第21話 ピエロの放課後活動4 ー3日目ー

「櫻井、クマがすげぇぞ」

「ちょっとな、勉強してる」


 分厚い本を片手に食事をとる寝不足ぎみの俺に強が声かけた。


 ぶっきらぼうに強へ返す俺に鈴木さんが追い打ちをかける。


「櫻井君は勉強好きなんだね。勉強が得意なんだね」


 ―—そういう、フレンズではないがな。


 田中と小泉さえもそんな俺に興味を持っていた。


「それにしても小難しそうでふね」

「ITなんて興味があるの?」

「あるよ」


 俺は本をポンっと閉じて二人を見て話しを続ける。


「金稼ぎたいからアフィブログでも始めようと思ってな」


 へぇーと皆が声を上げた。またもや嘘だが、


 信頼度がそれを上回っているのか、


 学業成績一位という立場がそう誤認させているのかはわからない。


 昨日から勉強を始めたがITは奥が深すぎる。


 ちなみにこれで記念すべき10冊目だ。


 なんでこんなものを勉強しているかと言われれば全て犯人捜しのためだ。リスクを減らしていくためにはサイトを乗っ取ってしまえばいいのだ。あのふざけたやつのIPアドレスという住所をゲットすれば特定もできる。


 俺は寝不足気味で疲れ切った顔で薄ら笑みを浮かべた。


 ―—待ってろよ。テメェを見つけて秘密を暴いて脅してやるから。


 ―—俺様を本気にさせたことを後悔させてやる。

 

 ——最高に狂ってる


 ――最狂さいきょうの俺様を相手にしたことをなッ!


「ふっ、へへへ――」


 俺の笑いが不気味過ぎて全員がちょっと引きつった表情を作った。


 後に『カネ亡者モウジャ』とあだ名が付けられて事は言うまでもない。




 そして、次々と打てる手立てを増やしつつ俺は次の活動へ行動を移す。


 時は放課後。チャイムが鳴ると同時に俺は教室内でソイツを捕まえる。


「田中、約束の時だ」

「まかせるでふ」

「今日で半分を終わらせるぞ。強とは二日後に約束している」

「本気でふかッ!」

「本気も本気だ! 友の為に一分一秒も無駄に出来ん!」

「わかった……でふよ!!」


 俺の勘違いした熱さを受け止め田中も熱に浮かされている。


 友の為というかもう復讐に近い狂気の熱に。


 もうすでに色々と時間と労力を惜しんでいない状況が刻一刻と犯人への殺意を育てていく。それは殺意という水を吸い上げ、犯人という花が俺の前に出てくるのを待つように行き過ぎた愛情で愛でるように。


 だが、本当にそれは刻一刻と導火線に火を付けられている状況だった。


 相手方がいつ攻撃を仕掛けてくるかわからない。


 だからこそ、俺は出来るだけ急いでいたのだ。


 校庭に場所を移して、戦闘系ギルドの見学フェーズへと移行した。


「櫻井、どこからみたいでふか?」

「そうだな、まずは剣術だな」

「わかったでふよ!」


 三つのギルドは確率が低いと捉えている。


 田中がいる槍術ギルド、


 小泉がいる自然能力系ギルド、


 おまけで、赤髪がいる格闘系ギルド。


 この三つであれば情報が漏洩するのが目に見えていたからだ。


 強とつながりがあるということもあるし、


 この三人であれば反発するであろうということはわかっている。


 校庭にはまたまた結界が施されていたが、


 これは特に通行止めがないものだった。


 魔術系や魔法系には知識という大いなる財産がある。だからこそ、盗まれてはいけないという盗難防止の役割も強いのだろう。だからこそ認識齟齬魔法にんしきそごまほうや固有空間結界魔術がしかれていた。


 それに比べてこちらは盗まれても問題ないと、


 言わんばかりに門戸が開けている。実に動きやすい。


 そして、前を歩く田中はひょこひょこしている。ミカクロスフォードの品行方正な歩き方と違い、何かコミカルさがある。背中から溢れる頼もしさが違いすぎて、若干不安を感じさせるほどだ。


 ——田中で大丈夫だったのだろうか……。


 校庭に似つかわしくない光景が広がる。どこかの貴族様のお庭のようなところに白いテーブルとティーセットが出ていた。そして、すかしたイケメン野郎が紅茶を片手に俺を出迎えてくれた。俺はソイツと面識があった。


「失礼するデフよ」

「槍術系ギルドの長が何の用だい。まさか、決闘の申し込みかい?」

「いや、決闘ではなく見学でふよ。こっちの――」


 田中が紹介しようと俺に目線を落とすと代表者も、


「ん? バッ!!」

 

 俺と視線を合わせ紅茶を口から垂れ流して非常に取り乱していた。


 慌てて田中の方にかけより俺に聞こえない様に耳打ちをしている始末。


「たたた、田中君! 何を考えてあんな奴を!!」

「何って……見学希望者でふよ?」

「アイツはだめだ!! 絶対にダメだよ!! 面倒見切れない!!」


 慌てすぎて声のボリュームを間違えてやがる。俺にもしっかり聞こえている。


 昨日までのギルドとは雲泥の差の対応だ。


 ——しょうがねぇ………な。


 仕方なく俺は胸元からうちわになるものを取り出しちらつかせる。


「あー、あちぃな………」


 そして、独り言を聞こえるように呟く。


「他のギルドも回りたいから時間ないのに早くしてくれないかなー、暇すぎて思わず口がすべってしまいそうだぜ」

「そ、それは!」


 真冬なので暑いわけがない。


 俺がうちわ代わりに使ったのちっちゃいメモ帳である。だが、それだけで効果は絶大。俺はクマが残っている目元を緩めニンマリして相手を威嚇する。


「あー早くして欲しいなー。時間がないんだっていうのに――」


 メモ帳を使って。


「わかった、わかったから話を聞かせてもらうよ。櫻井くん!」

「とりあえず、茶をだせや。大杉くん」


 田中は首を傾げていたが、俺達二人は意思疎通ができている。


 大杉の対応の変化は速かった。


 無理に作り笑いを浮かべ椅子を引き俺を座席に着かせる。


「知りたいことは、活動内容と人数だ。今度デットエンドが遊びに来るからな」

「えっ!」


 ギョッとした表情を作っている。まだ完全に強が受け入れられている訳ではないことが伝わってくる。これが今回の問題でもある。そう大きな問題。俺は止まっている男に真剣な表情で催促をする。


「早くしてくれ、時間がないんだ」

「活動内容は剣術による戦闘と訓練。あとは各種技の開発に、剣の設計。人数は63名だ!」

「63……か」


 足早に大杉は解答をくれた。やはり人気のギルドだな。剣術に特化した勇者が多いのは明白だったが、魔法と同等ぐらいか。もしかしたらマカダミアは技能による人数も決めているのかもしれない。


「大杉……サンキュー」


 不必要な情報を貰った俺は礼として静かに手を差し出す。


「……………っ」


 大杉は怯えながら俺の手を見つめていた。


 ―—やはり警戒しているか。


 ―—俺の能力の恐ろしさを知ってるが故に。


「なぁー、大杉君。俺は時間がないと何度も言ってるだろう?」


 ―—裏表があるやつは大変だな、大杉。


 ―—俺の餌食になるのだから。


「お別れの握手をしたいんだけど」


 脅迫だ。これは一方的な脅迫。


 俺に触れるのを嫌がる相手に対してしょうがない手段である。大杉は否応なく手を差し出し俺に握らせた。そして俺はメモ帳を片手に別れを告げる。


「モテる男はつらいよね――大杉くん」


 大杉の肩がビクっと震えた。


 俺とアイツにしかわからない秘密の共有による脅迫。


 それは効果が絶大である。


 そして、次のギルドを決めなきゃな。


「田中、次は――」

「櫻井、何かさっきの変だったでふよ」


 田中はまっすぐな目で見つめてくる。


 あの対応が変でなければ異常だということもわかっている。


 だが手段を選んでる時間が俺にはない。


「櫻井、本当は別の目的があるんじゃないんでふか?」


 勘のいい奴は嫌いだ。俺は冷めきった目を向け返す。


 強と友達であるが、コイツと俺が友達ということではない。


 お互いに理解が及んでいない。


「万が一あったとして――オマエはどうする?」


 正義感が強いというのは非常に扱いが厄介だ。


「事と次第によっては協力をできないでふよ」


 ―—言葉に一片の曇りもない。本気ってことか。


「わりぃ、寝不足で苛立っていたんだ。それとアイツの対応が気に食わなかった」

「対応って?」

「俺が弱いのをお前は知ってるだろう?」

「知ってるでふけども……結構有名な話でふし」

「お前に耳打ちしていたのは俺を入れるのは絶対いやだという話だったよな」

「そうでふね」


 俺は悔しそうな演技を続けた。


「俺は戦闘系ギルドでは必要とされていないのは、自分でもわかっている。だから悔しかったんだ。自分が弱いから不必要とされていることが。俺を見下してるアイツの視線が」


 自分の実力の不甲斐なさや実力への憧れを醸し出しながら。


「だから、俺はアイツとの会話をすぐ終わらせたかった。あんな場所を俺は友に胸を張って紹介できない。そういう想いがあって八つ当たりに近いのかもしれないが脅してしまって………」


 そして、トドメに謝罪を入れる。


「スマン、お前のメンツに泥を塗るようなことをしてしまって……」

「櫻井……スマンでふた!」


 事の次第を理解して謝る田中を前に、俺は目元と口元を抑えながら、


「わかってくれて……うれしいよ」


 ―—うれしいよ……


 顔を下に向け隠し、


 ――本当にうれしいよ、俺は、


 ニヤリと口角を緩めた。





 ―—お前ら全員チョロくてなッ!




《つづく》

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