第49話 バカな男たちのぺったん祭り! レッツカーニバル!! -当日-

 玉藻はカラオケへ、美咲は学校内に残り、強は視聴覚室へ。


 各々が各々の水曜日を満喫するべく動き出した。


 強が視聴覚室へ行くと3バカトリオが待ち構えていた。


 近藤、土方、沖田である。


 沖田は首からカメラをぶら下げており、


 土方は右手に玉こんにゃくの袋を持っていた。


「お前ら、昨日はご苦労だったな」


『お疲れ様です、総統閣下』と強を出迎える三名。


 昨日の収穫を今か今かと待ち構えている。


 強は思わせぶりにそれを焦らしていた。


「いやー、実に昨日は大変な一日だった。諸君の働きには感謝の他ない」

「総統閣下、早く例の物を!」


 メガネは耐え切れずに席を立ちあがる。


「まぁ、まだそう焦るな。これからだ。ちゃーんと見せてやるから」

「早くみたいでごんす!」


 玉こんにゃくをひとつ口に運びくちゃくちゃ言わせる副長。


「まぁまぁ、まだ少し時間をくれ出すのも時間がかかるんだ」

「早く、早くおっぱいをぉおお!」


 沖田はカメラを構え鼻血を出していた。


 そこにドアを開ける音がした。


「失礼します……師匠!」

「お前は……赤髪チビ子」


 昴が引っ越し業者の様に肩にデカい段ボールを抱えて強の前に現れた。


 三バカトリオは同じクラスメイトの接近に緊張が走る。


 美咲ファンクラブは裏社会の活動に近い。


 女子に知られるわけにはいかないという想いがある。


 だが、それを総統閣下に伝え忘れていた。


「ちょっと、荷物おかさせてもらいますね」

「かまわん好きに置いて置け。できれば邪魔にならないように端っこにおいておけよ」

「ハ~イ」


 師匠の指示にあっさり従い昴は視聴覚室をあとにした。緊張から解放され三人は息を漏らす。木下昴も圧倒的バカである。この時三人を視認はしたがクラスメートの顔などほぼ覚えていないのでスルーした。


 だが、師匠の顔だけは忘れてはいない。


「では、邪魔も消えたことだしそろそろお見せしようか。これが昨日の収穫だ!」


 教壇の上に置かれるマッドイータカメレオンの鱗。


 だが、色が同化していて視認では確認ができなかった。


 三人は襲る襲る教壇に近づくが教壇の色に迷彩されているため、


 視界に何も捉えられない。


「総統閣下……一体どこに?」

「何も見えない、ごっくん」

「これですかぁああ!」


 メガネはメガネを何度も外しながら確認したが何も感知できなかった。


 オッパイスカウターを使おうともオッパイでなければ意味がない。


 偽パイ単体などには使えない。


 土方は玉こんにゃくを食べ終え、ポケットからビーフジャーキーを取り出した。沖田についてはシャッターを切って写真を撮っているが何も映っていない。


 段々と三人の疑心が大きくなっていく。


 これはまるであのおとぎ話のようだと――裸の王様。


 何もないのにあるという嘘に騙されてるのではないかと。




「「「総統閣下……まさか我々を騙そうとしているのですか!?」」」



「ふっ――――」


 強からしてみれば笑い話である。


 目の前に真実があるというのに何も見えず自分を疑う姿は正に傑作である。


 しょうがないと一言呟き、強は人差し指を教壇のところに伸ばしていく、


「「「なんですか!!」」」


 三人は目を見開いて驚きを口にする。


 教壇の一部の色が肌色に変わっていき、そこに楕円形の模様が浮かび上がった。


「一枚だけではない、まだまだあるぞ」


 強はポケットから取り出し、それを一人一人に渡していく。


 三人はそれを触って遊ぶ。ひたすらに揉みしだく。


 なぜなら、それは彼らにとっての――美咲のオッパイ。


 メガネが興奮した様子の声を漏らす。


「おーすごい! これが美咲様のおっぱいの感触!」


 違う、単なるカメレオンの鱗だとツッコむものがいない。


 土方がかじりついた。


「おいしい味がするんだな~」


 違う、それは食べ物ではないとツッコむものがいない。


 沖田が自分の胸に装着している。


「これで俺も美咲様と同じおっぱいに!」


 違う、この変態野郎。


 テメェは一片死んどけ!とツッコむものがいない。

 

「存分に楽しむがよい」


 いつもの強だったら三人とも血祭りにしていたがこの日は違った。


 強もテンションが上がっていた。


 数々の苦難を乗り越えようやく手にした妹の秘密。そして、これからもファンクラブを使って楽しもうという想い。かつて学校に君臨していた時の独占欲と悪の心が着々と漏れだしていた。


 また、もう一度マカダミアキャッツを地獄の学園に戻そうと。


 あの輝いていた日をもう一度と。


 総統閣下という地位が錯覚をさせていた。


 かつての魔王に戻ろうとしている。


 今までの苦労など何もなかったように……。


「おっほん、重大な発表をせねばならん」


 教壇に立ち咳ばらいをひとつ入れはしゃぐ三人を嗜めた。


 視線が強に集中する。


「最近、美咲ちゃんがあるやつに恋をしている可能性が浮上してきた」


「「「なっ!」」」


 三バカの脳内に駆け巡る答え。それは同じことだった。


 ――まさか、俺かッ!?


 検討ハズレだったようだ。やはりバカだった。


 正解は櫻井である。だが強も正解を知らない。


「なので、もし見つけたら暗殺を許可する」


 3バカは黙った。自分だと思っているから。


「好きにやってしまって構わない。これは総統閣下の命令だ!」


 しかし、よーく考えてみたらそれは不可能だと気付く。


 なぜなら、鉄の掟があるから学校にいる間は美咲に手出しが出来ない。


「「「わかりました、総統閣下!」」」


 気持ちのいい返事を返す三人にご満悦の強。


 六十人という人数を使えば大抵のやつは簡単に殺せる。


 なぜなら、マカダミアだからッ!


「今日はパーティだ! 騒ぐぞ、お前らぁあああああああ!」


 強は悩みも解決しテンションが著しく上がる。


「「「おぉおおおおお!」」」


 そして、他3バカのテンションもマックスになっていく。


 ソコに接近している者がいるとも、


 知らずに――


「昴ちゃん、本当にお兄ちゃんがいたの?」

「師匠、視聴覚室で遊んでたんだよ! 一緒に混ざろうよ!!」


 担任から頼まれた仕事を終え、昴に手を引かれ美咲は、


 着々と視聴覚室へ近づいていっている。


 ソレに気づかない3バカのテンションはもはや天井知らず。


 強が叫ぶとそれに呼応するように返事を返していた。


「美咲ちゃんは世界一可愛い!!」

「「「世界一かわいい!!」」」

「美咲ちゃんは世界一の妹!!」

「「「世界一の妹!!」」」


 男にたまに訪れるである。


 青い春が頭をおかしくする現象。


 着々と近づいていく二人。


「ねぇー、別にいいよ昴ちゃん……」

「最近師匠に会ってなかったから、ちょっとだけね、ちょっとだけでいいから!」

「えー、もうしょうがないな」


 昴の懇願に唇を尖らせながらも渋々歩いていく美咲。


 段々と視聴覚室からの叫びが耳に届くようになっていた。


「美咲ちゃんは世界一まな板!!」

「「「世界一まな板、まな板!!」」」

「美咲ちゃんは世界一チッパイ!!」

「「「世界一チッパイ、チッパイ!!」」」


 男達はもはやパーティ状態である。


 お酒も入ってないのにテンションが上がっていく。


 どこまでも――。


 いつのまにか、


 三バカは単語を二連するようになっていた。


「昴ちゃん、なんか聞こえるね……歌?」

「なんか盛り上がってるね♪」


 そうして、聞こえる範囲に入ってしまった。


 さらに言えば、


 扉の小さい四角い窓から男たちの魂の叫びの動作が見える。


 唾を飛ばすほど勢いよく叫び、


 体を激しく揺らしてシャウトしている姿が――


「美咲ちゃんの胸のサイズはトリプルA!!」


「「「胸のサイズはトリプルA、胸のサイズはトリプルA!!」」」


 自分の胸サイズを暴露され美咲は固まった。


 昴も同様に固まった。実に楽しそうな視聴覚室。


「美咲ちゃんは貧乳妹子!!」


「「「貧乳妹子、貧乳妹子!!」」」


「美咲ちゃんはフラットチェスト!!」


「「「フラッチェ、フラッチェ!!」」」


「まだまだ行くぞォオオ、ウラァアアアアアアアア!」


「「「ウォオオオオオオオオオオオ!」」」


 終わりが見えない気配。


 あまりの恥辱に美咲は肩プルプルと震わせ、


 顔を真っ赤にして目に水を溜めた。

 

 その姿を後ろから見る昴。


 どれだけ心が抉られているか計り知れない。


 男四人の絶叫合唱。


 おまけにコンプレックスへの度重なる誹謗中傷。


「みさ………」


 親友に手を伸ばそうとしたら、第二幕が開演した。


「美咲の胸は断崖絶壁!!」


「「「断崖絶壁、断崖絶壁!!」」」


「美咲の胸は垂直直下!!」


「「「垂直直下、垂直直下!!」」」


 昴の手はソウルメイトに辿り着く前に止まる。


「ぐすっ! ぐす!」


 美咲の鼻をすする音が聞こえる。


 さらに涙が零れない様に上を見上げる仕草が、


 もはやどう声を掛けていいか昴を悩ませてしまった。


 男たちの狂喜乱舞はひたすらに続く。


 男には年に数度——


 頭がおかしくなるくらいテンションが高い時が訪れる。


 何をしても無敵な状態。


 箸が転げても笑い合えるような空気。


 その絶妙なものが今重なって――


 一人の少女を追い込んでいるとも知らずに、


 テンションがっ、テンションが抑えきれない!


「美咲の胸は無い乳!!」


「「「無い乳、無い乳!!」」」


「美咲の胸はぬりかべ!!」


「「「ぬりかべ、ぬりかべ!!」」」


 美咲は目を腕でごしごしとした。涙をふき取る為に。男たちは最後を迎える。


「美咲の胸は悲しき恵みがなァアイイイイい、」


「「「悲しき恵みがなァアイイイイい、」」」


 何か演歌の拳の様に捻りを加え力をためているようにしゃがみこみ


「うぉおおおおおお!!」


「「「うぉおおおおおお!!!」」」



 奇声を発し続けている。




「「「「大地ぃいいいいいいい、イェエエエーイィイイイ」」」」





 そして、見事な昇竜拳をかまして第二幕を終えた。


 男たちの声援はしっかり届いた。


 ——本人の元へ。


 美咲はすぐさま後ろ振り返る。


 ちょっと目が充血している。昴の両肩をガシっと掴んだ。


「昴ちゃん、私たち友達だよね!」

「……………」


 昴は困った。非常に困った。


 昴の人生史上最大に困って困り果てた。


 もはや、見てはいけないものを見てしまったが故に、


 逃れられぬ運命。


 そもそも、こういう時の『私たち友達だよね』というのは、


 絶対にいい意味の友達ではない。


 むしろ、友達をやめたくなる友達である。


 悪い意味しか持たない友達である。


 人を巻き込み脅迫するための言葉。


 それが『私たち友達だよね』。


「友達だよ…………」

「じゃあ、ちょっと手伝って昴ちゃん!」

「う……ん」


 前を歩く美咲に着いていく昴。


 この時、おうち帰りたいと思っているのは言うまでもない。


 だが、拒否できるはずもない。


 だって友達だし、


 元はもと言えば昴が視聴覚室へ無理やり連れっていった結果でもある。


 それでも空気を読まない昴なら帰れたかもしれない。


 しかし昴は知っている。


 この世に本気で怒らせてはいけないものが二つあると。


 一つは神様で


 そして――


 二つ目は美咲様だということ。



 さらに何も知らない男たちの宴は続く。


 もはや、誰も止められるものなどいない。


「お前ら、薪をくべて火を起こせッ!」


 スターを取ったマリオ状態である。


「キャンプファイヤーだぁあああああ!!」


「「「ヒャッハァアアアアアアアア!」」」


 ヒャッハー状態。



《つづく》

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