第22話 ピエロの放課後活動5 -3日目ー

 何故そうなったかは俺にも分からない。


 どうしてこうなったかも俺には分かりたくもない。


 わかったとしても答えを出したくない。


【弓術ギルドにて】


「握手だ」

「……ハイ」


 ―—ハイ、違う。


【斧術ギルドにて】


「握手だ」

「……ハイ」


 ——ハイ、ハズレ……


【銃火器ギルドにて】


「握手!」

「……ハイ」


 ―—ハイ、コイツもハズレ!!


【触手ギルド】


「握手しろ!」

「ハイ!」


 ―—ハイ、大外れも大外れだッ!!

 



 ——チクッショォオオオオ!!



「触手で握手するんじゃねぇ、ヌルヌルしすぎだぁああ!」

「ご、ごめんなさい!」

「人と握手する時は素手を出せやぁああ!」

「ハイ!」


 俺が不幸だからしょうがないのか?


 俺の持って生まれた星が光り、輝きを増していやがる。


 アンラッキー星がッ!!


「くそっ、不幸だ!」


 徒労が積み重なりしょぼくれる俺に


「落ち込みすぎでふ………櫻井」


 田中が慰めの言葉を贈るが、それすらもイラつく。


 寝不足と相まって成果がないことに疲労と殺意だけが増していく。


 剣術ギルドからゆうに二十はギルドを回っていた。


 夕方となり辺りはもう薄暗さに包まれてきた。


「涼宮に合いそうなものは少ないかもだけど、頑張ろうでふよ!」

「あぁ、そうだな………」


 コイツは勘違いしている。


 俺がやっているのはもう強の為ではなく――


 俺が犯人を殺すためだ。


「それにホラ櫻井も触手系ギルドでは歓迎されていたではないでふか?」


 思い起こすだけで恐ろしい。


「あんなフェチギルドに歓迎されても嬉しくもないし、なんともない。俺が触手被害体験者だからアイツらは快く受け入れてるんだ。そして実験体として俺を犯すつもりだろう。卑猥破廉恥ひわいはれんちギルドめ」


 あのギルドで受けたことは。


「ギルド長のあの相良さがらとかいう野郎イカレてやがる!」


 苛立ちがマックスになってしまうほどに。


「握手しようとしたら触手出してきやがった! しかも隣にいた副ギルド長のかのうとかいうやつも含めて危ない連中だ。正気の沙汰を見失ってやがる!! 人が真剣に話している横でイソギンチャクとおしゃべりして指ツッコんで喘いでいるような連中と俺は仲良くなれん!!」


 本当にとんでもない連中だった、アイツ等!?


「……似たようなものを感じるでふけどね」


 ——なんだ……と!?


「お前は触手の奥深さを知らないからそんなことが言えるんだ………喰らったことが無い奴にはわかるはずもない! あの体中を支配される屈辱の感覚とヌルっとしたニュルニュルの棒を入れちゃいけないところに突っ込まれそうになる恐怖をお前は全然理解していないッ!!」

「……僕は理解できないでふけど……」


 触手体験を鬼気迫る表情で語る俺に田中はたじろぎながらも反撃を、


「櫻井が触手をすごく理解してるのはわかるでふよ………」


 繰り返すのが腹立つ。


 同族扱いなんてまっぴらゴメンだ! 


 あの目を見ればわかる。黒目しかない眼球にドス黒いものを感じた。


 あの洞穴のように深い黒目に宿る執念を!


 アイツらは生涯を通して異常性癖と付き合う覚悟決めた、


 異常者中の異常者であり、


 変態の勇者だということを田中は全然理解していないッ!!


 なぜあんなやつらがマカダミアキャッツに……


 何を持ってエリートなのか恐ろしくてわからん。


 だが、攻撃としては精神攻撃の中で類をみない才を発揮するだろう。あの変態集団は。そこだけは認めてやる。触手攻撃を食らった人間にしかあの狂気はわからない。


 変態だけどなッ!


 俺の変態ギルドへの嫌悪に煽られその場から逃げようと田中が口を開いた。


「時間も時間でふし、今日はここらへんでお開きにしようでふ」

「まぁーしょうがない………とりあえず一番糞なギルドの見学は終わったから」


 さすがにもう活動しているギルドは数少ない。


「良しとしておこう」


 これ以上は収穫を見込めないし、


 活動ギルドを探す時間も勿体ない。俺には家に帰ってやることがある。



 俺は田中と別れ急いで帰宅し、本と睨めっこをする。


 一秒ごとに一ページを捲り、読み終え本が終わると次の本を開く。


 そして、十四冊目の本を読み終えたところでパソコンに手を掛ける。


「さてと、やるか――」


 あらかたの知識は詰め込んだ。


 あとは十年前の代物を解体するだけだ。


 俺は腕まくりをしてキーボードを叩きつけていく。


「すぐに丸裸にしてやるよ――!」


 ハッキングである。

 

 サイト自体を乗っ取る準備が出来たのだ。


 これは手当たり次第に鍵をぶち込む作業に似ている。


「いつまでかかるんだこれは……」


 意気揚々と始めたものの作業は難航を示していた。


 時間が長い。ソースコードにたどり着くまでに何重ものプロテクトが施されてやがる。門を開けたはいいが、中には門がいくつもあるような感じで進むのにいくつもの鍵を必要としやがる。


「クソッ! トラップまで仕掛けやがってる!!」


 作業して二時間後に気づいたときには遅かった。


 見立てが甘かった。


 10年前の遺物としての認識が俺を惑わせた。


 とっくに時代遅れだと思っていたものは、現在も生きている現役バリバリのサイトだった。おまけに最初の門自体がフェイクだった。ようは俺は出口のない迷宮を時間をかけて攻略させられていたと二時間も経ってから気づいた。


「やるじゃねぇか……老兵はただ去れよ。なに、チューニングして現役バリバリを貫いてやがんだ!!」


 安易に仕掛けたことがまずかった。どうやらサイト自体が俺を敵と認識し始めている。これ以上の攻撃は出来ないことになってしまった。


「甘く見すぎた………」


 新しいパソコンを用意しようにも時間がかかる。無駄になるかもしれないとわかりながらもネット注文で最新のパソコンを発注し、一週間後の納期で待ち構えることに。


 気持ちを落ち着かせるためにコーヒーを作ってソファーで流し込む。


 明日には解決できるはずと――


 思いたいがそうもいかないかもしれない。


 最悪の最悪を想定しておかなければ後手に回る。


 もう一度、俺はサイトに書き込まれた問題の書き込みを確認した。


『もし、デットエンドの過去の悪行に興味があればこちらへどうぞ』


 それはひとつのリンク。俺はそれを迷わずクリックする。


 SNSへとつながっている。見るからに捨てアカウントだった。


 そこには数十もの画像が貼られていた。


 いやらしい笑みを浮かべた友と倒れて傷だらけの勇者たち。


 惨劇のクリスマスの画像。


 他、邪悪な笑顔を浮かべるアイツが所狭しと。


 そして、アイツの土下座画像。


 これだけでもやつへの恨みがあるのは伝わってくる。


 だが、最後に残っていたコメントの方が気掛かりだった。





『貴方たちは本当にデットエンドを許せますか』




 そして、画像が一枚だけ添付されている。




 にこやかに笑っているアイツの顔に



 赤いバツ印を付けたものが――




 《つづく》

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