第118話 この物語の主人公とヒロインは誰か

 俺はゴブリン共一掃した。


 残っているのは、校庭に広がる無数の肉片と体液。


「ふぅー、終わった」


 そして、デカい黒い炭があるだけだった。


「強ちゃん、お疲れ様です♪」


 終わった俺の前にぴょこっと現れた、玉藻は……いつもの玉藻。


 満面の笑み。さっきまで怒っていたくせにもう元に戻ってる。


 まぁ、俺も暴れてスッキリしたので気持ちは分からなくもないのだけれど。


 こういう時に何と言えばいいのか……


「あの~、お二人の映像を取らせてもらえませんか!?」


 思考を遮るように俺と玉藻の周りへと校舎に逃げ隠れていた報道陣が集まってきている。カメラを十台ぐらい向けられ血だらけの俺達に目を輝かせて何かを期待している様な雰囲気。


「できれば……二人であのポーズやっている絵を取りたいんですけど……」

「あのポーズ?」


 どのポーズよ?


「学園対抗戦でマカダミアがやっていた、」


 満面の笑顔でお願いしてくるキャスターらしき人物。


「あのデットエンドだって、やつです!」


 俺が金髪ボッチと戦闘している最中に確かに見たけども、


 アレがなんなのかは俺も良くわからないし、やり方も詳しくわからない。


「強ちゃん、あのポーズって、どうやるの?」

「確か……こうだったような」


 俺と玉藻はうろ覚えに形を合わせてみる。


 こそこそと二人でちっちゃくピストルを作り、上にあげて


「ここで、お前の行く末は決まってるだっけ?」

「違うよ。お前の行く先は決まってるだよ」

「で、下ろしながら、お前の行く先はだな?」

「確かそうだったね」

「で、ピストル撃つようにしてデットエンドだ」

「うん、そう♪」


 二人の間で動作の確認が終わった。


 こんな感じだったはず。うんうん。


「出来れば、背中合わせでカメラに向かってお願いします!」


 ……注文、多くねぇか


 ……もう、ちょっと頼むもんの態度ってあるだろう。


 ——やって、当たり前と思うなよッ!!


「は~い♪」


 玉藻さん!?


 そこで勝手に返事しちゃう所がお前のダメなところだッ!!


 勝手に俺の分まで承諾の返事をしてしまったが為に、


 俺は玉藻と背中を合わせて決めポーズをとることになってしまった。


 お互いに背中を合わせて、カメラに向かって


「「お前の行く先は決まってる」」


 声と動きを合わせ、


 指もくっつけながら先程の動作をこなしていく。


「「お前の行く先は」」


 そして、決めポーズをかます。




「「デットエンドだッ!」」




「はい、OKです!」


 超、恥ずかしいんですけど!!


 高校生にもなって中二臭さ半端ないんですけど!!

 

 これが全国に出回ると思うと死にたくなる!!


「お兄ちゃん、おねいちゃん!!」


 恥ずかしさに悶絶する俺の前に美咲ちゃんが走って登場。


 息を切らしてめちゃくちゃ走ってきたような感じ。


 俺達の前につくと美咲ちゃんの表情は若干涙目だった。


「おねいちゃん、これからも兄をよろしくお願いしますね!!」

「えっ?」


 玉藻に懇願するように頭を下げる美咲ちゃん。


 俺を宜しくって、どういうことなの?




◆ ◆ ◆ ◆



 美咲はもう見境がない。


 ここで少しで手を緩めたら終わりだと思い、力強く頭を下げた。


 その姿に理解が追いつかない二人。


 返答が返ってこないことに慌てて、


「もうお兄ちゃんをまかせられるのは、玉藻おねいちゃんしかいないの!!」


 玉藻の二の腕を魔道服の上から掴み、必死に願いを伝える。


「本当にお願い!!」


 涙を浮かべて下からこれでもかと縋る表情に、


 長年に渡り姉として過ごしてきた玉藻にも遺憾なく響いた。


「わかったよ、美咲ちゃん」


 それに――


「強ちゃんのことは私にまかして!」

「お願いね!!」


 強ちゃん大好きの玉藻ちゃんには願ってもない話である。


 やる気と覚悟などとうに出来ている。


 もうすでに脳内では強との子供の出産を星の数ほど体験している。


 お願いされなくても、そのつもりでしかない。


 頭お花畑の少女を舐めるでない。


 その力強い答えに美咲は涙を流しながら、


「ありがとう……おねいちゃんっ」


 礼を伝えた。


 傍から見ればそれはとても純粋な光景に見える。


 兄を託す健気な妹。そういう風に誰しもの目に映っている。


 おまけに校庭での見事な活躍を見せた世間様公認の主人公とヒロイン。


 それを支える妹としては申し分ない。


 しかし、その実——


 狙いが違う。


 美咲は打算的だった。


 おまけにずる賢さを持って然りな小粋な少女である。


 櫻井が見込むほどに頭がいい。その知能は存分なく発揮されている。


 美咲は完璧な作戦に僅かに口元を緩めた。


 彼女は考えていた——。


 兄が犯罪者になったら、どうしようと。


 罪を擦り付けるなどというちゃちなことではない。


 結婚しようがしまいが、妹という戸籍上の関係からは、


 抜け出すことが不可能なのは分かっている。


 ならば、打てる手はひとつ。


 罪をもみ消せばいいのである。


 犯罪者になっても、その犯罪をもみ消すことはできるだろうか。


 結論からいうと出来る。


 所詮警察も国家権力。国家の犬。


 それであるならば、総理大臣という地位を使えば身内の不祥事などもみ消し放題。おまけに何か起きた時の損害賠償も国家予算を超えることはないだろう。


 爆弾を手渡し、国をあげて爆発に備える。


 少女の描いた完璧なシナリオ。


 涼宮家の血はしっかりと引き継がれている。

 

 昴の横で呟いた。これだ!発言。


 すべてはここに集約されている。


 総理大臣の孫である玉藻と強をくっつけてしまえばいいのだと。


 その為に涙を流すなど容易い。


 自分のこの先の人生に絶望があるなら、


 一時の嘘泣きなど目薬をささなくても簡単に流せる。


「ほら、お兄ちゃん! ちゃんと玉藻ちゃんを教室までエスコートして!!」

「エスコートって何よ?」

「だぁー、この!」


 美咲はとろい強の手を取り、玉藻の手にくっつける。


 それは玉藻の手の上に置かれているだけ。


「絶対、離しちゃだめなんだからね!」


 美咲は必死である。それこそ藁を掴んでもぎ取りそうなくらいに。


「……………」

「……………」


 ただ玉藻と強は静かにその繋がった手を見つめ合った。

 

 手など繋いだことは腐るほどあったが、


 幼いその時とは違う。教室で喧嘩したせいもあるのか、


 一緒に戦ったせいもあるのか、変な意識が働いている。

 

『なぁなぁにしちゃいけないことって、あると思うよ』


 ミキフォリオに言われたことを思い出しながら、


 強は静かに握りしめていく。離れていかないように、


 離さないようにギュと握って


「いくぞ、玉藻」

「きょ、きょうちゃんっ!」


 歩き出す。


 玉藻ちゃんは引っ張られながらついていく。


「——————っっ」


 たどたどしく着いていく。顔はもう赤くなっている。


 繋いだ手がついて来いといわんばかりに少女を引っ張っていく。


 玉藻は普段自分からスキンシップをすることには慣れているが、


 ——強から何かをされることには弱い。


 昇降口を会話も無く、手をつないだまま恥ずかし気に歩いてく。


 その手に伝わる温もりを堪能して、


 幸せを噛みしめながら。


 ただ引かれるままに着いていく。


 階段を上る時に


「玉藻、さっきはごめん」


 少年はぶっきらぼうに呟くように喋った。後ろを歩く玉藻に向けて。


「きょう………ちゃん」


 その背中は多くは語らない。まるで昭和の頑固おやじのように。


 その少年は、ただただ不器用に謝った。


「うん」


 少女はただ静かに噛み締めるように答えを返した。


 だが、それだけで玉藻は満足してしまう。


 それだけで幸せに満たさられる。それは歪なのかもしれない。


 けど、二人にはそれだけで充分なのである。


 お互いの想いはわからないことだらけだとしても、


 確かに通じるものがある。言葉も少ないけど、


 それが何なのかは二人にハッキリわかっている。




 だって、お互いが好きなのだから。




「お帰りでふよ」

「お帰り、涼宮、鈴木さん」

「まぁ仲がよろしいこと」

「ひゅーひゅー」

「アタシに感謝しなよ、涼宮」


 教室につくとそんな二人をニヤニヤと出迎える一同。


「おう……まぁサンキュー」


 玉藻の手をつないだまま強が感謝を述べたことに、


 催促したミキ自体が面を喰らって目を見開いてしまう。


 ちなみにひゅーひゅーと言ったのはクロさんである。


「……」


 一同といったが1人だけ含まれていなかった。


「あー、アツイね……ホント熱いよ。魅せつけちゃってくれて困るぜ……いつまで」


 嫉妬の炎を盛大に燃やすのはもう変態の性でしかない。




「手を繋いでるんだぁああああ、お前らはッ!!」




 いい空気をぶち壊す役目はピエロ。


 玉藻と強はいまだに手をつないでいたことに、ハッと気づき慌てて手を離してしまう。お互い顔を真っ赤にして繋いでいた手をムニュムニュしている。


 見てるコッチが恥ずかしくなるような初々しいカップル。


「……やりすぎじゃないかなっ」


 それに唇をかみ切って血を流すのはピエロ。



 いつもの教室、いつものメンバー。騒がしい日常。それが彼らの日々。


 しかし、実は今日一人お休みなのである。


 一回も出てきていないメンバーがいる。


 ——お気づきだろうか?


 小泉の猫耳性奴隷二キル嬢は……


 お休みにはいってることを。



≪つづく≫

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