第47話 バカな男たちのぺったん祭り お兄ちゃん、気になります!!-1日前 午後-

「嘘だろう……」

「本当です!」


 鉄の掟を制定したのが午前中としてもはや驚きの他ない。


 お昼休憩中に俺はメガネに呼び出された。


「疾きこと風の如くです! 総統閣下!!」


 俺の手に60枚の紙の束がどさっと渡された。


「これお前が勝手に作ってんじゃないだろうな?」

「指紋の所と名前をよく見てください! 全部個人によるものであります!!」


 一応ペラペラと確認をしていく。


 確かに字体も違うし、指紋の形もバラバラだ。


 ただ俺が命令したのは午前中だぞ。それを午後いちで60人分集めるってどういうことなんだろう。早すぎて怖いわ。交渉も無く、全てが決定しているような早さだ。


「うーん……」


 俺は手紙を片手に少し考え込んだ。


 これで美咲ちゃんと付き合うことはできないのだろうけれど、


 それで構わんということか。


 半径一メールより遠くで眺めるだけでもいいという証。


 それだけの意志を持って来られてはさすがに………


 俺も動かねばなるまい。これは男の約束だ。


「わかった。俺が直々に部屋を調べる。だが正直美咲ちゃんに見つかると俺もヤバイ。そこでお前らに協力を依頼する」

「なんなりとお申し付けください!」


 敬礼をかますメガネ。


 ——こいつは、本当に……オレを気持ちよくさせる天才だな!


「では、命令を言い渡す――!」


 決行は家に帰ってからということになる。









「お兄ちゃん、ちょっと夕飯の買い物いってくるね」


 美咲ちゃんが私服に着替えて買い物バックを持ち俺に告げてくる。


「わかったでございます」

「……うん?」


 ソファーに座り平静を保ちつつ返事をしたつもりが、しまった。つい気合が入りすぎて言葉がおかしくなった。美咲ちゃんが首を傾げて立ち止まってこちらを伺っている。ここは怪しまれない様にせねば。


 だが平静を保とうとしても、


 これからしてはいけないことをするという感覚が心臓を高鳴らせてくる。


 ——落ち着いて見送るんだ、俺!


「いってらっしゃいマセラッティ!」

「お兄ちゃん、日本語が変だよ……まぁ行ってくるね」


 そして、玄関が閉まる音が聞こえた瞬間に、


「よし………!」


 俺はソファーから立ち上がり、二階へ駆け上がる。


「右よーし、左よーし、前よ―し!」


 誰もいないはずの廊下を見渡して確認し美咲ちゃんの部屋の前で制止する。


 そろそろ連絡が来てもいいはずだ。


 俺はポケットから青いイヤリングを取り出した。


 すると、そこから音が聞こえてくる。


『こちら、近藤です! いま美咲様は大通りに出られました! どうぞ!』

「こちら涼宮だ。了解した、どうぞ」


 俺がやつらに依頼したことは単純なこと。


 妹が外出した際にそれを逐一報告するように仕向けた。


 三人を配置して、各通過地点を通り過ぎたら連絡を入れるように命令しておいた。なぜなら、帰ってくる時間がわからなければ部屋の捜索などリスキーすぎる。見つかったら、俺の命がやばい!


 だが、メガネの報告により美咲ちゃんが家から離れたのは明白。

 


 ——ならば、オープン・ザー・セサミ―だ!!


 俺はドアノブに手を掛け、


「おぉー」


 久方ぶりの妹の部屋の景色を目にし声を漏らした。


 微かにいいにおいがする。俺の部屋とは違う独特の女のコの匂い。さらに部屋は綺麗に掃除されており塵ひとつ見当たらない。小学校から使ってる学習机の上も綺麗に整頓されペン立てがあるぐらい。花柄のカーペットとかもあってめっちゃ女の子してる。


 ——女子力高いぜ、美咲ちゃん!


「いかん、いかん見とれている場合ではない……急がねば!」


 俺はいざ美咲ちゃんの部屋にあるという装備品を探りにいく。


 まず怪しいのはやはりあそこだろう。


 開いてはいけない気がするがそんなこと知りません。


 妹を心配するお兄ちゃんに常識などあってはならない。


 では。下着を収納しているタンスをオープンだ!


「色々あるなー」


 中には色とりどりの下着が小さくたたまれ収納されていた。


 どうやら、右側がパンツで左がブラとなっている。


 さらに言えば同じ色で下着を合わせるのか。


 両方同系統の色が連なっており、まさにレインボー。


 前から、水色、ピンク、黒――っ!


「なんて過激な!? 美咲ちゃんにはこんなのはまだ早い!! けしからん、けしからんぞぉおお! お兄ちゃんこんなの許しません!!」


 俺は忌むべき黒い下着を持ち上げ吠えた。


 ——なんてっこった! あんなにちっさい妹がこんな過激な色を好むなんて! お兄ちゃん悲しい!! 美咲ちゃんに黒は似合わないぃいいい!!


『総統閣下! 状況はどうですか!?』

「今、忙しいところだ。下着を漁っている!!」

『美咲様の下着ですかぁああ!?』

「そうだ」

『ちなみに何色があります!?』

「驚くべきことに、く――!?」


 このメガネなんて恐ろしい誘導尋問を仕掛けやがる。


 ——危うく答えそうになっちまった!?


 ——人んちの妹の下着の色を探ろうなんて!!


「メガネ、テメェはあとで殺す!」

「それより、総統閣下装備品はありましたか!?」

「装備品らしきものはないな……」


 タンスの中にはぎっちり下着がコンパクトに詰め込まれているだけだ。


「パットらしきものが見当たりませんか? 楕円形でぷよぷよしているものです」

「うーむ、下着以外は無さそうだ……とりあえず、まだ一か所だから他も探ってみる」


 俺は静かにタンスに下着をたたんで戻す。


 一応一通りタンスを開けてみたが、怪しいところは無し。


 そして、俺は次に窓側にある机に目を付ける。


 ——アソコも……気になるな。


 学習机というのは色々な引き出しがある。


 隠すには持って来いの場所だ。


 エッチな本とか、エッチなビデオを隠すのに持って来いの万能棚。


 ——それが学習机!


 ―—全国のお母さん、アナタの息子のエログッズはソコにありますよッ!!


 ならば、うちの妹のいかがわしいものもここにあるはずッ!


 俺は引き出しを開けていく。


 アクセサリーとか、ペンとか、文具、あとお財布。


 ——なんだ、これは……。


「ダイアリー……?」


 オレンジ色のブックカバーが付いた怪しげな本。


 日記だろうか。妹の日記とか……お兄ちゃん、気になります!!


「いざ、オープンザーダイアリー!!」


 俺がいざ日記を読もうとすると通信がイヤリングから流れ込んできた。


『総統閣下大変です! 通り過ぎたはずの美咲様がダッシュで家に戻られております!!』

「なんだって!!」


 どういうことだ、他にも二人に確認を命令したはずなのに連絡が来ていない……もしや!! この侵入している状況が何か察知されたのか!? 何かトラップが仕掛けられていたのか!! マズイ、ぬかった!!


 だが、妹の日記も気になります……チラっと見るだけだから。


「12月31日……」


 おいおい、何の冗談だ……初めて……


「初めて好きな人ができました……」


 好きな……人ッ!


「な、な、なんんじゃあああああ、こりゃぁあああああああああああああ!!」


 俺は日記を持ちながら全身で震えて咆哮した。衝撃的過ぎる!


 なんってこった!! コイツはどこのドイツだ!!


 ぶち殺してやる! 


『総統閣下もうすぐ家に着きますッ!!』

「な、ッ!」


 くそ、今それどころじゃないのに!


 マズイ!! どこか隠れるところは……どこか!


 下の方から玄関を開ける音がし、俺を呼ぶ声がする。


 慌てて隠れているので、


 俺は暗いところに寝そべっている状態になっていた。


「お兄ちゃん、お財布忘れちゃった。とってー!」


 心の中で答えを返す。とれませーん。無理でーす。


 いま出ていったら、俺を殺すしますよね、美咲ちゃん?


「どっか出掛けたのかな……しょうがない自分で取るか」


 美咲ちゃんは独り言をつぶやき階段を上がってきている。


 ——マズイ、お財布って部屋にあるのかい!


 

 ―—そういえばさっき見たような気がする学習机か!  


 ドアノブを回す音が聞こえ、扉が開いていく。


 心臓が高鳴る。呼吸を押し殺す。


 気づかれてはいけないと思い俺は口に手を当てて気配を押し殺す。


 スタスタと歩いていくかわいい足が見える。


 ——今、妹と同じ部屋にいる!


 ―—お兄ちゃん、いろんな意味でドキドキしちゃう!!


「あれ……確か日記ここにしまわなかったっけ……まぁいいか」


 妹は財布を取り出し走って階段を降りていった。セーフ。


 ―—危なかった……危機一髪だ。


 俺はベッドを持ち上げ無理やり下に入り込んでいた。


 それにしても日記が気になるから持ってきちゃった。


 ——早く戻しておかなきゃ、マズイ。


 俺は妹が玄関を開ける音がしたと同時に体を動かし始める。


 ブリッジするような態勢でベッドをゆっくり持ち上げて横にずらしていく。布団崩したくないので、出来るだけ平行に移動して抜け出しもとに戻す作戦だ。


 そして、俺は布団をいったん横にずらして、スペースを確保した。


「ふぅー、危なかった………」


 俺は額にびっしょりかいた汗をふき取り布団を戻すべく、


 歩き出したら、


 足にムニュっという違和感があった。


 ——ムニュ?


「なんだ……」


 俺はしゃがみ込み足にぶつかった感触にもう一度指で触れてみる。


 透明なものが肌色へと変化していく。


 いや、フローリングの色と同化していたのか。


 これは感触的にアレに近い。


 まさしく――


「おっぱいだ!」


 やった! 見つけたぞ、謎の装備品を!!



《つづく》

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