第55話 バカな男たちのぺったん祭り! 赤髪ヒロインのテンプレ―後片付け編―
「そういことだったのか……」
「えぅ?」
俺は病室で事件の全容を把握した。
これは非常に非情で残酷な事件だ。
しかし、おっぱいってのは恐ろしいものだ。
これだけでこんなことになるなんて。
人のおっぱいを笑ったやつの末路って、ことか――
「あぅ、あうぅー」
俺が去るを止めるように精神崩壊した赤子のような女が手を伸ばしてきたが、
「じゃあな、木下昴………」
振り払って俺は廊下を進んでいく。
「どうっすかな」
頭の中で考えることは強への復讐だろう。
――アイツのストレスがヤバイ。
――それにしてもなぜ……アイツだけ無事なのだろうか?
「これも美麗さんのおかげか」
きっと、アイツが一日でケロッとしているのは涼宮美麗の拷問によるものだろう。小さい頃から受けてきたが故に拷問耐性がついてる。それに美咲ちゃんのは美麗さんの真似事も真似事。おままごとみたいなものだ。
それぐらいの内容であれば――
強への精神的ダメージは少なかったと考えるのが妥当か。
しかし――
俺は頭を掻きむしりながら歩いていた。
「あー、アイツどうすんだよ! 堕天なんかさせやがって!!」
堕天してしまったが故にもう俺のカワイイ後輩は帰ってこない。
それにアイツが死なない限り多分拷問はエスカレートしていく。
今日の家に帰ってからが拷問開始といったところか。
――アイツがどれだけ耐えられるッ!?
俺は頭を激しくかきむしって止まった。
「ああぁ、くそッ!! ヤキがまわってやがる!!」
俺は踵を返し来た道を戻りだした。
どうにも最近俺は甘い。甘ちゃんも甘ちゃんだ。
美川先生の時もそうだが、
何か冷静さとは別の物が心を乱している。
――最近の俺は昔と違って、なんかオカシイ!!
「おい、クソ下
「あぅ?」
「これ一度っきりだからな!」
なぜ宿敵なんかの手助けをする気になっているのかわからん。
もはや自分で自分がわからん。
けど、どうも頭を掻きむしったのも強のことを考えながらも、
コイツのことが頭の片隅から離れなかった。
ただコイツは今回の事件で言えば、一番の被害者だ。
関係もないのに巻き込まれ精神崩壊させられた可哀そうな奴。
哀れみのあまりこんなやつを助けようなんて、
俺も本当にやきがまわってやがる!!
「感謝しろよ、木下!」
俺は木下昴を正面に立ち上がらせた。
コイツも赤髪ヒロインであれば――
「えぅ?」
「オラぁああああ!」
俺はヤツに向かって手刀を力強く振り抜く。
木下昴の中心に沿うように縦に一線を入れた。
呆けているバカ面の病衣が縦に切れ目が入っていく。
――テンプレ通りであれば、これできっと!
そしてヤツの病衣が縦に割かれバッサリと分かれた。
間から見える柔肌。普通なら気にしないのだが、
いきなり目に飛び込んできた白い布が俺を引き付けた。
――なぜ、さらしなんぞ巻いている??
胸部には包帯をぐるぐる巻きにしたような布が目に映った。
――ということは下はどうなっているのだろう?
――さらしと来れば、ふんどしか??
俺は下に視線をやる。
「なっ、ぐぁあああああああ! 目がぁああああああああ!!」
俺の視界はヤツによって潰された。必死に痛む両目を手で覆い隠した。
もはやレモンの復讐と言っても過言ではない。
――野郎なぜ、さらしに赤いレースの下着なんてはいてやがんだ!!
――汚ねぇもんおがんじまったじゃねぇかあああ!!
――くそ、目が潰されたぁあああああ!!
◆ ◆ ◆ ◆
「えう……っ」
「目がぁああああああ!」
裸を男性に見られている昴。
ただ男は両目を苦しそうに抑え悶え苦しんでいる。
昴の目に光が少しずつ戻っていく。
下着姿など父親以外の男性に見せたことがない。
その恥辱が、羞恥心が昴の本能に訴えかけている。
「あっ、あっ――」
そして、瞳の光を取り戻し、
「グァアアアアアアアアアアアア!」
口をパクパクと動かし、
「な、な…………なッ」
段々と頬を染めて顔を真っ赤に染めていく。
自分の髪より赤く燃え上がるように体温を上げ、
「ナニ……してる……ぅ」
ゆでだこの様に全身を深紅に染めていった。
そして、急いで右腕で胸元に手を添えて隠して、拳を握りしめた。
「この――」
これぞ赤髪ヒロインのテンプレ的行動。
ラッキースケベに対する王道の対応。
――ヤロウ、人語に戻りやがった!!
それを目を潰されながらも櫻井は読んでいた。
全部は櫻井の予定通り。
赤髪ヒロインならではの行動を熟知した男による回復劇。
しかし、予想外に両目を持っていかれている。
――聴覚だけでどうにかするしかねぇ!!
ここから来る攻撃を櫻井は耳で判断しなければならない。
「スケベェエエエエエエエエエ!!」
――これが合図だッ!
櫻井は声に反応し顔を右に動かす。
赤髪ヒロインのテンプレ攻撃は二択だと考えていた。
来るとしたら右ストレートか、もしくは右でのビンタ。
どっちかであると踏んでいた。
――なッ、なんだと!?
しかし、櫻井の顔を衝撃が襲う。
右からの攻撃は発生しない。なぜなら昴は右腕で胸を隠していたのだから。それでもストレートパンチだったら避けられていただろう。左からの衝撃が駆け巡る。しかも避けたところにカウンターでモロに刺さるパンチ。
木下昴を侮っていた。
やつは腐ってもマカダミアの生徒。普通のテンプレとは違う。
――こっ、コレはッ!!
櫻井の顔がひょっとこのように歪んでいく。
まさか、まさかの――
左フックがさく裂。
「ヘンタイィイイイイイイイイイイイイ!!」
「ふんわばらぁあああああ!!」
体重移動が完全にミスだった。
櫻井の避けた右側からさく裂するパンチ。
パンチに向かっていく体制で威力を十二分に体で受け止めた。
そして、踏ん張る足を間違えているが故に櫻井の体は宙を舞い、
「うわぁあああああああ――――」
窓ガラスを割って3階から飛ばされて消えていった。
「はぁ、はぁ、」
「木下さん、スゴイ音がしたけど大丈夫ですか!?」
「きゃあ!」
昴はスゴイ勢いで布団に潜り込んで自分の裸体を隠す。
その姿に看護婦は目を見開いた。
そして廊下に走っていき、
「先生! 先生!」
大声で叫ぶ。
「早く来てください、木下さんの意識が戻りましたあぁああ!!」
何が起こっているのかわからない昴だが続々と男の医者が自分の病室を訪ねてくるのに頬の赤みが一切抜けない。半泣きになりそうな状態である。
その姿を医師たちがみつめて淡々と感想を述べていく。
「すごいな、まさか戻るなんて!」
「いやー、あれは治らないと思ったんですけどね」
「完全に精神をやられてましたからね」
「早く出ていって下さい!」
昴は半泣きの状態で怒っているが誰も部屋を出ていこうとしない。
まるで実験モルモットでも見るように、
興味深々に自分を品定めしてくる男性たち。
そして看護婦が口を開いた。
「コレは愛の力ですよ…………先生」
看護婦は知っている。昴の彼氏が訪れてきたことを。
嘘だということは知らないけども知っている。
だからこそ満足げに答えた。
医師たちはその答えに満足気に『そうか、愛の力か』と相槌を打ち始めた。
「お前ら、早く出ていけぇええええええええ!」
昴だけ悲し気に叫んでいる不思議な病室。
一人のピエロのおかげで少女は自分の自我を取り戻した。
≪つづく≫
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます