第45話 バカな男たちのぺったん祭り 瞳に宿るオッパイって何カップなんだ!!-2日前-

「強ちゃん、帰ろー」

「玉藻……今日は美咲ちゃんと先に帰っていてくれ」


 俺は高校に入ってから、初めて玉藻の帰りの誘いを断った。


「えっ?」


 俺から誘いを断られ動揺する玉藻。


 しかし、しょうがない。


 なぜなら3バカトリオに今日の放課後、


 美咲ちゃんの胸の異変について、作戦会議する約束をしてしまったのだから。


「強ちゃん……どぼじたの?」


 ―—なぜ泣きそうになってるの? 目がうるうるしてるよ!


「ひっ、一緒に帰ろう゛よ……ぐっ!」


 ――ただ一緒に帰らないだけで大げさすぎるだろう!


 ―—ちょっとというか、大分断りづらいよ! こういうのホントやめてッ!!


 ただ、空気が読めない女の代表が玉藻である。


「ギョウ……ジャン……」


 泣きそうな震える声で問いかけてくる。


 唇までフルフル震えてる始末。


「大事な用があるんだ……っ」


 俺は空気に耐え切れずに鞄に手を掛け、


「玉藻スマン!」


「強ちゃんんんんんんんんんん!」


 駆け出した。


 背中越しに泣き叫ぶように俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。


 というか一緒に帰らないだけで泣き叫ぶとか小学校低学年かッ!!


 ただアイツがおかしいのは昔からなのでしょうがない。


 かまってやるとどこまでもつけあがる。


 最近優しくしすぎたせいだ。ここらへんで一回突き放しておこう!



 そして、俺は泣き叫ぶ玉藻を放置し、


「「「涼宮先輩、お待ちしておりました」」」


 アイツらの待つ視聴覚室を訪れた。


「うむ、くるしゅうない」


 用意された席に座り、巨大スクリーンに映し出される画像ファイルを確認する。


 拡大したことで良くわかる。

 

 線一本分だが確かに違う。


 金曜日の妹と月曜日の妹ではもはや別物。


 メガネがコホンと咳ばらいを入れて、


「涼宮先輩、この線一本は3ミリ単位です」


 会議を進行し始めた。


「そして、この違いを見るとたった三日で3ミリです」


 スクリーンに映し出された線を伸びる棒でペシペシと指し示している。


「これは実は驚異的な数字なんです!」

「驚異的……?」


 三ミリと言われてもピーンと来ん。


 むしろ、少なく感じる?


「10ミリで1センチ。大体バストサイズは2.5センチでワンサイズです」


 ――2.5㎝がワンサイズ…………!?


「ということは、このペースで行くと1日1ミリ。僅か一か月で3センチ!」


 ―—ちょっと、説明が早い!? えーと……ワンサイズが??


「僅か一か月でワンサイズ! 異常も異常」


 ―—1か月でッッ!?

 

「さらに半年あればAサイズがGカップにぃいいい!」


 ―—A、B、Cでっ…………G!?


「気が付けば半年程度であっという間に巨乳になってしまうのですよッ!」

「何ィイイイイイッ!?」


 ――半年でェエエエエエ!!


 メガネの数字に合わせて力強く指を折る動作を交えた演説は強烈に響く。


 俺の頭の中で強烈に『巨乳になってしまうのですよッ』という言葉が


 何回もリピートされるほどに。


 俺が驚愕している横でなぜか他のバカ2名も驚愕している。

 

 こいつ等も知らなかったのか。


 メガネはスクリーン前から移動し窓側に行き、


「涼宮先輩にお伺いしたい……」


 腰あたりで手を組んで遠い空を見ながら話しかけてきた。


「なんだよ…………」

「妹さんが巨乳になられてもいいのですか? それでも妹と呼べるのですか?」


 俺は席を立ちあがり、


「そんなのッ――」


 当たり前だ!と叫ぼうとした。


「………………ッッ!!」


 したのに――


「………………クぅっっ!」


 ―—金縛りにあったように口が動かない!


 なぜか記憶が問いかける。


 お兄ちゃんと呼ぶ声。


 ―—どうしてだ……言葉を続けようとしているのに出てこない!


 そこにはいつも断崖絶壁。垂直直下。


 悲しき恵みがない不毛な大地。


 ——力を込めているのに言葉を出そうとした瞬間に………


 いつも平な胸があった。


 小さい頃から見てきた、


 懐かしき見慣れた景色を失う恐怖が、


 ——何かにかき消されるように口にできないっ。


 俺の言葉を邪魔をしている。


「はぁ、はぁ……はぁ、はぁ……」


 堪らずに呼吸が漏れた。


「涼宮先輩、安心してください………」

「へっ………?」

「あなたが妹を愛する気持ちは我々重々理解しております」

「何をわかったことをッ!」

「いいえ、わかっております!」


 メガネをくいっとして奴は、


 俺に近づいてきた。


「わかっておりますとも――」


 そして囁いてくる。


 ヤツが叫ぶ言葉に呼応して俺の体が揺さぶられた。


「美咲様は世界一かわいい!」

「………………!」

「美咲様は世界一の妹!!」

「………………!!」


 心が揺さぶられるッ!?


「世界一かわいい妹とは、貧乳であるべきなのではないのですか!? ならば、美咲様は貧乳である、あるべきべきではないのですか!?」

「はぐっ!」


 コイツ、よくわかってやがる!


 このメガネ――さては妹がいるのか!?


 と思うぐらい、


 的確に俺の心をフェチをついてきやがる。


 そうだ、美咲ちゃんは世界一かわいい。


 そうだ、美咲ちゃんは世界一の妹だ。


 世界に、たった一人だけの――


 貧乳妹子ひんにゅういもこだぁああ!


「やるな……メガネ」

「私達は同志ですから………」


 やはり妹がいるのか。


 だが、それが分かったところで……


「だが、成長するものは止められないだろ……?」


 しかし、ヤツは想定済みと言わんばかりにまたメガネをクイッとした。


「ふっ、その件については涼宮先輩安心してください。こんなことはありえないのです。そんな急激なペースで胸がデカくなるなどない。半年で貧乳が巨乳などありえない!」

「どういう意味だ……?」


 メガネの自信満々の発言に俺は恐る恐る問いかけた。


「これには何かトリックがあるのです。必ずありますよ。えぇ、騙されませんよ。世間の目は誤魔化せても、私と涼宮先輩のオッパイスカウターを前にすればステージ裏側から見る手品のようなもの!!」

「なぜ、お前、俺にオッパイスカウターがあることを知ってやがる!」


 俺は最近気づいたばかりなのにッ!!


「目を見ればわかります…………」


 ヤツは俺の瞳をまじまじと覗き込んできた。


「数々のオッパイを眺めていなければその瞳の色は出せません!」

「……普通の黒目なんだけど」

「私も同じ黒目です。ただ、私のもそうですが、先輩の黒い瞳の奥にはおっぱいが映っているのでぇすぅ!」

「マジでえええー!」


 ―—やべー、何それ! 超怖い!!


 ——鏡はどこだッ!?


 ——瞳に宿るオッパイって何カップなんだ!!


 俺は辺りに鏡がないか確認するようにキョロキョロした。


 早く自分の瞳の奥をみて確認したい。

 

 俺がキョロキョロしているのを制止するように


「おほんっ」

「あっ、スマン」


 メガネは咳ばらいをひとつ入れた。


「で、ここからはお願いです。どうかそのオッパイスカウターで美咲様の胸をいちど確認して頂きたい。私の方は確認済みです。そうすれば自ずと涼宮先輩も明日もう一度ここに来られると思います」

「大した自信だな」

「えぇ、わかってます。先輩と私が愛するものは同じものですから」

「………………」


 謎の予言によって会議は終わりを迎えた。


 俺は終始メガネに翻弄されて終わった気がする。


 もう一人のオッパイ星人であり、貧乳妹フェチ。まさか、俺と同系統のやつがいるとは思わなかった。


 あのメガネ、


 意外と出来るのかもしれない………。



 そして――


「あっ、お帰りなさい。お兄ちゃん」

「ただいま、美咲ちゃん」

「どこ行ってたの?」

「ちょっと野暮用だよ」


 家に帰った俺は、俺の秘められたオッパイスカウターを即座に発動する。


 頭の中でこだまするキュイーンという機械音のような音。


 ——見えてきた、見えてきた!


 服の上から数値が浮かび上がる視界。


 そして、謎のカタカナ表記。


 ―—ん? いつもと違う??


 ―—数字の上にカタカナ表記なんて初めて出たぞ……。


 俺はカタカナに注視する。


 ダウトと書いてある。


 ——ダウト?


「美咲ちゃん、ダウトって何?」

「嘘って意味でしょ。英語の勉強?」

「へぇー、そうなんだ」


 ―—どういう意味だ、嘘って!!



《つづく》

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る