20.―学園対抗戦―デットエンドは拒絶という呪縛の鎖を引きちぎりたい!!それには力を貸してくれる言葉が想いが必要だった
第48話 アルマジロ惨殺拳
強のジャージに両腕を隠した姿に会場は静まり返っていた。
「君は――」
そして、対戦相手の如月隼人の顔が激しく歪んでいく。
怒りを覚える。その技とも呼べないお遊びに。
戦闘と呼べないその光景。
「僕を
それにいつも通りヤツは嗤って返す。
「
元から戦闘などしていない。コレはお遊び程度のものでしかない。
「オマエはダセェからな――」
相手を小ばかにするように皮肉を返すだけ。
「存在そのものが♪」
お前如きと舐め腐った態度を教師に向ける男である。
その性根が容易く変わる訳も無い。
「ふざけるなッ!!」
金髪の澄まし顔が初めて歪みを見せる。
それでも、相手の怒りなど何も感じない。
威圧も感じることも無ければ気迫を感じることも無い。
立っている次元が違う――この男にとっては、
戦闘ではなく遊戯でしかないのだから。
「秘技の力、見してやるよ――」
そういうと強は両腕を隠したまま、
「いくぞォッ!!」
如月に向かって走り出した。
「涼宮選手、謎の玉砕覚悟の特攻!?」
両腕を隠した無防備なダルマが突進していく。
抜け殻のようになった袖が風につられて後ろに靡く。
いち……に……さん……よん……ご――。
地面を蹴る感覚に強は心の中でカウントを取る。
「————ッ」
五まで数えたところで強の体に衝撃が走った。
動きを止められ体が後ろに反れる。丸い団子が闘技場の中でよろける様に観客も言葉を失くしている。誰一人として理解など出来るはずもない。
ただ、なにか余裕を感じさせるものがあるのは間違いない。
―—いち……に……さん……
十分近く防戦であったにも関わらず、ヤツの考えは常軌を逸している。
その表情は衝撃を受けながらもどこか嗤っている。
ダメージなどほぼ受けていない。
―—よん……ご……ろく……しち。
その間に別のカウントをまた数える。
――腕に二発、顔に三発、腹に二発!!
それは衝撃の数。自分がウケたダメージの箇所を正確に把握する。
一番、電撃が強い個所を数え上げ終えている。
衝撃でのけ反った引きずられた体を戻し、
「効かねぇなぁ……大したことねぇよ、オマエ?」
またカウントを数えながら如月に向かっていく。
「コレは……ひどいわん」
VIP室では犬が呆れたように語りだした。愚行にしか見えない。
戦闘技術の欠片も無く能力でもない身体能力に身を任せた、突進。
おまけに攻撃の手段を無くすようなアルマジロ形態。
何を持って戦っているのかも分かりはしない。
「もう、行く先は決まってるにゃんよ――」
「わん?」
猫が微笑んで試合を見つめる。分かっている。
彼に勝てるものなどいないと。確信をしている。
ふざけた状態でも涼宮強は強いと。
ソレに校長の役割は生徒を信じること。
だからこそ、猫は自信を持って犬に勝ちを告げる。
「——デットエンドにゃんよ」
その猫の表情に呆れたように犬は闘技場に目を移し、
「ソッチがだ、わん」
勝敗はまだ見えないと言い返す。
さきほどのマカダミアキャッツの応援で闘技場の空気は明らかに変わった。
戦闘とは呼べなくなってしまった。
それでも、その姿を今日戦った者たちは期待の眼差しで見ていた。
マカダミアキャッツの『デットエンド』は全国で噂になっていた。
ただ怪談ばなしの一種の様に広まっていた。
その存在自体は信じられていなかった。
マカダミアキャッツ高校の『デットエンド』には気を付けろと――。
【デットエンドと遭遇したものは、等しくデットエンドである】
【逆らう者にも等しく死を与える】
【見えない打撃・斬撃を放つ。気が付けば八つ裂きになっている】
【如何なる攻撃をも跳ね返すバリアを持っている】
【現世に召喚された最強の悪魔である】
【凶という不吉を模もしたような名である】
こんなものがいるわけがない。マカダミアの生徒を300人殺した大魔王。
信じる方が馬鹿げている。噂に尾びれ背びれがついてる内容に。
それでも、『デットエンド』という呼ばれる男は、
確かに――存在した。
対戦した者ならわかる。
対峙しただけでは分からない。
正確に言えば対戦した者しかわからない。
どれだけ戦闘経験をこなさそうが感覚が刺激されない。
強さは歩き方に出る。強さは見た目にでる。強さはオーラに出る。
そのどれもが無いのだから。
『デットエンド』には――
如月とも強とも戦った者達だからこそ大将たちだからこそわかる。
東北代表ピスタチオットセイ高校の大将が強との戦闘を思い出す。
たった一発だった。それでもわかる。
「アイツのパンチは効いた、ホントに……」
昨年のMVPの彼には。
「予想を裏切る強さだったぜ――」
舐めてかかっていたことを後悔するような目の覚める一撃で粉砕された。
「——
それでもどこか清々しくもソレを受け入れてしまっている。
「あの男が噂のデットエンドだったのか……」
九州代表クルミモンキー高校の炎術使いの大将は仲間に向けてしゃべり始めた。
「ただじゃあ終わりそうにないな、こりゃ」
今まで体験したスピードとは違う次元を見た。感じることも出来ずに視認などもできなかった。そして、背中を襲った衝撃は価値観を変えるには十分だった。
「どっちともう一度戦いたくないかは明白だ」
北海道代表らっかせい熊のぼり大将、
「ほんに豪快な男だった、ガハハ!」
高校の大会随一の巨体が仲間に向けて豪快に笑い飛ばす。
「あの竜騎士が――」
思い出すように続けて語る。それは戦闘を中断したひとこま。
大将と田中しか知らないやりとり。
「言っておったわい――」
ニコニコ語る竜騎士に不思議な感覚を覚えた状況。
田中はギブアップを宣言する前に伝えていた。
『かわいそうでふね』
『何がだ?』
その表情に迷いはなかった。
『次の相手はマカダミア最強でふよ!!』
「やつが最強だとな………………」
コサック大の大将は殴られた腹をさすりながらも期待する。
「師匠のターン!」
赤髪が騒ぐ。マカダミアキャッツの生徒達は勝ちを疑っていなかった。
誰もが期待のまなざしを向ける。
ミカクロスフォード達も呆れたように微笑みながらも拳を握っている。
学園で関わったものは知っている。アイツは普通じゃない。
異常だと――。
マカダミアで恐怖を知ってる者たちは次は何を仕出かすんだと、
相手選手の不幸への不安と期待でない交ぜになっていた。
しかし、一人だけが不安を露わにしその光景を眺めていた。
「強ちゃん……」
それは幼馴染。
「師匠の反撃が始まる!」
隣では木下昴の強の勝ちを信じて疑わない声が飛び交う。
「きっと、あの秘技は………恐ろしい技!!」
強の狙いも考えも分からない押し掛け弟子は好き放題いう。
技でも何でもないのに。アルマジロはカモフラージュでしかない。
「気付けば八つ裂きになってしまうような――」
期待がデカすぎて相手を殺してしまっている師匠。
師匠を殺人犯に仕立てようとする不遜な弟子。
「アルマジロ
ちびっこ赤髪バドルバカは止まらない。
「もうっ……ヤダよ……」
「………………?」
玉藻の震える小さな声に昴は気付いて顔をのぞく。試合中にずっと閉じていた目が開いている。心配そうに何度も飛ばされては立ち向かっていく強の姿をうるんだ瞳で見つめていた。
「————見たくないよ」
制服のスカートを強く握り必死に堪えてる。
「巨乳おねいさん?」
その姿に昴の元気な声援が止む。
美咲と櫻井は二人で話をしながら闘技場を見守っている。
妹は丸まり立ち向かっていく兄の姿に少し呆れた様子。
「なにやってるんですか……」
相変わらずな意味不明な行動に満足している類友。
「兄は……………」
「悪だくみだな♪」
笑いながら櫻井は返した。
「悪だくみですか………………ハァ」
そして、冷静に分析して普通の表情に戻し話を返す。
「大分感覚は掴んできてるみたいだ」
「感覚?」
不思議そうにする美咲にコクと一回頷いた。
「衝撃を受けても体が流されなくなってきてる」
分かっている、櫻井には。
「ソレにあのアホな突進行動も何かの悪だくみだ」
涼宮強という男の行動が意味不明なことの連続だとしても、
嗤っている時はその後がヤバいと。
「悪いことはできれば……しないで欲しいです」
だから、期待して櫻井も嗤っている。
そして美咲も分かっている。あぁなった兄は手が付けられないと。
自分の期待を盛大に裏切るということを――。
「もう、これ邪魔! 終わりだ!」
数度愚行を繰り返し闘技場の中で強はジャージから手を出す。
「アルマジロは!!」
そして乱暴にファスナーを外してジャージを脱ぎ捨て丸めて後方に投げ捨てた。
それは田中たちの足元に広がって落ちる。
「ジャージを拾っておいてくれッ!」
わずかに田中達と視線を合わせて強は一度だけ頷く。
強の掛け声に不思議そうにする田中達は目の前にジャージを回収した。
「鉄壁防御のはずが……涼宮選手にダメージがあるぞ!」
アナウンサーの声と共に画面に拡大される強の姿。
白いリングに赤い雫が垂れている。白を赤く染めていく。
強の右手から血が流れ落ちている。
「どうして……強ちゃん」
その姿に玉藻が歯を食いしばって堪えている。その姿を木下昴は不思議そうに見つめた。これから師匠が活躍するはずなのになぜこんなに辛そうなのだろうと。
「おねぇいさん……?」
≪つづく≫
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