第51話 バカな男たちのぺったん祭り! 復讐開始!! -当日-

 しりもちをついた姿勢のままの昴の前で


「彼奴等を血祭だぁあああああ――」


 堕天が完了し悪魔となった美咲。


 視聴覚室で燥ぐ馬鹿共はその殺気に、


 まったくと言っていいほど気づいていなかった。


 未だにぺったん節を永久リピートするように踊り狂っている。


 美咲はワイルドに口でスモークグレネードのピンを抜き取り、


 それを少し開けた扉の間から中に投げ込み扉を締めた。


 よどみのない動きは洗練された軍人のようであり、昴も目を見開いた。


「なんだ! なんだ!」


 中でスモークグレネードが発する白い煙に野郎どもの姿が消されていく。


 視聴覚室に充満していく煙を前に――


「誰だよ、スモークなんて炊いたのは♪」

「総統閣下、これは粋な演出ですね!」

「すごいんだな~♪」

「お前ら、はしゃぎすぎだぞ~」


 男たちはまだ燥いでいた。


 沖田は笛を吹いているので喋れないなか、


 スモークグレネードを何かの演出と勘違いして、盛り上がっている始末。


 扉の前で静かに、


「3、2、1――――」


 美咲はスモークが充満するまでのカウントを数え終える。


 ――ひとり残らず…………


 そして、勢いよく扉空けた。

 

 ――コロス


 視界は白い煙に満たされており何一つ捉えることが出来ない。


 だが、美咲の能力は復元。


 それは立体的構造をイメージすることに特化している。


 配置や構造を的確にとらえる力。


 ――ソコか…………


 白い煙の中でも動いている敵の位置を、


 正確に把握し、


 顔の正面でベレッタを構える。


「まずは――」


 ベレッタにサイレンサーをつけて、


 静かに呟き引き金を引く。


「はぅん」


 沖田の間抜けな声が響いた。


 半裸だったのが最悪だった。


 見事に乳首に睡眠弾が命中。


「一匹」


 あっという間に眠りへといざなわれてその場に倒れた。


「なに、変な声出してんだよ! 気持ちわりぃぞ♪」

「本当に沖田何やってんだ。笛が止まってるぞ♪」

「ミュージックカモンなんだな~」


 しかし、それでも中の男たちは燥いでいる。


 ――燥げ………馬鹿共。


 そして、美咲は次の獲物へと銃口を向けて二つ目の弾丸発砲した。


「ふんわー」


「二匹目――――」


 土方の間抜けな声が響く。


 体の大きい土方の声は白煙の中で反響して良く響いた。


「さっきからなに変な声出してんだ………お前ら?」

「総統閣下、これは――!!」


 ここでようやくメガネが気づく。




「敵襲です!!」




 コレは――未知の敵による襲撃だということに。


 そして、メガネは総統閣下を守るべく身を乗り出した。


「チ―——ッ!」


 美咲は憤りを表す様に舌打ちを鳴らす。


 煙の動きにより美咲のイメージとのずれが生じたのが認識できたからだ。


 相手が予想外に動いたことを察知し集中する。


「逃がすかぁ――!」


 メガネが声を出したことにより、


「総統閣下、お逃げくださいッ!!」


 正確に位置を把握する。


 ―—声の距離2メートル先、角度37度。


 そして、銃口の向きを修正し、


 三発目を放った。


「くぁッッ!」

「三匹目!」


 見事に後頭部に睡眠弾が命中した。


 しかし、メガネが咄嗟に強の前まで移動をしていた。


「よくも…………」


 それが強に認識させる。


 敵が攻撃してきていることを――。





「俺の仲間ォオオオオオオオオオ!」





 強は怒りに満ちた声を出した。


「ラストッ!」


 だが、それで完全に位置が割れた。


 美咲は最後の獲物に向けて素早く銃弾を放つ。


 ——舐めるな、俺をッ!!


 しかし、相手は最凶にして最恐であり最強。


 強の視界に白い煙を割って飛んでくる銃弾が視界に入っている。

 

「テメェ…………」


 ソレを自分にあたる寸でのところで親指と人差し指で挟み掴み取った。


 そして、白煙がかき分けられた軌道を見る。


 その銃弾が飛んできた方角を睨みつけた。


「ソコかァアアアッ!」

「チッ、仕留めそこなったか!」


 美咲は急いで次の銃弾をセットし構えたが、強の飛び出しが早かった。


「ぶっ殺す!!」


 脚力が尋常ではない。


 ひとっ飛びに銃弾が飛んできた方向へ白煙切り裂き拳を構える。


 部下をやられた総統閣下のお怒りは結構なものだった。


 右拳を引き絞りそれを未だ見えぬ相手へとぶつけるつもりで向かっていく。

 

 ——しくったッ!!


 美咲の銃弾のセットが間に合わずに白煙の動きを見据える。


 美咲の動体視力をもってすれば強の動きも多少は見える。



 ――ゼッタイに殺す!



 二人の思考が重なる。


 

 そして、白煙を切り裂き


 二人は相対する――



 ――な、なんでここに美咲ちゃんが!?




 お互いにらみ合っている中、


 強の思考が一歩早く反応した。


 廊下で銃を構えている美咲を認識したが、


 ――やべぇ、止められねぇエエエ!


 飛び掛かり引き絞っている拳はもはや憎き敵に放たれる寸前。


 制御が効く範疇を超えてしまっていた。


 敵が最愛の妹だとは思わなかったが故に、


 もはや強自身では止めることができない。


 それは妹の顔面に向け放たれようとしていた。


 ――マジィイイイ!


 だが、美咲は怯えることもなく――


 本気の目で強を睨みつけ、




「————ひざまずけぇェエエエエエエッ!」





 一喝。言葉を力強く放った。



「——————っ」


 その瞬間、強の体は条件反射で正座の姿勢になった。


「…………」


 廊下の壁に膝をぶつけそのまま着地。


 それは涼宮美麗による教育の成果。


 おとなしくちょこんと座っている。


 女帝家系による束縛が発動。


 ——止まった…………?


 だが、強自身危機一髪だった。


 ——な……な…ぜに……ここに


 あの一撃を美咲にぶち込んでいたら美咲が死んでいたであろう一撃だった。


 ——美咲ちゃんが……!?


 正座の体勢を維持したままの強は汗が止まらない。


 美咲の怒りが冷たく突き刺さる。


 冷酷な目をしたみたこともない妹。


「テメェの始末はメインディッシュだ」


 そして、妹は一言兄に残して


「覚悟しとけや、クソヤロウ―—」


 視聴覚室の中に移動を開始する。


 もはや美咲は、いままでの美咲とは別物。


 昴曰く、その姿は数多くの戦場を生きのびた軍曹のようだったと。



《つづく》

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る