」




 俺はヤツの挑発に眼を見開いて挑発を返す。もはや、ぶち切れ案件。


「世界一のお兄様が捻りつぶしてくれるわぁッ!」


 相手が魔王キャラで来るならこちらも魔王キャラで対抗。というか、奴如きの存在などもはやゴミムシにしか見えない。プチっとこの世から消してくれる。殺す!!


「面白い! ならば、この魔王ディアブロが受けて立とう!」

「受けるんだな……わかった、わかった」


 受けるということは、


「この魔王……ちょっ!?」


 殴られる覚悟は出来たということ。


ジェノサイド殺す――」


 俺は助走をつけてヤツを殴りに行く。


 試合のゴングを鳴らしたのはテメェだ、魔王。


「はやっ、卑劣!?」


 もうすでに勝負はついている。出だしの反応が遅れている。


 先刻、受け止めると言うたくせに卑劣とは何事。


「黄昏に抱きし、闇の混沌、きょ、きょく極だぃ、魔とう――!」


 何を考えているのか魔法を唱えようと口を激しく動かしている。


「ちょ、ちょ、マッテェ!!」


 魔法を使うのにペラペラしゃべる奴が多い。何を言ってるのか意味不明で聞き取れないが、魔法を使われると面倒なこともあるので早急に殺す。


「ちょ、マッテェイ!!」


 ぶん殴って、タコ殴りにして二度と喋れない様に。


「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す」


 右ストレートで殺す。妹を愚弄したコイツを完膚なきまでに右ストレート、左フック、左右のボディ、馬乗りになって左手で角を掴んで右で殴りまくって殺す。


 オレは殴るだけ。


「殺す――」


 真っすぐ行って右でぶっ殺す!!





「アガペェエエエエエエエエエエエエエエエエ―――ッッ!!」



 

 ――ウルセェ魔法だな……なにっっ!?


「やべっ――!?」


 思わず声が出てしまった。俺の予想を超える攻撃だった。


「やられた―――クッッ!!」


 なんという速さで恐ろしいことをしてきやがる。さすが魔王。


 こっちの予想を超えて恐怖を与えてきた。


 これから妹と外食に行く予定だったのに……


 こんな魔法があるなど……


 聞いていないッッ!!


「チックしょぉおおおおおおおおおお!!」


 こんな魔法があるなんて!!








「お兄ちゃん、なに……その血の量……っ?? えぐ……」


 俺の血だらけのティシャツを見て、


「ひどい格好……」


 美咲ちゃんが絶句の表情を浮かべていた。


 俺は健気に満面の笑みを浮かべてみた。


「美咲ちゃん、ただいま!」

「ちょっと、服に血が付き過ぎだよ……それじゃあ」


 瞬殺だった。所詮は魔王。愛の拳を前にして立ってられるはずもない。愛の重みを理解していない。兄弟の絆が生んだ奇跡のパワー。魔王などと云う穢れた存在など兄妹愛で浄化できる。


「お店でご飯食べられないでしょ!」

「知らなかったんだよー、まさか……」


 俺は唇を尖らせる。戦いの最中に予想外の事態が起きたのだ。


 とんでもねぇ魔法を撃ってくる魔王だった……。


「自ら頭部を爆裂させる自爆魔法があるなんて……」


 頭部をこの世から消し飛ばすつもりで殴った瞬間に、


「恐るべし……極大魔法ちょマッテェイアガぺ」


 電車に轢かれたプチトマトのように弾け飛ぶものだから――


 こちらも困ったものだ。回避不可能だった。至近距離での自爆など。


「無駄に効いたぜ……くっ」


 ダメージはないもののお洋服を台無しにされ、


「何が魔法よ……」


 これからの予定をどうしよう。


「どうせ、お兄ちゃんが頭部を一発ぶん殴ったただけでしょ……もー!」

「あまりに勢いよく弾け飛ぶから浴びちゃった、テヘッ!」

「コッチきて、早く」


 路地裏に兄をこまねきして、


「ティシャツ脱いで!」


 脱がそうだなんて……美咲ちゃん大胆!と、


「復元するから寄越しなさい」


 ふざけると怒られるのはわかっているのだ。


「はぁーい♪」

「まったく……もー」


 俺は指示通りに言われたまま路地裏に入りティシャツを手渡す。すると美咲ちゃんがティシャツの返り血は能力で元通りにしてくれた。返り血が無くなってティシャツは元通り。


「気をつけてよね、もー」


 これがハッピーレアシスターの力ぞ!! それにこれで、


「うん、次は魔王に触れることも消し去る方式にするね!!」


 妹とのご飯にいけるぞ。やったー!



《つづく》

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る