第30話 ピエロの放課後活動13 ーThis is warー
「そういうことか…………ッ」
美川の獣人化は思ったより堪える。各特性により一時的にステータスが特化する。
「きっっ…………ッ」
ゴリラのパンチ力、キリンのキック力。
どれも体に響きやがる。
俺は殴られ軋む体を起こした。
「お前、本当にタフさだけは驚愕だな。そこだけはEランクを遥かに越しているよ」
俺が立ち上がるその姿に美川も少なからず動揺を見せた。
「タフでも遠慮なくバカスカ殴るんで」
だが俺も動揺している。
「結構効いてますよ…………」
俺は触れたが故に見えてしまった。
コイツの覚悟と勇気を。そして過去を。
——残り五日か。
「美川先生…………」
まさか、美川が教員職を捨ててまで望んでいると思わなかった。その全貌が見えてしまったが故に同情もする。俺はコイツの決死の覚悟を踏みにじてしまったのだと。
「アンタ……あと五日で教師辞めるのか?」
俺の問いかけに呆れながらも獣人化をとかない。
もはや本気で俺をいたぶるつもりだろう。
「お前は本当に余計な能力を持っているな……」
だが俺は思いを告げなくては戦えない。
この同情するような心と決別をして戦いを挑まなきゃ美川には勝てない。俺も隠しているがSランク。対する美川もSランク。ただでさえ勝敗は見えない。
一瞬の躊躇が勝敗を転がしてしまう。
「美川先生、アンタの正義はよくわかった」
「なにを………わかったんだ?」
俺は右手を見る。
此処で全ての答えを見て来たが故に。
「アンタが教師として覚悟を持って……」
ここ迄どういう想いで美川先生が居たかということも。
「デットエンドに最後の戦いを挑むまでの過去を見させてもらったよ」
「殴られながらもそんなことに能力を使っていたのか……」
無駄に能力を使ったが故に俺は戦意を削がれてしまった。
「だから、お前はEランクなんだよ…………櫻井」
本当に美川の指摘通りだ。躊躇いが生まれているという事実。だから、俺も覚悟しなければならない。自分の正義を示すことが必要だ。
「美川せんせ――——いや、美川」
俺は言いかけて言葉を変えた。
先生とか生徒とかそんな立場を捨てる。
「コレは――」
一人の男として語らなければいけない。
俺は決意を言葉に変えて吐き出す。
「——戦争だ」
「戦争?」
俺が出した物騒な言葉に怪訝な表情を浮かべる美川。だが俺が迷いを振り払う為に選び出した言葉。俺は繋げて話すが言葉は選ぶほかない。多くは語れない。
しかし、心が黙るわけもなく語れない部分が自分に問いかけ続けてきた。
アンタが生徒を思いやっての行動だってのも、
アンタがイイ先生だっていうのも、
「そうだ、戦争だ…………」
俺達がアンタの生活を変えてしまったということもわかった。
「だって、そうだろう、」
ソレを分かった上で俺は戦わなきゃいけない。どちらが正解なんてものはないのかもしれない。答えが出る問題ばかりではない。でも出さなければいけない時は必ず来る。
「戦争っていうのは歴史的に見ても――」
その為に答えを出すにはどうしたら、いいか。
「一方的な正義と一方的な正義のぶつかり合いなんだ」
「だから戦争か…………じゃあ、櫻井」
アンタの正義は確かに勇者としても教師としても認められたものだ。だからこそ、俺達二人を許せない悪だと思っているんだろう。
「お前の正義はどこにある?」
だがな、お前がしようとしたことを俺も許すつもりない。
―—俺の類友を嵌めようとしたことは。
―—俺が手で無数に剥がした悪意のこもったあの写真。
「俺の正義は――——」
もし、悪というレッテルが一度貼られたら、
剥がせないもんだと考えているなら、
それは間違いだ。
アイツは少なくとも――強は変わろうとしている。
生まれ持った悪という存在に縛りつけられている存在。
憎まれるために生まれてきた命。
それでも、ここまで頑張ってきたんだ、
アイツは……。
「聞いても、アンタは大したものではないと思うかもしれない――」
俺は静かに闘志の炎を燃やしていく、
次第に表情も落ち着きを持っていく。
―—美川、アンタはアイツのことを何も知らないだろう。
アイツがどれだけあの力で孤独を味わったか。
幼いアイツが触れられなかった世界がどれだけあったか、
どれだけしたかったけど、
出来なかったことがあったか。
どれだけ傷ついて生きてきたか。
――どれだけ『拒絶』されて、
生きてきたか。
「けど、俺は別に誰に理解されたいとかも思わない………」
俺の心の熱が高まっていくのを感じた。
「俺のは本当に個人的で一方的なもんだ。それよりもだ、美川」
取り戻した戦意を形に変え少しずつ構えを整えていく。
「アンタにとってアンタを頼ってきた生徒は可愛く見えたかもしれない。そいつらの無念を晴らすことがアンタの正義のひとつかもしれない。けどなー、俺から見れば他人を頼って自分で何も出来ないお子様どもだ。無能も無能だ」
俺の発言に美川の眉がピクリと動く。
「なに……っ」
その反応が俺をさらに苛立たせた。
自分の愛すべき生徒を馬鹿にされて怒るのか。
そんなやつらは救うくせに、
アンタが救うべき生徒の一人に、
なぜ強も含まれないんだ!
どうして、アイツをちゃんと見ようとしてあげない。
『デットエンド』とか――
『
そんな訳分からないもんじゃなくて、
涼宮強という人間がそこにいんのに、
どうして、
誰もちゃんと見ねぇんだよ……!!
俺は構えを終えて戦闘体勢を維持する。
全てを言葉に出来ないもどかしさが俺に熱を伝えていく。それが沸々と湧き上がっていく。
「アンタ、強をちゃんと見てないだろう」
「涼宮がどういう生徒かは知っている」
――何が悪だ……
「アンタにとっては俺も強も悪ってことだけだろう………」
「そうだ、悪だ」
――何が正義だ……
「くだらねぇんだよ、本当に! 俺はお前らの一方的な正義ってやつが気に食わねぇんだ!」
「それがお前の正義か」
もし一度張られたレッテルが剥がせないなんて事があれば、ふざけている。
「違う、」
そんなものを俺は絶対に認めねぇ!!
「俺の正義は――」
冴えないレッテルを貼られたボッチはずっとボッチでいなきゃいけない運命でもあるのか。面白くないやつは一生面白くないまま生きていかなきゃいけないのか。不幸な奴はずっと不幸のままで変わらないでいいっていうのか。
人はどうあっても、
他人が押し付けたイメージの中から抜け出せないっていうのか。
正義のやつは一生正義で、悪は一生を悪として、過ごさなきゃいけないのか。
なら、悪というレッテルを貼られて、
生きているアイツは、
一生そのままだっていうのかよッ!
「涼宮強という――」
ふざけんじゃねぇ、
お前らが勝手に決めたルール中で、
与えられた役割を全うする権利しか持てねぇっていうのかよ、俺らは!
そんな一方的なエゴの塊を押し付けてくんじゃねぇ!!!
「友を守るっていうことだッ!!」
「友の為か……」
美川は俺の強い意志に反応を示し穏やかに言葉を返した。
これは俺の決意を受け取ったということだ。
「で、それがどうした。戦闘ランクEのお前がどうやって俺を倒す?」
俺は完全に戦闘モードへと移行を完了した。熱くなった感情を胸に押し殺し、
平静な面を整える。感情の機微ひとつとして何も相手に読ませない為に。
「それを今から見せてやる、」
悪いな、美川。
「覚悟しとけ……美川」
お前がどれだけ狭い世界を守ろうとしてるかしらないが、
俺にはもっと広い世界を守らなきゃいけない使命がある。
アイツのストレスは魔物転生の引き金になる。
これ以上俺のような、
悲しみを増やさないためにも――
俺は俺の仕事をさせてもらう。
《つづく》
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