第44話 たかが、おっぱいで人を四人殺しかけるってどういう状況なの??
午後のチャイムが鳴り授業が始まった。
「お~い、みんな席に着け。授業はじめっぞ」
ダルそうに入ってくる山田のオロチ。
しかし、席を見渡して一人いないことに気づく。心の中であの野郎と思いながら怒りの視線を誰もいない机にぶつける。その視線に気づき隣の席の生徒が恐る恐る手を挙げた。
「どうした?」
「いや、あの、櫻井君の席にオロチ先生宛の置手紙があるんですけど……」
「置手紙だと?」
オロチは机に行き、
「拝啓オロチ先生、申し訳ございません」
手紙を開けて声に出して読み始める。
「人生に一度しかないチャンスの一度目が来てしまいました。なので、授業を受けられません。P.S 怒りすぎると肌と頭皮に悪いので気を付けてね。禿げますよ……櫻井はじめ」
アホらしい内容を聞いたミカクロスフォードはため息をひとつ付く。
読み終えたオロチは手紙を持ちながら笑い出した。
「ハハハ、なら仕方がないな、みんな」
高笑いを浮かべて生徒達に教師は話しかけた。
「人生に一度しかないんじゃしょうがない。そうだよな。授業より大事だ!」
だが、生徒一同黙るしかない。
お昼を食べ終え満腹状態の強はすでに寝ているので静かである。
教室全体が変な空気である。
オロチらしからぬ違和感が生徒達を沈黙させていた。
「ホント……しょうがない――」
声が落ち着いているがどこか怒りを帯びてきている。
もはや、爆発寸前だった。
「アイツの人生は今日で終わりだからしょうがないなッ!」
ガンギレ体罰教師の手により手紙がクシャっと潰された。
「最後のチャンスを………精々楽しめぇえ、櫻井!!」
生徒一同はこの茶番劇に沈黙を貫き通した。
——触らぬ神に祟りなしと。
そのころ、体罰教師の怒りの矛先は病院へ来ていた。
「あの~、木下昴さんってこちらの病院にいますか?」
「ご家族ですか?」
「いいえ、違います。彼氏です」
「まぁー彼氏さん!」
平気で嘘をつくようなやつに受付のナースは騙されていた。
おまけに高校生同士の恋愛など何か青春っぽくって、
甘酸っぱいなどと思われ好印象な始末。
部屋を調べてくれているナースと世間話をしながら、
「あーそういえば、マカダミアで大きな事故でもありました?」
待っているともうひとつ手掛かりが見つかった。
「事故ですか? ないと思いますけど……」
◆ ◆ ◆ ◆
ナースからの問いかけに何かひっかかる。
どういうことだ。どうして事故なんだ。
しかも、大きいというのは……
「あの~、この病院で他にマカダミアキャッツの生徒が居たりします?」
「いますよ。確か木下さんと同じ日に他三人来ていて」
四人もやりやがったのか……うちの可愛かった後輩は。
「木下さんも含めてみんな重症なのよ」
「そういうことですか……」
「あっ、あったあった。彼女さんの病室は303号室ですよ」
「ありがとうございます」
「綺麗な彼女さんね。大切にしてあげなさいよ、このこの~」
「それほどでもないっすよ♪」
満面の笑顔で返すが吐き気がする。
アイツの彼氏とかまじ無理ぃ。
―—しかも、キレイだぁ? どこに目を付けてんでこのおたんこナース。
―—頭おかしいぞ。アレか、アレなのか。
女子特有の『あっ、かわいい』とかいうやつ。対して可愛くもないけど、
可愛いで無理くりする、あの奥義——
なんでも可愛い。
それがしかもランクアップして、
綺麗だなんて、冗談にもほどがあるぞ。
あのちんちくりんだぞ。
俺は吐き気を我慢しながら歩き廊下で
「おわっと!」
「ごめんなさい」
「あ、大丈夫、大丈夫」
医師にわざとぶつかった。
情報得る為に。
―—ICUに三名か。近藤、土方、沖田。新選組みてぇなやつらだな。
というか、ICUって重体すぎるだろう。
――と思っていたが、
うちの後輩はやり手だった。
「先生、近藤君の容体が安定しません!」「ちょっと、土方君の人工皮膚が合ってないよ!?」「沖田君が死にそうです!!」「電気ショック!! 電気ショック持ってきて!!」
嵐のようなICU。
三人は顔面まで包帯ぐるぐる巻きで人相も分からない。辛うじて見える口には呼吸器を付けた三名ということだけだ。
さらに、ところどころ骨折している。
ギブスで腕や足を固めてつるされている。
ICUはガラス越しに見る部屋だが、
中で医師たちが、
懸命に彼らの命を現世に繋ぎとめようと必死に動いていた。
——うわー、なにこれ? やりすぎじゃない?
もはや、目が点である。
―—おっぱいだよ。たかがおっぱいで人を四人殺しかけるって、
——どういう状況なの??
―—猟奇殺人ってやつ……なの???
これは確実に強も殺されるに違いない。
ここまでするなんてよっぽどの殺意だ。
一体、何がここまで人を変えちまうのか。
というか、本当に何をしでかした類友ッッ!?
とりあえず情報優先だ。生きてれば情報になる。
ひとまずICUに入る方法を探さなければいけない。
俺は院内をうろついて弱そうな医者を見つける。
「あの~、すいません、あちらで具合が悪そうな人がいるんすけど」
「どこだね!」
「こっちです!!」
通路に人気がないのを確認して
「ガッ!」
首に手刀を一発かます。
「すまんな……ちょっと寝ててくれ」
俺は制服を奪い取り、
医者を装ってICUに何気ない顔で潜入する。
中は看護師と医師が目まぐるしく動き、
「バイタル低下! 輸血急いで!!」「電気ショック準備!」「血圧いくつ!?」「心拍50切りました!!」「酸素濃度をもっと上げて!!」「今夜が……山だッ!!」
もはや、戦場のよう。
その間際をぬいながら三人にこっそりタッチしていく。
これで野郎側の情報は得た。
ただ、こいつ等の悪ふざけが祟りこうまでなった原因がわからない。
どういうわけか経緯が途切れている。
白い煙で視界が無くなって誰かに撃たれていた。そこから記憶がない。
銃声は聞こえるがそこまで重症になるような音でもなかった。
——なんだ……?
これ以上の情報は無いと予測し、
気絶している医師のもとに制服を脱ぎ捨て、
俺は次の場所へ移動する。
野郎側が終わったとすれば、メス側だ。
303号室を目指して歩く。
——あれ………部屋を聞き間違えたか?
そして個室の病室を開けると、
ベッドから上体を起こし窓を見ている見慣れない赤髪の女がいた。
確かにぱっと見は綺麗に見える。
髪をポニーテールではなく下ろしているせいか印象が大分違う。しかも大人しい感じにしていると見られる程度の容姿はしてやがる。窓からの光を浴びて静かに佇んでいる姿はどこか儚げな少女のようだ。
——生意気な、木下の癖にッ!
「お前、本当に木下なのか?」
「えぅ?」
——えぅ?
「何………ふざけてやがる」
「あう、あう、えっえ」
姿形より気になるのが、このアホみたいな言語。
「おーい、バカ下酢昆布」
「えぅ、え?」
「テメェ、日本語忘れたのか…………」
「…………あーい、あーい!」
ダメだ、何が起きてこんな状態になりやがった………。
―—もう、精神がやられてるじぇねぇか。
これは完全に精神ぶっ壊されたやつにしかできない芸当だ。
だが、木下がどうのというのは冷静に考えれば俺には関係のないこと。
コイツが一生このままだろうと俺の人生にマイナスはない。
むしろ、プラスの方がでかい。
―—短い戦いだったな、宿敵よ。
―—さらば、木下昴。
だが情報は必要なので俺はやつに右手で触れる。
そこから流れ込んでくる情報を読み取り事件の一部始終が把握できた。
「なんだ――コレはッ!」
俺はあまりのショッキング映像に慌てて木下昴から体ごと離れた。
これは凄惨な事件だ。
「野郎ども……」
そして、引き金を引いたのは、
間違いなく――強たち。
―—アイツら、やっちまいやがった……。
「堕天させやがったのか……!」
《つづく》
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