第124話 櫻井先生の講義録4
「おい、ホルスタイン。もう一回やってくれ!」
強は初めて魔術を使った影響か目を子供の様にキラキラ輝かせていた。
どうやら強が魔術に興味を持ち始めてしまったようだ。
魔鉱石をミカクロスフォードに渡そうと前に突き出している。
おかわりの催促——。
「イヤです」
けど、あっさりミカクロスフォードはお断りを入れた。
「なっ、貴族の癖にケチ臭せぇ!!」
「なんですって!?」
「ハイハイ、ストップストップ」
子供の喧嘩か……。
俺は講義が進まないので二人のやりとりを仲裁した。
やっぱり、強と絡むとミカクロスフォードでさえ子供になってしまう。アイツの影響力ってなんなんだ。口汚いだけなんだけどなんか引きづられちまうんだよな。
どういう理論なのかわからんがある意味すごいな。
感染するバカ。
「術の説明のまだ入り口も入り口だ。繰り返しやってたら時間が足りない」
「玉藻あとで頼む……」
「強ちゃん……ごめん、私じゃ無理なの」
「えっ?」
人が説明しているのに聞いてねぇし……イラっとするよ、バカップル。
「鈴木さんは回復魔法だからその魔鉱石には入れられない」
「なんで?」
「色で決まってるんだよ。入れられる属性が」
「青だから……水ってことか?」
「そうだ」
強は残念そうにちょっと唇を尖らせてミカクロスフォードをちらりと恨めしそうに見た。どんだけやりたいんだよ。これじゃあ、デパートの屋上でゲームをもう一回やりたいとお母さんに拗ねている子供だ。
そして、お母さんは漏れなく駄々をこねる子をガン無視中。
がんとしてやらせる気はないようだ。
すまん、うちの強ちゃん出来が悪い子なんで。迷惑をかけるぞ、ミカクロスフォード。その子は根はいい子なんだけど、育ちが悪すぎて教育が必要なんだ。みんなで頑張って育てていこう。
最近一人で面倒みるのも大変でしんどくなってきたんだ。
ソイツのフォローするの。
マジで死にかけてるから……。
「まぁ、あとでやらせてやるから、ひとまず魔鉱石を返せ」
「わかった……」
渋々返し、小声でボソッと言い残して
「————約束だぞ」
元の場所に戻っていく強。
なんか可愛いらしい言い方にちょっとだけ甘やかしたくなる。
アイツのそういう可愛いところは残って欲しい。
「これで分かる通り、術っていうのは誰でも出来る可能性がある」
「あれ……アタシ混乱してきたかも」
「どうした、ミキフォリオ?」
「いや……サエは術だけど精霊術って誰でも出来んの?」
「いいや、出来ない。少なくとも俺は出来ない」
そもそも精霊と契約などというのは素質がなければできない。
誰しもが出来るわけではない。
「だったら、サエは……けど術じゃなかったんだっけ? 魔法だったけ?」
一人で混乱している。
頭から湯気が出ているのがうかがえる。
もうすぐ、オーバーヒートするな。
「あー、もうだめ! よーくわかんない!!」
やはりか……。
ここらへんで脱落する奴がいるのは容易に想像は出来ていたが。
「アタシ、バカだから難しくてわかんないよー!!」
「ミキちゃん、落ち着いて」
「鈴木さん?」
さすが我がクラスの優等生。
さりげなく笑顔を作って相手を安心させて肩にソフトタッチしている。
自然なボディタッチだ。さすがに強でやり慣れているからだろうか。
ただ、助かるぜ。
「そうだ、ミキフォリオ。けして、バカだからとかじゃない。ここの分野は難しいんだ。それこそお前みたいにごちゃごちゃになるやつは五万といる。安心しろ」
「そうだよ。それに落ち着いて考えれば難しい事じゃないんだよ」
「鈴木さん……」
「大丈夫、ミキちゃんなら出来るよ♪」
うーむ、ダメな奴を励ますところが正統派ヒロインっぽい感じだ。
今日の勉強会で一番の収穫は鈴木さんのキャラなのかもしれない。
いつも強といるときしか絡んでないから分からなかったが、
こんなにまともだったんだ。
やっぱり、アイツがみんなの特異点なんだな、うむ。
「サエちゃんのは精霊と契約するまでが術なの。それには媒介を用いてるからね。契約した精霊を行使するのが魔法なの。だからサエちゃんの立ち位置をよく見て」
鈴木先生にいつのまにかバトンタッチをしてしまっている。
ミキフォリオは鈴木さんに言われるがままに、
サエミヤモトに視線を動かしていた。
「いま術と魔法の重なってる中間に立っているでしょ?」
「そうだね」
「魔法と魔術は一緒にできるの。さっき、ミカちゃんがやったように」
「う……ん……」
「ただミカちゃんは魔術を専門としてないから魔法なだけなの。それに比べてサエちゃんは複数の精霊と契約してるでしょ?」
「確かにサエは少なくとも十体近くは契約してると思うけど……」
「両方を専門的に行っているから、能力系統では魔法と術の両方を扱ってる扱いになるんだよ」
「じゃあ、サエは術もイケて魔法もイケるってこと?」
「そう」
分かりやすい補足だ。
「鈴木さん、ありがとう」
「どういたしまして」
笑顔で挨拶をかわし、鈴木さんは元の場所へと戻っていった。
ミキフォリオも納得したようだ。
分かっているか、最後にまとめとこう。
「さっき、俺が術でもない魔法でもないと言ったから混乱したんだと思うが、サエミヤモトについては正確に言うと術と魔法の両方なんだ。術と魔法は混同できるから」
「なるほど! 櫻井の説明がわかりづらかったんじゃん!」
うん……なんかカチーンと来るよ、このバカ。
俺が自らへりくだったところに思いっきりヒップアタックかましながら乗っかってきてるようなセリフだけど。さらに自覚がないのがこいつらバカ集団の恐ろしい所だ。無茶苦茶笑顔で俺をかっちーんさせに来てる。
「はっはっは、術っていう言葉が聞こえたよ!」
廊下側からアホな笑い声した女の声がする。
ソイツはドアを勢いよく開けて登場した。
「櫻井君、やっと呪術ギルドに入ってくれる気になったんだね!!」
アルビノ変態登場の巻き。
あー、真面目に抗議したい。不幸指数が急上昇中だ……っ。
「断るといったはずだ、藤代。あと邪魔だからどっか消えてくれ……」
「つ、冷たいよ!! 前は藤代とはこれからも仲良くしたいんだキリって感じで言っていたのに!?」
藤代は勢いよく俺に体を近づけて抗議をする。
まじでめんどいな、コイツ。今まだ講義の半分も言ってないのに。
それにボディが近い。
もう、くっつきそうな勢いで俺のパーソナルスペースを侵略している。
話す時の適切な距離感を守れない奴はあんまり好きじゃない。
「んんっ……ッ」
——めっちゃ怒ってる……
視界の隅で顔を真っ赤に頬を膨らませている後輩が見える。
可愛くむぅーうと唸っているし。しかもその後輩は俺に惚れている始末。
勘違いされるのもめんどい。どうしよう不幸の二次関数曲線だ。
加速度的に数値が上がっていくし、
おまけにこの教室には処刑人の兄貴がいるんだった!!
「藤代、チョットお前はそこの真ん中の円に入ってろ!」
「櫻井君、もしかして……」
コイツが目を潤ませて質問してくるときは、
「放置プレイってやつかい! ハァハァ!!」
変態劇場の幕開けの合図か。
もう一生放置してやろうか、この野郎……。
前途多難な講義はまだまだ半分も進んでいないという事実に、
俺は肩を落とすしかない。
変態アルビノ参戦により、俺の命はどうなるのか。
自由奔放な生徒達はおとなしく講義を聞いてくれるのか。
こんな仕事を引き受けてしまったのは間違いなのだろうか。
けど、仕事なのでやらなければいけない。
責任を全うしなければ。
この先の講義がとても心配だ……。
≪つづく≫
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