第122話 櫻井先生の講義録2

 各自に自分の分野に別れて貰った。


 田中組は漏れなく魔法へ、そして鈴木さんも魔法。小泉たちと美咲ちゃんたちは能力。


「サエミヤモトは、魔法と術の中間に立ってくれ」


 だが、ここでもう間違えている。


「あとクロ――っ!」


 その瞬間、キッとクロミスコロナに睨まれた。なんか、スゴイ嫌そうな顔でこちらを睨んでいる。


 これは牽制の眼差しか。


 元隠密職業としては、自分の手の内を大っぴらに明かしたくないという、警戒心からだろう。


 それにしても、


 殺気を出すのはやめて欲しい……。


「な、なんで私が中間なんですか?」

「それはサエミヤモトのは精霊術だからだ」

「はっ、はい、そうですけど……」


 この三つ編みメガネは勉強はさほど得意ではないのか。


 メガネって、頭イイキャラ多いけど近藤といい、妄信かもしれない。


 いや、ちょっと特殊というケースで漏れていることでもあるのか……。


「まぁ、説明は追々するけど、まずはそこで」

「はい、わかりました」


 俺が真面目にやっている横で、


「強ちゃんんんっ」

「……玉藻」


 あのバッカプルは何やってるの?


 鈴木さんが円の内側から強へ向けて手を伸ばしている。しかも、強も若干魔法側の円に入ろうとしてがやる。


 なに? 片時も離れたくないってことか?


 ちょっと、本当に最近のイチャつきはおかしいよ……お前ら。


「ハイハイ、やめてください。講義の邪魔になります」


 俺は間に入りバカップルの間を切り裂いた。


「鈴木さんは丸の中でじっとしていて下さい、強はそこでステイ」

「なんで俺だけ……こんな見せしめを」

「だから、いうとるだろうが。お前はいま無能力だからこれには入れないの」

「そもそも、無能力ってなんだよ?」


 ちょっと能力系統の話からそれてしてしまうが、質問には答えるか。


「お前の能力判定検査で無能力ってなってるだろう……」

「あれか……確かにそう出てるが」


 俺達の能力系統の発動を見抜ける検査がこの世界にはある。


「検査の内容ってみんな何をやっているか、知ってるか?」


 皆が一同首を傾げた。


 まぁ、しょうがないことだ。


 学校で習う分野とはまた違う知識のところのなのだから。


「能力者の識別をどうやっているかというと、DNA検査だ」


 DNAと皆が逆方向に首を倒した。


 いちいちリアクションを返してくるあたり、ちゃんと異世界主人公っぽいやつらだ。


「デオキシリボ核酸というが、要は遺伝子のこと。DNAに俺達個人個人が先祖から受け継がれてきた情報が刻み込まれている。その形はだな、こうだ」


 俺は黒板に行き絵を描く。絵を描くのもお手のものだ。チョークで色分けをしてよりわかりやすく仕上げよう。


「以前は二重らせん構造と認識されていた。そこに異世界帰還者たちは特色が現れた。能力系統に目覚めたものはこのDNAが三重らせん構造へと変化している。今まで確認できなかった三本目の螺旋が現れるんだ」


 やりだすと凝ってしまう。


「これについてもまだ完璧に議論が固まっていないが異世界にいくということでこの三本目が出来るのか、元から人間にあったものが能力に目覚めることで形成されるのか、まだその要因は掴みきれていない」

「じゃあ、無能力な俺はそれが人より一本少ないと?」

「そうだ」

「俺に……欠陥があったのか……」

「そういうわけでもない」


 欠陥とは違う。これはそういう話ではない。


「お前はまだ異世界に行ってないだけで、」


 答えを先走りしょぼくれる強に俺は可能性を伝える。


「可能性はこれからも十二分にある」

「そうだな!」

「そうだ。それにいま時点でお前は特別だ」

「何がだ?」

「この学校にお前がいるのがだ」


 強はきょとんとしているが周りは納得して頷いている。


 この異世界転生者エリート学園にいる時点で普通を逸脱しているのだ。


 それがおまけに無能力となれば特別も特別だ……さて、本筋に戻さなくては話がすすまん。


「では、まず能力の説明からだ」


 俺は小泉たちの円の中に自分も入り、


 説明を続ける。


「自己の脳の一部分を使って大気や成分に干渉を起こしたものとさっき説明したが、主にこれは脳のイメージにつかさどる部分を大きく使う。能力っていうのは何よりも想像力だ」

「そうだね、櫻井くん」


 小泉が俺の目を見て答えた。


 まぁ、やはり自分の系統になるとそれなりに知識があるものか。


「それで俺達能力組と魔法組がマインドポイントと言ってるのは、脳にある糖分貯蓄量を指している。要は複雑な問題やイメージを想像すればするほど、頭を、脳を駆使しなきゃいけない」

「櫻井しゃん、魔法と能力のマインドポイントも一緒なんでしゅか?」

「そうだ、二キルマーシェ。いい質問だ」


 こういう感じの質問はいいよなー。


 話を進めやすくしてくれる。


「要は脳みその疲れ具合だ。この点では原理は一緒なんだ。ただ違うのは」


 そう、魔法と能力では違う。


「脳の使い方だ」

「先輩、使い方ってなんですか?」


 美咲ちゃんも乗ってきたようだ。


「能力って言うのはあくまでイメージに頼るものだ。小泉であれば氷をどういう形で作るか、出すか、動かすか。その視界に映るものをイメージして具現化する作業だ。それに対して魔法というのは違う」

「確かにそういう意味では違うなー………もっと、魔法はめんどくさいもん」

「ミキフォリオは苦手そうだよな」

「これでもそれなりに使えますー!」


 俺が鼻で笑うと怒って返しきた。


 魔法という元来頭がいいやつが得意とするもの。


 あまりミキフォリオがそういう風には見えないということで、からかってしまった。


「サークライ、こう見えてこの子は演算は得意ですの……こー見えて」

「ちょっと、ミカひどくない!」


 ふたりのやりとに皆がクスクス笑っている様子がわかる。


 意外とこいつ等、


 この講義を楽しんでやがる。


 まあ、俺の手腕によるところだろ。


 なんでも出来なければピエロなど、


 出来ないからな!


「ハイハイ、話を戻す」


 俺は手を叩いて注目を自分に戻す。


「魔法って云うのは、いまあったという言葉に集約される」


 この演算というモノが魔法の全てと言っても過言ではない。


「能力がイメージであれば、魔法は演算だ。芸術か学問かといったような感じでもある。魔法は学問にあたって、あくまで法則性に乗っ取って発動するもの。要は数学に近いものなんだ」

「数学……っ」

「バルサミコ酢は苦手そうだな、数学?」

「なんだよ、その変な呼び方!?」


 木下を揶揄いつつ俺は黒板へと戻る。


「これが魔法を使う時に出てくる——魔方陣だ」


 DNAの絵を消して今度は魔方陣の絵を描く。


 魔法陣は魔法を発動する際に目に見えて現れることが多い。


「これが魔法の中ではメジャーとなる。魔方陣のこの小さな文字ひとつひとつを数学の途中経過だと思えばいい。出したい答えに足していくマナを使って計算を練っていく。マナという数字を色んなものに変換して、自分が出したい答えに導ていくんだ。氷が出したいと思ったらそれにマナというエネルギーを変換するように導いて回答をだす」


 もはや、数学以外の何物でもない。


 だが、使うにはマナが見えないことにはどうにもで出来んのがイタイ所だ。


「これが魔法の演算処理だ」


 強と木下は黒板に書かれた魔方陣を見るなり、


「うわ……やりたくねぇ」

「ほっ、アタシ……能力でよかった」


 自分たちのバカさを身に染みたようだ。けど、バカにはちょいとキツイのが魔法である。


 魔法に対して能力って云うのは、


 イメージ力でしかない。


 手を握るという動作と似ている部分がある。手を握れと考えれば握れる。けど魔法的に考えればどこの筋肉を動かして、関節を曲げてと紐解きながら動かしているようなもの。


「ここまでの説明で分かる通り能力の方が出すのは楽だ」


 だからこそ、絶対的な違いが生まれる。

 

「要は想像をカタチにするだけなのだから。これが能力系と魔法系の違い」


 学術と感性の違いでもある。


「同じ氷を出すでも脳の使い方が違う。それに能力は発動までのタイムラグが魔法より早いというのもある。だからこそ近接戦闘をこなしがら能力者は戦いやすい。対照的に魔法使いは演算を処理をしながら体を動かすのはきつい。数学の難問解きながら、殴り合いなどやり辛くてしょうがないと思う」


 だからこそ、魔法使いは近接戦闘を仕掛けられると弱くなってしまう。


 魔法を使いながら戦えるヤツがごく一部に限られてしまう原因でもある。


「先輩、だからって、魔法より能力系の方が優れてるってわけじゃないですよね?」

「そうだね、美咲ちゃん」


 これには違いがある——能力と魔法には。


「能力というのはソレしかできないんだ。要はひとつの分野でしか力を発揮できない。氷能力者の小泉がどれだけ火をイメージしようとも出すことはできない、俺とかは氷すらも出せない」


 これが魔法と能力の利便性の違い。


 赤髪がにやりと笑みを浮かべたのが、


 ちらりと見えたが平常心だ、平常心。


「打って変わって、魔法なら氷でも火でも、水でも、風でも、出し方さえ分かればできるようになる。使える幅が違うんだ。だからこそ、一概に魔法が劣るとか、能力が劣るとかはない。最終的には使い手の技能とその場面によるんだ」

「ハイ」


 なんて優等生なんだ。


 ——いかん……堪えねぇば。


 俺は勝手に動きそうになる腕を抑える。


 笑顔で気持ちいい返事を聞くだけで頭を撫でたくなってしまう。


 これは一種の魔力的要素を感じるぜ……。


 その愛らしさを——


 横のちんちくりんに分けてあげて欲しいものだ。



≪つづく≫

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