第163話 全部櫻井が悪い!

 私はミキちゃんから強ちゃんが過去にやったことを聞かされた。どれもが私が知っている強ちゃんからは想像も出来ないような信じられないものばかり。それに放課後に男子生徒の大半が肩パッドをしている学園っていうのがなんなのかもわからない。


「鈴木さんがいない間の涼宮は……あくそのものだよ」

「強ちゃんは……そんなことばかりしてたの?」

「うん。何を考えてたのかはわからないけど、学校に魔王城でも作るのではないかと噂が立っていたよ」


 私の好きな人は魔王だったらしい。さらには『恐怖の大王』というあだ名もつけられていたようだ。


 おまけに、


「最恐で……」

「そうだよ、もっとも恐れられていたからね!」

「最凶で……」

「そうだよ、アイツと出会ったら最後。終わりだってね!」

「最強……」

「そうなんだよ! アイツによって惨劇のクリスマスが起こったんだ……クリスマスだっていうのにヒロイン達はデートじゃなくてみんな病院にお見舞いだよ。ホワイトクリスマスのホワイトでも真っ白い病院で過ごす夜だよ。運よく田中さんはいかなかったけどね」

「……」


 私が異世界に言ってる間にこっちの世界が異世界だよ。強ちゃんは大けがさせた事件をきっかけに塞ぎ込んでいたはずなのに百人を病院送りにして笑っていたとか……


 こっちが笑えないよ……とほほ


「鈴木さんが思ってるより涼宮は邪悪なやつだよ。ヤツは鈴木さんに媚びを売ってるのかもしれないけど、信用しちゃダメだよ!」


 危うく「うん」と頷きそうになってしまった。もう頭がクラクラする。めまいで揺れる頭を手でささえるようにして私は辛うじて意識を保っている。可愛い我が子が犯罪者になってしまったお母さんの気持ちだ。現実が直視できない。


「鈴木さんはおそらく涼宮に利用されているんだよ!!」

「利用?」

「優しい鈴木さんにつけこんできっと日本を征服することを企んでる! アイツならやりかねないと私は思ってる!!」

「日本征服!?」


 世界じゃないならいいか♪とはならない。日本だよ。サムライジャパンだよ!


 強ちゃんは一体どこを目指しているのッ!?

 

 混乱する渦に身が飲み込まれていくように感覚がマヒしていくのがわかる。体が自然と拒否反応から左右に揺れて視界がフラフラしているの。


 どうして、どこで、道を踏み外しちゃったの強ちゃんは!?


 昔の私だったらこんなに迷うことはなかっただろう。私が知っている強ちゃんが全てだったから。けど、今は違う。私の知らない強ちゃんがいっぱいで私の中の強ちゃん像が崩壊を始めている。人畜無害でカピバラみたいな感じだと思ってたのに、どこでハブのような毒を持つ生物に。


 私は何も知らなかった。学級日誌など見なければ信じなかったかもしれない。学園対抗戦なんかなければ知らなかったかもしれない。


 私の知らない強ちゃんが後からいっぱい出てくるのがわけわかんないッ!!


「玉藻様、ミキフォリオ様失礼いたします。お茶とお菓子をお持ち致しました」

「時じぃ……」

「どうしたのです? そんなに泣きそうな顔をされて?」


 部屋に紅茶とクッキーを持ってきてくれた時じぃに私は縋った。出来れば何かの間違いで合って欲しい。強ちゃんが強いなんて言うのはここ最近のことなんだと思い込みたい。


 きっと、いきなり強い力を手に入れちゃったからおかしくなっちゃったんだよね。


「昔の強ちゃんって弱くて泣き虫さんだったよね?」

「玉藻様……」


 私の質問にすぐには返さず時じぃはテーブルにお盆を置いて私の方に体を向けた。


「強様が強いのをご存じないのは玉藻様だけです」

「えっ……なんて?」


 出てきたフレーズに耳を疑わざるえない。


「強様は元よりお強い方でした。先日も学園対抗戦でMVPを取りましたが当然の結果でございます。いつまでも弱いと思い続けるのも、もうやめたらどうですか?」


 元よりお強い? 強ちゃんはMVPが当然?? 私だけが知らないの!!


「ちょっと待って! 時じぃ!!」

「どうしたのです、慌てて?」

「元からっていつから!?」

「玉藻様とお知り合いになられたときにはもうすでに子供の領域を超えておりましたよ。幼稚園に通われるご学友を怪我させてしまったのも力の加減がうまくいかなかったのでしょう。それほどにお強い力でしたから」

「えっ!? あの事件って事故じゃないの!!」

「まぁ事故に近いものはありますが、強様のお力によるものでしたので正しくは傷害事件という扱いでしょうか。幼少期だということもあり内々に処理されたと考えるべきかと。悪意によるものではないですからね」

「ほら! 鈴木さんアイツは息を吸うように邪悪なことをしちゃうんだよ!!」


 もうダメだ……精神的ダメージが強すぎて倒れてしまいたい。病院に入院でもしてお注射してもらって意識を失いたい。一番ダメージがデカいのが、私だけが知らないという事実。一番近くにいたはずなのになんで私だけ知らないの。


「強ちゃんが強いのを私だけがずっと知らなかったの?」

「ハイ。玉藻様は全然お気づきになられませんでしたね。強様も敢えて隠しているような素振りもございましたが、傍から見ていれば誰でも簡単にわかることです」

「簡単って言った? ねぇ、時じぃ? 今誰でも簡単にわかるって言った?」

「言いました。ハイ」


 簡単にわかることがわからないってことは!?


「私の事をバカにしてるよねッ!?」

「玉藻様はバカというよりは抜けているといったほうですね。阿呆あほうの部類かと」

「時じぃはいつも一言多いの!!」

「鈴木さんの前で力を見せなかったのはきっと利用するためだよ!!」

「利用?」


 ミキちゃんが声を上げると時じぃが首を捻った。


「だって涼宮は鈴木家の力を借りて日本を征服するつもりなんでしょ!」

「日本征服……はっはっはっ」


 ミキちゃんの予想に時じぃは豪快に笑い飛ばした。


「これは失敬……それはありませんよ」

「えっ?」

「強様が玉藻様を利用するなど考えるはずもございません。おまけに日本征服などとめんどくさがり屋な強様がそんな手間のかかることするはずもございません」

「けど、アイツはマカダミアを恐怖で征服してたんですよ!」

「それは美咲様と玉藻様がいない寂しさから、悪友とつるんでしまった結果にございます」


 私がいないと……強ちゃんは寂しい。おまけに利用することなんてないだなんて。


 うれぴー♪


 と浮かれている場合じゃなかった! 聞き逃せないフレーズが!?


「時じぃ、強ちゃんの悪友っていうのは!?」

「櫻井はじめ様にございます」


 私の知らない衝撃の事実!!


「櫻井くんが!?」

「えぇ、彼が強様をそそのかして何かをしようとしていたのはわかりますが、目的までは定かではありません」

「櫻井くんが全部仕組んだってこと?」

「夏休み頃ですが頻繁に強様の家に出入りしておりました。そこから強様の家が崩壊しかけまして夏ごろからマカダミアの噂が広がっていきましたね。確かデットエンドというやつです。あの噂を流していたのも櫻井さまでございます」

「執事さんは、なんでそんなことが分かるんですか?」

「それは、」


 時じぃはにこりと笑みを浮かべて


「年の功です。年をとると目ざとくなるのでございます」


 ミキちゃんに答えを返した。私とミキちゃんは目を合わして事態を確認する。


「ということは、だよ。鈴木さん」

「ミキちゃん……私わかっちゃったよ」

「「全部、櫻井が悪い!!」」


 夏に辿り着いた答えはやはり正しかった! 櫻井くんがデットエンドってことだったんだ!!


「そういえば、最近強ちゃんねるなるものを立ち上げたのも櫻井さまかと存じ上げております。これも何を目的としているかまではわかりませんが」

「強チャンネルの創設者が櫻井君!?」


 次から次へと出てくる目まぐるしい新事実。


 櫻井君はやっぱり敵だ!!


≪つづく≫

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