6.バレンタインデーはムクムクさんです

第59話 バレンタインデーの主役は誰でしょう?

 今日はバレンタインデー。


 この日も教室中に甘い雰囲気を匂わす。


 いや、正しくいうと学校中だ。


 さらに言えばそれより濃く激甘になる日。


 だって、マカダミアの90%は彼氏彼女の関係。


 盛り上がるどころの騒ぎではない。


 さて、読者の皆さんに問題です。


 ――私は誰でしょう?


 答えはwebで。これはweb小説なので、


 このまま話を続ける。


 バレンタインなんて、クソみたいなイベントの代表。


 元々はローマだかなんだかの女神の祝日だとか、キリスト教の何かだとか、詳細は不明で出処も怪しいものなのだ。さらに言えば日本で流行し始めたのも最近も最近。


 1950年頃とかにチョコレート業界が立ち上げた売り上げ確保の為の戦略である。


 民衆は正にそのアホな戦略に乗って、何かもわからず、


 アツアツっぷりを大衆に見せる付けるためだけにやっている。


 アホなこと、この上ない。


「田中さん、チョコです」

「ありがとうでふ」


 笑顔の田中の前に田中組四人がチョコの箱を持って整列。


 一気に四個ゲット。3倍返しが基本だから12倍のダメージ獲得だ。


 かわいそうに……これがチーレム野郎の末路である。


 そもそも男女差別とかいう割に謎の3倍返し制度。


 男尊女卑とか言いながら、男子を尊重しすぎである。これこそ日本社会の縮図。男はATMとはよく言ったもんだ。男と書いてサイフと呼ばれる由縁が良くわかる。


「小泉しゃん、どうぞ!」

「ありがとう、二キル……」


 なんて幸せそうなカップルなんだろう……。


 優しい笑みでお互いを見つめて渡されるチョコレート。


 さぞや、アイツもお役を果たしたことだろう。


 しかし、そういうの教室でやるのやめてくれねぇか?


 こっちはボッチでいるのに。


 見せつけられているボッチは慰謝料を請求できるのだろうか。疎外感というのが心的傷害にあたるかがネックであろう。腕利きの弁護士ならやってくれるかもしれない。


 バレンタイン訴訟を全ボッチが起こせば、


 この国から悪しき風習は無くなるのだろうか……。


「強ちゃん」

「あんだよ、玉藻」

「ハイ、チョコ♪」

「あ、ありがとう……な」


 何、ちょっと頬を赤らめてんの?


 強ちゃん、最近らしくないよ。らしくない。


 もっと昔のお前は、


 尖っていて触れるもの皆を叩きつぶす――


 鈍器のような男だったはず。


「あとね、強ちゃん」

「あと?」


 強の座席にケツを無理やり押し込み鈴木さんが座っていく。


 あの子、ホント過激。


 どうして、あそこまでアグレッシブにいけるのだろう。


 というか、付き合っても無いのに……


 やりとりが他のカップルより長いってどういうことなの?


「これも作ってきたの!」

「マフラー?」


 赤いマフラーをカワイイピンクの袋から取り出して、強の首に巻いていく鈴木さん。もしかして、アレは手作りマフラーってやつなのだろうか。


 というか、まだ巻いてる。


 バレンタインとか言いつつ何あげてもいい日なら誕生日でいいじゃん。


 なんで、この2月14日限定なんだろう。


 あれ……まだ巻いてる? 


 一体どこまで巻くの……


 もう二周くらいしているよ……


 鈴木さんの袋から終わりが見えない状態で伸びてくるマフラー。強に二巻きしたところで何故か自分に巻き始めた。カップルもびっくりの一つのマフラーを二人で使うってやつ。


「えへへ、これで私がマフラー忘れても大丈夫♪」

「長すぎだろう……」

「いやだった?」

「別に……いやじゃねぇけどよ……」


 ――何、マフラーと同じくらい赤くなってるの、強ちゃん?

 

 ――貴方って人は、どうして鈴木さんにそう甘いの??


 どう考えてもやり過ぎでしょ。


 二人分のマフラーと言いつつ、まだ先が余ってるよ。


 もう、それ三人も行けるよ。なんなら、俺も含めて巻けるよ。


 手伝いにいこうか?


 



 ――間違って、テメェらの赤い糸を引きちぎってしまうかもしれないがなッ!




 俺の拳はプルプルと震えだす。


「私もアレ欲しい! 田中、私もアレしたい!!」


 その中、クロミスコロナが強たちに気づいて目を輝かせて声を上げた。


「クロ、今日はバレンタインだから、アレはあげるものだぞ……けど私も欲しいかも」


 それをミキフォリオが制止した。


「それにしてもバレンタインデーにひとつの席に二人で座って、おまけに手編みのマフラーを二人で巻いて、男は赤くなって、男の肩に女は頭を乗せて幸せそうな笑みを浮かべている。これはなんですか、クロさん?」


 そして、クロミスコロナに話を続けた。




「バカップル!」




 ――正解!!


 その答えに俺は奥歯を噛みしめ歯をギリギリと鳴らした。


 というか、付き合ってもないのに最近イチャコラしすぎじゃない、あの二人。


 なんなの? 俺への嫌がらせか何かなの??


  見せびらかしちゃって熱いよ、


  本当に熱い熱すぎてとろけちまいそうだぁああ!


  間違って殺意の炎になりそうなくらい熱いぜ!!


「クソ、どいつもコイツもイチャつきやがって、早く不幸になっちまえ!!」


 俺はあまりの苛立たしさに席を立ちあがった。


 もはや便所に引きこもりたい。耐え切れない。


 昼飯はまだ我慢できるがこれだけは我慢できん!


 というか、いつもよりハードなイチャつき具合が蔓延している。


 ここまで来れば、バレンタインデーウィルス!


 病気の一種だ、こんなもん!!


 こんな最悪の日だからこそ、


 不幸な俺が主役となってしまったのは言うまでもない。


 俺こと――




「先輩」

「ん?」


 櫻井はじめの不幸はさっそく始まった。


 イライラしながら廊下を歩いていたら声を掛けられた。俺を先輩と呼ぶのは一人しかいない。しかし、その声は男のモノだった。俺を窓側に追い詰めるように三人が並んできた。


「お前ら……誰だよ?」

「先輩、今日は何の日か知ってます?」


 見たこともない男。しかも、三人組。


 ――なんだ……ホモホモ男子なのか?


 俺がイケメンだから声をかけるのもわかるが、


 バレンタインデーにホモからのチョコなど貰って嬉しくもなんともない。


「バレンタインデーだ。ただ、はいらん」

「そうですか、ホモですか」

「あん?」


 窓ガラスが割れる音が響く。


「なッ―――!!」


 というか俺は外に弾き出された。


 謎の三人組の男による襲撃。


 クソみたいなイベントの開始である――



≪つづく≫

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