第164話 みっちゃん&たまちゃん

 私達は紅茶とクッキーを食べながら時じぃと一緒に過ごしていた。時じぃから一通り櫻井君が悪いということを聞いたあとに、どうしてこんな話になっているのかと問われたので説明した次第だ。


「それは……大変面白い話でございますね。いい冥土の土産が出来ました」

「時じぃはメイドじゃなくて執事だよ?」

「玉藻様、あの世のことでございます」

「時じぃ年も年なんだからあの世とか不吉なことを言わないでッ!!」

 

 縁起でもないッ! ついこの間、腕を骨折したばかりでそういう冗談は言っちゃいけないと私は思う!!


 怒る私を前に時じぃは紅茶をすすり、席を立ちがった。


「強様のことが好きであるかなど、玉藻様にとっては愚問でございましょう」


 どこに行くのかと見ていると私の机の前に移動して、


「これがまず第一の証拠にございます」

「ちょっと! 人の机を勝手に開けないで!!」

「なにアレ!!」


 勝手に引き出しを開ける始末。おまけにその一番下の段に大きい引き出しには恥ずかしいものが入ってるのに!! というか、どうして知ってるの!?


「未達のラブレターの山にございます。小学生から初めて軽く三百通は超えておりますね」

「三百って……」

「なんで数まで数えてるの!?」


 また時じぃは勝手に部屋の中を移動して本棚へと向かっていった。


「第二の証拠でココにございますのが」


 そこにぱっと見で変なものはないよ、時じぃ……普通の本棚で参考書とか辞書とか私のアルバムとかしかないから。ついにボケが始まちゃったのかな。


「下から二番目の本を右上段に、真ん中にある広辞苑を上下反対にしておきまして、次に」


 なんで!?


「上から二段目の左側二冊を同時に抜き取りますと、ここには強様のアルバムが出てくる仕掛けとなっております」


 ゴゴっと音を立て本段の奥にある隠し本棚が開かれてしまった。


「玉藻様が財にものを言わせ小学校の時から集められている強様の写真すべてがファイリングされ全五巻セットでございます。ちなみにオレンジが保管用、ブルーが観賞用、ピンクが結婚式用とさらに保管がダメになったときのスペア用がイエローでございます」

「どうしてそれを知ってるのッ!?」

「掃除するタイミングで納入させて頂いた際と形に若干ひずみがありましたゆえ、調べさせて頂きました。何かあられては問題になりますからね。これも執事長としての務めでございます」

「それ言えば何やってもいいと思ってるでしょ!?」


 どうしてそんな複雑な手順をハッキリと覚えてるし、知ってるのッ!!


 私だけの秘密の強ちゃんファイルが白日の下に!?


「鈴木さん……」


 ミキちゃんの視線が痛くて私は真っ赤になる顔を両手で覆い隠した。自分の恥部を全部さらけだしているような恥ずかしさ。私の秘密がドンドン明かされていく。


「それとベッドの下には、小学五年生から購読しているゼクシィと中学二年生からはたまごっこクラブひよこっこクラブを愛読しております。その付録である婚姻届けの練習した下書きが凡そ四百枚と出生届が二百五十ほどでございます。全て玉藻さまの直筆であり、数の違いについてはその存在を知った時間からの経過によるものです。出生届は小学三年生まで気づいていませんでしたからね」

「もう、やめてぇええええええ!!」


 時じぃ、一体何してくれてるの!!


「勝手に人の部屋と歴史を暴かないでッ!!」

「そうは言われましても玉藻様専属の執事長ですゆえ、政玄様よりしかと成長をみまもるように仰せつかってございます。強様の件も玉藻様が異世界に行ってる間、強様がどうお過ごしになられているかと気にするかと思われまして調査した次第でございます」 

「初耳だしッ!? 帰ってきてから一言も言われてないしッ!!」

「ぷぷぷっ――」

「えっ」

「ごめん、あまりにおかしくってさ」

 

 ミキちゃんが必死に口元を抑えて笑いを堪えている。私は恥ずかしさでいっぱいで今すぐこの場から逃げ出したい。私が強ちゃんのために費やした時間の全てを暴かれた感じだ。


「鈴木さんと執事長さん仲良しなんですね♪」

「えー、それはもう。小さい頃からお仕えしておりますゆえ」

「仲のいい人が、人のプライバシーを勝手に覗いて、どこにでも勝手について来ようとするのは、私はどうかと思うんですけど! どうかと思うんですけど! ホントどうかと思うですけどォオオオオオッ!!」


 時じぃとミキちゃんは何か通じ合ってるように微笑み合っている。


 私の心からの叫びを無視してッ!!

 

「時じぃは早く仕事に戻って!! ハウス!!」

「かしこまりました。それでは、どうぞごゆっくりしていってください、ミキフォリオ様」

「は~い」


 扉を閉めてやっと退出してくれた。時じぃのせいでどっと疲れた……呼吸が乱れて整えられない。体が自然に前後に揺れる程に私は発狂していた。


「玉藻様」


 戻ってきた!?


「こちらにお荷物のファッション雑誌と恋愛マニュアル置いておきますね」

「今はいらないからッ!」

「あまりマニュアルに頼りすぎますのもどうかと思います。玉藻様は自然と居られた方が魅力的でございます。それに差し出がましいかもしれませぬが、玉藻様は強様の前では全然いかせておりませんゆえ、無駄な浪費かと」

「ホントに差し出がましいし、一言も二言も多いぃいい!!」

「それでは失礼いたします」


 今度こそ本当に時じぃは出ていった。


 もう疲れた……ホント疲れた。肩を落としてぐったりする私の横で


「アハハ♪」

「……」


 ミキちゃんは大笑いしている。鼻からスースーと大きく息を吸って肺を膨らましてる私がそんなにおかしく見えるのかな……。


「鈴木さんって、超おもしろいー♪」

「私は面白くない……」

「ごめん、ごめん」


 笑いすぎて涙目になっている目元を人差し指でふき取ってミキちゃんは手を差し出してきた。


「私は鈴木さん好きだよ」

「えっ……」

「これからも仲良くしようね♪」


 ミキちゃんが立つと私より背が高くて見上げる。綺麗な顔立ちをしている。大人っぽいような雰囲気の笑顔。私は手を差し出し返して握った。


「私もよろしくお願いします」

「じゃあ、これからはあだ名で呼ぶね」

「あだ名?」

「仲がいい子はあだ名で呼び合うでしょ……そうだな」


 ミキちゃんは少しだけ考え込み、私のあだ名を口にした。


「これから鈴木さんの事は、タマって呼ぶね♪」

「えっ……」


 なんか猫みたいな……サザエさんちの猫も確かタマだ。


「タマ♪」


 けど、あまりに悪気の無い笑顔でミキちゃんが言うから断ることもできない。


「じゃあ、それでいいよ。ミキちゃん」

「ミキちゃんって、えー私にはあだ名付けてくれないの、タマ!?」

「えっ!?」


 人にあだ名なんてつけたことが私はない。いつもちゃん付けで呼んでるのが普通だったから急に言われると困る。どうしよう、どうしよう!


 ミキフォリオ……みきふぉ。ミキオ?

 ミキリオ! ダメだ、サンリオみたいになっちゃってる!?


「えーと、うーんと、」

「なにかな、なにかなー♪」


 すごい楽しみにしてる!?


「みっちゃん!!」

「みっちゃん……?」


 疑問形!?


「……ダメだった? けど私はタマモでタマだから。一文字取ってるので参考にして、ミキちゃんから一文字取ってみっちゃんにしてみたんだけど……」

「初めて呼ばれたよ」


 ニコッとミキちゃんは笑った。違う方がいいかな……みっぴょんとかみっとんとかミオミオとかミキミキとかそっちのほうが良かったかな! みっちゃんって可愛くないのかな!?


「じゃあ、私達はみっちゃんあんどタマちゃんだね」

「みっちゃん&タマちゃん?」

「そう、みっちゃん&たまちゃん!!」


 なんかこういう風な感じは初めてもかもしれない。特別な感じがする呼び名って。どこか恥ずかしい。強ちゃん以外で特別にお付き合いすることがなかった私に初めて親友が出来たのかもしれない。


 私は親友が出来たことに浮かれ、ラブレターやアルバムが剥き出しになっているのを忘れていた。というか、なぜ時じぃは開けっ放しでいくのだろう。


 執事のくせに!! 執事長の癖に!! 私専属執事長のくせにィイイイイ!!



≪つづく≫

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