第36話 貧乳キャッツ VS 爆乳バスターズ プレイボール!

 これはピエロ放課後活動の裏のお話である。


 時が重なっている裏側で起きていた事件。


 ちょうど――


 櫻井がミカクロスフォードと二回目のギルド探索をしているところで、


 その惨劇のきっかけが始まった。




◆ ◆ ◆ ◆




「美咲ちゃん、帰ろぜー」「美咲ちゃん、帰ろ~」

「はーい」


 私を教室まで迎えに来た二人のもとに鞄を持ってかけていく。


 そして鞄を持ちながら、


 廊下を歩きいつものようにおねいちゃんと会話をしていた。


「玉藻おねいちゃん、もう冬だねー」

「本当に冬だねー」


 季節は冬真っただ中。寒さでコートを来ての登校が当たり前。


 ただ、その中でもチラチラ目に入る玉藻ちゃんのボディ。


 明らかに何か主張が強い。


 だがそんなのは昔から一緒にいるので慣れっこである。


 ——おっと、いけない。


 視線を一瞬とられるもすぐに顔を戻して会話を続ける。


「今日はうちの兄は大丈夫でした?」

「なんか、ギルドに見学に行くみたいだよ」

「えっ、ギルド?」


 うちの兄がギルドに興味を持つなんて………めずらしい。


 私も玉藻ちゃんもギルドは無所属である。


 それと兄もいうまでもなく無所属。


「ギルドですかー、」


 私はいくつものギルドから招待を受けていた。私の能力が便利すぎるというのもある。消耗した武器や魔道具なども私であればちょちょいのぱっぱで元通り。なんでも復元できるから重宝され過ぎている。


「珍しいこともあるもんですね」

「田中君と小泉君が誘ってたから♪」


 兄に友達が出来たのが嬉しいのか、


 最近おねいちゃんはご機嫌です。


 それにしても――


 兄がギルドへ行ってくれたら、マジうれしい!


 私への監視活動の時間が減る!! さらば、サイコ野郎! 

 

 私は小っちゃく飛び跳ねガッツポーズをした。


 いつのまにか校庭に出ていた。


 校庭では生徒が溢れかえっている。ギルドの面々である。どこがお荷物を受け取ってくれるところなのか期待し私はクルクルと体を回してギルドを眺めいていく。


 ―—どこだろうなー、うちの迷惑を持っていってくれるところはー。


 もうご機嫌で笑顔がこぼれて軽快に回る。


 ―—早く連れってっていいですよー。


 スカートが少し風で浮き上がるぐらいテンションが上がっていた。


 ―—どこでもあげますよー♪ あははー♪


 だが、それがいけなかった。私の失態だった。


 ——あはは、あは………はっ?


 体育館の方向に見なければいいものが見えてしまった。


「サークライ、では行きましょう!」

「おう、中に入れてくれ!! 頼むぜ、ミカクロスフォード!!」


 ―—えっ……。


 私は失速し止まった。


 ——セン……パイ?


「あれ………れれ」


 目を擦る。また見る。


「貴方、いい男ですわね!」

「お前もいい女だ! ミカクロスフォード!!」


 ―—イイ男とイイ女……。


 そこには体育館に消えていく二人の男女。


 一人は私の好きな人。


 もう一人は明らかに貴族である。


 金髪ブロンドナイスバディ。


 見慣れたものよりも遥かに巨大な爆乳。玉藻ちゃんの上をいっている逸材。


 日本人では数%ぐらいしかいない豊満な体。


 それがワタシの好きな人と放課後の体育館に仲良さげに消えていく。


 しかも、意味深な会話をして。やる気に満ち溢れて。


 おかげで私の幸福は一瞬で消えた。


「どうした、美咲ちゃん?」

「櫻井先輩って……何かギルドに入ってったっけ………」

「いや、アイツは入ってないよ」

「あっ……そう」


 ―—無所属なのに……男女で体育館に消えていった………。


「けど、最近なんかミカちゃんと一緒にギルド巡りしてるらしいよ」

「ミカちゃん……?」

「とってもきれいな子だよ」

「そうだね……あっは、あは」


 笑顔の玉藻ちゃんに私は頬を引きつらせて笑みを返した。


 確かにキレイだった。もはやモノが違う。


 自分がちんちくりんに見えるぐらい、大人びた人だった。






 私の脳内ではなぜか野球場が映し出される。


 ここからはあくまで私の頭の中のイメージ。


 妄想も妄想。異世界も異世界。


 だが、現実を如実に表した心象風景。


 なぜか兄がアナウンサーをしている。


「さぁーて、試合もいよいよ大詰めとなりました!」


 場内に響き渡る声。


「解説の櫻井さん、この展開どうみますか!?」

「いやー、まだわからないですね。ピッチャーの美咲さんがどこまで出来るか、見ものです」


 解説の櫻井先輩の言う通り私はマウンドの真ん中に立ち肩で息をしていた。


 スコアボードは3点と1点。


 私を要する貧乳キャッツが3点。


 そして、相手の爆乳バスターズが1点だった。


 いまは勝ち越してる。


 9回裏2アウト満塁。


 ―—なぜ、敵側のチームにいる!!


 一塁には玉藻おねいちゃん。


 ―—くそー、玉藻ちゃんの裏切り者ッ!

 

 相手選手がネクストバッターサークルから動きだす。


「あー、出てきましたね。櫻井さん……」

「いやー、立派ですねー」


 ——けど、あと一人。あと一人で試合が終わる!


 アナウンスがワタシを苛立たせる。


「やっぱり日本ではお目にかかれない超メジャー級」

「ハイ、やっぱり四番バッターは助っ人外人に限る」


 目の前でご自慢のミサイルを揺らし構えをとる。金髪縦ロールがふわりと優しく左右に揺れている。私では出来ない髪型。気品が溢れすぎている。


 だが、ここで負けるわけにはいかない。


 私はボールの縫い目を確認し、


 キャッチャーの昴ちゃんの合図に頷く。


 そして、投球モーションに入った。


「おぉーっと、これは美咲選手」


 投げる球は、


「平民ストレートだ!」


 私が投げたのド直球の平民ストレート。


 私は急いで後ろを振り返り行く先を確認する。


 それは金髪の優雅なる一振りで空へ消えていった。


 審判のコールが聞こえた。


「ファール!!」

「いやー、強さん。見事なスウィングでしたね」

「えー、あれは日本ではお目にかかれない。超異世界級ですね、櫻井さん」


 貴族スウィングで危うく場外まで持ってかれるところだった。


 ——この人、強い!


 私は相手を睨みつけ闘志を見せる。まだ負けるわけにはいかない。


 ここで投げるのは――


「おぉーっと、これは美咲選手。家事手伝いスライダーだ!」


 相手選手のバットが空気を切る。


 パシっとわたしの手元にキャッチャーの昴ちゃんからの返球くる。


 貴族様ではこのスライダーは打てまい。


 どうせメイドがやってくれてるんでしょうからね。


 私が勝ち誇った笑みをバッターに向けると相手は穏やかに笑いを浮かべていた。


 その姿は淑女。ツーカウントに追い込まれているのに、


 圧倒的余裕を見せている。


 ―—くそー、悔しい。


 感情剥き出しの私に対してまったく動じていない。


 昴ちゃんのサインに合わせて


 ―—来て、美咲! ウィニングショットだ!!

 

 決め球を投げることになる。


 ——わかったよ、昴ちゃん!!


 私の持てる渾身の必殺球。


 ――私の属性で一番強いものだから。


 あと一球で決めるという覚悟を持って振りかぶる。


「おぉーっと、これは美咲選手!!」


 ――コレでやってきたんだからッ!!




「ロリコンフォークだ!」




 ―—打ち取ってやる、ゼッタイに!!



「うわぁあああああー、これは大きいィイイイイイ!!」


 ―—えっ!?


 アナウンサーの驚く声が聞こえた。私は慌てて顔を上げる。


 白球は照明スタンドに突き刺さり一つ電球を打ち砕いて割った。


「ファール、ファァァァアアアアール!!」

「そ……そんな、私の決め球をあんなにあっさり………」

「ふっ、この程度のロリコンで勝てると思って」

「くっ!」


 解説が入る。


「いやー見事な大人スウィングでしたね、櫻井さん」

「いやはや貫禄が高校生を超えてますからね、ミカクロスフォード選手は。社交界でもまれてきた淑女の洗礼されたあのアッパースウィングは中々出せませんよ」

「そうですねー、一つしか学年が違わないのに圧倒的差ですね。やはり美咲選手にはまだ対戦は早かったんでしょうか?」

「そうですね……イイ女……とは程遠いかもしれません」


 先輩の解説で私の心にトゲが刺さった。


 ——痛い……心のトゲが抜けない


 女性的な魅力による敗北。これは堪える。


 ——痛いよぉおおお!


 相手はクルクルとバットを片手で回してピタッと遠くを指して止めた。


「おおっと、ミカクロスフォード選手! これはホームラン予告だ!!」

「挑発的ですね……もはやカウントが追い込まれているこどなど微塵も感じさせない。ロリコンを完全に打ち取ったことによる精神的アドバンテージがありますからね」


 ―—どうせ、私は幼児体系だよッ!!


 私は昴ちゃんのサインを待つ。だが、昴ちゃんが非常に困っていた。


 ―—どうしたの、昴ちゃん!?


 サインがこない。


 いや、何か気まずそうに迷っている。

 

 まさかッ――!?


 その時、私は気づいた――。


 私にもう手札はないのだと。


 何も投げれる球がないということを。私はボールを見つめる。


 ——どうする、どうする……私。


 そこで一球だけ残されたものがあることに気づいた。


 ——あっ………。


 もしかしたらこれでいけるかも。一部には通じるっていうし。


 首を左右に激しく振って雑念を払う。


 ―—いや……これはゼッタイにダメだ。打たれたら立ち直れない。

 

 迷っている私に昴ちゃんが力強く頷く。


 あのマスク越しの目がワタシに語り掛けてきている。


 自然と目と目で会話が出来た。


 伊達に一年も一緒に異世界に行っていない。言葉がなくても通じ合える。同じもの同士だから良くわかる。私たちの属性は髪の色以外、殆ど一緒。


 ―—美咲、大丈夫! いけるよ! 


 だから、分かり合える戦友。


 ―—それが美咲の持ち味だから!!


 ―—本当……?


 ―—本当も本当、それ無くして美咲じゃない!


 私と昴ちゃんは意を決し相手に対して、


 ——この相手に全力でぶつかろうよ! まだ勝負は終わっていないよ!!


 ―—わかった!


 今まで投げたことがにない球種を選択した。


 これは諸刃の剣。打たれればダメージもデカいけど、


 打ち取れば私の心のトゲも抜ける。


 ——くらぇええええ!


「おぉーっと、美咲選手! これはッ!」

「まさか、ここでこの一球を!」

「なんて緩急さだぁああ!!」

「これは幻の――」


 そう、私が投げたのは緩急差が激しい超遅い球。


 だが鋭く相手の肩口から変化するアブノーマル変化球。


「「貧乳スローカーブ!!」」


 ――これが私の全てだぁああああああ!!


 相手の肩口から鋭く変化する異常な変化球を前に、


 相手は口角をゆっくりと緩めた。


「みすぼらしい球ですこと――」


 ―—恥も見栄も捨てた私の変化球がみすぼらしいって……イヤミかッ!


 相手バッターはご自慢の乳を揺らし体重移動に加速を付けた。


「残念賞……よッッ!」


 それは振り子の反動で大きく推進力となり、


「コレはッ――」


 私の想いを遥か彼方に打ち砕く。


「「いったぁあああああアアアアア!」」


 信じられない勢いで場外へ消えていく白球。


「「爆乳振り乳打法だぁああああああああああ!!」」


 あの白い球は私そのものだ。


「………………」


 ―—終わった……ワタシ、オワッタ。


 完膚なきまでに私は打ち砕かれた。自然とマウンドに両膝を付けていった。


 横では裏切り者の玉藻おねいちゃんが飛び跳ねて、


 ベースを一周して喜んでいる。


 乳と乳で殴り合うがごとく抱き合って金髪と戯れている。


「うぇっぐ、ひっぐ――」


 自然と涙がこぼれだした。


 だって全力で投げたのにあんなにあっさり、


 しかも遠くまで飛ばすなんて、ひどいよー。


 泣いてる私の肩に手が置かれた。


「あなた、」


 金髪縦ロールの貴族。


 その人がマウンドでうなだれている私の肩を叩いたのだ。


「は……い?」


 自然と顔を見る。


 もうフランス人形とかそういう芸術的な造形の顔まで持ってる。しかも大人っぽい。私は悟った。この人には勝てないと。素材が違いすぎる。持って生まれた運否天賦の才が違いすぎる。


「変化球は投げれますけど………」


 そして、金髪さんは首を傾げて続きの言葉を私に送った。




からやり直した方が良くなくって?」




「――——っ!?」



 そして、現実世界の私も地面に両膝を着いて崩れ落ちる。



 だが、自然と――。




「チックショォオオオオオオオオオオオオ!」




 悔しさが現実世界にも持ってこられていた。


「どうしたの~、美咲ちゃん!?」

「触らないで、玉藻ちゃんの裏切り者ッ!」

「なんでええー!」

「いきなり叫んで怖いよ! 美咲ちゃん、大丈夫か!?」


 私が泣きながら地面を叩いていたので、二人はひどく動揺していた。


 ―—私の悲しみなんて誰にもわかるわけがないッ!!



《つづく》

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