第65話 バレンタイン大作戦! —しばらく体罰禁止にゃん—
「なんですか、校長。話があるっていうのは?」
「オロチくん、そこに座ってくれにゃん」
「は……い」
校長室に呼び出されたオロチは促されるままにソファーに腰かけた。
「実は謎の封書が送られてきたにゃん」
猫は遠い窓を見つめ話を続けた。
「謎の?」
「差出人が書いてないものにゃん。さらに言えば切手もないから直接投函されたものにゃん」
「爆破予告かなんかですか?」
オロチとしては当然の反応である。
そんな怪文書など普通に考えて何か悪い知らせに決まっている。学校に関する恨みを綴ったもので脅迫文である可能性が高く、その為に学校教師で一番強い自分が呼び出されたと考えるのが筋である。
「違うにゃん……」
「では、なんの脅しなんです?」
「いや……」
猫は非常に言いづらそうな空気で話してくる。
「オロチくんのことについてにゃん……」
それを察してオロチはため息をついた。
「俺への殺害予告ですか……大丈夫ですよ、校長。俺を簡単に殺せると思ってるなら、返り討ちに殺してやりますから」
「いや……そうでもないにゃん……」
「えっ?」
予想がハズレにもハズレオロチもさすがに何の封書かわからなく困惑する。
「オホにゃん……オロチくんが特定の生徒について暴力行為を働いてるという内容にゃん」
「ハイ?」
オロチは突拍子もない内容に首を傾げた。
「櫻井くんという男子生徒に年100回を超える体罰を繰り返していると……これは本当かにゃん?」
「盛り過ぎですよ!! 精々50いけばいいほうです!!」
オロチがソファーから勢いよく立ち上がって反論を示し、
「50日でもやりすぎだにゃん……」
猫も体をオロチの方に向けた。
「というか、365日で休みを抜くと精々200日程度の学校で4分の1もやったらダメにゃんよ!」
「校長はその怪しい手紙を信じるというのですか!!」
「いや……最初は怪しいとは思ったんだけど、なんか詳細に日時とデータが書きこまれてる資料つきにゃん。おまけに資料がとても見やすくて出来がいいにゃん」
「なっ!?」
オロチが机に置かれた封書を開けて中身を確認すると、
とても鮮やかなグラフと、
体罰を受けた日、体罰を受けた時間、体罰の内容、
なぜ暴力を振るわれたかが、
鮮明に記録されている緻密な資料が出てきた。
この時点で本人不明ではなく、
――アイツか…………!
誰から送られてきたのかオロチも察しがついて、
手が震えだした。
「校長、これを送ってきたのは櫻井本人です……こんなやつのいうことは無視するべきです。アイツの学校を舐め腐った態度は一度殺さなきゃ治らんと思います!」
「オロチくん……やりすぎだにゃん」
「俺とアイツどちらを信じるんですか、校長は!!」
オロチの怒りが目に見えて取れる状態ににゃんこ校長も困惑しかない。
普通に考えて体罰はいけないことである。
別にマカダミアだからと言って体罰OKというわけではない。
ただ、エリート達の暴走など止める為に教師の採用条件に強いことが見込まれている。そこらへんが曖昧な線引きになっているだけである。
「オロチくん、体罰はいけないことにゃん。教師というのは授業や生活態度を持って生徒達を導いていくものにゃんよ。決して、暴力で脅したり恐怖で支配したりしたらダメなのにゃん」
にゃんこでありながらも人間界の正論を吐く校長。
しかし、時に正論などは邪魔でしかなく、
「アイツはあー言えばこー言うやつです! 善良な言葉が響くはずもないような、ペーパーのようにうっすぺらい存在のやつです! 殺される寸前まで殴られてもわからないほど、恐ろしく頭がイカレテる狂人なんです!!」
オロチの嘗てない程の熱の入りようである。
「櫻井というやつの更生にはただならぬ暴力をもってしないと付けあがり続けてどこまでも肥大していくモンスタースチューデントなんですよぉおおおお!!」
教師としての本分としては正しくとも、
にゃんこ校長からすれば、
オロチにいつもそれぐらいの気概を見して欲しいと思うものである。
なぜ、ここまでオロチという人間が熱くなっているかと言えば、
櫻井を今すぐ殴りたい、蹴りたい、殺したいの3つの衝動。
それを見抜けない程、にゃんこ校長の目も曇っていない。
「オロチくんは、しばらく体罰禁止にゃん」
伊達にマカダミアの校長などしていない。
「もし暴力を振るったら給料を減額させて頂くにゃん」
「なっ、給料減額!?」
給料を人質に取られてはさすがのオロチ先生も引き下がるしかない。
「大変だと思うけど、出来るだけ頑張って欲しいにゃん」
「チッ」
なにより遊ぶ金の為に働いているような男である。
だが殺意を消せるほど立派な大人でもない。
「わかりました……」
「わかってくれて、よかったにゃん」
オロチは校長室の扉に向かい歩き出す。
校長に見えない顔は激しく憤怒に溢れかえっている。
「校長、暴力は振るわないことを……」
櫻井に対してのフラストレーションが爆発寸前である。
「学校内では約束いたしますよ……」
一言残して校長室を去っていくオロチ。
校長室を出ると同時に拳をこれでもか
――サクライッ!!
というくらい握りしめ血を垂れ流して歩き出した。
残された校長はため息をひとつ零し遠い空を見上げた。
「櫻井くんも……困ったほうに成長したものにゃん……」
校長にとって、櫻井はじめという生徒はとても印象深い男だった。
入学前の彼を知っているが故に――
≪つづく≫
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