第39話 見ればわかるもんだと思ってた。
俺は授業中に考え込んでいた。
——どうも……妹の様子がおかしい。
玉藻と喧嘩なんて、小さい時はあったけど、
今となっては見ることがない光景の一つ。
ソレにあの昨日の発言である。
『巨乳を全員殺して欲しいの』
昼食時に全員が俺の席に集まって勝手に机をくっつけていく。
こういう時、多分相談するのがいいのかもしれない。
玉藻も何か朝に美咲ちゃんと話をしていたみたいだし。
俺は購買で買ってきた、のり弁当を食べながら話を切り出した。
「あのさー、うちの妹が最近変なんだが……」
「涼宮の妹が変?」
ホルスタインが首を傾げていた。
「何があったんでふか?」
「いやー、急に下校途中にチックショーとか大声で叫んで地面を殴ったり、俺が入る前に玄関の扉と鍵を閉めたり、家で泣き喚いたり」
「大分……やばいでふね」
「涼宮、喧嘩でもしたの?」
小泉が聞いてきたので俺は答えを返す。
「してないんだが、」
喧嘩はしていない。むしろ、どちらかという頼られたに近い。
「なんか自分以外の女子をぶっ殺して欲しいって、お願いされたんだ」
本を熱心に読み込んでいる櫻井以外が、
——ギョッとした顔を浮かべていた。
美咲ちゃんにお願いされた内容は、
自分以外の巨乳を全員殺して欲しいだった。
だが、美咲ちゃんクラスの断崖絶壁を除くとなるとほぼ全員である。要は全員を抹殺してくれと大量虐殺をお願いされたようなものだ。それを要約して俺がみんなに伝えたらこうなった。
「貴方の妹も…………貴方によく似てるのね」
「当たり前だ、兄妹だからな」
「突拍子もないなー。けど、アタシ的には涼宮の妹って」
椅子を揺らしながら性別不詳が何かを思い出している。
「もっと、可愛いらしい感じだと思ったけどな」
元気ハツラツオロナミン女子の発言はもっともだ。
「いや今でも可愛いよ、美咲ちゃんは」
まったくもって、その通りだ。
「うちの妹は世界一かわいいと言っても過言ではない」
「涼宮シャンは妹想いなんですね♪」
「まぁ、世界で一番妹を愛してると言っても過言でない」
「じゃ、じゃあ、もし妹さんに彼氏が出来たらどうするんですか?」
たどたどしい感じで話す女子。
——誰だ……この三つ編みメガネ。
新キャラが多すぎて困惑するぜ。
だがまぁ質問をされたので答えを返す。もはや定型文に近いものだ。
「妹に彼氏なんて出来るわけない――」
櫻井以外の全員がなんで?という顔を浮かべていたので俺は付け加える。
「だって、俺がぶっ殺すから………」
俺は静かめのトーンで本気度を如実に伝える。
間違いなくコロス、徹底的にコロス。そこにブレなどない。
「なんならゴミ親父も参加するし。涼宮家総出で殺処分するからな」
俺の本気に全員が沈黙していた。そこに玉藻が口を開く。
「美咲ちゃんは……胸の大きさを気にしてるんだって」
「胸だ……と?」
確かに昨日はずっとオッパイの話をしていたな。
貧乳だとか。巨乳になりたいとか。
突然の核心をつくような内容に自然と質問が湧く。
「女って……みんな胸の大きさとか気にするの?」
するわよッ! と一斉に反応が返ってきた。
さすがに大人数なので多少俺もビビる。というか胸の大きさとか男が気にするものであって、本人達が気にするものではないと思ってた。そういうものだったのか。
俺は女子全員の胸部を回し見ていく。
「おい、猫耳。ちっさいと気にするものなのか?」
「えっ!」
「なんで、二キルに聞くんだ涼宮!」
また何か間違えたのか……俺は。小泉が席を立ちあがって怒っている。
これが感覚のズレっていうものだろうか。
別に悪いこと聞いたつもりないのだが、
怒っているということはダメな質問だったかもしれない。
「いや………だって、ソイツがこの中で一番小さかったから」
「そんなの服の上からじゃわからないだろう! クロミスコロナだって、同じようなものじゃないかッ!」
「いや、アイツはCカップだ」
「正解」
猫っぽいやつは親指を立てて恥ずかしげもなく答えを返す。
全員が『えっ?』というような顔をしたが、
俺は次々と指をさし話を続けた。
「で、そこの猫耳がBだ。オロナミン女子はDだな。でホルスタインがH、三つ編みメガネがGといったところか」
当てられた女子全員が胸を両腕で隠しクロスしていた。
残り一人だけおっぴろげにしているヤツがいる。
俺はソイツに目をやる。
「玉藻はEからいつのまにか成長してギリギリFだな」
「強ちゃん、正解!」
いつの間にやら成長していたか。一段階上のクラスへ。
年月は人を変え成長させるこということか、ふっ。
全問正解したであろうことに満足げにする俺に、
痛い視線が集中していた。
「なんだよ……」
「気持ち悪いですわよ……涼宮」
「何がだよ?」
「いや、普通胸のサイズなんてそんなに当てられないでふよ」
「えっ?」
「ちょっと僕も軽くヒクよ……」
「何がッ!」
「変態ここに極まれり」
「意外と辛辣だな、メガネっ娘!」
「うわー、気持ち悪っ。涼宮、おっぱいマニアじゃんー」
「うるせぇ、性別不詳!」
「オッパイスカウター」
「変なアダ名付けるな、黒猫!」
「強ちゃんはワタシのおっぱいをよく見てるんだね!」
「お前は発言が斜め上過ぎるんだぁ! いつもいつも!!」
次々と押し寄せる罵倒にツッコミ疲れてしまった。これは話を逸らさねば。
俺は一人反応を示さないやつに視線を向ける。
「櫻井、クマがすげぇぞ」
「ちょっとな、勉強してる」
それから見事櫻井に話題が移り、アフィブログで稼ぐんだと言って、
不気味な笑みを浮かべたピエロに、
『金の亡者』とあだ名を付けたことは言うまでもない。
そして、『オッパイ星人』と俺があだ名づけられたのも言うまでもない。
だが本題は何も解決せずに終わってしまった。
結局のところ胸が小さいと何がイヤなのだろう。
ちなみに美咲ちゃんのサイズは―—
トリプルAサイズである。
《つづく》
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