第19話 ピエロの放課後活動2 ー1日目ー

 翌日の放課後を迎え、俺は即座に席を立ちあがった。


 その姿を見て慌てた友が、


「お~い、櫻井。ギルドどうするんだ?」

 

 俺のところに駆け寄ってきたが――


「強、それは悪いけど、俺のタイミングで行くから。時が来たら声をかける」

「時って……なに言ってんだ?」


 強の誘いに有無を言わさず、


「俺はいま忙しい!」


 早口で返し俺は席を離れ校内のギルドを目指す。


 なんとなく後ろに残した強が不貞腐れているのは分かったが、いま優先すべきことは違う。あの書き込みが俺を多忙へと変えた。景色が流れるのが早い。


「ちょっと冷静さを失ってるな……」


 意志に任せて足早に歩いていたことにふと気づく。


 先程のやりとりは少し感情的になりすぎているのかもと、立ち止まり自己を振り返り落ち着かせ、窓から外の景色を伺った。立ち止まって外を見渡すが校庭には人が溢れかえっている。


「ったく、どいつだ」


 俺がやるべきこと。


 近くにいるからこそ出来ること。


 アイツのストレスの原因を出来得る限り取り除くこと。


 SNSの書き込みなど妄言や狂言の可能性が高いので、無視すればいいのかもしれないが、そう云う訳にはいかない。問題は世界に関わる重要なことだ。強のストレスに下手に繋がることは極力排除しなければいけない。異世界からの魔物が増えてしまうからだ。


 コレも俺の仕事の一環である。


 だが、不特定多数の書き込みの主の特定など難しい。


 学校内であるということは明白だが――。


 俺は考え込んで決め手を探す。


 時間はあまりかけられない。探せる時間のメインは放課後からギルドの活動時間内が限界だ。日中は強の傍に居なきゃいけないというのがネックになっている。強が俺についてくることが多くなってる為に足枷と化している。


 下手にアイツに悟られたくない。


 それも踏まえてさっきのやり取りは失敗だった。


 ——何をやってんだ、俺は


 ——冷静さが売りなのになに熱くなってやがる……。


「チッ――」


 焦りと焦燥から俺は舌を鳴らす。


 冷静に今できることを考え直さなきゃな。


 この時間であればギルドが集まる体育館か校庭か。


 何よりまずは情報を得ることが重要だ。


 それ無くしては徒労に終わる可能性が高い。


 今、人数が多く集まる場所に移動すること。


 俺の能力があればヒト自体が情報源。


「とりあえず、体育館だな」


 ギルドの活動の為に体育館には魔術結界が張られている。力づくで通ることも可能ではあるのだが、それは今すべきことではない。俺は学園では弱い存在であると誤認させている。それは強いと警戒心を高めさせてしまうので弱い立場を装おう事が俺にとっては重要だから。


「確かっと――」


 俺は体育館の入り口前で立ち止まり、知り合いを探す。


 溢れかえる人混みのなか視線が金髪の縦ロールを捉えた。


「おーい、ミカクロスフォード」

「こんなところで何をやっているんですんの、サークライ?」


 おいおい、発音がちょっとなまりすぎだ。別名じゃねぇか。


 大佐みたいになってんぞ。


 だが、指摘なぞできない。貴族様の喋り方に平民がいちいちケチをつけるのも無粋だし、これからお願いする立場なのだ。


「ちょっとギルドの見学をしたいんだが中に入れてくれないか?」

「見学? 貴方魔力もないのに?」


 彼女は縦ロールを斜めに揺らし首を傾げた。


 当然の話である。ミカクロスフォードは魔法系ギルド。


 俺とは能力が違いすぎる。


 まずはミカクロスフォードの疑問を払拭しなければ。


「強が今度ギルド見学に行きたいみたいだから、それの下見をしたいんだ」

「涼宮の為にそこまでするの?」

「当たり前だ、親友だからな。それにアイツのバカ力で問題が起きるのは予想の範疇だ。俺は出来得る限りアイツにギルドとの接触で問題が無いように段取りしてやりたい」

「…………」


 ――あれ、黙ってる。怪しまれているのか?


 怪しい点はひとつとしてない説明だったんだけど。嘘半分本当半分の比率で調合してるからこそ見分けられるはずがない。考察を続ける俺に対して、結果はさらに予想外だった。


「まぁー、本当素晴らしいですわ!」

「へっ?」


 俺の両手は強く握られた。


「その心がけひどく感銘を受けました!」


 ミカクロスフォードは目を爛々と輝かせて鼻息を荒くしている。


「友を思いやっての行動でしたか……」


 対称的に俺は何が起きたか理解できずに間抜けなら面を返していた。


「親友……いい響きですわ!」


 あっ、そういうことね。


 どうやら、貴族様の心にえらく響く嘘をついてしまったようだ。


「二人は本当に仲がよろしいのですね。昔は貴方たちの関係は歪で理解できないと思っておりましたが、最近のそのことも受け入れられるようになってきましたわ」


 ミカクロスフォードの顔にやる気が満ちている。


「友の為に動くというなら、全力で私がサポートして差し上げましょう!」


 第一関門を突破した俺は顔の横で指を二本を揃えて、


「サンキュー、頼むわ!」


 キザに決めた。


 魔術結界を内側から開けてもらい中に入っていくと、


 外側から見ていた景色とは別の中身が登場した。


 フローリングの体育館だったはずが、眼前に広がるのはシャンデリアが飾られ、大きく開けたフロアに上部に上がるための階段が二股にわかれた景色。いくつもの部屋に分かれた通路と化していた。まるでホテル内部のようだった。


「どのギルドから見学いたしますの?」


 扉の前には各ギルドの看板が飾られている。


 質問に対して答えを出すべく辺りの看板に目をやる。


 魔法、魔術、精霊術、召喚魔法、降霊術、黒魔術、時限魔法、呪術など。


 一瞥で大体判別がついた。


 体育館内のギルドは魔法魔術系に特化したものが多い。


「呪術かな」

「マイナーなところを選びますのね」

「呪いは俺が興味ある」

「……」


 俺の狙いを知ってかミカクロスフォードはイヤそうな顔を浮かべていた。


 呪いを覚えたいというのもある。チーレム野郎を陥れるために。


 ただ、俺の目的はアイツの為だ。


 また嘘半分本当半分である。警戒すべき能力から潰して行きたい。


「とりあえず、行きましょう。付いてきてくださいまし」

「頼むわ」


 俺は金髪の揺れる髪を前に連れられて歩く。


 前を歩くミカクロスフォードは気品が溢れていた。


 さすがは異世界の貴族様といったところである。歩く姿すら絵になる。


「ここですわ」


 一つ目の扉が開かれた。


 部屋いっぱいに広がる書庫の壁と異臭を放つ緑色の液体が入った壺。さらにおしゃれなオブジェと化しているしゃれこうべ。そこに五人ほどのメンバーが揃っている。


 ―—情報源の数は少ないか。


「どうしたんです、魔法系ギルドの代表者がココに何のようですか?」

「少し彼に見学をさせてあげたいのですが、お時間頂いてよろしいでしょうか?」


 彼女はスカートの裾を両手で持ち淑女な様な挨拶をかます。


 そういえば淑女だったか。相手はローブに包まれ顔も見えないが、声色で女だということはわかる。ローブの下の視線が俺に変わると同時に俺は話を切り出した。


「俺は二年の櫻井はじめだ」

「知ってるよ。学業成績一位の櫻井くんだろう」

「それは話が早い」

「呪術に興味を持ってくれてうれしいよ、そこに座って話をしようか」


 どうやら俺に興味を示してくれたようで助かる。


 術系統は魔力を要さないものもある。だからこそ魔力が無い俺という存在でも受け入れやすい。さらに研究が第一であるために、俺みたいな秀才を好む。すべては俺の手中にある。


「まず質問からいいか」

「どうぞ」


 向かいに座るなり俺は話を進める。


「呪いっていうのはどんな相手にも有効なのか?」

「どんなとは例えば?」

「魔力が無いやつや、術式に関する知識が少ないが生命力が高い奴だ」

「それはかかり易い部類だよ。誰か呪いたいやつでもいるのかい?」


 ―—部類か……ということは。


 あくまで気を逸らすための質問で得る情報も大きい。


「呪いたいやつはたくさんいるが、今すぐ使いたいわけじゃない。それとさっきの話に戻るが必ず呪いがかかる保証がないっていうのは、何かあるのか?」

「へへへ、話が早いね。しかし、飛ばしすぎだよ」


 薄気味悪い笑い声を浮かべて俺をけん制している。


 話についていけてないようでミカクロスフォードは両手を組み首を傾げていた。


 だが、理解が早いのはお互い様だ。


 部類という言葉で区分けが生まれている。ということは何かかかる対象とかかりにくい対象がいるという話。しかも、俺が提示したのは無能力そのものだ。それですらということはかからない場合もあるという含みを持つ。


 絶対的にかかる呪いはないってことだ。


 あまり話すことに時間はかけたくない。


 どうにか早急に次のギルドへ向かいたい。


「確かにな。ちょっと飛ばしすぎたかもしれない」


 焦りを悟られないように質問に返す。


「色々な方法によってかかる効果が違うし、その手法によってかかり易い相手とかかりにくい相手がある。タイプによっても異なる呪術が必要となるってことか。おまけに厄除けの装備などあると効き目も減少するしな」

「よく、わかってるじゃないか」

「なんとなくだ。詳しくはそこまでじゃない」


 ミカクロスフォードは手をポンと叩き納得した様子見せた。強に呪いは有効か実際かけてもらって確かめたい気もするが、そうは言ってられないか。本題は別にある。


「呪い除けの装備を知りたいんだが、何かいいものはあるか?」

「なんだい、呪いを受ける予定でもあるのかい?」

「敵が多くて困ってる」

「へへへ、それじゃこれを持ち歩きな。呪い返しのリングだ」

「サンキュー」


 俺はプレゼントを受け取り席を立ちあがった。


「また興味が湧いたらお邪魔するよ」


 そして、手を伸ばした。


「頭のいいやつは大歓迎だ。櫻井くんはおまけに呪い好きそうだし」

「余計なお世話だ」

「へへへ」


 俺たちは握手をし別れた。


 とりあえず、触れることに成功した。


 一番の目的は会話などではない。


 各種専門知識として少しの情報を得られれば越したことはないが、あくまで対策用だ。無くても全然かまわない。一番欲しいモノだけ貰えればいい。ギルド見学などオマケもオマケ。


 本当の目的はギルド長として、


 俺の本当に知りたい情報聞きだすこと。


 扉の外に出るとまた通路に戻った。


「次はどこにいきますの?」


 さて、次はどこへ行くか――



《つづく》

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