第54話 バカな男たちのぺったん祭り! メインディッシュのお時間です。 -当日-

 銃口が収まり、昴の髪留めが衝撃で切れた。


 ふぁさっと落ちる赤色で艶がある髪が、


 座ったことにより同色の血を吸っていく。


「昴ちゃん良くできましたー。えらい、えらい♪」

「…………」


 美咲が茫然自失の昴を抱きしめ頭を優しくナデナデしていたが、


 昴の瞳は死んでいる。もはや色もなく輝きもない。


 二人も殺してしまった。しかも処刑的な内容で。


 取り返しのつかない過ちが少女を破壊していく。


 懐かしき我が家の風景が胸を駆け巡る。


「パパ、ママ、ごめんなさい……」


 温かい食卓と母親と父親。


 昴はパパママっ子だった。もう戻れぬ日常と壊れた心。


 立ち上がる力も入らない。


「さてと――」


 美咲は昴を離し最後の獲物に向かっていく。


 ウキウキと楽しそうな笑みを浮かべている。


 今までのは前菜といっても過言ではない。


 オードブルもオードブル。


 メインディッシュは正座したまま震えて佇んでいる。


「お待たせ、お兄ちゃん♪」

 

 最高の笑みを浮かべ兄の元へ近づいていく。


「あー、ぺったんこ、ぺったんこ♪」


 笑みを浮かべて、


「あっ、ひんにゅう、ひんにゅう♪」


 可愛く体を左右に振りながら、


「あー、ぺったんこ、ぺったんこ♪」


 歌を口ずさんで、


「あっ、ひんにゅう、ひんにゅう♪」


 全身で恐怖を表している兄の元へ、


「ヤーレン♪」


 ただただ、歩いていく。


「ひんにゅう、ひんにゅう♪」


 黒髪を左右に揺らして――


「パイパイ♪」


 満面の笑みである。かわいく歌を口ずさむ。


 ぺったん節を。


「おもしろい歌だね……」


 自分を堕天させた儀式の呪文を唱えながら兄の前に立った。


「ホントにね………」


 そして、体を90度傾けて顔を横にして兄の顔の前にぶらさげる。





「――オニイチャン!」



「――!」


 目が完全に笑っていない。強へ狂気に満ちた黒目が問いかける。


「一緒に歌おうよ? ねぇ、おにいちゃん?」

「えっ……」


 強の体はこれから起こる拷問に筋肉が強張る。


「あー、ぺったんこ、ぺったんこ♪」

「……」

「あっ、ひんにゅう、ひんにゅう♪」

「……」


 しゃがみこんで訝し気に可愛く上目遣いで兄を見つめてくる狂った妹。


「どうしたの、さっきまであんなに楽しそうに歌ってたじゃない?」


 堕天使は大罪人に笑みを浮かべて問いかける。


「どうして歌わないの? ねぇどうして??」


 堕天した姿を見たかったんでしょと不思議そうに顔を近づける。


「ねぇどうして?? 踊って歌ってでしょ?」


 強の体が静かにカタカタと震える。威圧感が半端ない。

 

「さっきまであんなに楽しそうに歌ってたじゃない???」


「………………ッ」


 その堕天使の問いに答えられるものはこの世に存在しないだろう。


「おかしいな……あっ、そうか!」


 美咲は強の前で両手をパンと叩いて閃いたような動作を取る。


「いっぱい、はしゃいでお腹が減ってるのね! それなら早く言ってよお兄ちゃん!! 少し早いけどお夕飯にしよう♪」


 強の脳裏に浮かぶ疑問。どこにご飯があるの?


 この殺害現場で食事などとる気分でもない。


 美咲が何を言ってるのか理解の範疇を超えている。


「これぐらいしかないけど、」


 そして、美咲は右手を差し出した。


「私の手作りだからしっかり噛んでモグモグして食べてね」


「!!」


 強の前に差し出されたのは沖田を殺した手榴弾。


 いつの間にか美咲の手の上に復元されている。体が震える。


 とても食い物とは言えない。そして堕天使は怯える強を前に微笑む。


「血糖値が下がっちゃって体が震えてるのかな~、もしかして糖尿病かな~?」


 そんな訳はない。涼宮強は健康優良児である。


「しっかり、食事管理してあげてるんだけどなー」


 強の閉じている口に無理やり手榴弾をゴリゴリと押し付ける。


「ほら、お口を開けてよ、お兄ちゃん」


 もはや強に逆らうすべはない。


「私が、あ~んしてあげるから」


 言われるがままに口を広げる他ない。


「あぁ……ん」


「はーい、あ~ん♪」


 大きい口を広げた中に手榴弾がいれられた。


 美咲は満面の笑顔を取り繕ったまま、


「ほら、お兄ちゃん♪」


 強が食べるのを待ちわびている。


「モグモグごっくんしないとね♪」


 震えながらも強がとる選択肢はひとつ。


 もはや、噛むしか――


「はぐッ――んっぷ!!」


 体の内部からの衝撃。爆発を体内で受け切った。


 体の穴という穴から白い爆煙が漏れ出している。


 さすがに体の内部からのダメージであれば強も受ける。


 しかし、最強であるが故に一発程度ではどうってことはない。


 さらに、しかし――


「ほら、おかわりいっぱいあるから、ちゃんと食べてね……お兄ちゃん♪」

「ニャッ!」


 手には手榴弾が戻っている。永久機関による拷問が始まった。


「は~い、あ~ん」

「あっ、あっ、あ」


 力なく口に押し込まれていく手榴弾。


 その光景が昴の目にも見えていた。


 ――し……しょう………っ。


 大好きな師匠が拷問される景色。もはやネットのグロ画像の比でない。


 手榴弾を噛んだ際に体が揺れる動きが生々しい。


 音が閃光が怖い。


 見せられているのはイタリアマフィアもびっくりの拷問。


「早くー、もぐもぐしてお兄ちゃん!」


 かわいくおねだりしているが言ってることが外道である。


 強もモグモグしたいが一度受けたことにより、


 恐怖で噛めなくなっている。


 怯える強を前に美咲は立ち上がる。


「何やってんのよ、お兄ちゃん――」


 呆れたような声が座っている強に降り注ぐ。


「早く食えって――」


 先程までとは一転、両手で強の頭を鷲掴み顔面に、


「言ってんだろうがぁああああ!!」

「オブッ――!!」


 膝蹴り一発。強の顎に撃ち込まれる美咲の蹴り。


 その勢いで手榴弾が体内ではじける。強の体に走る衝撃。


 そして、終わらない惨劇の始まり。


「まだまだいっぱい作れるから!!」


 狂った妹は煙を出す兄の髪を掴み上を向かせる。


「ちゃんと食べてね、お兄ちゃん!!」


 ここからは口に手榴弾を突っ込んでは殴る蹴るの拷問の開始である。


「アハハ、もっと食えよぉおお!」

「ぎゃぁ!」


 昴の前でちらつく閃光。


「腹が減ってんだろッ!!」


 終わらぬ拷問を見せられることにより心がレイプされていく。


「オラオラ、食べろよー、兄貴!」


 大好きな師匠の悲惨な姿。狂気に完全に落ちた親友。


「おかわりいっぱいだよぉおおお!! ヒャハハハッハッハッ――」



「オボッ!」


 血みどろの教室に響く爆音と閃光。


 ――地獄………ここは。


 昴の目は痙攣したようにぴくぴくと激しく動き白めに近づいていった。


 ――地獄


 精神崩壊の前兆である。もはや地獄の中にいる。


 帰れぬ日常が少女を絶望に染めていく。


「ハハハハハ――!!」


 だが最強であるが故にタフである。


 爆弾による内部爆発が終わりなく続いていく。



 そして――



「ちっ、気を失ったか」


 一万回を超えたところでようやくその境地に辿り着いた。


 倒れた兄の黒髪を乱暴に掴み生死を確認する美咲。


 今までの美咲とは外見は同じでも中身は別物である。


 櫻井の言ったことは正しい。バケモノとなってしまった。


 人の皮を被っている悪魔が誕生してしまった。


 美咲は強を投げ捨て教室を復元する。


「うぅーん、疲れたな!」


 そして、昴の方に近寄っていた。


「昴ちゃん、おうちかえろう♪」

「あぁ……終わったの?」


 昴の意識はもうないに等しい。


「終わったよ♪」

「帰る…………」


 力なく立ち上がり鞄を手に取り、美咲についていく。


 温かい我が家に帰る。それだけの意志が彼女を突き動かしていた。


「じゃあ、昴ちゃん! また明日ね~」

「バイバイ……美咲」


 通学路の途中で美咲と別れて徒歩でふらふらと家に帰る昴。


 何も考えずに歩いていき電柱にぶつかったりしながら、


「おかえりなさい、昴。今日は随分遅かったわね」


 なんとか家に辿り着いて玄関を開けた。


「ママ……――」


 我が家につき母の顔を見た瞬間に昴の意識は途切れた。


「昴…………昴ッ!?」


 彼女を動かしていた目的が達成され、


「スバルゥウウウウウウウ!」


 罪悪感と絶望だけが彼女に残され、その日は終わりを迎えた。



≪つづく≫

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