第56話 バカな男たちのぺったん祭り! 青髪ヒロインの怒り方 ―後片付け編―

「櫻井、頭に葉っぱついてるぞ。それに顔の右側が膨れ上がってるけど」


 俺は六時限目ギリギリに学校に戻ってきた。


「お前、今度は何をどうしたんだ?」

「うるせぇ、ほっとけ………」


 ――大体がお前のせいだ。


 強に指摘された頭に付いた葉っぱを手で叩き落とす。


 まったくひどい目にあった。


 キタねぇパンツ見せられて、目を潰されて、


 三階から叩き落され茂みに落ちた。


 挙句の果てに、


 宿敵からカウンターで左フックを喰らうという屈辱。


 ――耐えがたい。


 ――全部、目の前にいるコイツのせいだ。


「ってか、六時間目だけど。オロチは?」

「なんか緊急の職員会議だとか。学校で大ケガした奴が4人いるって」


 緊急の職員会議とは運がいい。


 もう少しで体罰室へ連行されるところだった。


 きっと、置手紙をみて禿げあがるくらいブちぎれていただろうから。


 そろそろ、オロチへの対策も何かしといた方がよさそうだな。


 それにしてもだ――

 

「お前………………」


「なんだ?」


 こいつ素でわかってないな。


 職員会議、昨日のお前の妹が起こした事件のせいだろう。


 お前もその現場に居合わせていただろう。


 ――強、なぜ、気づかない?


 4人っていうのは、沖田、土方、近藤、木下。


 ――いっしょに地獄にいたメンバーのこともわからんのか?


 ただ、俺が訝し気にみても何も気づいてない様子。


 ――職員会議か……


 4人とも全部美咲ちゃんのクラスのやつ。


 ――美咲ちゃんは、どうやってこの状況を切り抜けるんだ?


 ――妹が逮捕とかされたらコイツのストレスで世界崩壊すんぞ。

 

 ――どうすんだよ……。


 この心配はすぐに無用な心配となった――


 俺の知る彼女はやり手だった。



◆ ◆ ◆ ◆




「昨日に我が校の生徒が生死にかかわる状況で病院へ搬送された件について、」


 にゃんこ校長が議長席に座り緊急の職員会議が開かれている。


「みんなと話したいにゃん」


 教職員一同重たい空気の中、校長の言葉に頷いた。


「調べたところ、魔物との戦闘ではなさそうにゃん」


 魔物ではなく堕天使との戦争である。


「おまけに凄惨な現場だったにも関わらず教室は何も異変がない状態にゃった」


 美咲の復元である。


「まるで密室殺人みたいな現場にゃん……」


 復元で元通りですから。


「名探偵もお手上げの事件で」

 

 証拠が無ければ探偵も探偵しようがない。

 

「出来れば何か手掛かりが欲しいけど、何かあるかにゃん?」


 猫が首を傾げると


「あの校長、」


 美咲のクラスの女性担任が手を上げた。


「涼宮美咲さんから話を聞いたんですが、」


 話をしたソイツが犯人です。


「大変言いにくいのですが…………」


 皆静まり返ってその女性の言葉に耳を傾ける。


「どうも銃火器ギルドの武器で遊んでいたようなんです………」


 自分のクラスの生徒が火遊びならぬ、


「銃火器ギルドの武器でかにゃん?」

「ハイ……申し訳ございません…………」


 銃火器で遊んでいたことに担任は恐縮の意を示す。


「八十六式ガトリング砲をおもちゃにして、視聴覚室で近藤くん土方くん沖田くんがおもしろがってふざけていた様子を見たって聞きました」


 皆一様に頷きを見せた。


 涼宮美咲は優等生である。


 彼女の発言の信憑性が疑われることはまず低い。


 模範生徒であり、学校の復旧などのお手伝い、


 さらには教職員のいうこともしっかり聞いて、


 手助けをしてくれるいい子だという認識が強い。


 可愛らしいその子が発言したと、


 あれば素直にうけとるのが教師という生き物であり、


 人間という生き物である。


「おそらく、あの四人はなので……いえ失言でした」


 そして、担任は話を続けた。

 

「自分の生徒をと言ってはいけませんね。子たちなので、近代兵器でふざけて遊んでいた拍子になんらかの事故を起こしてあのような事態になってしまったと思われます」


 担任が悲しそうに告げた。それに皆うなずいた。


 近藤、土方、沖田、木下ならやりかねない可能性が十二分に示唆できる。


 だって、バカだから。


 担任が言い直しているように見せて、


 三回も頭が弱いことを揶揄やゆしているのも印象に残りやすい。


 全員が納得したようにうむと頷き、


「では、学内放送で注意喚起を促した方がよさそうだにゃん」


 校長が話を締めくくりに入った。


「こんな馬鹿な事故が二度と起こらない様に生徒達に気を引き締めてもらうにゃん!」


 全員が『そうですね』といったところで会議は閉幕した。


 そして、学内放送担当はオロチに一任され終わりを迎えた。




 この会議の結論からいうと――




 バカとは罪であるということだけが明確になった。




◆ ◆ ◆ ◆




『全校生徒に連絡だ。最近、武器や兵器、魔法などで遊んで怪我するものが続出している。何か危険がある際、学校側の教師にすぐ連絡を徹底すること。そして、各自怪我がないように安全確認を徹底して臨むように。繰り返す――』


 俺の頬の腫れも引いた放課後にオロチの校内放送が流れた。


 それを聞いた俺は昨日の事件が事故として処理されたことが分かった。


 ――なぜ大量殺人事件が事故処理されている? 普通におかしいだろう……。


 これは未解決事件としてお蔵入りするパターンだ。


 ――いったい、何をやりやがった後輩? 


 たった一言の発言により捜査を巧みにだましているとは、


 この時、知る由もなかった。


 それより、これから強の護衛にまわらなければならない。


 おそらく、やり手な彼女は今日も拷問をしかけるはず。


 あれだけの畜生行為を受けた上での報復行為なので、


 そこまで悪いってわけでもないが、


 さすがに強を殺させるわけにはいかない。


 悩んで立ち上がっている俺の足に何かが掴まってきた。


「ざぐらい゛!!」


 護衛対象が泣きながら俺の膝に縋りついている。


 何もしてないのに獲物が連れた気分だ。


 一体、どうしたのだろう。


「どうした、強?」

「一緒に家まで着いてきてくれ! 頼む!! 一生のお願いだ!!」


 コイツの一生のお願い程あてにならんモノはない。


「あの空間にあんな重苦しい空気で二人だけなんて苦しくてとても耐えられない!! なんなら泊まっていっても構わないから、お願いだぁあああ!!」

「別にいいけど」

「ありがとう、櫻井!! やっぱり持つべきものは親友だな!!」


 足に縋りついたままの強が感謝の色を強く見せる。


 これで護衛がしやすくなりそうだ。


 家に部外者が止まっていればさすがに彼女もおおっぴらに殺人はできないだろう。


 もみ消すとしたら――


 俺も一緒に殺されるってことか。


 惚れた相手も殺すのかな……。




「櫻井、まじで助かるわ」

「おう、別に構わんけども」


 俺は強と一緒に家まで着いてくことに。


 だが、一点気になることがある。


「そういえば、鈴木さんは?」

「先に……帰りやがった」

「えっ?」

「アイツは俺を冷たい目で見下して、去っていた!!」

「お前……いよいよ愛想つかされたか」

「うるせぇええ!」


 泣きながら喚き散らす、強。


 味方が俺しかいない。


 鈴木さんもあの事件をどこまで知ってるか分からないが、学校を言いくるめる手腕だ。天然ぽやーんの鈴木さんをだまくらかすなんて、赤子の手を捻るようなものだろう。ぺったん節のとこだけ搔い摘んで話せば女子全員を敵に回せるしな。


 今日見た、堕天したあの子ならやりかねないか――ハァ。


「まぁ、帰ろうぜ」

「お……う」


 元気がない強を引き連れて俺は涼宮家を目指して歩いていく。


 さすがの強も鈴木さんと美咲ちゃんのタッグで攻められたら堪えるようだった。女子だけの家庭のお父さんの大変さが良くわかる。以心伝心した女子たちのプレッシャーたるや計り知れない。


 おまけに強が弱い相手。


 対強に対しては最強の二人だろう。

 

 その二人から攻められればコイツもしょぼくれもするか……。


「お前、ちゃんと美咲ちゃんと仲直りしろよ」


 というか、仲直りしないとお前は間違いなく殺される。


「……したいけど、方法がわからない」

「方法か~」


 兄妹なんていないし、おまけに家族がいない俺にはそのすべを知る由もない。そもそも一人暮らしだから喧嘩というものをする相手もいない。


 聞かれても困る質問だ。けど、フォローしなきゃな。


「例えば美咲ちゃんにプレゼントとするとか、花とか買ってくとか」

「櫻井、前々から思ってたんだけど……」

「なんだよ?」


 何か細目でじーっと俺を見つめてきてやがる。


「お前って、キザだよな」

「なっ! お前のくだらねぇ相談に乗ってやってんのに、キザとはなんだ!?」


 ――なんなんだ、コイツ!?


「普通高校生が花とか言わねぇし、この前のクリスマスも一万とかぽんと出すし」

「全部お前のおもりだろうがぁあああ!」


 ――人が親切で真剣に答えってやってんのに!? なぜ誹謗中傷をかます!!


 くだらない言い合いの結果、


 プレゼントも何も持たずに俺らは涼宮家に到着してしまった。


 そして、玄関をあけるとなぜかそこに

 

「強ちゃん!」


 仁王立ちした巨乳が立っていた。


「……………」

「ちょっと話があります!!」

「ハ……イ」


 俺を無視して強がリビングに連行されていった。


 まるで怒ったお母さんと子供のような光景だった。


 ――っていうか、俺どうしたらいいの?


 しょうがなく、俺は「お邪魔しまーす」と小声で言ってリビングに入っていく。


「強ちゃん、反省しているの!?」

「…………してます」


 中では正座させられている強と、仁王立ちしている偽お母さん。


「強ちゃん、なんであんなひどいことしたの!?」

「……ノリで」

「ノリって!!」


 火に油をそそぐ名言である。


 ――怒られているのにノリって……コイツ、アホだろう。


「人のオッパイばっかり見てるからこんな事になるんだよ!!」

「ハ……イ」

「最近一緒に帰ってもくれないし!!」

「ハ……イ」


 ――イヤイヤ、ハイじゃないだろう。


 ――って、いうか、内容がおかしくないか??


 疑問を浮かべる俺の前で説教は続いていた。


「友達と遊んでばかりで私とは全然遊んでくれないし! その友達とふざけているから、こんなヒドイ目に合うんです!!」

「ハ……イ」


 もはや、どこからツッコめばいいのだろう。


 ――鈴木さん……途中からもう私利私欲の塊ですよ。


 ――貴方の言ってることは、私と遊んでください、私と一緒に下校してくださいと怒ってるふりして遠回しに言ってるだけだよ、鈴木さんんん!!


 ――アンタ、いつもそうだ!!


「あれ、先輩!?」

「あ……お邪魔してます」


 びっくりした様子の美咲ちゃんに俺は素っ気なく返事を返した。


「どうして先輩がおうちに……」

「いや、強が泊まっていけっていうから」


 横の場外乱闘に気をもがれているせいである。


「えっ、ここに泊まっていくんですか!?」

「いや……いやっ!?」


 動揺する美咲ちゃんを前に平静を装いつつも俺に動揺が走った。


 ――そういえば、強の家に泊まるということは美咲ちゃんとも泊まるってことになるのか!?


「強ちゃんは私が眼を離すと碌なことをしない!!」

「…………ハイ」


――って、年頃の男女が家に一緒ってマズイか!


「だから、私がいないと強ちゃんはダメなの!!」

「…………ハイ」


――しかも、美咲ちゃん俺に惚れてるし……良くないよな!!


「強ちゃん、私の言ってることは分かった!!」

「…………わかりました」


 俺は怒られている強の方みやる。


 ――アイツ気軽に泊れとか、なに考えてるの?!


 アイツともう一人見つかったら殺されそうな人物。

 

 ――晴夫さんにばれたら俺の命もヤバイよな、これって!!


「ご飯だけ、ご飯だけ!! ごちそうになりにきたんだよ!」


 俺は慌てて予定を変更する。


「そう、夕飯食ってけって、いうからさ……」

「そうなんです……え!」

「ん?」


 彼女は慌てて台所にかけていった。


「今度から遊びに行くときは私も一緒に遊びに連れていくこと!!」

「ハ……イ」

「いいね、強ちゃん!」

「ハ…………イ」


 その横で支離滅裂なやり取りをするバカップルは勢いを増していた。




≪つづく≫

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