第60話 謎の襲撃により純けつがピンチです!

 ――何事だッ!?


 謎の男三人組の襲撃。


 俺は窓から落とされながらも反転し着地の体制を整える。


 いきなりの襲撃に警戒を上げる。


 狙われている理由も分からなければ、敵がなんなのかさえ掴めない。


 ――アイツら……………なんだ!?

 

 先程、落ちてきた窓に目をやるがやつらが追ってくる様子がない。


「なん――殺気!?」


 上空からの殺気。いや正しくは屋上。


 そこから一筋の狙いすました狙撃手が見える。


 やつの口が静かに動いているのが見えた。


【せ……んぱい……あばよ!】


 俺は咄嗟に顔をずらして軌道から外れる。


 ――ヤロウ、撃ってきやがった!?


 校舎の外壁にめり込む銃弾。


 やつの銃弾が俺の頭部を狙っていたのをすんでのところで避けた。


 ――敵はさっきの三人だけじゃないのか!?


 その判断を出来たことで感じ取れた。


 ――数が10……20……


 複数の殺気を――。


 ――いや、30……40!

 

 遠くから弓を引き絞る者、槍を投擲しようと構えるもの。他にも隠れているが殺気が漏れてやがる。そのすべてが俺に向けられている。


 ――いったい、何人いやがんだ!?


 それにアイツら学校の制服を着てやがる。


 ――どういうことだッ!


 一斉に襲い掛かる遠距離攻撃。


「くそッ!?」


 相手がマカダミアの生徒であることがマズイ。俺は実力を隠している。


 しかも、人数が多いせいで


 ――これじゃあ、これじゃあ、本気が出せねぇ!!


 俺は波状攻撃をでんぐり返しで転げながら避け続けていたが、


「おわッ!!」


 衝撃で体が宙に巻き上げられた。攻撃してくやつらの口が告げている。


 謎の『先輩』発言。


 ――全員、一年の連中なのか!?


 ――どういう風の吹き回しで俺を殺しにかかってやがる!


「なッ! 今度はなんだぁあああああああああ!!」

 

 上空に巻き上げられた俺の体は何かに絡めとられ引っ張られていく。


 校舎の内側から無数に伸びてくるナニか。


 それが何本も俺の体に巻き付き動きを封じていく。


「これは、まさか――っ!?」


 校舎の外壁に磔にするように俺を絡めとったソレ。


 ニュルニュルとしている、何本もの名状しがたい指先のようなもの。


「いやいや、また会いましたね、先輩」

「ここで会えたのもきっと運命ですよ」


 体を無数のナニカに縛りつけられ身動きを封じられた状態の俺の耳に届いた声は、聞き覚えのあるものだった。壁の後ろ側から聞こえる声の主のこいつ等には会ったことがある。


「「今日はバレンタインデーですからね、先輩」」


「お前らは――」


 ――この能力は≪触手≫!


 つい、最近も最近に――


相良さがらかのう!!」


 ――なぜ、こいつ等が俺の命を狙ってきやがる!?


「「触手ギルドの我々を覚えていてくれて光栄です、櫻井先輩」」

「テメェらは俺と学年変わんねぇだろうが!! 何が先輩だぁ!?」

「では、叶さん、彼の純けつを頂いちゃいましょうかね」


 なんだ……吸血属性まであるのか、この変態ども!?


「ですね、相良さん。ひと思いに純けつを奪ってやりましょう」


 ――まさか、こいつらの言う『純けつ』って……


「プリっとしている純ケツをね!」


 ――ケツのことかッ!!


「お前ら! 上手いこと言ってると思ってんだったらぶっ殺すぞ!!」

「まぁそう焦らないでください。先輩」

「そうですよ、先輩」


 ――マズイ! なんでこんな変態集団が俺を狙ってやがる!! マジでホモ連合なのかぁああ! このマカダミアに潜在的に数十人もホモが隠れていたってことなのかッ!?


「「アナ、ホ~ニューワー」」


「やめろ!! ハモんじゃねぇ!」


 ――なんて奴らだ! 頭がイカレテやがる!?


「その曲をそんなことに使うと黒いネズミの悪魔に殺されるぞ、お前ら!!」


 ――正気の沙汰じゃねぇッッ!!


「では違うので行きましょう、叶さん」

「えぇ、相良さん。別口でいきましょう」


「「アナのままで~」」


「それも同じことだぁあああああああ!!」


 ――ダメだ!


 ――こいつ等だけはすぐに退場させないと色んな意味でデットエンドしちまう!! 


 触手が俺の体を這うように蠢いてくい。


 ――これはマズイ……まじで俺の純潔が奪われる!? どうする、どうすればいい、どうしたらいい!


 ここで本気を出せばこいつ等を殺すのも容易いが仕事に支障が出るかもしれない。


 ケツか仕事か――


 仕事かケツか――


 ――クソ、一体どうしたらいいんだ!!


 俺の目の前に十人を超える魔法使い達が隊列を組み始める。


「ま、マジかよ!!」


 そして、詠唱を始めた。





「一斉砲撃! ファイヤ!!」




 誰かの音頭を取る声が響くと俺の視界が眩い光に染められていく。


 俺が魔法に消されていくこの瞬間は――チャンスだ!!


「相良、叶ッ――――」


 俺はやつらの触手を握り、一瞬だけ本気を出す。


 視界が魔法に埋め尽くされたということは相手側にも俺が見えてないということ。すなわち、今なら本気を出してもOKで、おまけに変態どもを始末するチャンス。


「お前ら、死んで来ぉおおおいい!!」


 力業で触手を外し一本背負いの要領で投げ飛ばす。


「「あれぇぇぇ~~~~」」


 相良と叶は宙を舞い前から迫ってくる魔法の中へと消えていった。


 そして、響く爆音。


 俺は当たる手前で変態の壁を使い塞ぎ切った。


「あばよ…………相良、叶」


 焼かれたボロ雑巾のように死んでいった触手コンビ。


「な、頭がいてぇ―――ッ」


 俺は突然に片膝を地に着いた。


 どこからともなく聞こえる笛の旋律。これは音による攻撃。


 聴覚に訴えかけてくる独特の不協和音。


 頭の中をかき回されているようだ。


「先輩、覚悟してくださいね」

「て、テメェは…………」


 ――そういことか……。


 ソイツの姿をみたことで悟った。


 笛を持った佇まいと馬鹿そうなツラ。そして、先輩という呼び名。




「沖田!」


「僕の名前をなぜ知っているんです?」


 朦朧としている体を突如としてデカいものに掴まれた。


「なッ!?」

「ふんわー!」


 無駄に力強い。この情けない叫び声と、


 独特の食べ物臭がするコイツは――鬼の副長。


 羽交い絞めにされながら俺は口を開く。


「なぜ……美咲ファンクラブが俺を!?」


 土方に取り押さえられる俺の前に、


「なぜって、お分かりでない?」


 ミスマッチメガネが偉そうに歩いて登場した。


 しかも、メガネをクイっとしているのが腹立つ!


「貴方が美咲様からチョコを貰いそうだからですよ、先輩」

「な、そんなことで!?」

「そんなことだとぉおお!?」


 俺が驚きの言葉を放つと奴は怒りの表情を浮かべ睨みつけてきた。


 まさか美咲ファンクラブがここまでイカれた集団だとは思わなかった。


 いや、運動会の時も俺が『先輩』と呼ばれただけで、


 一斉攻撃を仕掛けてきた連中だったか。


 とんでもない奴等に目を付けられちまった………ッ。


「貴方、自分の置かれた状況がまだわかっていないようですね」


 メガネは俺を睨みつけ憎しみをぶつけるように言葉を投げかけてきた。


「何を言っている……」

「美咲様が先輩と呼ぶ相手は、アナタだけなんですよ」


 ――まさか、美咲ちゃんんが俺に惚れていることに気づいてるのかッ!?


「アナタは怪しい。えぇ、とても怪しいんですよ。匂いますよ」


 くそ、晴夫さんと強だけでなく、とんでもないモンまで引き連れちまってる。


「女神を汚そうとする悪しき輩の腐臭が先輩からぷんぷんと匂いますよ!」


 何属性を持ってるんだ美咲ちゃん! 異常愛による鉄壁でも持ってるのか!?


 ただ匂うということは確信がないということだ。


「匂うだけで俺を殺すつもりか……お前ら」

「総統閣下から命は受けております」

「嘘をつけ! 強が俺を殺せと指示を出すはずがない!!」


 俺の気迫に押されてメガネが一歩後ろに下がった。


 強からそんな命令が出るわけがない。


 だって、アイツは、


 そういうことに関しては底抜けに鈍感だから!


 鈴木さんの反応にまだちょっと疑ってかかってるくらいバカなのに、美咲ちゃんの恋心に気づくわけがない! 


「お前ら………独断で動いているな」


 俺の読み通りメガネは悔しそうに顔を歪めた。


「くっ……お前。しかし独断ではない。総統閣下は気づいてないだけだ! お前が一番怪しいと。総統閣下は日記にって書いてあったのに、『その日一番活躍したの俺じゃん。ってことは、美咲ちゃんが恋をしたの俺ってことだよね』と浮かれていたが、どうも違う気がする!!」

「うわ……」


 強のイカレ具合も中々にヒドイ。


 確かに大晦日に一番活躍したのお前だけど……。


 ちょっと、妹に対しての偶像崇拝が凄すぎるよ。


 もはや、こいつ等も含めて宗教臭い!


 ドン引きしている俺の視界にイヤなものが映っている。


 ――何をしてやがるッ!?


 相良と叶が回復魔法をかけられている姿。


 マズイ、アイツらが復活すると純潔が危険にさらされる。


 俺が取り押さえられたことにより続々と人数が姿を現してきた。


 ざっと見積もっても50人は超えている。


 これは万事休すか……


 呪装式九字護身を使えば倒すことも可能だろうが、


 ここで力を魅せる訳にはいかない。


 俺は仕事かケツかと問われれば――


「いいさ、勝手な妄想で俺を殺すっていうのなら好きにしろ」


 仕事を取る真人間だった。


「随分潔いいですね」

「あぁ、今日は負けてやる。今日だけは負けてやる」


 敗北を受け入れるのが仕事だ。


「ただ一人残らず顔を覚えてやる………」


 ただ、敗北を敗北で終わらせる気はねぇ。


「そしてテメェらの秘密を暴いて暴いて暴きまくって、俺に歯向かったことを一生後悔させてやるからなッ!! 覚えとけよ、テメェら!!」


 俺の憎悪の気迫に押されて全員が一歩後ろへ下がった。


 ただ時間の問題だろう。


 あとはタコ殴りにされてケツの穴掘られて終わりだ。マジでバレンタインデーとか最悪だ。人のイチャコラを魅せられた挙句に、勝手に惚れられた子を崇拝する集団にタコ殴りにされる日。


 もはや、不幸以外の何物でもない――


 俺の終わりを告げるように、


 休み時間終了のチャイムが校舎に鳴り響いた。


「ん?」


 なぜか、俺は下におろされ羽交い絞めが解除された。


「授業が始まってしまいます。では、次の休み時間にまた会いましょう、先輩」


 ぞろぞろと校舎へ戻っていく宗教家たち。


「え?」


 ――意味がわからない……。


 どんだけ真面目なの。というか、そうか。


 アイツら一応異世界救ってきた英雄エリートだから、


 社会のルールとかちゃんと守るんだ~。そういうこと。


 俺はポンと手を叩いたがすぐに安心感は消された。


「あいつら、休み時間の度に俺を殺しに来るのか……どうやって対策をするか」


 だがすぐに考えが変わった。というか、簡単な話だった。


「あっ、そうか! そうすればいいのか!!」



≪つづく≫

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る