第178話 第二の試験は岩!
次の試験場所では三人組の試験官が待ち構える。受験者を待つのは女性の魔法使いと剣士とタンク。三人の横にはいくつもその場に作られる球体の岩。岩には縄が巻きつけられ両端の紐が垂れ下がる。
大小さまざまな形にその数はゆうに数百を超えている。
「あー、早く来ないかなー」
「もう、そろそろ先頭は到着するだろ」
魔法使いの待ちわびる声に返す剣士の横でタンクが岩を背に縛り付け体を鍛えている。見た目では人の顔面ほどの大きさしかない岩に歯を食いしばり、筋肉を硬直させ一歩一歩踏み出している。
「気配が近づいてきてる……そろそろ準備始めるぞ」
剣士の眼に入る受験生たちの気配。目線の先で山の木々が微かに振動して揺れている。魔法使いがタンクに声を掛ける。
「そろそろ来るよ、岩井ー!」
「わかった、わかった。いやー、
タンクは背から乗っている岩を地に落とすと地鳴りが鳴り響く。その岩だけは他とは違う。タンクが待ち時間暇な為に魔法使いに重量をかさましして貰ったもの。見た目と質量が合っていない。
筋肉をほぐしながら近づいてくる岩井に剣士は眉をしかめる。
「いい運動になった」
「岩井……一応、それ試験用の道具なんだからな。勝手に使うなよ」
「武田、そんなこというても、誰も使わんだろう。この一番小さい岩など」
頭部大の大きさ岩がその中で一番小さいサイズ。そこから始まり人を超える大きさの岩がゴロゴロとある。一番大きいサイズで直径五メートルを超しているサイズ。
ここにある岩の数々は試験用の道具。縄を付けているそれを体に括り付けるためのもの。これはここから基礎体力試験を受けてる間ずっと付けなければいけない重し。そして、試験の最後で重さを加点しステータスに付与するためもの。
岩井の言うことは正しい。これが試験の一部であると考えるならば楽をするような道を選ぶものはいない。誰もが何かあると思い重量の大きいものを選ぶ。一番大きいものほと得点も大きい。
だが、そんな単純な試験を用意するマカダミアではない。
剣士が声を上げる。
「いよいよ、第一陣のご到着か」
待ち望んでいた試験官三人の前に現れる、
「小泉シャン、なんかたくしゃん丸い岩がありますよ!」
「これも試験の一部ってことか……」
小泉と二キル嬢。沢山の岩を前に混乱している。縄が付いた不思議な岩たち。魔法使いが二人に近づき、
「どれでも好きなものを持って行って。だけど、必ず試験最後までこの岩を持って行って頂戴」
試験内容を説明する。ただ、それはまだ途中の説明。
「重すぎたら途中で削ろうが何しようが構わないけど、必ず最後まで持って行ってね。持ってないと失格だから」
小泉と二キル嬢が説明を聞き終え岩を見上げるように見据える。
「二キル、一番重いのがいいってわけでもないみたいだね」
「そうでしゅね。これは自分にあったものをどう選ぶかという問題です」
「失くしたらってことは守りきる必要があるかもしれない」
「それだけじゃないでしゅ。試験の終わりがわからない以上、変に重たいものを選んでもいけないみたいです」
二人の相談内容に魔法使いは何度も頷く。
——そうだよ、そうだよ。考えるんだ。どこまで行けば終わりなのかもわからないんだから。
マカダミアの試験内容は明かされていない。最初に指示があったのは平原を突破して看板に沿って進んでいくことだけ。あと何個試験があるのかも受験生たちには明かされていない。
小泉と二キルそれぞれ岩を決めて縄を自分の体に括り付ける。その姿にタンクの眼が驚きを見せた。
「見かけによらず……やりおるな」
小さい体の猫耳少女が一番大きい岩を選択する光景に驚いた。横にいる塩顔男子は中くらいを選択しているのに迷わず一番大きいものを選択する器量。自分の力によほど自身があるといった姿だった。
驚くタンクに剣士が近づいてく。
「あの耳、獣人だろうな」
「可愛らしいが獣の血を引く者か……」
獣人とは獣と人間のハーフである。ネコ科の血と遺伝子を受けつぐ小さな娘。人間の見た目とは別に異常な力を宿す。それは人間とは異なる種族。
「いきましょう、小泉シャン!」
「いこうか、二キル!!」
二人は準備を終えて走り去っていく。岩という重しを感じさせないような軽い足取りで山へと消えていく。それに遅れて続々と受験生の第一陣が突入してくる。魔法使いの同様の説明が受験者に飛ぶ。
誰もが岩の前で思考を重ねる。単純に見えて複雑な問題を前に考え込むものと悩まずに直感を信じて選択するもの。価値観の違いが多くの岩を選ばせる。亡くなった岩は魔法で補充してそれを剣士が削り、タンクが運んでいく。
三人が流れるように作業をすることでドンドンと試験が円滑に進んでいく。
「サエ、起きろ! もう次の試験についたぞ!!」
「あれ……焔ちゃん……?」
精霊の背で気絶していた気弱な少女は目を覚ます。あまりのスピードで移動したもんだから意識を失っていた。
「サエ、これは俺じゃ無理だ。持った瞬間に岩を溶かしちまう」
「どうしよう……」
「これ系はノームの出番だろうな。おいらは消えるぜ、マスター」
精霊は助言を残しマスターを地におろして姿を消した。サエは焔に言われた通り、胸に手を当て呼びかける。大地の精霊を召喚する。
その姿は小人の様な老人。足首ぐらいの身長しかない頼りない老人。
サエはしゃがみ込んでノームに願いを伝える。
「マスター様、及びですじゃい?」
「ノーム、お願いがあるの」
「なんです、なんなりとお申し付けくださいですじゃあ」
「あの岩を持って運んで欲しいの」
サエは一番大きい岩を指さしノームに指示を出す。老人は自分の体の数百倍はあろうかという岩を前にごじまんの白ひげをひと撫でして主人へ答えを返す。
「お安い御用ですじゃい」
小さな体で走り岩の下に隠れるようにして潜り込む。まるで人間が隕石を持ち上げるように
「ほいですじゃああああああああ!!」
その老人の体で岩を持ち上げる。小さな体から想像もできない力。大地の力を借りた精霊は力自慢の老人。サエが走る後を岩を持ってついていく。魔法使いは精霊使いの迷いない行動に笑う。
「それでいい」
自分で持たない行為が反則だとはだれも伝えていない。どんな能力を使ってもいい。どんな手を使ってもいい。言ったことは最後まで持っていけということだけ。結果を出すことだけを求めている。
「ミカ追いついたよー」
「あら……ミキさん来ちゃいましたの?」
「なに、来ちゃいましのって!?」
金髪貴族と僧侶は岩を前に再会を笑い合う。ライバルとお互い認めているからこそ、競争が二人を熱くしている。
「これは貴族様にはキツイ試験だね、おらよっと!」
僧侶は迷いなく一番大きい岩を選択して体にくくりつけ持ち上げて、貴族にふーふんどうだと見せつける。呆れた様子で貴族はその力自慢に返す。
「相変わらずのゴリラっぷりですこと……」
「ミカ、何て言った!?」
同じく大きい岩を選択し貴族は近づいていく。だがそれは彼女の筋力では到底持てないもの。だが物怖じしない姿で僧侶に語りかける。
「脳まで筋肉で出来てるのかしら、貴方って人は。淑女らしくないわね」
「淑女様には出来ないでしょ、こんな芸当は!」
「見ておきなさい――」
僧侶が出来るはずがないとバカにすることに優雅に立ち向かう。指先を岩に向け、彼女は目を閉じ詠唱を開始する。マナが反応しその金髪のツインテールを巻き上げる。彼女の数式によって世界は変わる。
「
岩が白く光り何かが起きている。重量を操作したのだ。試験官の魔法使いが重くする魔法を使ったのとは逆である。質量を極限までに軽くする魔法。羽毛のように軽い岩を自信満々に片手で
「こういうのがスマートなやり方というものですよ、ミキさん」
「なぬっ……ぐぐ」
持ち上げて小ばかにしてきた僧侶を見返す。僧侶は歯を鳴らし悔しさを噛みしめる。
「まだ次の試験があるもんね!」
「ハイハイ」
僧侶と貴族は次の試験へと向かっていく。そこに遅れてクロさんが到着した。
「うわー……ダルそう……」
見るからに自分向きでない競技。なんとなくデカいものを持ってく人が多いのが目に付く。だが黒猫は無理をするのを好まない。何かあった時に無理はたたる。万全であることが重要なのである。
「中くらいがいいか」
持ちやすそうな岩を体に括り付け移動をしていく。
次々と岩の選択を終えて次の試験に向かう受験者たち。様々な考え方を披露してくれる姿に魔法使いは微笑みを浮かべる。
「順調だね、みんな頑張ってね」
この試験での脱落者などはいない。それはこの先でしか起きないものだから微笑ましくも見守ることができる。選択の速さをとくような試験。自分で考え答えを出しそれを遂行する能力を試すような内容。
だからこそ、答えはひとつではない。
「う……ん、なにあの子?」
そこに現れるものに目を奪われた。人の考え方は様々である。変わった考え方のやつが参加することもある。
「岩とか……なんの模擬テストだよ……」
そこに高校受験に黒髪のオカマが現れようとも不思議なことではない。女子生徒の制服を着てスカートを揺らして現れたとしてもそれは日常的なこと。ないとは言い切れない現実。
≪つづく≫
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