3章 進路の先は未だ見えず涙の嵐が待ち受ける【2017年1月~2017年2月】

第0話 プロローグ 竜殺し《ドラゴンスレイヤー》 ミレニアムバグの十日後

 2000年1月10日――


 黄金の竜が現れてから十の日が過ぎていた。


 晴夫とオロチは新宿にある某グランドホテルにいた。


 それは呼び出されたに近かった。


 ホテルの一室で二人は慣れない正装に身を纏い、


「ったく、大げさなことしやがって」

「そういうなよ、オロチ。中々様になってんぞ」


 オロチは落ち着かない仕草でネクタイを緩めている。


「別にこんなの似合う必要もねぇ」

「確かにな」

「二人とも準備は整っているか?」


 他愛もない会話をする二人に声を掛ける男がいた。


 二人はその男に顔を向けた。男は同じく正装に身を包み、


 白髪の髪を整髪料で綺麗に整えている。オロチが声を返す。


「——時さん」


 時政宗。二人の上司である。


 年齢はこの時で六十を超えていた。


 時は二人の服装を上から下に目を移し溜息をついた。


「お前らには正装が本当似合わんの…………」

「こういうのは苦手っすよ」


 オロチは少し笑みを浮かべ照れくさそうに返す。


 晴夫もつられて笑顔を作り、時に向けて話しかけた。


「時さん、俺らがいなくて仕事大変だったんじゃないっすか?」

「むしろ始末書が減って楽なくらいじゃったよ」

「それは主に晴夫の得意分野っす」

「なっ! オロチ、お前だって俺と始末書の数、変わんねぇだろう!」

「お前よりは全然マシだ!」

「はぁ―、1年も会わなかったというのに」


 二人の威勢のいい言葉に懐かしさが時の胸にこみ上げる。


「お前らは――」


 自然と時の顔が和らいでいく。


「ちっとも変わらんな。ちっとも成長せん。悪ガキのまんまじゃ」


 二人は時に向けて満面の笑みを返す。


「「ニッシシ」」


 時からのその言葉がなによりうれしかった。


 悪ガキという言葉が。


「もう会場の準備は整っておる、二人とも行くぞ」

「「ヘイ」」


 時は二人を部屋から連れ出し先導していく。目指している場所は1階の宴会場。


 そこまで二人の先頭を歩き入り口前に立つと二人の背中を押しやり、


「行ってこい、悪ガキども」


 そっと二人を送り出す。


 二人は押されるままに宴会場の戸をあけた。


 開かれた場所からフラッシュが雨の様にたかれる。


「涼宮さん、こっち向いてください!」

「山田さん、ぜひ戦闘の感想を!」

「竜を倒したお話をぜひお聞かせください!」


 多くの報道記者が揃っている。宴会場には記者会見場がセッティングされていたのだ。二人は報道記者の呼びかけに答えずに静かに高砂の用意された席につく。


 そして、初めて出会うこととなる。


 その男は青がかった黒髪を綺麗にオールバックにし、


「首相の私から君たち二人に」


 綺麗な優しい顔立ちをしていた。


「感謝状を授与したい」


 鈴木政玄。この時四十五を迎えていた。現、日本の総理大臣であり玉藻の祖父にあたる人物である。首相の言葉に晴夫とオロチは見つめあいニカッと笑った。


 そして、二人は声を揃えて首相に告げる。


「「貰ってやらなくもない!」」


 ふざけた言葉を。


 その言葉に首相は一瞬目を丸くする。


 ふざけた言葉がこの席で飛び出すとは思いもしなかった。


 時は少し頭を抱える。いつまでも変わらない二人の悪態に。




◆ ◆ ◆ ◆



 涼宮晴夫と山田オロチ。


 二人は英雄になっていた。年明けの激闘を演じた二人。金色の大型の竜から東京を救った英雄として。記者会見では二人に質問が休みなく飛び交った。彼らの話は俄かに信じがいた物語だった。


 そう、それは物語だったのだ。


 ハルオとオロチの異世界での冒険譚。


 だがそれが嘘でないことは激闘で証明されている。


 その話は新聞やニュースなどに取り上げられ多くの人間を魅了した。


 それから二人には功績を称えた称号が付けられる。


 ――竜殺しドランゴスレイヤー



 その後も多くの失踪していた人間達が後を追うように帰ってくる。


 超人類として、特異な能力を持ち、魔法を使う。




 その事件は――



 『ミレニアムバグ』と書き記された。




《つづく》

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