第121話 櫻井先生の講義録1
放課後を迎えた俺は白衣を着てメガネをかける。
やっぱり、こういうものは形から入ったほうが気分が乗りやすい。
だって俺はピエロだから。衣装にも結構こだわりたいタイプだし、
何よりやるとなると、結構凝り性なのが性分なのだから。
「じゃあ、始めるとするか」
俺は教室の扉を開けて中に入っていく。
中では机を全部後ろに追いやって、
生徒達が立って俺の講義を待っている様子だった。
参加者は強に鈴木さん。田中組と小泉、二キルマーシェ。
「あれ……」
予定の参加者より若干名多い数が視界に入っている。
——なぜ、ここに赤髪と美咲ちゃんが……。
「美咲ちゃんたちはどうしたの?」
「いや、兄がちゃんとやるか見張りというのもあるんですが、来年に向けての予習も含めてぜひお聞きしたいと思いまして」
優等生の解答だ。優秀な生徒は大歓迎したいところだが、
若干気まずさがある。バレンタインデーの件が尾を引いてしまう。
彼女に対して俺は防壁を張ったのに居られるのはやり辛い。
さらに、どうにも目を輝かせている。
なんとなく、俺のメガネ白衣姿が彼女にヒットしてしまったようだ……。
その横の赤髪野郎の不機嫌そうな顔たるや何とも言えない。
考えてることは目に見えてわかる。
なんで、アタシも参加しなきゃいけないんだよとか、
美咲ちゃんの方をチラチラ見て嫌悪している姿から、
あのクソヤロウのどこに魅力があるといったことだろう。
アイツ精神崩壊から救ってやったのに……
未だに俺に対する態度を改める気配が見えない!!
さらにこの前のニュースで叩かれてたことも関係があるのかも。
強ちゃんねるでボロクソに書かれていたからな。詐欺野郎とか、見込みなしとか、虚言癖とまで書かれていた。若干見ていて居たたまれない気持ちにもなったが、そういう態度でくるならこちらも考えがある。
強ちゃんねるで取り上げてやる。貴様の記事を——。
おまけにでっち上げて装飾してやるから、
覚悟しとけよ、
まぁ、ソレはあと始末で今やることを優先しなきゃな。
「じゃあ、講義を始める」
生徒達から『は~い』と返事が返ってきた。
若干二名ほど返事をしないがスルーしよう。
それはバルサミコ酢と強だけど。
あの二人はしょうがない。もう、イヤイヤ感が溢れ出ている。
「まず基本理論から説明するけど、おおまかに能力系統って言ったら何だと思う、田中?」
「ハイでふ!」
いきなり俺に話題を振られちょっと慌てふためいてる。
けど、こうやって参加を促すことが講義では必要だと俺は思う。緊張感というのもあるが、自分で考えた方がより身につきやすい。だからこそ、いつ自分に来るかということで考えを促させるのも一種の勉強法。
「能力と魔法と術でふ」
「そうだな、田中。まずは基本原則としてはその三つに分類される」
俺は黒板に白いチョークで三つを書いた。
「これが基本中の基本だ。さらにこれを細かく分類することができるが、それをやるとキリがないのでそこは割愛する」
そして俺は黒板を使いながら、しゃべり書き足していく。
「まず『能力』というものについてだが、これは自己の脳の一部分を使って大気や成分に干渉を起こしたものである。これに対して『魔法』はマナや精霊の力をつかって事象を起こすものだ」
「マナってなんだよ、櫻井?」
まさか強が質問してくるなんて……ちょいと以外だ。
魔法だから興味があるのだろうか?
丁寧に答えてやらなきゃな。
「マナって、言うのは地球上に存在する地殻エネルギーだとされている」
「されている?」
「そうされているだ。どこで発生してどこから来たのかはまだ定かとはなっていないからだ」
2000年から観測された魔法というものについてはまだ全容が解明されたわけではない。
そこらへんで曖昧な説明が入りやすくなってしまうのが難点だが、
せっかく強が興味を持ち始めたのだから俺も気合を入れなきゃな。
「ただし、マナが世界的に認められたのは異世界帰還者の魔法使いが現れてからだ。実際いま研究機関で発表されている内容によるとマナは元から地球上にあるものだったと言われている」
「それって……魔法が昔からあったってことか?」
「そうだ。昔から魔法というものが存在していた可能性があるということだ。厳密に言えば魔法を使える可能性はミレニアムバグ以前からもあったんだ」
「へぇー」
「サークライ、それってこの世界には昔から魔法使いがいたってことなの?」
「それについては、観測されていないという言い方が正しいかな」
「観測されていないって?」
「魔法使いという存在自体が2000年より前に入るとファンタジー扱いだ。それっぽい歴史ものとかもあるのだけれど、結局のとこ過去の証明ってのが難しすぎるんだ」
過去や歴史の証明と言ったものは必ずと言っていい程推測が入ってしまう。
「実際その対象は何百年も前の人物だったりして、おまけに事象を確認しようにも出来ないからな」
その書物が誰によって書かれているかとか、断定するすべはない。おまけに書物の中の文章事態も人間が書き上げたもの。それが自分流の解釈を交えていない保証などない。
「そういうことで観測されてないですのね……なんとなくわかりましたわ」
「まぁ有名な歴史上の人物で言えば、ジャンヌダルクとかがそれに当たるかな。彼女は農民の出でありながらフランスの革命軍の英雄として名を上げた。神の啓示とも言われているが、年もいかない農夫の娘が軍の指揮を取り戦略的戦争を出来るのかと問われれば期待は低いだろう」
そして、ジャンヌダルクの末路である。
「彼女は最後に魔女裁判という形で処刑されることになる。ここでの『魔女』という単語を宗教的・政治的な問題と片づけるのか、本当に魔法が使えた魔法使いと唱えるのか意見が分かれる部分もマナが発見されてからは出て来ている」
探せばいくらでもあるけど、
これぐらいの方がわかりやすかろうというチョイス。
まぁ概ねみな納得といった様子か。
「実際のところ俺はマナとかは魔力皆無だからわかんないんだけど、」
あとはちょいと協力もしてもらなきゃな。
「鈴木さんとしてはどんな感じなの?」
「そうだね、感覚的に捉える部分が多いんだけど」
鈴木さんが教室の隅を見渡す様に首を回している。
「マナって言うのを例えるとしたら、私は雪だと思う」
「雪?」
ちょいと気になるな。なんだ、雪って……。
「雪が降ってるの見ているような感覚でマナはあるの。この教室中に存在して、そこにもそこにもあるの。それで魔法を使う時にその小さな雪たちを集めてぎゅーっと凝縮して硬くて大きなマナにするの」
俺が鈴木さんが指さす方向を見ても何も見えないが、ミカクロフォード達魔法系統者は皆がうんうんと頷いている様子から鈴木さんの言ってることが正しいのが分かる。
俺も初めて得る知識に好奇心が湧いた。
「そういえば以前に強に魔力がないって言ってたのは、なんかそういうものが見えるの?」
「外にあるマナっていうのもあるんだけど、その人の内側にあるマナっていうのも見れるの。だから櫻井君にはマナがないのも見えるの。それにマナがある人の周りにはマナが集まりやすいの」
「じゃあ、魔力の大きさとかもぱっと見でわかるってことか」
「いや、それは違うよ」
「えっ?」
突然の否定に驚いてしまった。どうしてだ、マナが人に見えるのに?
「あくまでマナがあるのが見えるだけで、それがどれだけ魔力なのかはわからないの。さっき話したぎゅーっと固めるって話に関係があるんだけど、マナって言うのは凝縮しなくちゃいけないの。だから内側でぎゅーっとしたものがどれだけの塊かは判別が容易にはできないの。雪合戦の球がどれだけ固いかを見た目ですぐ判断できないような感じかな」
「マナの密度ってことか……なるほど」
「そうだね」
なんか俺の方が教えてもらってしまっている。
というか、鈴木さんってこんなに真面目に説明できたんだ。
確かにさっきも勉強会の話をした時にスムーズだったし、まぁ頭がいいし。
こういう話題になると普通なのか。いつも強が邪魔をするということだな。
アイツのおふざけは人に影響を与えるからな。
俺も多大に影響を受けるし。
「ありがとう、鈴木さん。まぁマナについてはとりあえずここまでにしとこう。こういう風に皆に協力してもらいながら各分野への基礎を固めていきたいと思うから、よろしく」
俺は教室のタイルにチョークを持って円を描いていく。
「この丸は能力系統を指すものだ」
三つの丸を重ねながら書いていく。
「一番黒板に近いのが能力。二番目が術。三番目が魔法だ」
オリンピックの五輪を直線に書いたような感じ。
「とりあえず、皆じぶんの場所に移動してくれ」
皆が俺の指示に従い動いていくなか、一人だけ戸惑うやつがいた。
「強ちゃんは丸に入るなよ」
「……仲間外れか?」
「違う、特別扱いだ」
無能力というものは扱いが違う。
≪つづく≫
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