第162話 強ちゃんがよく分からない
「鈴木さんは涼宮に一体何をされたの!?」
私は聖女の両肩を強く掴んで問いかけたが困惑の表情が返ってきた。
私が洗脳という言葉を使ったのにも理由がある。
高一の涼宮を知っていればそう考えざる得ない。アイツに呼び出された男子たちは翌日から目に生気を失くして操り人形のような風貌になっていた。唯一反応するのは涼宮が近くを通りかかった時だけ。その瞬間だけとんでもなく絶望している様な恐怖しているような表情を男子たちが浮かべていた。
田中さんでさえ、涼宮の横を通るだけで足がガクガクと震え歩行すらままならなくなったのだ。
そんなヤツであれば、ほわほわぽやーんの聖女を洗脳することも可能。
きっと何かをネタに脅されているに違いないッ!!
「洗脳というか、何もされてないよ……」
「んなわけあるはずがない!!」
「えっ……強ちゃん何もしてこないよ。ホント奥手を通り越して何も……手握ってきたくらいだよ、はわわ!」
なに、ポッと頬を染めてるの?
そういうことじゃないでしょ……手握られたとかそういうのじゃなくて、裸にひん剥かれて卑猥な写真撮られて脅されたりとか、デットエンドの噂にあったようにレイプされたとかあるはずでしょ!!
「どうして、鈴木さんがそこまで涼宮を好きなのかわからないよ!!」
◆ ◆ ◆ ◆
「どうしてって……好きだからとしか言いようがないんだけど……」
ミキちゃんが必死なのが私にはわからない。
けど、みんな同じ反応をする。小学校でもそうだった。
『すずきさんってスキなおとこの子いるの?』
女の子はみんな恋の話が大好きだ。だから当然のようにみんなが誰が誰を好きだとかを気にする。好きな人が被ったりすると大変な感じになる場合もあるんだけど、私の好きな人だけは誰とも被らなかった。
『わたしはきょうちゃんが好きだよ♪』
『きょうちゃん?』
『えーだれだれ?』
同じクラスにいるのに強ちゃんは目立たなかった。いつも机に頭を付けてるからかもしれない。
『きょうちゃん……ってどこの組の子?』
『そこにいるよ♪』
私が指を指す方向に皆が顔向けるとなぜかあんぐり口を開いて固まってしまう。
『すずきさん、ゼッタイやめた方がいいよ!!』
『あんなのえらんじゃだめだよ! しょうらいプータロー間違いなしだよ!!』
そして、皆が口々にやめた方がいいとかアレはダメだとか私に忠告をしてくる。私は一人首を捻った。
強ちゃんの魅力になぜ、みな気づかないのだろうと。
強ちゃんは優しくて可愛いし、おまけにカッコいいのに。
けど、なんとなく理由もわかる。
強ちゃんはいつもやる気がない。それにも理由があることを私は知っている。幼稚園での事件が元になっているのを知っている。お友達を大けがさせちゃってそれ以来塞ぎ込んでいたのだ。
あの時、みんなが強ちゃんを裏切ったからだ――
私は知っている。誰もが強ちゃんに隠れて遊ばないようにって連絡を回していたの。その連絡が私にも来たのだから私は知っている。強ちゃんがそれから笑顔をあまり見せなくなっていったのを私は見ていたから、知っている。
あの時、私は助けられなかったことを分かっている。あの時、私が引きこもるより前に強ちゃんの傍にいてあげたらよかったと後悔することがある。
それ以降、強ちゃんが何かを頑張ることをしなくなったのも知っている。
それでも、私は強ちゃんのことが好き。
強ちゃんのいい部分の千分の一も失われていないことを私は知っているから。
「強ちゃんが……良く誤解されることもわかってる」
「誤解?」
ミキちゃんが眉間にしわを寄せながら不満を示すのに私は笑顔で返す。
「強ちゃんは超がつくほど不器用だし、言葉は乱暴だし、素直じゃないし、やる気もからっきしなくて何もしないかもしれないけど」
私は知っている。
「とても優しいの」
「どこが……!?」
すごいビックリしている。どこがって、
「余すところなく」
「余るどころか欠片もないよッ!!」
あまりに激しい言葉の勢いに体が後ろに持っていかれた。なぜ、強ちゃんは同じ学校の女子に対してこんなに人気がないのだろう。木下さんと私がレアなのかな?
「涼宮がどれだけの圧倒的な暴力を振るってきたと思ってるの!?」
「……」
圧倒的暴力? イヤな汗が流れ始めてきた。
「高一の涼宮なんて檻から解き放たれた野獣のごとしだよ!!」
「……」
昔の強ちゃんのことはあの学級日誌の中でだけしか知らない。あれだけでも相当みんなに被害を与えていたことは十分わかる。最後には魔王になっていた私の好きな人。
本当に何をしていたの、強ちゃん? わたし……わかんないよ。
「去年の強ちゃんって……そんなにすごかったの?」
「学校を牛耳っていた悪の親玉、いや魔王を超える極大魔王の涼宮強だよ!!」
「あは……あは……」
どういうことでそうなってしまったのだろう。私といるときは机で寝てるか欠伸してるだけだったのに。
しかし――
この前一緒に戦ったからこそわかる。ゴブリン相手の戦闘とはいえ、強ちゃんの戦闘能力は高校生を域を超えている。
弱いはずの強ちゃんが強くて、優しいはずの強ちゃんは野蛮で、可愛いはずの強ちゃんが魔王で――
頭がパンクしてしまう!?
「鈴木さん、しっかり現実を見て!!」
「強ちゃんは……強ちゃんは……」
私が知っている強ちゃんと皆が知っている強ちゃんは全然違って、何が何だかわかんないよぉおおおおおお!!
≪つづく≫
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます