第41話 もう胸が小さいなんて悩みもこれで一生おさらば

「なんか、美咲ご機嫌だね」

「うふふ」


 あと一日であの商品が届く――夢の様な商品が。


 夢見る商品におもわず私の頬は緩んでいた。


「一体、何があったの?」

「昴ちゃんにも今度教えてあげるね」

「ん?」


 あの夢の様な商品があれば昴ちゃんもきっと大喜びだろう。


 私が使って問題なかったら、ぜひおすすめしよう。


 だって、私と昴ちゃんはソウルメイトだから。


 ―—貧乳ソウルメイトだから!!


 授業中も私は笑みを浮かべてまだ見ぬ商品に想いを馳せていた。


 あー、どうしようっかな。何枚使おうかな。


 急激に使うと良くなさそうだし、


 それに気づかれると不味いし。


 徐々に徐々に時間をかけて頑張っていこう。


 それにしても、兄が土曜日に登校とか最高のタイミング。


 あー、あと半日ちょっとで私の手元に


 マイクが編み出した理想のアイテムが。


 楽しみなことが待ち遠しいと一日の時間が経つのも早い。


 あっという間に学校も終わっていた。


 夕食も終わり、私はお風呂に入る。


 自分の出来の悪い我が子に話しかけてみた。


「チッパイちゃん、チッパイちゃん」


 微笑みながら自分の両胸を掴み、


「明日でお前もちょっとはマシになるからね」


 揺らして愛情を持って接する。


 ほぼ毎日筋トレばかりして育ててきた我が子。


 イジメ抜いてきた。


 そろそろご褒美を与えなければグレてしまうかもしれない。


 そう、これはチッパイへのご褒美でもあり、私への褒美でもある。


「あー、待ち遠しいなー…………」


 湯船の角に頭をつけて天井を眺めると、


 私の救世主のマイクが、


「マイク、先輩が居なかったら」


 おぼろげに歯を輝かせて笑っている幻影が見えた。


「私は……あなたに惚れていたわ」


 そうして――


 土曜日当日を迎える。


 早々に兄を送り出しておねいちゃんに引き渡した。


 ここからの時間が長い。時計がチクチクと音を立てる。


 宅急便の午前中とは朝9時から12時の間を指す。


 この三時間のどこで私の夢が届くかわからない。


 気が気でない。リビングを腕組みしてウロウロしてみたり、


 コーヒーを飲んでみたり。掃除をしてみたり。


 ただ何をするにも時間が気になる。


 早くしたい。兄には見つかりたくない。


「はっ、まさか……!」


 そうだ。万が一ということもある。


 交通事故という可能性もあるかもしれない。


 もしかしたら、夢はどこかで逃げていくかもしれない。


 気が気でない。親指を噛んで落ち着かせようとするがどうも落ち着かない。


 私は気を紛らわすために自分のちっぱいを両手で触り語り掛ける。


「大丈夫だよ、すぐにぷるんぷるんできるからね」


 自分に言い聞かせるように我が子にエールを送る。


 すると――


「来たかッ!」


 車が家の前に止まる音。


 そして、すぐにピンポーンという音が聞こえた。


 私はダッシュで玄関を開ける。


「あー、涼宮さんですか。これお届け物です」

「ハイ!」

「じゃあ、ここにサインを」


 私は言われるがままにサインを書く。


 段ボール一箱ほどのものだが、


 これは私の未来の可能性。


 早く、このドリームボックスを開けたい。


 急ぎで宅配員を見送り段ボールを持って私は階段を駆け上がって、


 自分の部屋に行く。


「ふぅー、はぁー、ふぅー、はぁー」


 深呼吸をして落ち着かせ、中身の確認に移る。


 ガムテープを慎重に剥がしていき、箱の蓋を開けた。


 中には夢にまで見たマッドイータカメレオンの鱗が、


 10枚セットでビニール袋に入っている。


「あぁー、マイク愛してるわ………」


 私はその鱗に頬ずりして、夢をはせた。


 これから起こるであろう未来を創造する。


 巨乳になってしたいことって……なんだろう。


 可愛いお洋服とか着れる。


 胸が強調されたデザインを避けてきたし、


 水着も派手なものを着てもいいかも。


 浴衣とかもちょっと襟元を開けて谷間を強調したり、


 一番はジャンプしてみたいなー。あの震える感覚を味わってみたい!!


「ただいまー、美咲ちゃん」

「お邪魔しまーす、美咲ちゃん」


 ——なんですとッ!?


 男女二人の声が下から聞こえる。


 ——しまった! 浮かれすぎてあっという間に時間が過ぎている!!


 私は急いで鱗をベッドの下に隠して、


 ―—というか、なぜおねいちゃんまで! 


 下の階に降りていった。


「いらっしゃい、玉藻ちゃん」

「ごめんね、急にお邪魔しちゃって」

「全然かまわないよ、玉藻ちゃんならいつ来ても♪」

「エへへ」


 うれしそうな顔を浮かべるおねいちゃん。自然と胸も何か弾んでいる。


 怪奇現象の一種かな?


 でも、私もいずれあーなる。


 私も夢の球団、爆乳バスターズの一員にいつか!!


「あれ……美咲ちゃん、ご飯は?」

「あっ……」


 兄の発言に私はご飯を作っていないことに気が付いた。


「ごめん、掃除に忙しくて作るの忘れてた」



「「えっ……」」


 なぜか玉藻ちゃんがすごいショックな顔している。


 さらに兄に関してはモアイ像みたいな顔になってる。なんだろう?


「すぐ作るから座って待ってて!」


 ただ私にして見れば料理などお手の物。


「20分ぐらいでちゃちゃっと作っちゃうから!」


 腕まくりをして台所に向かう。


「美咲ちゃん、カッコいい!」

「はーい♪」

 

 そして、昼食を囲みながら私たちは進路説明会の話をして笑いながら過ごした。


 それから、私は日曜日に鱗を試してみて判断をした。


 これは一気に使うのは危険だ。とりあえず一枚で様子見だ。


 ゆくゆくは20枚まで増やしてもいいかもという代物。


 そうすれば、うふふ――。


 そして月曜日の朝に私はその鱗を装着する。


 マッドイータカメレオンの鱗とは何かというと、


 ちょうど胸っぽい形に反りかえった楕円形の鱗。


 それが、あら不思議。


 肌に着けると半透明になりしたのものを映し出す。まるで体の一部みたいに密着してもはや見分けがつかない。カメレオンの擬態性をいかした技術。


 さらに言えば、この鱗は軟らかくもちっとした感触がある。


 ―—そう、正にオッパイ! これは完全なる擬態!!


 もう胸が小さいなんて悩みもこれで一生おさらば。


 一種のドーピングに近いですが、オリンピック選手でもやっていること。


 なら、一般人である私がしてもいいはずです。


 さらに言えば別に何か競技をしているわけではない。


 反則も何もない。単なる自己満足による陶酔。


 コンプレックスの解消。


 ——ならいいじゃない、偽パイだって!!


 私は通学路を胸を張って歩く。


 なぜか自分の胸が誇らしい。


 しかし、それは微かな変化である。


 一枚では薄すぎて肉眼での判別など不可能なくらい。


 けど、千里の道も一歩から。


 長い年月をかけて少しづつ積み重ねていけばどこまでも行ける。


 成長したと言い張ればいい。


 ——だって、これはもはや私の体の一部なんだから!


 そして、私は教室に元気よく入っていた。


 だが、これが迂闊だった。


 この微妙な変化に気づくものがいたなんて思いもしなかった。



《つづく》

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