第46話 バカな男たちのぺったん祭り 美咲ファンクラブ鉄の掟、五か条!!-1日前 午前中-

 俺は妹の『ダウト』発覚により、昨日のやつの予言通り――


 また、三バカが待ち構える視聴覚室を訪れることとなった。


 メガネは予言が当りご満悦の様相を浮かべて、俺を待ち望んでいた。


「おい、メガネ……ダウトってなんだよ」

「涼宮先輩も見たんですね、アレを」


 やはりコイツにも見えているのか……俺と同じ世界が。


「あれはトリックの証です」

「トリックの証?」

「そうです。通常状態ではなく、なんらかの状態異常とも言えるでしょう」


 状態異常……?


「悲しい事ですが、何か魔法もしくは装備品の可能性が高いということです」


 おっぱいを大きくする魔法。なんて無駄な魔法なんだ。


 かけてて恥ずかしいという気持ちはないのだろうか。


 だが、やってる子がいたのを知らなかった。


 気が狂った妹が必死にぷるんぷるんと自分のチッパイに、


 魔法をかけていたなぞ俺は知る由も無し。


「何か悪いものに騙されている可能性が高いです。どこぞの誰かが美咲様をそそのかしているということです」

豊胸ほうきょう魔法使いという頭の悪い魔法使いがいるということか」


 じゃあ、うちの美咲ちゃんを騙しているソイツを殺せばそれで解決するのか。


 ——簡単な話だ。


「じゃあ、ちょっとソイツ殺してくるわ」


 俺は踵を返し殺しに向かう。


「ちょっと待ってください!」

「んだよ……」

「誰を殺すのかもわからないのに向かわれてどうするのですか!」

「確かに……」


 一体、誰を殺せばいいのだろう?


 結論から言えば妹となるが知る由もなし。


「それに装備品の可能性が高いと思われます。美咲様から魔力の波動を感じませんでしたから」

「装備品か……」

「えぇ、そこで涼宮先輩」


 メガネはちょっと言いづらそうな気配を醸し出している。


「なんだ?」

「美咲様の……」


 何かお願いされそうな気配。


「お部屋を探っていただけませんか?」

「……マジで?」


 さすがにちょっと、年頃の妹の部屋にお兄ちゃんが入るのは不味くないか?

 

 美咲ちゃんの部屋へ最後に俺が入ったのは中学生2年の時。


 どうしても、ホッチキスが使いたくなって借りに行ったら、


 美咲ちゃんが胸に手を当てて――


 奇怪なダンスを踊ってたのを目撃してしまった。


 その後、なぜか鬼の剣幕で怒られることとなった。


 そこから反抗期が始まり、二度と俺が、


 美咲ちゃんの部屋に入ることは無くなった。


 というか、入れなくなったというのが正しい。

 

 ――それを踏まえてだ


「いや……ちょっとさすがにそれはヤバイよ!」

「涼宮先輩!」


 手を振って拒絶の反応を見せたがメガネが喰らいついてくる。


 ——くぅ、先輩!! けど、ダメだ!!


 ―—さすがに妹の部屋に入るなんてダメだ!!


「メガネ、その先輩っていうのをやめろ!!」 


 ―—この甘い響きに騙されてはいけない!!




「では、涼宮総統閣下そうとうかっか!」




 ――総統閣下、総統閣下、総統閣下!


 悪くない響きだ。うーむ心地いい。


 このメガネは俺の心地いいところをピンポイントで着いてくる天才。


 俺の表情が緩んだのを見計らったように他二名も席から立ち上がり、


 拳を振り上げて『涼宮総統閣下』と合唱している。


 ——ダメだ、心がほだされていく……。


 俺は気持ちの緩みがばれない様に背を向けて、


「なぜ……俺が総統閣下なんだ?」


 腰のあたりで両手を組み問いかける。


「それは決まっているじゃないですか! 美咲ファンクラブ会員数六十人の頂点に立つのは貴方しかいないからです! 涼宮総統閣下!!」


 えっ……ちょっと多くない?


「六十人も……いるの?」

「ハイ!!」

 

 うちの妹めっちゃ人気あるのね。まぁ世界一可愛いから仕方がないが。


 ただ60人もいるのは危険だ。


「では、総統閣下が命ずる!」


 いまの内に打てる手を撃たねばならない。


「これより美咲ファンクラブに鉄の掟を作成する!!」

「鉄の掟……?」


 メガネは首を傾げた。俺は声を上げて即興で作り上げた鉄の掟を述べ挙げる。


「美咲ファンクラブ鉄の掟、五か条!! ひとつ、美咲ちゃんと付き合うことは禁ずる! ふたつ、美咲ちゃんに触れることを禁ずる! みっつ、美咲ちゃんに話しかけることを禁ずる! よっつ、美咲ちゃんに半径一メートル以上近づくことを禁ずる! いつつ、美咲ちゃんに笑顔を見せてはいけない!! 以上のことに背くものはファンクラブ道に恥ずるものとして、」

「ものとして――ごくっ」


 メガネは唾を飲み込み喉を鳴らすが、


 俺は本気の目をして最後を告げる。


「総統閣下の俺がデットエンドしてやる!」

「総統閣下、それはいくらなんでも厳しすぎます!」

「イヤならファンクラブをやめて貰っても構わないんだぞ」

「くっ!」


 メガネの顔が苦しそうに歪んだ。

 

 だが、総統閣下となった俺はもはや、やりたい放題。


 これで美咲ちゃんに近づく悪しき輩はいなくなる。


 素晴らしい交換条件。言葉の上げ足を取った形成逆転劇。


 ——さぁ、どうでてくるメガネ?


「わかりました……」

「では、今の鉄の掟を作成して会員全員に血判を押させ誓わせろ。それが出来たら、総統閣下自ら美咲ちゃんの部屋を探ってやる」


 俺は視聴覚室の外へと向かい、


「では、諸君らの善処を期待する」


 総統閣下らしく一言だけ残して視聴覚室去った。



《つづく》

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