第123話 櫻井先生の講義録3
「能力と魔法の説明はざっくりこんぐらいで」
能力と魔法の相違点を説明終えて、
次の対象に目を移す。
「長らく待たせな、サエミヤモト」
「は、はい!」
名前を呼んだだけなのにちょっと慌ててるな。
こういうのは目立つのが苦手なのだろう。
みるみるうちに顔が真っ赤に染まっていく様子で伺える。
「三つ編みメガネはコッチのやつだったんだな」
そういう人間に追い打ちをかけるのが、
「というか、なんでアメリカンな名前の呼び方してんだ?
涼宮強という男だ。
「日本人の誇りを忘れてんのか?」
「そ、それは!」
「違うぜ、強」
「えっ?」
助け舟を出す様に俺は強の質問攻めと皮肉を遮る。
「そうでふよ。サエたんは異世界の人でふよ」
「……いや、宮本ってどう考えても日本人だろう?」
そうか……コイツの知識はそこまでないのか。
あまりの強の学の無さにびっくりする次第だ。どう考えてもあるだろう。
今まで数え切れないくらいにはいたと思うぞ。
人生で合わないで過ごす方が難しい異世界人のタイプだ。
「日本名っぽい名前のやつも異世界にはいるんだよ」
「どうして……?」
どうしてと、聞かれても……。
「詳しいことは誰もわからん。ただ二人目以降の異世界なのかもしれないし、さらに言えばアッチに日本と酷似しているような国があってもおかしくないからだ」
「二人目って、なんだ?」
どうやって生きてきたんだよ、強ちゃん……
これぐらい一般常識の範疇なのに。
「一回救われた異世界だとしても、もう一度危機に瀕して呼び出されることがあるんだよ。おまけに迷惑なことに以前のヤツじゃなくて、違うヤツが対象に選ばれる」
「異世界がお古とかちょいとイヤなんだけど……」
「それでも呼ばれちまうのだからしょがない……」
別に行きたい異世界を選べる権利なんてない。おまけに時と場所を選んでくれることもない。突然
「ゲートの出現はどういう原理かはわからんが、あっちで異世界召喚なる儀式の場に呼ばれることもケースもある」
それに二人目になるのには絶対的な理由がある。
「それに異世界には——」
異世界転生・転移というものの絶対的ルール。
「一人一回しか行けない」
「……そういうこと」
「そうだ。だから、二回目の危機には別のヤツが
お前のせいでな……。
ゲート開いてんの、特異点のお前だぜ、強ちゃん。
まぁ、そんなことコイツが知る由もないのだが、
知ってる俺としては……悲しくなってくる。切ねぇよ、
お前が何も知らずに俺をデスゲームに飛ばしたと考えると、
俺はマジで切ねぇ…………気を取り直そう。
「次は術の説明だ」
能力と魔法は若干似ているが術というものは大きく異なる。
「みんなは術には何が必要かわかるか?」
「ハイ!」
優等生の美咲ちゃんが勢いよく真っ先に手を上げた。
「じゃあ、美咲ちゃん」
「術には媒介が必要です!」
ちゃんと言ったことを覚えといてくれて先生は嬉しいよ。
「正解」
「えへへ」
おまけに『えへへ』とかはにかまれると頭撫でたい。なんか発作的なものを感じるよ。彼女の事を安易に撫ですぎていたせいか、もう右手が撫でたくて震えちまっって、疼いちまう。
これが美咲教によるオカルト要素なのか。
半端ないって!
美咲ちゃん、まじ半端ないって!!
「それだと……私は違うと思うんですけど……」
「サエミヤモトは、どうしてそう思う?」
「だって、私は媒介とか使いませんし、この
「それが間違いの元なんだ」
「えっ?」
ここをよく間違いやすい。テストに出て皆が間違えるところだ。
ひっかけ要素が強い部分でもあるが、
「魔法と魔術を混同しちまうとそういう発想になる」
ちゃんと考えれば分かるはずなんだよな。
「マナっていうものが魔法だけに使われるという認識が間違ってるんだ」
俺は黒板に移動してスラスラと理論を書いていく。
「魔法と魔術は違う。魔法は法則性に乗っ取って発動するものだ。魔術というものはどういうものか?」
怪しげな衣装を被った数人が魔方陣の上に置かれたドクロに対して、
呪いをかけてる絵を。
「これは黒魔術の絵だ。何をやっているように見える?」
「儀式ですか?」
サエミヤモトが首を捻っている。
感覚的に魔法だと認識していたのだろう。
クロスミスコロナは良くわかってるようだが。
「そうだ、儀式だ。おまけに魔方陣の上に何かを置いてるよな?」
「あっ! そういうことですか!!」
「そういうことだ」
俺は黒板の魔方陣の絵に書いてあるドクロをチョークで叩き強調した。
「このドクロが媒介だ」
魔方陣の真ん中に置いてあるドクロ。
「サエミヤモトについては精霊術。精霊と契約する際に何かをしたはずだろう?」
「ハイ、家宝の宝玉と引き換えに精霊たちと契約をしました!」
言われてピーンときたようだ。
「それが術だ」
「じゃあ、私は術だったんですね!」
「それも違う」
「えっ?」
この汚いひっかけ理論を俺も勉強したとき腹立たしくもあった。
術で終わりじゃんと思ったが、
「さっき、精霊たちを動かすのにマナを使ってるって言ったよな?」
そこから先がまた違うという仕組みが勘違いを起こしやすい。
「は……い」
「だから、サエミヤモトは中間なんだ。魔法と術の中間」
「だからこんな場所に立たされたんですね、私……」
やっと理解が一歩進んだ。意外とここらへんは難しい。
説明を丁寧にしないと間違えたレポートを作りかねない。
マナも媒介だろと言われればそう見えるのだが、ここが顕著に違う。
「さらに言えば田中も術が使えるが、中間ではない」
「術でふ……か?」
「お前も……魔法と勘違いしてたクチだな……」
しょうがないっちゃ、しょうがないが……
それでも、使う本人が理解していないのは、
ちょっと、危ういな………。
「お前の
「確かに秘術でふが……媒介は……?」
「脂肪だ」
くッと強が若干噴出したが気持ちはわからなくもない。
けど、術としては有効な手段の一つなのがまた否めない。
脂肪を媒介にするということの有用性——。
どこでも持ち運べるしおまけに分かりづらい媒介の類。
「確かにスリムになるでふけど……っ」
真実を知って田中が若干しょげている。
「マナも使っているがあれはお前が言う通り、秘術で術だ。媒介を持ってかれている。ただ効果もデカいはずだ」
「確かにあれは僕の切り札でふ?」
「ただお前は中間に位置しない。なんでだか、分かるか?」
全員が首を傾げた。
確かにこれはサエミヤモトよりもさらに難易度が高い問題だ。
術系統と扱われないのには理由がある。
「お前の秘術は残念ながら他に応用ができない
「単一だとダメってことでふか?」
「そういうことだ。だから、術系統ではない扱いになるんだ」
術の定義が一番難しい。魔法とも能力とも区分けされるが中間に位置する為に混同する部分が必ず出てきてしまうのだ。それが皆が混乱する理由。だからこそ、引掛けられてしまう。
「他の発展系につながるなら術理論として成り立つが、ただ単にひとつの目的だけで成り立つものは術として扱われない。だからこそ、サエミヤモトが術扱いで田中が魔法扱いとなる。ここはよく間違いやすい」
皆がほうほうと頷いている。
「まぁ、今でも使っている本人すら分かっていないような状況だからよーく覚えておくこと」
皆がこくこくと頷いている。
まぁ本人達を交えての説明だからこそまだわかりやすいのだろう。
これを本で読んだときはどういうことか、
ちょいと俺ですら考えてしまうほどだった。
けど、これを分けるのにも理由って言うのがあると分かれば、
さほど難しくない。
ソレが術のメリットだと分かれば。
「実は無能力な強にも術は使える」
「へっ?」
「驚くのも無理はないが、術だけであれば誰でも出来る可能性が高いものが多い」
「どういうこと?」
これが術というものが能力系統の基本に組み込まれている一番の理由。
俺は白衣のポケットから石を取り出し、ミカクロスフォードに差し出した。
「ミカクロスフォード、これに頼む」
「魔鉱石ね……わかりましたわ」
俺の思惑を理解してミカクロスフォードは静かにそこに魔法を込めていく。
「水を込めましたから」
「わかった。田中ちょっとバケツを持ってきてくれ。で、強はこの石を握ってくれ」
「これをか……」
強は魔鉱石を手に取り握る。
「ほいでふ」
「なんだよ……」
「気にするな、強」
その下に意図を理解してる田中がバケツを設置。
すべての準備が整ったところで俺はミカクロスフォードに
「ミカクロスフォード、解除コードは何にした?」
話しかける。
「アクア」
それを聞いて俺は強に指示を出す。
「じゃあ石を握ったままアクアと唱えてくれ、強」
「えっ、はずいんだけど……」
「何ですって!? せっかく分かりやすくして置いたのに!!」
「とりあえず頼むわ、強」
「わかった」
強は魔鉱石を握りながら、
「——アクア」
唱えた。
「おぉおおおおお!?」
そして感嘆の声をあげる。
それもそのはず石から水が溢れ出てくるのだから。
吹き出た水はバケツのなかにびちゃびちゃと落ちて溜まっていく。
そして、俺は自信満々に皆に教える。
「これが魔術だ」
≪つづく≫
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