第50話 バカな男たちのぺったん祭り! おめでとう、天使のような妹は堕天した。 -当日-

 美咲はただ黙々と廊下を歩いていく、


 その後ろを昴は顔を下げて着いていく。


 そして、校庭のとあるギルドを訪れた。


「あら、涼宮さん! 銃火器ギルドにようこそ!!」


 ギルド長は女性である。


 そして、突然の美咲の来訪に席を立ちあがった。


 壁には様々な銃やバズーカ砲などが飾られている。


 美咲がわざわざここを訪れたのは武器を手にするため。


 美咲の戦闘能力は皆無。もはやランクにも出来ない。


 だが彼女のスキルは戦闘能力を鑑みても有用である。


 それはギルドにとっても当然である。


 彼女が居れば過激な演習をしても元通りになるし、


 銃火器ギルドであれば消耗品が削除される。


 まさにハッピーレアシスター。


 だからこそ突然の来訪にギルド長の胸も高鳴る。


 ここで美咲の入部を獲得すれば、


「涼宮さん、銃火器に興味があるの!」


 財政が大きくプラスに傾くことが間違いないからだ。


「えぇ、少し……ちょっと憂さ晴らしに銃を撃ってみたいと思ってまして」

「どれでも好きなのを取っていって!」


 それは勧誘の言葉。


「銃は気持ちいいわよ!! すごく楽しいわよ!!」

「気持ちよさそうですね………」


 だが美咲は冷たい言葉を返し黙々と銃を品定めしていく。


 美咲が扱えるのは小型銃である。その中でもひと際小さいものが目を引く。


 ―—ベレッタ ナノ(Nano)。


 弾数は6発と限られるが携帯しやすく、女性でも撃ちやすい。


 それを美咲は手にして眺める。


 ——ソレをどうする気なのッ!?


 後ろで昴はそれを何に使うか知っているため怯えるほかない。


 人に向けて撃つのだ。


 美咲は銃を顔の前に構えて撃ち方の予習を始める。


 トリガーを引いて感覚を確かめる。


 一通り終えて――


 小さく納得したように頷き、


 次の獲物に目を移す。


「涼宮さん、ベレッタをいきなり選ぶなんていいセンスしてるわ!」

「………………」


 褒めるギルド長に絶句しかない昴。


 次に美咲が目を向けたのは86式ガトリング砲。


 携帯できるようにショルダーがついている。


 しかし、これは美咲では持てるはずもない重量感がある。


 美咲は昴に静かに視線を移した。


 そして、顎でクイッと支持を出す。


 ―—アレを持て、スバルと。


「み、美咲!!」

「昴ちゃん、時間がないの。早くして」

 

 慌てる昴を咎めるように美咲は冷たく言い放ち、


 しぶしぶ昴はガトリングを肩にかける。


 美咲にとっては時間がない。


 もし、ここで下手に時間を食えば、


 獲物が逃げ去ってしまうかもしれない。


 もう感情はすでに死にかけている。


 殺意に殺されかけている。


 あのアホどもを血祭りにあげるという冷血が体を駆け巡る。


 しかし、さすがにこれはギルド長も想定外だ。


「あの~、涼宮さん…………」


 86式ガトリング砲など試し打ちするにしても、ちょっと過激すぎる。


「ちょっと、ソイツは普通では扱いが難しいのよ……」

「大丈夫です、大体の構造は見ればわかりますから。ちゃんと試し撃ちした分の弾薬は復元してお返しします。アレを撃ったら銃の魅力が私にもわかりそう気がするんです♪」


 可愛い笑顔に騙されるギルド長。


「まぁ………………」


 それになにより銃の魅力を知ってほしい。


 好きでなければギルドなどやっていない。


 それをわかろうとする、可憐な少女に心が騙された。


 全てがわかっている昴は視線を斜めに下にずらした。


 嘘ついていることに心が痛まれないから。


 美咲は他にも手榴弾とスタングレネードをポケットに突っ込んでいく。


 さらに麻酔用弾薬とスモークグレネードも。


 何と戦争をするつもりかと言いたいが――相手は最強の兄。殺すには時間がかかる。それなりの装備が必要だ。


「ちょっと、借りてきますね! あとで戻しておきます!!」

「は~い! 気持ちよくぶっ放してきちゃっていいからね♪」


 ギルド長は笑顔で美咲たちを見送った。


 昴は肩にかけている86式ガトリング砲に小さな体を揺らされながら、


「み、みさき……これはちょっとやりすぎじゃない」


 歩き辛そうについていく。


「やりすぎたのはアイツらだよ……昴ちゃん」


 美咲から伝わってくる怒気に、


 昴は声を失った。


 もはや、犯罪の加担に近い。


 しかも、横にあるこれを気持ちよくぶっ放したら、どうなるの?という疑問もある。


 段々と教室に近づいていく二人――


 それに気づかない野郎ども。


 だが、また視聴覚室前で、


 楽し気な音が聞こえてきた。


「なにこれ……太鼓みたいな……笛みたいな?」


 昴は当りの騒がしい音に気づき始めた。


 聞こえてくる軽快な太鼓の音と、


 神聖な笛の音。


 ただどこかで聞いたことがあるメロディ。


 日本人なら大半が聞いたことがあるようなメロディ。


 そして、視界に移る教室――


 四角窓から見えるキャンプファイヤー。


 そして、上半身裸で燥ぐバカたち。


 キャンプファイヤーを囲み、


 ぐるぐると回っていき、踊り狂っている。


「————―ッ!!」


 その光景にさすがの美咲も凍り付いた。


 殺そうとしていた男達の愚行はレベルアップしていた。


 さっきまでが、ほんの序章だと言わんばかりに燥ぐバカたち。


 笛を吹くのは沖田。


 扱い慣れた武器から聞こえる音色は洗練された美しい旋律を奏でている。


 そして、土方は自分の腹を叩き太鼓がわりに大地を揺るがすような音を出す。


 それのリズムに乗るようにメガネと兄が、


 激しく見たこともない部族の踊りを見せる。


 謎のステップを踏みながら胸の辺りを叩いては、


 乳首を擦るように激しく上下に動かしている。


 教室から和風の音楽と歌がハッキリと聞こえた。





 かつて、漁師たちが、


 ニシン漁の大量を願って歌った、




 漢の唄、『ソーラン節』――。


「アァアアア、ぺったんこぉ! ぺったんこぉ!」


「「「ぺったんこぉ! ぺったんこぉ!」」」


「アッ、ヒンニュウ ヒンニュウヒンニュウ!!」


「「「ヒンニュウ! ヒンニュウ!!」」」



 それが独特にアレンジされて『ぺったん節』として昇華されている。


 『ソーラン』は、『ヒンニュウ』に置き換わり、『どっこいしょ』は『ぺったんこぉ』となっている。


 もはや、中の男たちはキャンプファイヤーをする貧乳部族。


「ヤァアアアアーレェエエエン、」


 強の力強い声に合わせて全員で大合唱である。



「ヒンニュウ、ヒンニュウ、ヒンニュウ、ヒンニュウ、ヒンニュウ!!」


「「「ヒンニュウ、ヒンニュウ、ヒンニュウ、ヒンニュウ、ヒンニュウ!!」」」


「「「「「パァイパァイッ!!」」」」」

 


 貧乳部族による祭りが視聴覚室で開催されている。


 …………やってくれたな…………ッッッ。


 美咲は再び天を見上げ、唇を血が出るほど噛みつけた。


 このアホな祭りが自分の為だということがはっきりわかっているから。


 対照的に昴は震える。


 もはや、バカたちの行為がやりすぎどころの騒ぎではない。ヒンニュウと連呼している回数が百を超えている。ヤバイ。ちくりと胸が痛んでいる。


 なぜなら昴の胸は成長している。


 あまりチッパイなど気にしていない。


 気にするのは親友の動向――


「アァアアアアアアアアア、ぺったんこぉ! ぺったんこぉ!」


「「「ぺったんこぉ! ぺったんこぉ!」」」


 視聴覚室の熱量はもう計り知れない。青春真っ只中。

 

 キャンプファイヤーの灯りの中で汗を飛ばしながら激しく舞って合唱している。美咲たちの耳にもつんざくような奇声が届いてるとも知らずに、半裸でノリノリ。


「アッ、ヒンニュウ ヒンニュウヒンニュウ!!」


「「「ヒンニュウ! ヒンニュウ!!」」」


 美咲は一息ため息にも近い空気を漏らした。


 その瞬間に何故かわからないが廊下の照明が激しく点滅を繰り返し始めた。


 昴は何事かと思う。視聴覚室一体に漂う空気がもはや別世界に近い。


「ヤァアアアアーレェエエエン!!」


 激しく踊る男達、何を考えてるかわからない親友。


「ヒンニュウ、ヒンニュウ、ヒンニュウ、ヒンニュウ、ヒンニュウ!!」


「「「ヒンニュウ、ヒンニュウ、ヒンニュウ、ヒンニュウ、ヒンニュウ!!」」」



「ぷっ――――ふ」


 美咲は微かに笑った。確かに笑った。


「へぇ――あッ!」


 昴はその姿に怯えて尻もちをその場に着いた。


 完全に美咲がブちぎれたのを察知した。


 昴は知っている。


「「「「パイパイ!!」」」」


 美咲を怒らせてはいけないと。


「アハッ――――」


 美咲は微笑みを浮かべた。


 ――コワイ……コワイ。


 昴にはそれが何を意味しているかわからない。


 ――ナニ、何!?


 天井を見上げキョロキョロする昴。


 天井が微かに揺れているように見える。


 照明の点滅も激しさを増している。


 暗くなると、


 視聴覚室キャンプファイヤーの光が、


 男達の影を不気味に伸び縮めさせる。


 ――ヤダ……いやだ………イヤだッ!?


 昴の体は恐怖にがくがくと揺れだした。


「アァアアア、ぺったんこぉ! ぺったんこぉ!」


「「「ぺったんこぉ! ぺったんこぉ!」」」


「アハハハハッハハハハハハ!」


 美咲の笑い声は過激になっていく。


 気が狂ったように嗤っている。


 顔を真上に片手で目を完全に覆い隠して、


 高らかに嗤っている。


「あっ…………あぅ」


 昴は一刻も早くその場から逃げ出したい。


 あまりにも怖すぎる。


 ――怪奇現象のオンパレード。



「ヤァアアアアーレェエエエン!!」



 となりの教室から聞こえてくる笛の音も不気味にしか聞こえない。


「ヒンニュウ、ヒンニュウ、ヒンニュウ、ヒンニュウ、ヒンニュウ!!」



「「「ヒンニュウ、ヒンニュウ、ヒンニュウ、ヒンニュウ、ヒンニュウ!!」」」



「アハハハッハッハハッハッハハッハッハハッハッハ!!」




 気が狂った様に笑い声のボリュームを上げていく親友。


 顔の半分を手で覆い隠しているが高らかに笑う大きく開けた口が見える。


「ひゃぁあッ!?」


 上からパリんと音がなった。頭に白い物体の破片が落ちてくる。


 廊下の照明が呼応するようにパチンとスパークしはじけ飛んだのだ。


 そして、終わりを見せないテンションを上げていく謎の貧乳部族の祭典。


 そして、昴の横を男たちの巨大な影が廊下を回転するように通り過ぎていく。


「あわわっわわわわわ――」


 言葉がでない、


 恐怖映像と怪奇現象のオンパレード。


「ハハハハハハハハハハハハハハハ――」


 おしっこを漏らしそうな勢いで、


 体を揺らす昴。


 そして――


「ハハハ………ハハ………ハッ――――」


 美咲の嗤い声がやんだ。



 嗤い疲れた様に静けさを纏う。


 昴の前で静かに暗闇で佇む美咲。


 もはや、何が彼女に起きたのかわからない。


 ――み、みさき…………。


 ごくっと唾をひと飲みして、

 昴は喉を鳴らした。


「ねぇ――――昴ちゃん」


 体を震わせ脅える昴の耳に、

 しっかりと届く美咲の声。


 だがどこか違う。いつもと違う。


 何か二重音声のようになっており、


 デスボイスが混じっている。


彼奴等キャツラの行く先が決まったよォ――」


 突然の雷鳴。校舎が揺れる。


「――――ッ!?」


 昴は体がぶるっと震えた。


 白い雷の閃光が親友を映し出す。


 さっきまで隠れていたはずの目が、


 微かに開いた指の間からこちらを覗いている。


 それは深淵のような黒目。


 だが、その瞳の奥に赤黒い輝きが目をつく。


 非常ベルのランプのような赤い光線が見える。


彼奴等キャツラの行先は――」


 少女の声のデスボイスが、


 段々と存在を隠さずに前に出てきている。


 ニヤリと嗤って白い歯を見せ、


 彼女は告げた。


 堕天が完了したことを――。






「――――デットエンドだ」




 昴の前に見えるそれは悪魔だった。


 可愛かった親友はもういない。


 男たちの謎の祭りが可愛い親友を堕天させてしまった。


 まるで、それは新しき魔王の誕生祭。


 暗黒世界が彼女の誕生を祝っているような姿。


 ――おめでとう。美咲は堕天した。と


 そして、誰もが忘れている。美咲は、


 最凶にして――


 最恐であり――


 最強の存在の――


 妹であるということを。



《つづく》

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る