第161話 強ちゃんのどこが好き?

 私は鈴木さんに掴まれるままに、二階の一室へと入った。そこは鈴木さんの部屋なんだろう。


「うわぁー……アニメで見たやつまんまだよ!」

「えっ?」


 見るからにピンクに染まっている部屋にお姫様の様な天蓋てんがい付きのベッド。高そうな木彫りのタンスたち。可愛らしいうさぎの人形などもあり、


 正に正に!


「これこそ正統派女子の部屋!」

「正統派?」


 感動する私の横で首を傾げてる当たりも鈴木さんって天然スゴイ! 原石だよ!!


「ミキちゃんはファッションに興味あるんだよね?」

「チッチッチッ。違うぜ、お嬢さん。そういう部分じゃないのだよ」

「ファッションじゃない? メイクとかファッションって言ってなかったっけ?」

 

 うーんと小首をかしげる姿が可愛すぎるよ……鈴木さん。口元に自然と指をあててる当たりもアニメで見たまんまだ。リアルでやる子がいるなんて。わざとらしさが感じられないところの芸術点が満点だよ!


「何すれば……いいんだっけ。うぅーん」


 あぁー、頭を両手の指でくりくりするのも生で初めて見た。なんて純粋さ。私の為にここまで真剣に考えてくれてるところも優しさが溢れてるよ。


「それを伝授して欲しい!!」

「それ?」

 

 私が両手を握ってお願いするとまた小さく首を傾げた。


 この仕草が私にないものだ! というか、小動物みたいできゃわわわだ!!


 私は興奮して荒くなる呼吸を一度深呼吸して抑えた。


「どうやったら、そんなに可愛い動きができるの?」

「動きって?」

「その自然に首を傾げるところとか、手の仕草とか! 動きの軟らかさとか!!」

「あっ……」


 なんだろう……鈴木さんの表情が何か急に落ち着いてる。静かに机の上に行き、鈴木さんはそこから辞典のような分厚い辞書を私に持って近づいてきた。


「これは研究して何千回も練習して自然に出るようにしたんだ」

「えっ、研究? おわっ!!」


 手に辞書が落とされて重みがずしりと私の体を下に落とした。それはまるで鈴木さんの苦労が詰まっているような感覚。


 研究ってことは……全部が計算されていた動きってこと!! 天然じゃないの!?


 私が辞書を開くと雑誌の切り抜きが大量に貼り付けられている。男にモテる可愛い仕草のやり方の研鑽の証。辞書は使い古されているせいかページがところどころしおれている。


 一体どれだけの……血ににじむような努力を


「鈴木さん、なんで……ここまで?」


 私の質問に聖女のような笑みを浮かべて彼女は口を開く。


「強ちゃんに好きになって欲しかったから」


 あんなクズみたいな男みたいに……そこまでやるの?


 私は驚いた。天然の原石だと思った輝きは磨きに磨き上げたものだったのだ。天然だと思っている行動の全てが幾重の計算によって行われていたということだろうか。こんなかわいい顔してなんて恐ろしいことを。


「けど、全然意味がないの。強ちゃんには何一つ効かないの。まるで無意味なんだよ」

「……」


 とても長い年月かけてきた重みがあるような遠い目。涼宮のオスはどうなっているのだろうか。これほどの女性にここまでさせている時点で驚きなのだが、それを越してこの努力を無意味にする鉄壁の防御力。


 アイツは生まれながらの異常者だ……心が死んでるとしか思えないよ。


「鈴木さんは、どうして涼宮のことがそんなに好きなの?」

 

 私からしたら当然の質問だ。学園対抗戦で少し見直した部分もあるし、お昼を一緒に食べるようになってアイツの暴言と口が悪いのは病気なんだとわかったけど。アイツのいい部分が全然わからない。異性としての魅力なんて一ミリもない。


 むしろ、動物園の物珍しい猿を見ている様な気分にさせてくるのに。


「強ちゃんは私にとって特別だから」


 両手を頬に当てて赤くなる顔を抑えてる鈴木さんから、本当に涼宮のことが好きなんだってわかる。けど、私はどこが好きなのかと聞いたつもりなのにまったく答えになっていない。


 仕草は研鑽だとしても、頭の中は天然なんだ……鈴木さんって。


「特別なのはわかるけど、涼宮のどこが好きなの?」

「強ちゃんの目とか」


 えっ……死んだ魚のような目をしているけど。あのやる気のない怠い感じのダメ人間臭フルオープンの濁った眼が好きなの?


「あと、可愛いところとか」


 えっ……すげぇ凶暴なやつだよ。アイツは高一のクリスマスに百人近く病院送りにしたやつだよ。かわいいとか言える生き物じゃないよ。どちらかという毒キノコのようなやつでカエンダケに似てるよ。見た目もやばいけど、関わると死に至るようなやつだよ。

 

 鈴木さんの方が圧倒的に可愛いよ……


「それと優しいところとか……」


 すごい照れて嬉しそうにスカートの裾を掴んでフリフリする仕草が可愛いけど、アイツが優しいんだったら全国民が優しいよ。あれほど暴力的で野蛮な奴は私が知ってるスラム街にしかいなかったよ。異世界のスラム街から出てきたようなやつだよ。この平和な日本であんな特殊なヤツは稀だよ、鈴木さん。


 そろそろ目を覚まして……


「おまけにカッコいいし!」


 どこが……ねぇどこが……アレのどこがカッコいいの鈴木さん?


 アイツのカッコいいところとか探しても見つからないよ。間違い探しで言えば一番の難問に当たるよ。顔立ちは悪くはないと思うけど、あのやる気の無さと暴力性で何もかも見えないよ。砂漠でオアシスを見つけるぐらい遭難しそうな難問だよ。


「笑顔が可愛いところも大好き!」


 笑顔とか……すごい怖いヤツだよ。ホラーなやつだよ。私はアイツが邪悪な笑みで相手をビビらしているのしか見たことないよ。アイツが笑うと去年みんな震えたんだよ。椅子に座ってる体をビクっとしたんだよ! 


「鈴木さん、もうわかったから!!」

「わかってくれた!!」


 もう十分わかったよ……そういうことなんだね、鈴木さん。私は分かったよ!!


「鈴木さん、ちゃんと聞いてほしい!!」

「なに?」


 こんなに可愛いのに可哀そうに……


「鈴木さんは涼宮に洗脳されている!!」

「へっ?」


 私は僧侶だ。聖女を救うのは僧侶の役目だッ!!



≪つづく≫

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