第48話 バカな男たちのぺったん祭り! エイサー、ホイさ~! -当日-

 それは水曜日で、心躍る水曜日で、


 天気も良く快晴で、


 迷いも一切なく誰もが満ち足りていて、


「おはよう、強ちゃん、美咲ちゃん♪」

「はよー」

「おはよう、玉藻おねいちゃん」


 めずらしく三人全員が笑顔でその朝を迎えて学校に登校。


 もはや、誰一人迷いはない。


 胸の大きさに悩んでいた小さな少女も、


 悪い奴に妹がそそのかされていたと心配していた兄も、


 幼馴染が一緒に帰ってくれないと恋に悩む少女も、


 誰もが悩みもなくいつも通りの日常を迎えるはずだった――


 だったのだ……


 だったはず……


 はずだった……

 



◆ ◆ ◆ ◆



 いつも通りぬるい学校の授業も終わり、俺は放課後を迎えた。


「強ちゃん、一緒にかえろうー」

「スマン、玉藻……今日は大事なとの約束があるんだ」

「えっ!」


 玉藻がひどく驚いている。まぁ無理もない。


 こんな確率で誘いを断るなどありうるはずもない。


 週二回も下校の誘いを断ることなどなかった。


「強ちゃん、アタシも一緒にいっていい?」


 ―—何をぬかしよる小娘?


「ダメに決まってるだろう……」

「なんでー!」

「男と男の遊びに女は不要だ」

「……くぅ……そうかもしれないけど……」


 悔しそうに唇をへの字にしている玉藻。


 正直これから美咲ちゃんファンクラブとの会合がある。


 昨日の収穫を彼奴等に見せなくてはいけない。


 そんなところに玉藻を連れていくのは正直ダメな気がする。


 本当ダメだと思う。


 まぁ、コイツの場合なんでも楽しみそうだが。


 今日は男だけの会合。女人禁制!!


「じゃあな、玉藻。美咲ちゃんと一緒に帰っていてくれ」

「ハ……イ」


 不貞腐れて寂しそうな声を出しやがって。


 相変わらずあざといやつだ。だが騙されん。


 俺はアイツらの所に行かねばならないのだ。


 総統閣下としての使命があるから!



 後々、俺は気づく、


 これが失敗だったと――



◆ ◆ ◆ ◆



 強ちゃんが冷たい……一緒に帰ってくれない。


 最近お友達が増えたのはいいのだけれど、私との時間が減っている。


「強ちゃん成分が足りないよ……」


 私は教室で一人机にもたれ掛かり涙を流していた。


「鈴木さん、もしかして今日暇?」

「ん?」


 見上げるとクラスの女子3人がいた。


 吉田さん、菊田さん、君塚さん。みんな優しい人だ。


 たまにお話もするけど、なんだろう?


「今日、私たちカラオケ行くんだけど、もしよかったら一緒にいかない?」

「カラオケ……?」

「そうそう、だって彼氏がギルド行ってて暇だからさ、うちらこれからパーっと騒ぎに行こうと思って」

「鈴木さんもそんな気分っぽいし。あのこん畜生のバッカ野郎ーって感じでしょ」


 カラオケ……いいかも♪


 確かにそんな気分!


「わかった、いくよー!」


 私は携帯を取り出し、美咲ちゃんにメールをした。


「いざ、カラオケへ! レッツゴー!!」

「鈴木さん、やる気だね!」

「いっぱい歌いたいな♪」 


 私達はこうしてカラオケへ向かうのだった。




◆ ◆ ◆ ◆



「あっ、おねいちゃんからメールだ」


 内容を見るとお兄ちゃんはお友達と遊びにいくみたいで、


 おねいちゃんはこれからカラオケか。


 なんか楽しそう。私だけ置いてけぼりにされた気分。


「どうしたの、美咲?」

「昴ちゃん、今日暇?」

「暇だよー、ギルド休みだし」

「じゃあ一緒に帰らない?」

「えっ! いいの!?」


 なんだろう、妙に反応がいい……ハッ!


「あれだよ、お兄ちゃんはいないよ」

「なっ……そうか」

「まぁ、駅前でお茶でもして帰ろうよ」

「いいね、女子トークしよう!」


 昴ちゃんがやる気を見せてくれて私もうれしい。


 そういえば学校に入ってから昴ちゃんと一緒に帰ったことなかった。


 ソウルメイトとの絆を深めるイベント、お茶会。


 たまには女子二人でティーパーティーもいいかな。


 最近出費がちょっとかさんでるけど。


 まぁ、たまのことだしイイでしょう!


「あっ、涼宮さーん!」

「ハイ?」


 教室から出ようとしたら担任の先生から声を掛けられた。


 先生は拝むようにして私にお願いしてきた。


「あの放課後で悪いんだけど……荷物運ぶの手伝ってくれないかしら。お願い!」

「いいですよ、お手伝いいたします」

「ありがとう! やっぱり本当にいい子ね涼宮さんは。じゃあ、こっちに着いてきてくれるかしら!」

「ハーイ、行こう昴ちゃん!」

「えーアタシも」

「ソウルメイトでしょ♪」

「ちぇ、わかったよ」


 昴ちゃんは少し不満そうですが私に着いてきてくれます。先生に連れていかれ倉庫に着くとそこには私の体より大きい巻物や、段ボールの山々が誇りを被って放置されていました。


「ごめんね、これを各教室に持っていきたいのだけれど、半分お願いできるかしら?」

「わかりました。どこに持っていけばいいか資料とかありますか、先生?」

「これが資料。持ち運ぶものには番号が書いてあるから」

「ハイ! じゃあ、昴ちゃんやろうか!」

「やりますか! ちゃっちゃっと終わらして早くお茶のみにいこう!」


 昴ちゃん腕まくりをしてくれてやる気を魅せました。


 助かります。私は非力なのでこういった肉体労働は苦手です。


 こういうものはバヵ――昴ちゃんに任せるのが一番です。


「じゃあ、私が指示する通りに運んでいってね、昴ちゃん!」

「了解!」


 私は頭脳労働派なので運びは昴ちゃんに任せ、


 いかに効率のいいルートへ誘導するかがカギ。


 色んな場所に配布しなきゃいけないのか……


 これは結構パズルゲーム感覚で頭を使いそうな作業です。


 ちょっと、楽しそうかも!


 あの時、こんな手伝いなどしなければ――


 私に何も起こらなかったのに――



《つづく》



 

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