1.それぞれの年始め。2017年1月1日

第1話 竜が暴れた後の復旧はお任せください!

 2017年1月1日――


 いつものようにその日を私は迎えた。何事もない日常が始まる。


「う~ん――」


 かわいく猫がデフォルメされているパジャマを着て伸びをしました。



 カーテンを開けると朝日が目に差し込んできます。時計の時刻を確認する。


 ―—六時か。


 本当にいつも通りです。学校がある時となんら変わらない時間に自然と目を覚ましてしまいました。せっかくの元旦だというのに。新しい年が明けても変わらない。


 身長がいきなり伸びるでもなく、私の平らな胸が成長することもなく、


 何も変わらない日々を繰り返すものだから。


 強いて言えば、


 ちょっと恥ずかしながらも――


 恋というものをしてるぐらいです。初めて誰かを好きだと気付いたぐらい。


 それ以外は何も変わらないのです。


「さーてと」


 エプロンに袖を通し、朝食を二人分作り出す。


 元旦におせち料理というのを作る風習が我が涼宮家ではないので、


 作る物はお餅を使った定番料理。鍋に水を入れて火を入れる。


 その後、新しい包丁を手にする。


「エヘヘ♪」


 私が好きな人からもらった初めてのクリスマスプレゼント。


「くぅんー」


 手に持つとなんか歯がゆい感じがする。

 

 不思議と足が小刻みなステップを踏んでしまう。


 自然と料理のやる気も上がるです!


 軽快にリズムを足で刻みながら小気味いい食材を切る音を鳴らし、人参を花型に切り揃え一息をつく。冷蔵庫から調味料を取り出しキッチンに並べ、食材をざるに入れる。お餅を取り出し、それはすぐに焼けるようにオーブンに置いておく。


 涼宮家で元旦の朝は決まっています。


 正月の定番メニュー。お雑煮です。


「あとは食べる人がいつ起きるか」


 すべての下準備を終えたが食べる人が起きてこないのでは、


 作ってもしょうがない。


 いつも通り、私の『人生のお荷物』あには気持ちよく寝ているのだろう。準備があまりに手際よく進みすぎたので、起きてから15分しか経っていない。兄がこんな時間に起きるわけはないか。


 私は時間を待つ間にコーヒーを入れ、テーブルにつく。


「しばらく起きてこないかも」


 思いが口をついて出る。仕方がない。


 今日だけは好きな時間まで特別に寝かせて置いてあげよう。


 学園対抗戦という日本を代表する六学園戦いを制したのだから、

 

 少しは気遣ってあげないとかわいそうでもある。


 めんどくがりやな兄が結構頑張ったんだから――。


「あぁー、美味しい」


 コーヒーを飲みながら私は携帯に届いている。明けましておめでとうメールを開封していく。色んな人から来ている。学校の友達やクラスメート、ご近所のおば様方などなどたくさんのメールが来ていた。


 その中のひとつに私の目が留まる。


「あれ――?」


 一件だけ普通ではこないところからメールが来ていた。


「マカダミアキャッツ?」


 それは全員送信ではなく、


「学校から何のメールだろう……」


 私宛だけに送られてきたメールだった。



◆ ◆ ◆ ◆



 ブラックユーモラスリーダーである銀翔衛は国道246号線に来ていた。


 黒服の男たちも集結している。各々が独自に探索をする。


 確認と調査が目的だった。


「コレは――」


 目に映るのは夥しい光景。ビルは倒壊し瓦礫の山と化している。


 道路に落ちている無数の血の痕跡。


 強大な者たちによる戦闘の光景がそこに刻まれていた。


 銀翔の目に留まったのは、建物に映る三本の爪痕。


 強大な鉤爪のあと。まるで竜が暴れていたかのような。


「銀翔さん、これは竜に間違いないです」


 隊員が確認結果を銀翔に伝える。


「こんな派手なぶっ壊し方、常人には無理ですよ」


 今回の調査確認の目的と同様の内容である。


 夜空に飛び立つ巨大な影の報告受けていた。晩に竜の出現が確認された。その為にここにブラックユーモラスが来ていた。銀翔は近づいてきた隊員に地面を見させる。


「いや、この形跡は人だよ」

「なんですか、これは――」


 隊員はそれを見て我が目を疑っていた。残っていた形跡。確実な人の形跡。強大な一撃を放った男の存在感がしっかりと残っている。


 亀裂を生むほどの強い踏み込みの足型。


 ソレがくっきりとソコにあった。


 銀翔の口からぽつりと漏れた。


「まさかね………」


 ビルに刻まれた三本の爪痕。尋常じゃない踏み込み。


 この形跡を出す人間など銀翔が知る限り一人しか思い当たらない。


 暴力というものを体現している男。


 その男は眼帯をしている。


 だがここにいるはずがないと、疑惑を飛ばすために首を振る。


 そこに火神が近寄って答えを持って。


「こりゃ、晴夫さんだ」

「火神……晴夫さんがいるわけがないだろう」


 いるはずがなかった。居てはいけない。第一級秘匿犯罪者がこの日本に入れるわけがない。そういう想いが銀翔の口をついて出る。ぶっきらぼうに火神はそれに返す。


「いたんだよ。俺は昨日の学園対抗戦の時に晴夫さんにあった」

「えっ!?」


 火神から飛び出す事実に困惑する銀翔。予想が悉く裏切られていく。


「あの人が、なんで!?」

「あの人の狙いなんてのはわかんねぇよ」


 火神のふてくされているような言い方に銀翔は黙った。


「もとから自由気ままで勝手な人だ。色んな事を含めて理解なんて出来るわけがねぇだろう、俺たちに」

「………………」


 言われたとおりだった。銀翔自身が涼宮晴夫という男を理解出来ていない。


 その狙いも目的も第一級秘匿犯罪者になった事件の動機も、


 ——全てが不明だった。


 だが光景が物語らせる。ここに俺はいたと。


 確かな爪痕を残している。そして銀翔の中で線が繋がっていく。


「もう一方は――」


 壮絶な戦いの形跡。それは晴夫と誰かが戦っていた形跡。


 その誰かとは誰か。簡単に答えが出る。


「——日本特殊諜報機関御庭番衆」

「そう見て間違いない」


 火神も銀翔の意見と同様だった。簡単な答えだった。


 第一級秘匿犯罪者の処刑。


 秘匿であるがゆえに政府直轄の暗部組織が活動する。


 目の前に映る光景はその残骸であると。


 だが謎がひとつだけ残っていた。銀翔が謎を疑問を口に出す。


「竜の目撃証言というのは――」

「それはわかんねぇ。けど竜が出たことも確かだ」


 一枚の巨大な漆黒の竜の陰が映った写真が、


「しっかり、カメラの写真に写ってる」


 火神の手元から銀翔に手渡された。


 写真を見つめる銀翔に対して、


「俺が持ってる情報は全部伝えた」


 火神はここでの俺の仕事は終わったと言わんばかりに告げる。


「昨日の件で、俺は大阪支部の立て直しに行ってくる」


 次の仕事があると。


「ありがとう。わかった」


 銀翔は火神が去ったあとも調査・確認を続行する。


 そして、ある人物がそこに現れる。


 とても可愛らしい愛嬌のある客人だった。


「あの、すみません……」

「ん?」


 その客人は様子を伺いながら恐る恐る銀髪の男に話しかけた。


「学校からここに手伝いに行って欲しいと要請があってきたんですが……」

「よく来てくれたね、待ってたよ。初めまして、」


 銀翔は優しくその客人に対応する。


「私はブラックユーモラスの銀翔衛ぎんしょうまもるという者です。早速で悪いんだが、君の能力を使ってこれをどうにかしてもらえるかな?」


 客人も優しい風貌に緊張が解けたのか、


「マカダミアキャッツ高校から来ました――」


 礼儀正しくお辞儀をして、


「一年生の涼宮美咲です」


 敬礼の姿勢を取り言葉を返す。


「復旧はお任せください!」



《つづく》

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る