第20話 ピエロの放課後活動3 -2日目-

 結局、あの日は体育館内のギルドを急いで回ったが半分が限界だった。そして、決定打となる情報ない。しかし、情報というのは可能性を潰していけば真実が見えてくる。


 間違いなく首謀者はギルド長のだ。


 分かっていても時間はかかるが、


 語らずともあとは触れればわかる。


 時間さえあれば必ず答えに辿り着ける。

 

 俺は午前授業の休み時間を使ってノートにギルドの一覧を作成し、


 活動内容と〇、△、×の印をつけて昨日の記録を纏めていた。


「サークライは随分熱心ね。そんなノートに几帳面にまとめて」


 さっそく印の偽装が役に立った。印自体に特に意味はない。


 狙いはカモフラージュだから。


 俺はノートを盗み見する女に約束を促す。


「ミカクロスフォード、今日も頼む」

「別に構わないけど、全部回る気なの?」

「あぁ、全部だ」


 出来れば時間をかけたくないというのが本音だが、しらみつぶしに行くしかない。相手はSNS上の見えない敵さんだ。こっちから出向いてその仮面を引っぺがすしかない。ミカクロスフォードにとってはあまり好ましくない状況かもしれない。


 無駄に時間を使わせてしまっている。


 数秒使って俺が懸念をしていたいことは、数秒で無駄だと判明する。


「友の為にそこまで……任せて! 貴方の想いに私は応えますわ!」


 ミカクロスフォードのご自慢の乳を叩いたやる気が満ちた言葉に、


「おう……頼むわ」


 俺の方が勢いを失ってしまった。


 予想通りにいかないと人はこうも脆い。


 けど、この勘違いは大いに役立っている。


 おかげで昨日のハードスケジュールをなんなく二人でこなせた。それでわかったのはミカクロスフォードという人物の信頼は厚いということだ。各ギルドに行ってもイヤな顔ひとつされていない。魔力を要するギルドでもすんなり魔力皆無の俺を受け入れていた。


 その協力は昼食でも絶大な効果を発揮する。


「櫻井、いつになったらギルドへ行くんだ?」


 昨日の今日で聞いてくるのはやめて欲しい。こっちもこっちで急いでいるのに。突然の強からの催促に俺は若干イラっとしたが、昨日の失敗を踏まえて表情を作りただいつも通りに返した。


「いま下調べしてる最中だ。もうちょっと時間をくれ、類友」

「下調べって……お前。なにをする気だ?」

「涼宮、それ以上の詮索は無粋ですわよ……」

「なんで、お前が答える? ホルスタイン」

「自分の親友を信じなさい!」

「いや……」


 もうすでにホルスタインが定着していることなど意に介さず強い口調で解き放った言葉に強もたじろいでいた。本当に大助かりだ。あとでなんか礼をしなきゃならんな。


 そして、これは好機でもある。


 昼食で話が出たことでやりやすくなった。


 協力を仰がなきゃいけない人物がもう一人いる。


 俺は午後の休み時間を使って、ノートを片手にソイツを廊下に呼び出した。


「田中、お願いがあるんだ。明日、校庭にいるギルドの見学に行きたいんだ」

「明日でふか?」


 時間がない。


「そう、明日だ。今日はミカクロスフォードにお願いして体育館内のギルドを全部下見を終わらせる予定だ。早ければ今日中に終わる。遅くても明日のギルド活動時間の半分過ぎくらいには終わる予定だ。だから明日がいいんだ」

「別に構わないでふけど、何の為にでふか?」


 ここで出せば疑う余地もない話になる。


 ―—ナイスだ、ミカクロスフォード。


「さっき、昼食時に話が出たが俺は強の為にギルドを下見している。アイツが問題なくギルドというものを見学できるようにだ。事前にどういう組織なのか、どういう人たちがいるのかを洗ってる。それを纏めたのがこのノートだ」

「ほぉー、すごいでふね! 結構細かく書いてあるでふ!」


 興味津々にノートに食らいついてくれた。


 ありがたい。論より証拠だ。例えそれが嘘だとしても。


「わかったでふ! 涼宮の為とあらば、ぜひ協力させてくれでふ!」

「サンキュー、田中」


 お人よしが多い。どいつもこいつも疑うことを忘れて協力してくれる。


 疑わせないようには配慮しているが、話が早くて助かる。


 俺は次の行動に移る。時は放課後。


「強、たぶん後三日ぐらいで下見も終わる。そしたらギルドの見学に行こうぜ」

「マジか!」


 ちょっと嬉しそうに笑みを浮かべている。


 きっと、ギルドには早く行きたいのだろう。


 こんな顔をされたら俺も急がなきゃいけない。長くても3日だ。それで方がつく。ギルド長全員との接触が終われば、終わりだ。犯人のいぶりだしも終わる。それに最後まで見つけられない可能性の方が低い。


「マジだ。それとコレ下見中に貰ったヤツだから付けといてくれ」

「なんだ、このドクロのリングは?」


 俺は昨日呪術ギルドから貰ったリングを渡す。


「それはギルドの交通許可書みたいなもんだ。お前はポケットに入れると失くす可能性が高いから鞄につけられるようにリングも付けといてやったぞ」

「ほぅー、準備がいいな。さすが櫻井」


 感嘆の声を上げるがまた嘘を入れている。許可書ではない。


 それはあくまで呪いよけだ。


 コイツに何か仕掛けてくるのは見えてる。


 護身用のお守りを類友が嬉しそうに鞄に括り付けたのを確認し、

 

 俺は次の行動へ移る。


「じゃあ、俺は下見の続きがあるから、気を付けて帰れよ」

「おう、サンキュー」


 手を振って親友と別れ、足早に体育館へ移動を終える。


「ミカクロスフォード、昨日続きを頼む」

「待っていましたわ。さぁ今日で全部回ってしまいましょう!」

「そうしてくれると助かる。明日には田中と一緒に校庭にいる戦闘系ギルドを下見したいからな」

「校庭のも全部やる気ですの!?」

「あぁ、アイツの為なら別に俺は苦じゃない」

「友の為にですわね!」


 段々とミカクロスフォードの扱いが良くわかってきた。


「承知いたしました、行きましょう! サークライ!」

「おう!」


 友ということを前面に押し出せば動きをコントロールできる。


 そして、俺がコントロールしているのは魔法系ギルドの長。


 おかげで全ての話がスムーズに進んでいく。訪れる場所に行くたび、


「失礼いたしますわ!」

「は、ハイ! どうしたんですか、魔法系ギルドの代表がどういった御用でしょうか!?」


 各ギルド長はミカクロスフォードの威厳に慌てふためき要求を受け入れていた。


「こちらの方が見学を希望されているので少しだけお時間を頂戴して、お話させていただけませんこと?」

「どうぞ、どうぞ!」


 どうやら見るからに魔法系ギルドの権力は強い。


 まぁ納得もする。魔法と言えば花形である。


 魔術より魔法。さらに言えば召喚魔法や時限魔法より、普通の魔法。特色が無いがスタンダードであることが強みだ。人数配分もそれに応じて変わってくる。マイナーな呪術であれば五人程度だったが、魔法系になれば六十人は超えてくる。


 そのトップを味方につけたことは非常に有効かつ幸運だ。


 俺の頭上にもついにラッキー星がきたかもしれない!


 と、思った矢先がこれである。


 全部回り終わって座る俺の隣では、


「櫻井、全部回れましたわね!」


 全てをやり遂げた達成感に身を抱かれているミカクロスフォードが立っていた。


「あー、そうだな………」

「どうしたんです? 疲れきった顔をしていますわよ」

「ちょっと、疲れもあるかもな……」


 疲れもするだろう。


 半分くじを引いた結果が――


 まさか……


 全滅とは……


 残りは戦闘系ギルドか……


 俺の不幸は楽ができないってことだ。


 残りは、あと二日――。



《つづく》

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