第47話 流行ってんじゃん

 電気使いならしょうがない。


 動きが機敏なのも納得してやる。


 しかしだ、………………


 だが、しかしだ――ッ!


 とりあえず早く殴りてぇッ!!


『そうだけど、わかったところで防ぎようがないよ……僕の攻撃は』じゃねぇよッ! しかも髪をファサっとしやがってイラつく!!


 だぁああああ、一発スカしたコイツの顔面を殴りたいッ!! 


「死にさらせぇええええええええ!!」


 それだけの衝動が俺を突き動かしていた。


 俺はやつの顔面に向けて右のストレートを放つ。


 ―—なんだ、?


 その時に視界へと違和感を覚える。視界の片隅に赤いもの。


 金髪の背後……審判よりも後ろに何かが動いている。


 金髪の後ろにクルクル回転した赤いものが飛んでる。


 ―—赤……ペン?


「クヌッ――!」


 闘技場にある異物に目を取られたスキにまた俺の一撃は躱され、後ろに回り込まれている。そして電撃が流れ込んでくる。これが厄介だ。視界にやつを捉えてもすぐに動けない。一時的に動きが電気によって止められる。


 ——わかっちゃいるけど………ウザッテェ!


 筋肉が電気によって強制的に収縮させられる。それでヤツの位置が分かっても動けないし、力は出しすぎるなと言われるし、おまけにあと少しが届かない絶妙な距離を取られてる!


「こな糞がぁ……」


 怒りで頭が熱い。頭痛がしてきそうになる。


 回るペンと衝撃と痺れて止まる俺。


 ―—チッ……攻撃が早すぎんだよ……。


 ダメージを受けた位置が痛みを発している。頭部に腕さらに腹。


 俺は数か所打たれているみたいだ。三ヵ所同時に撃ち込まれている。


「アレ――――??」


 攻撃を受けた後に俺の違和感は強くなった。


 ―—三発も同時に撃ち込まれているってのか?


 俺の中で状況がかみ合い違和感が鮮明になっていく。


 ―—おかしい? オカシイぞ!


 躱してから三発。おまけに電撃付き。


「くっ……これはヤバイ……」


 これは考え直す必要があるな――。


「涼宮選手ついにダウン!」


 俺は呼吸を乱し肩ひざを地面に着いた。ちょっと時間が必要だ。


「さすがに一方的にやられてきたダメージが蓄積されたのか!!」


 あくまでダメージを受けたフリ。


 違和感を取り入れ考えをもっと整理する時間を作るために。


 ——何か………


 オカシイと思うには訳があるはずだ。


「どうしたんだい……もう終わりにするかい?」

「そうしたいもんだな……ちょいと休憩だ」


 ―—あぁ、疲れた……もう終わりにしたい。


 ―—お家に帰りたい……お布団に入りたい。


 ヤツの言葉に乗せられて俺のサボローが活発に囁きかけてくるぜ。


 考えるのも怠いし俺も終わりにしたくなってきた。


「いくらタフといえどもこれだけ攻撃されれば限界が近くなってきたようだね」


 金髪が余裕を見せる中、


「そろそろ僕の勝ちを認めたらどうだい?」


 ―—まじうぜぇ……こいつ。


「イヤだね……ただ脳みその限界が近そうだが……」


 俺は真実を返す。


 ―—マジでめんどいなこれ……時間がなげぇ。


 このゲームを終わらせるにはちょいと時間が必要だ。考えを整理しよう。


 さっきの赤ペンが問題だ。ヤツの背後でクルクルと回っていたものだ。


 ―—アイ ハブァ 赤ペン………


 おまけに電撃が流れるせいで動けない。ビリビリと痺れる感覚がある。


 ―—ユー ハブァ エレキトリック。


 この二つが合わさる状況がかみ合わないのだ。


 ―—アァンッ!!


 この二つが合わさるわけがないのだ。


 ―—エレキトリックアッカペン♪





「ふざけんるなぁああああああでふ!!」


 ―—ごめんなさい……ふざけました。


 聞き覚えのある吠える声が会場を切り裂いたのにビックリだ。


 金髪の後ろ側から声が聞こえる。


 誰かが血相を変えて何か喚き散らしている。


「お前なんかに涼宮が負けるわけないデフぅうううよ!!」


 豚が……豚が騒いでる。


 ちょっと考えを整理させて欲しいんだけど……


 少しふざけたかもしれないちょいピコ太郎だけど。


 真面目に考えようとするとふざけてしまうんだ、俺は。


 友達なら知っておいて欲しい!


 櫻井あたりならすぐに理解して乗ってきてくれるんだけどなー。


「オマエなんかに涼宮は負けない!」


 何を言ってんだよ……ったく……。


「涼宮は最強なんでふよ!!」


 期待が大きすぎるぞ。


 ——小泉の時もそうだったな…………。


 アイツは誰かが戦っていると負けるのを許さない習性がある。


 味方にすると非常に厄介な奴だ田中、オマエは。


「お前なんか……お前なんか……」


 ちょいと黙ってくれ、田中。


「今にケッチョンケッチョンにするでふよ!!」


 俺は頭を整理したいんだ。静かに考えさせてくれ!


「ん……………んん?」


 困惑する俺の視界に金髪の足が映る。構えをといている。


 ——なんで……無防備に?


 休めの体制をしている足。


 田中の方に体を向けているのが見て取れる。


 ——コイツ……俺を見ていない。


 俺への追撃も来ない。


 ―—どういうことだ?


「お前の行き先は決まってるんデフよ!!」


 ——田中、オマエは次から次へと!?


 考えようとしていると邪魔をしてくる。田中は豚足をピストル型にして高く上に上げた。何やってんだと俺も金髪同様に視線を向ける。アナウンスが突如起きたことに疑問を持ちながらも解説を無理やり入れてくる。


「コレはなんだ?」


 わかるはずもないことなのに。


「次々と観客席で人が立ち上がっていく!」


 示し合わせたように観客席で次々と人が立ち上がっていく。


 ——ダァアアアア、もうナニやってんだよ……っ!


 小泉と観客席でもピストル型に手を併せてあげる奴等がいる。それもチラホラと見たことがあるやつばかりだ。美咲ちゃんや櫻井。玉藻は何か目を瞑ってお祈りしている横で赤髪も期待の眼をキラキラさせている。


 俺のクラスの連中も立ち上がっている。


 見覚えのある金髪ドリルツインテール共も。


「アソコは、マカダミアの応援席だ!!」


 誰もが闘技場に強い眼差しを向けている。


 誰もが天高く指を突き上げている。


 ——おいおい……マジかよ……。


 マカダミアの応援席が波打つように動いている。


 全員がうちの学校の制服を来た奴ら。


「マカダミアの新しい応援方法か!?」


 ―—いや……そんなもの俺は聞いたことも無いんだけどな。


 けど、なんとなく分かってしまった。間違ってはないのだろう。


 これは一種の応援と言う呪いの類だ。


 闘技場に向けて放たれる俺への呪いに他ならない。


「お前の行き先は――」


 目標の方向に右手をゆっくりと振り降ろしていく。


 田中はゆっくり金髪くそやろうに対して銃口を向けて、


 投げかける言葉を引き金にして、銃口を動かし未来を告げる。






「「「デットエンドだぁッ!!」」」






 田中の言葉にみんなが合わせた。俺一人に学園の期待がのしかかってくる。


 ——帰らせる気はねぇって……ことか。


「何やってんだよ……どいつもこいつも……まったく」


 観客席から歓声が上がっていく。


「頑張れ、マカダミアの!!」「いいぞ、マカダミア!!」「去年とは違うところを魅せたれよ!!」「俺はお前らをずっと応援しているぞ!!」「ゴミやろう、ちっとはいいところを見せやがれ!」「今年はお前らの為の舞台だ!!」「友達パワーだ!」


 マカダミアを応援する声援。それが俺に向けられている。


 一人眼帯ゴミやろうが混じってるけどな。


 みんな頑張れ頑張れと人の気も知らずに。


 お前らは見てるだけだからいいけどな、こっちはメンドクサイのに。


「だぁあああ……めんどくせぇな――」


 気持ちとは裏腹に俺は口元を緩めた。慣れない歓声。


 マカダミアへの手のひら返し。アホ臭い演出。


 フラッシュモブみたいなその演出についつい口元が緩んじまう。


 マカダミア、マカダミアと連呼されるマカダミアコール。


「ホント、バカなんじゃねえの……」


 滑稽すぎて笑っちまうぜ。


「キョウ、頑張りどころだよ!!」


 ―—ボク頑張ります、マム!!


 そして、この戦いを切り抜ける新情報も得た。


 そうか。そういうことだったんだな。わかったぞ。ナイスだ田中!


 お手柄だ。豚からぼた餅だ!


 このゲームを終わらせる攻略法が見えてきたぜ!



◆ ◆ ◆ ◆



 観客席で見ていた俺も田中の動きに自然と動きを合せた。


 そして、横にいる美咲ちゃんも――


 あの夏の戦いを知っているもの皆が動きを合せた。


流行はやってんじゃん――」


 俺の動きをパクッてまで全員で合わせてきやがった。開拓者へのお布施を貰ってねぇぞ。著作権違反だ。そして、強の表情から読み取れる。どうやら強も気付いたらしいな。


 アイツの能力に――。



◆ ◆ ◆ ◆



 私もついつい動きを合せてしまいました。


 あの時――


 あの夏休みと同じ言葉と動きに、少しテンションが上がります!


 そして――


「頑張れぇえええええ!」「マカダミアぁあああああああ!!」「そのキザ野郎をぶっ飛ばせぇええええ!!」


 観客席では最初の罵倒とは違い兄に声援が送られています。それがなんだか、私の事の様に誇らしくもありました。あの兄が声援を送られる日が来るなんて。


 私の努力がやっと報われた。


 そのせいでテンションが上がってしまいます!!


「櫻井センパイ! 兄は勝てるでしょうか!?」


 興奮して鼻息が荒い私に先輩が兄の方に指を向けて、


「勝つよ。アイツのアレは――」


 話を続けました。




「何か悪いことを思いついた時の顔だッ!!」




 えっ……いきなりテンションが下がります。


 勝つようですが……悪いこととはいかに。


 兄を見ると不敵な……不気味な笑みを浮かべています。


「悪いこと……ですか?」


 心配になります。嫌な予感がします……。


「そう!!」


 先輩は自信満々に言い切りました。


 兄はやるときはやる男です……。


 私の勘は良く当たります。



◆ ◆ ◆ ◆



 そうか。そうか。わかった。


 オマエの退治の仕方を俺はわかった。


 膝を地面から離し立ち上がる。


 ジャージについた汚れを払いながら、


「お前の行き先は決まってるそうだぞ」


 金髪野郎に澄まして返す。


「はぁ~……勝てないとわかってて、なんで足掻くんだろう?」


 呆れたような物言い。


「——みんな」


 観客席を見下すような目線。本当に俺と似ている。


 そういやつだ、オマエは。わかるぞ。今ならわかる。


 オマエは次にこう言う。


 俺はヤツと言葉を合わせる。




「「醜い、美しくない」」




 寸分の狂いもなくピッタリと。


「えっ……」


 声が揃ったことに金髪は驚いた表情で俺を見ていた。


 わかりやすいやつだ。こいつは。手に取る様にわかるぜ。


 ワンパターン野郎。俺は笑みを浮かべて続ける。


「お前はよくやったよ……俺相手に」


 ただ褒めるべき部分もある。


「同年代でここまで俺を殴ったのはお前が初めてだ、よ~く頑張った方だ」


 ノリノリの俺に不思議そうな面をするやつ。


「ただ残念無念、また来週だ」

「なに……?」


 そして俺はさらに相手の動揺を誘う。


「これから出すとっておきの」


 力強く手を開き力を出すぞと見せつける。


「秘技でオマエは俺に負ける!!」

「秘技……まさか多重たじゅう能力アビリティ!?」

「ん?」


 違う。俺は無能力だ。


 そもそも多重ってなんだ?


 まぁいっか。これから見せてやる。


 俺は両腕をぴーんと伸ばす。


「俺の鉄壁防御をなッ!!」

「な……」


 尋常じゃない速さで両手を動かす。両手が見えないぐらい早く。


「秘技!」


 一瞬で消えるように俺の体から両腕が消える。そして技名を吠える。





「アルマジロォオオオオオオオオオオ!!」




 俺の秘技を発動する、完全無欠の鉄壁防御術を展開して。



◆ ◆ ◆ ◆



「………………」


 先程までの熱気が一瞬で冷め私は固まりました。


 そして会場も同様に固まっていました。


 眼に入る光景は恐ろしく見た者を氷漬けにしたように固まらせます。


 正に鉄壁防御。言葉すら失います。


「頭ワリィ♪」


 効かない人が若干一名いますが、


「まじで!! にゃはっはっ!」


 大変おきに召したようで横の先輩は大爆笑してます。


「ハハハハッハッハッハハ♪ サイコー、サイコーだよ、強ちゃん!」


 涙を流しつつ腹を抱え指をさして爆笑しています。


 兄の秘技が炸裂しました。


 その技は――


 ジャージに両腕をスポッと隠しただけのものでした……


 寒いときに小中学生が体育の時間にふざけてよくやるやつです。


 私の嫌な予感は当たりました。


 そして……兄はやる時はやる男です……。


 静まり返る会場の静けさのせいか、


 兄の愚行が自分の事の様に恥ずかしく、心が痛い。



「あぁ……頭も痛い……クラクラしてきた……」



≪つづく≫

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