第43話 俺のかわいい後輩がとんでもないバケモンになって帰ってきやがった!
「ということがあったんだ……どう思う、お前ら?」
「この前の件だけど、ミカクロスフォードはここらへんのギルドに調整頼むわ。で田中はこっちな」
「わかったですわ」
「わかったでふ」
「で、俺は各種委員会と学校への申請関係やっとくから」
「頼みますわ。サークライは意外と出来るのね」
「本当に頼りなるでふよ。ぜひ、頼むでふ」
「まかせろ!」
「って、俺の話を聞けやお前らッ!」
俺がぺったん祭のことを語ってるのに、
話を全然聞いてねェ! どういうことだ!!
「櫻井、お前は話を聞いてくれるんじゃなかったのかッ!!」
「いや聞いてたけど、あまりにもお粗末すぎて聞くに堪えない。だってお前の話って断片的で下手くそだし。さらに美咲ちゃんが胸小さいの気にして偽パイだったとか言われても、はーんで終わりだし。それで喧嘩したって言われてもな」
「いやーわかるだろうッ! ってか、友達なら分かれよ!!」
「大体はわかったよ。大変だったな、けどお前が悪そうだ」
「ちょっと扱いが適当過ぎないか!!」
白熱する俺が適当にあしらう櫻井に激怒している横から冷たく刺さる声がした。
「強ちゃん、全部お話してないよね――」
「えっ……」
玉藻さんがすごく冷たい視線で俺に嘘ついてるよねと問いかける。ギロリと重たく輝く目線で人を殺しそうな勢い。おまけにちょっと角度がついて真っすぐコチラを向いてないあたりもグッドで殺意を感じます。
「大体はこんな感じだ……よ……」
「強ちゃん、私が美咲ちゃんから聞いた話と違うんだけど………」
俺は玉藻の質問に、
「ど、どこらへんが……ですか?」
怯えながら答えを確認した。
「ぺったん節ってやつが出てきてないよ」
「………………」
「強ちゃん!」
「ハイ!」
玉藻の威圧の声に肩がぶるっと震えた。
「私は強ちゃんをそんな子に育てた覚えはありません!」
お前に育てられた覚えなんて微塵もねぇ! お前は俺のオカンかッ!
「……ハイ」
とツッコミたかったが、
もはや、今の玉藻さんにツッコんだらダメということぐらい俺も分かっている。
―—どうしてこんなことになった。
もはや、いつでも泣けるぞ俺は。
いつ泣き出してもおかしくないぞ。
——泣いちゃうーぞ……いいのか?
最愛の妹にぞんざいに扱われ、
いつもぽやーんとしている幼馴染に超激怒され、
学校で一番初めに出来た友達が話を聞いてくれない。
戦場で孤立無援で仲間から撃たれているようなものだ!
―—味方が一人もいない……
―—泣きたいっっ……!
◆ ◆ ◆ ◆
俺は強の話を聞いてたが結論から言うとさっぱりわからん。
コイツ……どうしてこんなに話が下手くそなんだろう。
会話の基本がなってない。
5W1Hとか知らんのか?
いつどこで誰が何故、誰に何をどのようにした。
という基本原則を無視すぎて話の構成が全く出来てない。
伝えたい想いが先行しすぎていて、何を言いたいのがまったく伝わらん。
話があっちゃこっちゃに飛んで時系列もよくわからん。
「強ちゃん、なんで嘘つくのッ!」
「ごめんだよぉ!」
もはや、激おこの鈴木さんに迫られて泣きそうである。
いや、もうすぐ泣くなコイツ。
なんとなくもう涙くんがテイクオフしそうな雰囲気がある。
——変な気配を感じるな…………っ!?
だが、そこで俺は気づいた。マズイという事態に。
「オイ、二人とも!!」
「強ちゃん謝り方が違う。ごめんだよぉじゃなくて、ごめんなさいですぅ!」
「ごめんなさい!」
「オイ、オイ、オォオオオイ!!」
「なに、櫻井くん!」
「いや、勉強が出来ない強を叱るのもそこらへんにしといてあげなよ、鈴木さん」
「なに言って――!?」
「何の話をしているの――」
そこにはサクランボの髪飾りをした可愛い後輩が黒目を光らせて立っていた。
「おねいちゃん、お兄ちゃん」
途中で近づいてきてるのに気づいた俺は、
慌てて話題を逸らそうとしたが、
なんとか間に合ったのか!?
美咲ちゃんが登場したことにより強の体の震えが半端ない。
電動マッサージ機のように揺れ自席をカタカタ言わせてる。
―—そろそろ、マジで泣くかも。
そこで美咲ちゃんが怯える強に対して口を開いた。
「お兄ちゃん、お弁当におかずを入れ忘れちゃってごめんね」
軽く弁当のことを誤って彼女は強へと差し出す。
「これ代わりに持ってきたから」
「俺に……?」
美咲ちゃんがお弁当箱を差し出すと強の顔が明るくなった。
「そうだよ。間違って空のお弁当を渡しちゃった、てへッ☆」
美咲ちゃんはあまり怒ってる雰囲気はないような。
——どういうことだ。聞いてた感じだともっと怒ってそうなのに。
さらに言えば鈴木さんの怒り方から見て相当やばげに見えたのに。
だが、俺は違和感に気づいた。
コレは――取り繕っていると。
―—そもそも、てへッ☆がおかしい。
なんとなく美咲ちゃんの笑顔が作りものっぽい。
それに強に向けてというよりは俺達へのアピールに近い気もする。
私は出来た妹なんですよと。それに弁当箱は空ではなかった。
小梅ちゃん一個。これは意図的だろう。
偶然では起きるわけがない。
そして、このタイミングも怪しすぎる。
まるで、この前の件を話題にさせないようなタイミング。
彼女は賢い。これぐらいのずる賢さがあって然りだ。
「———―せんぱい」
「な、なに!?」
俺は考え込んでいたところに、
腹の内を探ろうとしている相手から急に話しかけられて心臓が縮こまる。
何かとてつもないプレッシャーを感じる。
この小さな体から何かどす黒いオーラが出ている様な。
——イツモはちっちゃい後輩が大きく見える!
「あまり余計な詮索はしないでくださいね…………」
―—これは牽制だ。明らかな牽制。
「わ、わかった……?」
―—何かがいつもと違う。どういうことだ?
こんな雰囲気を出せる子じゃなかった。これは人を殺ってるやつが出すオーラだ。明らかに人を殺している。まるで少女の皮を被った獣。人の面を被った殺人鬼のようだ。
——いったい、何処でマーダーしてきた!?
「では、失礼します――」
彼女は踵を返し自分の教室へ帰ろうと歩き出す。
それに何か違和感が強い。他にも何かがオカシイ。ひっかかる。
お昼休みに………一人――——
―—おかしい。アイツがいない!!
こういう状況であればアイツも絶対についてくるはずだ。
アホなアイツは「師匠に会える~」とテンション上げて、
バカ面引っさげてきて、俺に攻撃をしかけてくるはず。
——なのに、ヤツがいない!?
俺は言葉を恐る恐る投げかける。
「木下昴は……どうした?」
「えっ――」
彼女は立ち止まって笑顔を作った。
彼女が顔を傾けるときれいな黒髪が不気味に横に揺れた。
「昴ちゃんなら――」
完全なる仮面を被った面を俺に返してきた。
「お休みですよ――先輩」
―—絶対、普通のお休みじゃないやつ!?
これ以上の踏み込みは危険だと察知した。
「……わかった。そうか」
「えぇ……」
どす黒いものを身に纏い歩いてく彼女を見送る。
これは俺が思ってるより事態はマズイ方向に行ってるのかもしれない。
俺は強に目をやる。
「うまいー♪」
アホみたいに弁当食ってるのにイラっときた。
しかし、コレはただじゃすまない。
こいつ帰ったら殺されるかもしれない。
人殺すのに躊躇いがないやつの空気。
デスゲームを生き残った俺だからわかる。サイコの匂い。
―—俺のかわいい後輩がとんでもないバケモンになって帰ってきやがった!
これは仕事の時間になりそうだッ!
◆ ◆ ◆ ◆
その頃――
病院で車いすに乗せられた綺麗な少女が看護婦に押されて天気のいい庭を散歩していた。目の前に季節外れな綺麗な黄色のモンシロチョウが飛び、それに向かって手を伸ばす。
「ちょうてぇうー、ちょうてぇう」
蝶々と発したいが言葉がうまく喋れていない。
まるで幼児が一生懸命に知らない言葉を唱えているような感じである。少女は車いすから目いっぱい手を伸ばしてそれを捕まえようとする。それを危ないと判断し看護婦が抱きかかえ抑えた。
「だめですよー」
抑えられながらも蝶々に手を伸ばし続けてもがいている。
「ちょうー、ちょうー」
体は小さいが明らかに幼児とは異なる、
赤い髪がひらひらと風に揺れている。
「木下さん、もうお散歩は終わりにしようか」
「えぅ?」
少女は不思議そうな顔で看護師を見つめた。
《つづく》
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